メカニック七転八倒
('84年「ソフトマシーン」誌 Vol.1/発行(株)シャピオ・販売(株)みき書房 P.106-109 掲載)

編集者注
  • 原本中のルビについては、[ ]にいれて該当する単語の直後に挿入した。
  • 傍点の箇所は《 》に入れて表した。
  • 原本中のハートマークは黒い輪郭線に中が白抜きである。
  • 丸に数字は( )に数字を入れて代用した。



 何を今さら――と言われるかも知れないが、'50年代以降の技術革新のペースは物凄いテンポであった。トランジスタの発明から一般化まで、それこそ“アッ”という間であったし、アポロ月面着陸(!)よりスペース・シャトル実用化に至っては僅か十数年、といった状況である。
 何しろ、(ちょっとまわりを見わたしただけでも)ひとむかし前には“夢の発明!”と考えられていたスーパー・メカが、ゴロゴロころがっている御時世なのだ。たとえばデジタル・クォーツ・ウォッチ。7〜8年まえ、初めて国産品が出たときは6万円前後(!)していたものが、今や同程度の機能で2〜3千円で買えてしまう。しかも比較にならぬほど、コンパクトかつスリムになって――。
 この調子でいけば、現時点だと“えすえふ”的な存在でしかないメカニックも、遠からず現実のものとなるだろう。そこで、当コラムでは現実と架空のメカニックが<交錯>する周辺を、筆者なりの見解を加えつつ再考してみたい…と思う。
 
 まず第一回目は、《あの》! 第23回…(ここでアッ♥エゾコンII! と思った人はコンベンション・マニアに違いない)オリンピックゲームズ、つまりロサンゼルス・オリンピックに投入された航空メカ…といえば、もうこれしかない。  “ブルー・サンダー”である。
 “ブルー・サンダー”は、'83年公開の同名映画に登場するスーパー・ヘリコプターの愛称だ。映画自体の出来は、とにかく、面白い! ロス上空を舞台に、F-16と空戦(!)をやるは、ヒューズ500とヘリコプター同志の壮絶なドッグ・ファイトをやるは、水路を超低空で追ってくるベル206を降りきるは…と、腰のぬけるようなアクションが連続する。
 何しろそれを実際に――さすがにF-16との絡みは特撮だが――演[や]っているのだから、凄い。日本映画なら《まず出来ない》光景だ(パイロットの技量や機体の問題ではなく、そんな過激なフライトを行ったが最後――パイロットも航空会社も、ガン首揃えて“航空法[パイオレーション]違反”で即! 首が飛んでしまうからである。日本では曲技飛行すら、《運輸大臣》の許可なくしては実施不可能なのだ…)。
 と、同時に、主人公のパイロットを演じるロイ・シャイダー(宇宙刑事に非ず)、仇役のマルコム・マクダウェル(“時計じかけのオレンジ”で有名)、故ウォーレン・オーツ(遺作となった)など、ひとクセもふたクセもありそうな連中がドラマを盛りあげていた。いくら魅力的なスーパー・メカが登場しても、ドラマ部分がガタガタでは映画として評価できはしまい(『メガフォース』を見よ! あれじゃまるで数十億かけたゴレンジャーではないか!! いや、こんなことを言ってはゴレンジャー/イーグル諸氏に申し訳が立ちません)。
 
 さて、本題に移ろう。本機ブルー・サンダーは、ロス・オリンピックの対テロリスト/暴動制圧機として開発されたタービン・ヘリコプターである。オリンピックの保安対策――という運用目的が、いかにもそれらしい。見方を変えれば、《LA》上空を飛ばすための設定と言えなくもない。なにしろアメリカは、国家行事におけるテロリスト対策には腐心している国である。そのために新開発のヘリコプターの1機種や2機種、開発してもおかしくはない。ちなみに映画の中では、この新型機開発をプロジェクト・THOR[ソア]"Tactical Helicopter Offense Responsive" と呼んでいた。
 しかし、その装備は単なるテロ制圧用としてはあまりに強力かつ重装備だ。機首の20ミリ電動ガトリング砲(註・いわゆるバルカン砲のこと。バルカンとは米国とゼネラル・エレクトリック[GE]社が共同開発した航空機搭載機関砲M16シリーズにつけられた愛称[ニックネーム]である。最近、マンガやアニメで機関砲といえば十中八九この名称[バルカン]がネーミングされているが、あれは正確とはいえない)を始め、赤外線監視装置、上空から地上の音を狙う超志向性マイク――なんせ家の中の《ささやき》がまるまる聞こえてしまう――、国家保安コンピュータや警察コンピュータとのリンク装置、大倍率のズーム・ビデオカメラ、そしてエンジン騒音をおさえる消音装置、衛星航法(NAVSAT)システムなど、攻撃ヘリコプター顔負けのパワフルさ。おまけにセラミック装甲板が機体に張りめぐらされ、防弾キャノピーはM16ライフルの弾丸ぐらいでは、はね返してしまうからたまらない。
 ここで注意しておきたいのは。これらの装備のほとんどが――ヘリコプター搭載装備としてはかなり誇張されてはいるものの――現実に運用されているものばかり、という点だ。
 たとえば、機上と地上のコンピュータ間をデジタル・データリンクすることなど軍事機ではすでに実用化されて久しいし、他の装備にしても大同小異。もっとも超指向性マイクや消音装置など、当分ヘリコプター用には実用化できそうもないものもあるが……。
 機内装備といえば、忘れてはならないのが機関砲の直接目視照準システム。これはパイロットの視線方向を眼球の直前にオフセットしたセンサーでトレースし、その方向に常時機関砲の射線を向けつづける…というもの。すでにアメリカのベルAH-1シリーズで実用化されており、陸上自衛隊(出た!)のAH-1S運用中のシステムだ。これさえあれば操縦桿操作→機体機動→射線合致というプロセスが不用となり、迅速かつ正確な照準が行える。ブルー・サンダーではヘルメットのバイザーに直接データが投影され、視線トレースもバイザーを通して行われていたようだ。地上でメカマンがヘルメットを持ち左右に振ると…モーターが低く唸ってガトリング砲口がそれに追従するシークエンスなど、なかなか格好良い!
 またこのシステム、交機動時の操作がやりやすいメリットもある。人体で最もGに強い部分のひとつが、“眼球”だからだ。
 
