『メイヤ帝国からの亡命者』



※この話は、HPの都合上、キャラクターを死亡及び亡命させることになったための特別措置です。  事前にプレイヤーとGMの間で話はついていました。
 このような特別な措置を除いて、キャラの死亡・亡命などはありません。


<登場人物説明>

マークス・・・メイヤ帝国の前身のひとつ・ラスラント公国の元伯爵。

アイシャ・・・冥朧出身の騎士。
ティーア・・・メイヤ帝国皇帝の妹。統帥幕僚次長。
ガウゼス・・・メイヤ帝国幕僚総長。生粋の軍人。


もっと詳しいことが知りたい方はこちら →メイヤ帝国人名録オーステリッツ帝国芳名録





その3 ― 逆襲の結末


「こちらがマークス卿だ。」
ウェルバーの紹介で讐たちは壮年の男と向かい合っていた。
「この方が・・・! 私は讐と申します。」
讐は相手の外見を見て、すぐに信じ込んでしまった。
讐という男は冷静なときはそれなりの実力があるのだが、勢いに流されるとまったく周りが見えなくなるのだった。
この時、讐はウェルバーの巧みな言い回しと、マークスいう男の風貌に完全に流されていた。
だが、それを見てレイザーとジュリアは一層憂いを強くした。
周りに気づかれないようにジュリアは小声でレイザーに話しかけた。
「(・・おいレイザー、これはまずいぞ。讐は完全に相手のペースにはまっている。)」
「(そうだな、胡散臭いやつだとは思ったが・・・)」
ジュリアには紹介された男がどうも引っかかった。
「(マークス卿だと? おい、こいつの名前は聞いたことはあるか?)」
「(ジュリアが知らないのであれば、俺が知るわけがないだろう。)」
そこに讐のひときわ高い声が響いた。
「私の剣をあなたがたの理想にささげましょう! 奸悪を必ずや打ち破ってご覧に入れる。」
そう言って、讐はマークスに手を差し出した。
だが、それを聞いたジュリアは一層険しい表情になった。
讐は完全に相手に意気投合したようだが、ジュリアの頭の中では「この男は危ない!」という警報が鳴っていた
「(この男の顔・・・まさか!)」
「(? 見覚えがあるのか、ジュリア。)」
目の前で讐と握手を交わすマークスの表情を見て、ジュリアの脳裏に記憶が鮮明によみがえった。
「(こいつは・・・フィンステーニス陛下が国を統一した際に排除された貴族の一人だ。)」
「(なに! なぜそんな事が分かる?)」
ジュリアの言葉にレイザーは思わず大声をあげる所だった。
「(こいつは今では帝国に対する反乱組織の幹部のはずだ・・・。騎士になってから調べた事件にはそう載っていた!)」
マークスの目つきはその時の事件の人相書きとそっくりだった。
「(いかん、讐を止めなくては!)」
レイザーとジュリアは焦って讐を止めようと声を上げようとした。
「おい、讐・・・」
しかし、その声は後ろからかかった警告によってかき消された。
「そこまでだ、全員動くな!」
振り返ると、そこにはアーネストをはじめとした数人の男が立っていた。


「これに間違いないか、アーネスト?」
「はい、殿下、間違いありません。何人か加わっているようですが・・・・」
ベセルファイントは讐らにゆっくりと近付くと、一人の男に目を止めた。
「シュターク伯マークスか。」
「貴様はベセルファイント!」
「おとなしくしていれば見逃されたものを。与えられた余命を捨てるか。」
「黙れ! 我がシュターク家は国公位継承権も持つ、ラスラント一の名門! その私を登用しなかったばかりか、爵位を剥奪し・・・・」
マークスの言葉を遮りベセルファイントは辛辣な言葉を投げかける。
「家柄だけで無能な貴様らには相応しい処遇だろう。いや、訂正しよう。国と民衆を食い潰し、私腹を肥やす能力だけは上々だったな。」
「何だとっ・・・・!」
「命を取られなかっただけでも感謝するのだな。もっとも、それもこれまでだが。」
そう言うと、ベセルファイントは剣に手をかけた。
マークスは気圧されて数歩後ずさりしながらも虚勢をはる。
「それだけの人数で何ができる!」
ベセルファイントは無言のまま、なおも歩み寄る。
「マークス卿! ベセルファイントの強さはよくご存じのはず! ここまでです!」
ウェルバーが叫び、退却を勧告した。
「ここは私にお任せください。マークス卿はお退きを。」
「そ、そうか。頼むぞ。」
逃げ出そうとする一味を阻止しようとしたベセルファイントの前に、讐が立ちはだかった。
その間にマークスらは走り出し、ウェルバーは困惑するレイザーとジュリアの腕をとった。
「ぐずぐずするな! 急げ!」
強引に引っ張り、背中を押して走らせる。
「追え!」
ベセルファイントはアーネストと、もう一人同行していた黒影の者に命じると、剣を抜き、讐に正対した。
「フィンステーニスの前に、まずは貴様の命で私の輝かしい未来を飾ってくれよう。」
そう宣すると同時に、讐は剣を振り上げた。
「死ねっ!!」
ベセルファイントは前に出ながら讐の剣を払いのけ、そのまますれ違いざまに胴を薙いだ。
「バ、バカな! この私がこうも簡単に・・・・・!」
それが致命傷であることは間違いなかったが、讐は必死に踏みとどまり、ふらつきながらも振り返ろうとする。
「自惚れるな。」
ベセルファイントは吐き捨てるように言うと、とどめの一撃を下した。
地に転がった讐を冷たく見下しながら剣を収めると、彼もマークスらが逃げ出した方向へ駆け出した。


