◆ヒカルの碁パロディ/光る?の碁◆ 

by nene 

 
 ブルルッ。ヒカルは身震いした。
「うわっ。さむっ。外は雪でも降ってるのか?」
 ぼんやり目をあけながら、布団から起きあがろうとした。
「痛ててて…。首を寝くじったかな? なんか、いつもと枕が違うなぁ。なんでこんなに枕が高いんだ…?」
 ヒカルは、ひきつる首を動かさないようにしながら、そっと起きあがった。
 部屋を見まわすと、自分の部屋じゃなかった。6畳くらいの和室だった。
 寝ていた布団もいつものベットではなく、床にひいてある布団だった。
 そういえば勉強机も蛍光灯もない。蛍光灯の代わりに、すぐそばに燭台があった。
 夜は明けているので、明かりに支障はないが、なんか変だ。布団の側には変なついたてがある。
「おい、佐為! 起きろよ! 何か変だ!」
 困ったときには一人で考えない。佐為という、相談相手がいるのだから…。
「なんですか? ヒカル。まだ、ちょっと眠いです」
 佐為は、ブツブツ言いながらも、目を覚ましたようだ。
「ちょっと周りを見てくれよ。俺の部屋じゃないんだ…」
「何言ってるんです? ヒカル? まだ寝ぼけているんですか?………」
 しばらく、佐為に沈黙があった。何か、動揺している様子がヒカルにも伝わってきた。
「おい! 佐為! どうしたんだよ! なんか喋れよ!」
 ヒカルは佐為に叫んだ。
「……、こ、これは…。ここは私の部屋です。私の生きていた時代の…平安時代の私の部屋そのものなんです。
一体どうしたことでしょう?」
「はぁ〜???」
 ヒカルはわけが分からなく、佐為は慌てふためき動揺していた。
 ふと、ヒカルは自分の体を見た。
 すると……なんと中学生のヒカルではない。
 体はもっと大きく、髪も長くなっている。パジャマ代わりに合わせの着物を身に着けており、藤原佐為そのものだったのである。
「な、なんだこれはー。さ、佐為じゃないかー!」
「ど、どうしたことでしょう? 私がヒカルではなく。ヒカルが私になってしまったということなんでしょうか?
それも、時代も違いますね。タイムスリップというやつですか? それとも夢ですか?」
「そんなの知らないよ。なんで俺が佐為なんだー! 平安時代だって? なんでそんな時代にきちまったんだー」
 佐為の体でパニックする佐為本人とヒカル。
 本編ではヒカルの意識にとりついた佐為だが、理由はともかくとして、今は、まだ生きていた時代の佐為の
体にヒカルがとりついてしまったのである。
「ど、どうしよう…佐為。どうしたら…」
「そんなこと分かりませんよ。とにかく部屋の外に出てみましょう。どういう状況か確かめるです」
 佐為は自分の意思で、自分の体を動かし几帳をよけて、御格子を上げた。
 二十世紀よりずっと冷たい空気が佐為の頬を貫いた。
 電気も車の排気ガスもない平安では、外気の温度が現代よりも低く感じられた。
 久々に早朝の冷たい空気を肌で感じて、体の芯から目が覚めた。

 ここは平安。
 藤原の血を引く佐為は、名門貴族の公達の一人。囲碁の名手ということもあり、皆から一目置かれていた。
 佐為は、自分の部屋を出て、宮中内を見まわった。自分が生きていたどの時期に来たのかが、佐為には
なんとか把握できたようだ。
 そんな佐為に、ひとりの女房が話しかけた。
「佐為さま、もし、今日お暇でしたら、私に囲碁の指導をして頂けないでしょうか?」
 目鼻立ちがはっきりした品の良い、賢そうな女房だった。
「ああ、いいよ」
 佐為が答えるよりも早く、ヒカルが答えてしまった。
「まあ、嬉しいですわ。あとでお部屋に伺いますね」
 その女房は、嬉しそうに笑いそさくさ行ってしまった。
『な、何てことを言うのですヒカル! 勝手に約束などして!』
『別にいいじゃないか。囲碁の指導くらい』
『そういうことじゃないんです。今日は確か…別の女性と同じく囲碁の指導の約束をしていたような…』
『じゃあ、いっぺんに見ればいいじゃないか。で、あの女は誰なんだ』
『あの女房は、後世でも有名な紫式部です』
『む、むらさきしぶ?!』
 勉強嫌いなヒカルでも、紫式部の名前は分かったようだ。
『確か今日は、清少納言とも囲碁の約束をしていたんです。2人が鉢合わせるとなると…』
 佐為は、眉間にしわをよせ、困った顔をした。

