SPACE ATLAS  SAKUYA様 作

「……60日……」
 分厚い百科事典を開き、リリーナはしばし文章を目で追って、ぽつりと呟いた。
 視線をあげれば、ヒイロとデュオがころころとラグの上でじゃれあっている。
「……90日……」
 再び、ぽつりと呟く。
「リリーナ様」
 どうぞ、とパーガンがティーセットを机に置く。
「ありがとう。ね、パーガン」
 百科事典を指し、リリーナはパーガンに耳打ちをする。
 パーガンはひとつ頷き、部屋の回線からある場所へと連絡を入れた。
 リリーナは、さて、と未だ転がっているヒイロとデュオを見つめる。
 その手にあった百科事典、それは……犬百科と猫百科だった。

 ご主人様の様子がおかしい。
 あそんでーあそんでーと飛び掛かってきたデュオに組み敷かれたまま、ヒイロは首を傾げる。
 じぃっと見ていると、それに気付いたのかリリーナが立ち上がり、ゆっくりと二匹に近づいた。デュオがヒイロの上でにっこりと笑う。リリーナもにっこりと笑い、ヒイロの上からデュオを抱き上げた。
「ふたりとも、今日もとても元気だから、だいじょうぶね」
 何が、だいじょうぶ?
 むくりと起き上がると、リリーナはヒイロも抱き上げた。
 いい匂いがする。あったかい、とヒイロは目を細めた。

 ……可愛い……。
 きゃっきゃっと喜ぶデュオと、おとなしく抱かれているヒイロを、更にリリーナはぎゅーっと抱きしめる。
 同時に、ドアが軽くノックされた。
「いい子にしててね」
 ソファの上に二匹を下ろし、リリーナはどうぞとドアの向こうに声を掛ける。
 失礼します、と開かれたドアからパーガンが姿を見せ、続けて白衣の男性が入ってきた。
 しばしあいさつを交したあと、白衣の男性が二匹のところへやってくる。
「はじめまして。ええと、君がヒイロで、こちらがデュオだね」
 それぞれを撫でると、白衣の男性はリリーナへと振り向く。
「ええ、そろそろ90日くらいですね。打っておきましょう」
 にこやかに話し、白衣の男性はそっとヒイロを抱き上げ、机の上へと運ぶ。
 デュオはソファから飛び降り、彼を追う。その白衣の裾に捕まり、何?何?と尻尾を振った。


「ああ、デュオ。あなたは次よ」
 リリーナが抱き上げ、ヒイロの傍まで連れていく。
 白衣の男性はごそごそと鞄から銀色のケースを取り、そこから注射器を出した。
 きらりと光る注射器の針に、ヒイロは大きく目を見開いた。
「これは、猫の3種混合ワクチンです。猫伝染性鼻気管炎、カリシウイルス感染症、猫汎白血球減少症を予防するものですが、他にも猫白血病に対するワクチンもあるんですよ」
 話しながら、白衣の男性――獣医は、ヒイロを抱き寄せた。
「きゅーん……きゅーん……」
 それを見て、デュオが鳴き始める。
「だいじょうぶ、いじめてるんじゃないのよ。予防接種は大切なの。病気になったら嫌でしょう?」
「……くぅん……」
 それはイヤ。
 イヤだけど、怖いのもイヤ――。
「優しい子ですね」
 獣医がアンプルから注射器へとワクチンを吸い上げる。リリーナはうれしそうに笑った。
「とても、仲良しですの」
 注射器がヒイロに近づく。
 ヒイロは身体に力を入れた。
 少し怖いけど……デュオが怖がるから、鳴かない……。
 ぷすっと音がした。
「――」
「はい、終わり。いい子だね。よくがんばった」
 直ぐに針は抜けて、刺した部分を獣医が撫でた。
「くぅぅぅん?」
 だいじょうぶ?
「みゃぅ。みゃぁん」
 へいき。全然、痛くなかった。
 ヒイロの返事に、デュオはようやく強張っていた表情を綻ばせた。
「はい、次はデュオよ」
 そして、デュオは、ヒイロが痛くないんだからと歯を食いしばって耐えたのだった……。

「――心ない、人もいますからね」
 二匹を拾った経緯を聞いた獣医は、ぽつりと呟いた。
「いろいろ、事情はあると思います。
 でも、今、あの子達が私のところへ来てくれて、本当にうれしいんですの。
 だから、この出会いに感謝しています」
 にっこりと笑うリリーナに、獣医は大きく頷いた。

 そして、獣医とリリーナが犬と猫の飼い方について話に花を咲かせている、その傍らで。
 ヒイロとデュオは獣医の鞄を漁っていた。
「わぅ」
 すごいね。
「なぁぅ?」
 何が?
「わぅん」
 この注射一本で、ヒイロ、病気にならないんだ。
「……にゃぁ」
 デュオも。
「わん。くぅん?」
 うん。ご主人様もかな?
 ――二匹の眼差しがぴったりと合い、互いににっこりと微笑み合った。

 帰り道、獣医は妙に鞄が軽くなったような気がしてならなかったそうだ。

15000ヒットのお祝いにSAKUYA様から頂いたいぬねこストーリーでした〜♪
いぬねこがこれ以上ないって言うくらいプリプリで健気で凶悪な可愛さ〜〜!!
し、しかもなんとナースエンジェル誕生編だったりします(笑)ほろりとさせて
いきなり素晴らしい方向転換!凄いです〜!実力のある小説書きさんです〜!
このお話を書いていただけただけで、私いぬねこを描いて良かったと心底思い
ました♪私の気持ちはこのお話を読んだ方なら私の喜び具合が手に取るように
判りますよね?ね?とても可愛いお話をどうも有り難うございます(><)SAKUYA様!!

SAKUYA様の素敵な小説が沢山沢山拝読出来る「SPACE ATLAS」はこちらです!

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