「おい!これは、どういうことだ?それに、讐は大丈夫なのか?」
うやむやのうちに連れ出されたレイザーは、ウェルバーに問いかける。
「その話は後だ。とにかく今はこの場を切り抜ける事が先決だ。
ただ・・・、讐が相対していた相手、あれは黒覇将軍ベセルファイントだ。
おそらく、讐は・・・。」
「!!!!!!」
「・・・・・・」
レイザーもジュリアも、ベセルファイントの名前は知っていた。
そしてその男の実力も・・・。
「どうやら、なにを言っても言い訳にしかならない状況に陥ったようだな。」
後ろから聞こえてくる足音を確認しながらレイザーはつぶやいた。
「こうなったらしかたない。この場で捕まって罪人扱いされるのはごめんだし、
それに・・・、自分の今回の行動は誰かに詫びねばならない事だとは思わないからな。」
レイザーのこの物言いに何かを感じジュリアは聞き返す。
「レイザー、どうするつもりだ?」
「この国を出る。ウェルバー、この場を乗り切ったら、全てを話して貰うぞ。
まさか、いやとは言わせないぞ。俺達には、聞く権利があるとおもうが。」
有無を言わせぬ口調でウェルバーに詰め寄る。
「ああ、この場を切り抜けられたらな。」
「その言葉、よく憶えておくぞ。」
夜の闇の中へ三人の逃亡者は消えていった。



ベセルファイントがフィンステーニスに事の顛末を報告したのは、翌朝のことである。
「・・・・・マークス・シュターク他二名は討ちましたが、残りの者は取り逃がしてしまいました。マークスらが中心となっていた反乱組織は、黒影が本拠地を突き止め、夜が明ける前にアカスティー、マリシャイドが急襲、これを掃討いたしました。」
「そうか。ご苦労。」
「それから今回の件、どうやらオーステリッツが絡んでいるようです。」
「ほう?」
「これを・・・・」
手傷を負わせたが、逃亡した男が持っていた物であると添えて、ベセルファイントは
一振りの短剣を差し出した。フィンステーニスはそれを受け取ると、鞘から抜いて
眺めやった。
「なるほど、確かにオーステリッツのものだな。」
柄にはオーステリッツ帝国軍の用いる紋章が刻まれており、見るからに豪華な装飾が施されている。
「この仕様、高い地位にある者のものか、或いはそういう者から与えられたか・・・。」
しばらく眺めた後、それを鞘に戻した。
「この剣・・・・、どう使う、惺夜?」
「は、開戦の口実とするも、何らかの譲歩を引き出すも、陛下の御心のままに。」
「・・・・オーステリッツに行く口実にはなるかな?」 「は・・・・・?」
予想もしなかった言葉に、ベセルファイントは戸惑った。
「落とした当人は慌てているであろうな。この剣、主に届けてやろうではないか。」
「陛下御自身が、ですか?」
「小細工を弄する人間の顔を見てやろう。」
「しかし、何も御自らお出でにならなくとも・・・・」
当然、引き止めようとするベセルファイントだったが、
「惺夜、留守の間のことは頼むぞ。」
こう言われては頷くより他になかった。