「佐為さま。今日は私と囲碁のお相手をして下さるんですよね」
 佐為の部屋に先程の紫式部とは別の女房が入ってきた。
 はっきりした目鼻立ちの紫式部とは対照的な、いかにも平安絵巻に出てきそうな女房だった。
 ビビッ。
 佐為の部屋に一瞬稲妻が走った。
 すでに、佐為の部屋には紫式部がきており、佐為と碁をしていたのだった。
「まあ! 紫式部! なんなのあなた! 佐為さまは今日、私と囲碁の約束をしたのよ」
 清少納言は怒って紫式部に言った。
「いいえ、私とちゃんと約束して下さいましたわ。そちらこそ勘違いなんじゃありません?」
「なんですって!」
 2人の間にはバチバチ火花が散っている。
「まあまあ、2人も。押さえて押さえて。ではこんなのはどうでしょう。とりあえず、2人で1局、対戦してみてください」
 ヒカルが佐為の体を借りて先に言ってしまった。
『な、なんてことを言うのです。この2人に1局なんて、火に油を注ぐようなもの…』
『えっ…?』
「いいですわ。佐為さまがそうおっしゃるのなら、紫式部! 対戦しようじゃありませんか!」
「望むところよ」
 緊迫した空気が佐為の狭い部屋に流れ出した。
 紫式部が黒で、清少納言が白。2人は無言で碁を打ち始めた。
 進んで行くうちに、どうやら、清少納言の方が上手のようだ。既に、紫式部の負けは見えていた。
 清少納言も紫式部もその状況は分かっていた。
 悔しがる紫式部と、得意顔の清少納言。そこに居合わせる佐為とヒカルは、逃げ出したい気分だった。
「ありません……」
 ぼそっと、悔しそうに紫式部が言った。
 清少納言はすっと立ちあがり…
「ほーほほほ。私と対局など3年早い。ここで一句。

 囲碁はあけぼの ようよう白くなりゆく 碁盤の目 いとおかし
                          BY清少納言」

 清少納言は重たい十二単を着ているのも関わらず、スキップしながら出ていってしまった。
 残された紫式部、ヒクヒクと肩を振るわせ泣いている。
「元気を出しなさい。紫式部」
「そ、そうですわね。こんなことで泣いていても仕方ありませんもの。ありがとうございます。佐為さま」
 紫式部はやっと泣くのをやめた。
「そうですわ、囲碁のほかに、ご相談したいことがあったんです。これから物語を書こうと思っているのですが、
主人公の公達の名前が決まりません。何かよい名前はありませんか?」
「名前…ですか?」
 佐為は考えた。
 ピンッと100ワット電球が頭に点灯したように閃いた。
「ヒカルというのはどうでしょう?」
「ヒカル…ですか? いい名前ですわね。光り輝くひかるの君。よし、これで行きましょう!」
 さっきまで落ち込んでいた紫式部は元気を取り戻したようだ。
『おい!ちょっとまてよ!佐為! ヒカルって俺の名前じゃないか!』
『フフフ、ヒカルすごいですね。あなたの名前が源氏物語のヒカルの君として、後世にも知れ渡るんですよ』
『よかないよ! 古文なんて嫌いだ!』
『あっ、それよりもヒカル。もう日暮れです。寝る時間です』
『はっ? 日暮れったってまだ夕方だろ?』
『この時代に電気はありません。日が暮れたら皆寝るのです』
『こんなピカチユータイムに寝れるかよー』
 ヒカルは文句を言いながらも、床についた。太陽が沈むと本当に真っ暗で何も出来なかったからである。
 床に着き、目を閉じると自然と深い眠りに陥ってしまった。

 次の日の朝。
 また平安の朝だ! と思い、目を覚ますと……
 いつものヒカルの部屋だった。
 ほっとするヒカルと、もうちょっと平安に浸っていたかった佐為。
 2つの複雑な思いが小さなヒカルの体を悩ませていた。

                      ♪おわり
 
注:清少納言と紫式部が宮中で実際に顔を合わせた史実はないのですが
(紫式部が出仕した頃、清少納言はもう宮中を去ってるので)
あくまでパロディとして楽しんでいただきたいので、あえてツッコミはせんといてね♪



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