 ところでこの“ブルー・サンダー”、いったい《どうやって飛ばしたんだろう》という素朴な疑問が湧いてくる。なにしろ《ちゃんと飛ぶ実機》を使って撮影しているのだ。セコいミニチュアにピアノ線とはワケが違う。考えられるケースとしては(1)全くのオリジナルで造る(2)実機を借りてくる(3)現存の機体を大改造する…の三つだが、(1)は予算的にも時間的にもまず不可能。(2)は物語がフィクションである以上論外、となると(3)の大改造となる。
 実はこの“ブルー・サンダー”、フランス製の中型タービン・ヘリ: アエロスパシアルSA321ガゼルを大改造したものなのだ。どの程度の大改造かといえば。機体の後半分以外はローターやエンジン・システムを除いて完全にオリジナル。極端な話、機体の前半分をバッサリ切りおとしてしまったといっていい。
 そしてキャビンを平面キャノピでつつみ、ダミーのガトリング砲(当たり前だ!?)を機首に装備し、胴体上面の両舷へこれまたダミーの消音装置(情けないことに入口から出口まで素抜け)をつけ、テイル・ローターとエンジンをつなぐシャフトのフェアリングをちょいちょいとイジって――はい、“ブルー・サンダー”の出来あがり、というワケ。さらにミッドナイト・ブルーの“クラ〜い”塗装をほどこし、キャノピ周辺に《それらしく》赤いライン(おそらくキャノピの切断除去表示[カット・オフ・ライン] か?)を引いて完成した筈。
 こう考えてみると、攻撃ヘリの最新技術である平面キャノピ(被弾に強く、視界の《ゆがみ》が少ないメリットがある)の採用も、改造のしやすさから見れば当然の帰結といっていい……なんて書くと、ミもフタもナイですなァ……。
 ご愛敬なのは、メイン・ローターとテイル・ローター。さすがにこの部分は飛行特性(つまり人命)と直結する箇所だけに、ガゼルのオリジナル・システムを完全に残しているようだ。ガゼルのメイン・ローター(頭の上でバタバタ回っているヤツ)は、リジット式を採用する予定だった。従来の全間接式と較べ、大幅な構造の単純化・整備性の向上がなされる筈だったのが、結局装備されずじまい。しかし映画のパンフ等には、堂々と“リジット・ローター云々”と書かれていたりする。
 ローターに関連するが、ヘリでアクロバットなどできる訳はない――と一般には思われがちだが、さに非ず。現在のヘリコプターは高機動性がバツグンに良いのだ。ウデの良いパイロットが、根性と度胸をもってすれば、ループ(宙返り)やロール(横転)はもちろん、固定翼機顔負けのアクロバティック・フライトが可能なのである。この映画でも、物語のクライマックスで主人公マーフィの操るブルー・サンダーが、敵――マクダウェルの乗るヒューズ500(見たことのある人も多いだろう……俗に“たまごヘリ”と名付けられている機体だ)をループでふり切り、背面につけたところで墜とすシークェンスがあるが、まさにこの実例。(映画館で声高に“あッ、これはトクサツだよォ! ヘリでアクロバットできるはず、ないもんなあ……”と叫んでいたアナタ! あれは実写なのですよ)
 そういえば、昨年秋に岐阜で行われた国際航空宇宙ショーの飛行展示で、日本とドイツが共同開発した小型双発タービン・ヘリの川崎/MBB・BK117が、十数万の観客が見守るなか――堂々とダブル・ループをやってくれたのには驚いた。(なんせ、二連続宙返りだもんねェ)
 それはさておき、日本でも早くこんな映画を撮れる日が来ればいいナァ…と痛切に思うのは、筆者だけだろうか。
                             (この稿おわり)
 追記:
 “ブルー・サンダー”で疑問に思うのは、メーカーとモデル・ナンバーが全く明らかにされていないことだ。(たとえばベルAH-1Sとか、シコルスキS-76とか……)
 それと《運用者》が漠然としている(どうも米陸軍の所属らしいが、正確なところは不明)点も不可思議である。
 面白いのは、機体両舷のカメラ・フェアリング側面等に「N77GH」というアメリカ民間機登録記号が入っていること。軍用機のふり(テイル・ブームの25102は、《米軍風》シリアル)をしていても、実際に運航するする以上――やはり、Nナンバー(Nはアメリカを表わす。ちなみに日本はJAのあとに4ケタの数字が並ぶ)は必要だったようだ。

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