「オーステリッツに!?」
フィンステーニスは腹心の部下たちと昼食をともにし、食後に茶飲み話でもするかのごとく、例の剣を持ってオーステリッツに行く、と切り出したのだった。
「陛下、オーステリッツが陛下をよく思っていないのは昨夜の事件でも明らかです。ここはお控えになった方がよろしいかと。交渉役が必要なら私がお引き受けします。」
「アカスティー元帥の言う通りです。わざわざ陛下御自身がお出でになる必要はありますまい。」
アカスティーとガウゼスは、ベセルファイントと同じように思い留まらせようとした。
しかし、彼らの諌言の結果もまた、ベセルファイントと同じだった。
「アカスティーに全権を委任して派遣してもよいのだが、この機会にオーステリッツの
要人を見ておきたいのだ。」
フィンステーニスはカップを手に、微笑を浮かべながら言った。
「敵にするにしても味方にするにしても、相手はよく知っておかなければな?」
この若い主がこういう話し方をする時は、譲る気はないのだということを、彼らは十分にわかっていた。
「ねえ、兄さま、私も一緒に行っていい?」
ティーアが思い付いたように言い出した。
「ああ、構わない。ただし揉め事は起こさないようにな。」
「わかってます。」
「んじゃ、おれもついてく! そっちの方が面白そうだ。」
今度はアイシャがそれに便乗した。
「では玲夜とアイシャ、それにアカスティーは私とともにオーステリッツ行きだ。惺夜、留守は任せる。ガウゼス、マリシャイド、アカスティーがいない間、うまくやってくれ。」
「はっ・・・・!」
フィンステーニスが話をまとめて終わりを合図すると、彼らは席を立って執務に戻った。


「また飲んでるのね」
頭上から降ってきた声に顔を上げると、そこに立っていたのはリティスとアーネストの
二人だった。
「兵舎にいないから探してみれば・・・よくそう毎日飲めるわね。酔えないくせに」
「・・・」
「翡焔・・・飲み過ぎは体に毒だぞ」
「(そーいう問題じゃないでしょ!)」
「(いや、しかし、なんて言っていいのか・・・(汗))」
二人のやりとりは、翡焔には届いていなかった。
「(なぜあのとき動けなかったんだろう・・・アーネストが兵を連れて現れたとき飛び出していれば・・・。
ジュリアはあんな事になることはなかったかもしれないのに・・・)」
翡焔はあの日からずっと悔やんでいた。そして、それを忘れるために酒をあおっていたのだが・・・。
「(それもこれもレイザーがジュリアをつれてきたりするから・・・)」
杯をあおろうとした手が不意に止まる。アーネストが、翡焔の腕を押しとどめていた。
「もうその辺にしておけ。訓練もせずに飲んでばかりでは準騎尉の位が泣くぞ」
「(・・・もうちょっとうまいことが言えないのかしら、アーネストって・・・(苦笑))翡焔、いざという時に動けないと 困るといったのはあなたよ?それがどう、
このていたらくは。あなたを買いかぶりすぎてたようね」
アーネストの物言いに苦笑しながらも、リティスも翡焔に語りかけた。
「・・・」
しかし、翡焔はその二人の言葉にも反応しなかった。
「ああ、もう!しゃきっとしなさい!このままだと何もならないわよ!」
「・・・今更どうなるって言うのさ・・・」
「(ふふん、のってきたわね)レイザーよ」
今までほとんど反応を示さなかった翡焔が、その名にびくりと反応する。
「このままにしておくの?ジュリアを引きずり込んだ張本人を。きっと今も一緒に行動してると思うけど」
「!」
「(おい、リティス・・・)」
「(いいのよ。目の前に目標ができれば、立ち直りやすいでしょ?)」
「(な、なるほど。そういうものか・・・)」
リティスがアーネストに自分の理論を納得させるのに成功した頃、翡焔も精神的再建を果たしていた。
「・・・そうだね。あいつがジュリアを・・・。二人とも立ってないで座れば。
酒に逃げるのは今夜でおしまいにするから、付き合ってよ」
「そういうことなら喜んで(は、早いわね、切り替えが(苦笑))」
心中で、翡焔の立ち直りの早さに驚きながらも、翡焔の言葉にさっさと席を確保するリティス。
「・・・(女性というのは案外過激な・・・)」
「アーネスト、さっさと座れば?」
リティスに促されて少々焦りながらアーネストもテーブルにつく。
「しかし、にぎやかな店だな。外の方でもなんだか騒ぐ声が聞こえるぞ」
「気にしない気にしない、いいから飲みましょう」
「そうだよ。よそを気にするのはもう懲りたからね(苦笑)」

この夜翡焔には目標ができた。
「打倒レイザー!」である。