暗闇仕留人

1974年6月29日〜1974年12月28日 全27回



☆オープニングナレーション
黒船このかた 泣きの涙に捨て処なく
江戸は均しく 針地獄の様呈しおり候
尽きせぬこの世の怨み一切
如何様なりとも始末の儀 請負い申し
万に一つも しくじり有るまじく候
但し 右の条々 闇の稼業の定め書き
口外法度の仕留人
(作:池田雅延 語り:芥川隆行)

☆主題歌
「旅愁」
作詞:片桐和子、作曲:平尾昌晃、編曲:竜崎考路、歌:西崎みどり


 黒船が来航した嘉永六年(1853年)、幕末の動乱期を舞台に活躍する裏稼業・仕留人達の活躍を描くシリーズ第4弾。前々作「必殺仕置人」より中村主水が二度目の出演を果たした記念すべき作品でもある。
 今シリーズのトピックスとしては、今回新たに加わった仕留人・糸井貢の妻・あやと村雨の大吉の愛人・妙心尼が主水の妻・りつの妹であるため、三人が「義兄弟」になってしまったということである。これにより「仕置人」とはまた異なるチームが編成されることとなった。さらにストーリーの方も熟練したスタッフの手で、「幕末の動乱」という刹那的状況を心に背負った様々な市井の人間達の情と業のドラマを展開させ、全体を通してもかなりグレードの高い作品群が出そろうこととなる。加えて「仕置人」同様、特定の元締めが存在しないことで、各仕留人達は良い意味で自然体で付き合っており、それもまた本作の魅力の一つとなっている。また大吉の殺し技「心臓つかみ」にはレントゲンの他にオシロスコープによる心電図も使用して心臓停止を表現したりと、遊び心も忘れてはいない。
 だが、本作における最大の見所と言えば、やはり糸井貢の存在であろう。蘭学を志しながらも、病身の妻の治療費を稼ぐため、ただそれだけのために「裏稼業」という闇の世界にその身を投じた一人の男。彼は「裏稼業のプロ」ではなく「裏稼業に迷い込んだ一般庶民」として描かれており、心優しい彼は時として憎むべき悪人に対しても憐れみを抱いてしまうことさえある。人としての情を捨て切れぬまま「仕留人」として生き続ける貢は、やがて外道組織との抗争の中で最愛の妻を失うという最悪の事態に遭遇する。だが、その時にはもう彼も「殺し屋」の業苦から抜け出すことは出来なくなっていた…。本作ではある日突然殺し屋となってしまった一人の男の生き様と崩壊を丹念に描き、殺し屋の逃れられぬ業を改めて浮き彫りにしたことも興味深い。
 そして最終回、貢は裏稼業が抱える矛盾を主水に吐露する。それはすべてを失った男が最後まで捨てきれなかった「情」から発せられた言葉だったのであろう。そして悲痛な結末を迎えることとなる。
 作品中の「幕末」の世界同様に既存作品の概念にとらわれない様々な新趣向を盛り込んだ本作品は、主題歌「旅愁」の大ヒットとも相まって屈指の傑作として評価されるまでに至った。ここから必殺シリーズの「黄金期」が始まっていくのである。


 ☆登場人物

 中村主水(演・藤田まこと)
 北町奉行所の同心。かつては念仏の鉄や棺桶の錠らと共に「仕置人」として裏稼業を行っていたが、チーム解散と同時に足を洗い、再び昼行灯としての毎日を送っていた。黒船が来航し世間が騒然となる中で偶然にも貢や大吉と遭遇、さらにかつての仲間・半次やおきんとも再会したことで、再び裏稼業を再開することを決意する。
 貢達とは図らずも「義兄弟」になってしまったこともあり、軽口をたたき合う中ではあるが、かつての仲間達ほどには打ち解けていない模様。特に殺しのプロに徹しきる事のできない貢に対しては複雑な思いを抱いているようである。必殺の剣技をもって悪党を地獄に送るが、今作では小刀による「暗殺」的な殺しも多数披露している。

 糸井貢(演・石坂浩二)
 かつては高野長英の門下生として蘭学を志していたが、蛮社の獄の際に高野の逃亡を幇助したことから妻のあやと共に脱藩、三味線弾きとして暮らす毎日を送るようになる。病身の妻の治療費を稼ぐために主水を襲ったことから知り合い、彼らに誘われて仕留人となる。
 インテリ肌の心優しい人間で、時として憎むべき悪人にまで情を傾けてしまうことも少なくない。さらに「殺し屋」という己の稼業に日頃から自問自答しており、それ故自分の犯した行為に苦悩することも多い。
 それでも裏稼業を続けていたのは、ひとえに妻のためだったのではあるが、第17話に於いて、外道殺し屋との戦いの中でその妻さえも失ってしまい、もはや裏稼業にも生きる意味を見いだせなくなってゆく。そしてついには裏稼業の抱える矛盾にぶつかり、最終回では足抜けを宣言する。しかし誰よりも日本の開国を望んでいるが故に、開国派の幕府要人を仕置することを一瞬ためらってしまい、その時に返り討ちにあってしまう。大吉の心臓蘇生も叶わず、皆に詫びて死んでいった。
 得物は鋭利な刃を仕込んだ三味線のバチだが、17、18話では簪を例外的に使用し、19話からは太い針が飛び出す矢立に変更した。

 村雨の大吉(演・近藤洋介)
 怪力無双の仕留人。石屋を表稼業としており、木の幹さえも握りつぶすことが出来る物凄い握力で、相手の心臓を握りつぶして止めを刺す。応用して心臓マッサージを行い、人間を蘇生させることも可能。
 酒と女と博打が大好きな遊び人で、妙心尼を愛人としている。意外と情に厚いところもあるが、インテリの貢とは対極的な位置に存在しているため、何かにつけて物事を難しく考える貢に辟易することも少なくない。だがその反面、貢や主水達仲間には全幅の信頼を寄せている。惚れた女のために心ならずも殺人を犯して島流しになり、帰還以降に裏稼業に手を染めたという過去を持っている。
 最終話で深手を負った貢の蘇生を行うも叶わず、貢の死に涙する。そして妙心尼とも別れ、一人旅立っていった。

 おきん(演・野川由美子)
 かつて仕置人の情報屋として活躍していた女スリ。仕置人チーム解散後は江戸を離れていたがいつしか江戸に舞い戻り、半次とともに怪しげな商売をして日銭を稼いでいた。そんな中で主水と再会したことから仕留人を結成することになる。
 諜報活動が主な役目で、気っぷの良い性格も相変わらずだが、第9話では女の幸せを求めて足抜けを考えたりもした。

 半次(演・津坂匡章)
 かつては仕置人の仲間として活躍していた瓦版屋。江戸に舞い戻ってきた現在では瓦版を作る事はなく、おきんと共にインチキ商売を繰り広げては小銭を稼ぐ毎日を送っている。主水に再会した当初は、かつての仲間である鉄や錠のような超人的仕置人がいないために裏稼業の再開をためらっていたが、貢や大吉の存在と実力を知り、仕留人として活動する事になる。
 調子のいい性格も相変わらずだが、持ち前の正義感を発揮することもしばしば見受けられる。気さくな性格ゆえか、知性派の貢とも会話を交わす場面が多かった。15話を最後に姿を消し、以後の消息は不明となる。

 妙心尼(演・三島ゆり子)
 大吉の愛人でりつの妹(あやの姉)。尼でありながら男好きで、情事の際には必ず「なりませぬ、なりませぬ、やめてはなりませぬ」と決めゼリフを言う。

 糸井あや(演・木村夏江)
 貢の妻で中村家三姉妹の末娘。夫の信念を理解し共に脱藩するが、長い逃亡生活のためか体を壊してしまっており、彼女の治療代を稼ぐ事が、貢が裏稼業に手を染めた最大の要因となっている。
 厳しい状況であるにも関わらず不満を漏らすこともなく、常に明るく振舞い他人に対する思いやりもしばしば見せる、優しい性格の持ち主。貢にとっては唯一の心の拠り所であったが、17話での外道組織との抗争に巻き込まれて致命傷を負い、夫の腕の中で息絶える。

 中村せん、中村りつ(演・菅井きん、白木万里)
 主水の姑と妻。今作では二人の妹たちが登場したこともあって、「仕置人」の時よりも登場頻度が高くなっている。主水いびりも相変わらず。



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