
☆先帝祭、雨が降ったら異空間
※(山口県下関市・2004年5月3日)
☆はじめに
山口県下関市は、源氏と平家が最後の決戦をした壇ノ浦があることで知られ、平家にちなむ遺跡があちこちにある。その一つが安徳天皇の御陵の前に建てられた赤間神宮だ。(明治以前ここには阿弥陀寺という寺院があったが、明治以降安徳天皇をまつる神道の赤間神宮となった。)
この赤間神宮で五月の連休中に行われる有名な祭りが『先帝祭』である。私は何度も赤間神宮には行っているが、『先帝祭』には行ったことがない。東京から福岡県に戻ってきたいい機会でもあるので、行くことを決意した。
☆下関海峡まつり
実は下関では五月の連休中に「下関海峡まつり」が行われる。これは「先帝祭」を核にして、下関唐戸地区で「源平船合戦」、宮本武蔵と佐々木小次郎が決闘をしたことで知られる巌流島で「巌流島フェスティバル」が並列的に行われるという、よく考えたら非常にもったいないお祭りである。
先帝祭最大の目玉「上ろう道中」だけでなく「源平船合戦」も見られればと思い、私は5月3日に下関へと向かった。
☆嵐の予感
JR下関駅についた。雨は降っていないが、どんよりと曇っている。実は天気予報では風雨共に激しくなるとの予報が出ている。へたをすると嵐の中での見物になるかもしれない。
関門地方には「関の先帝、小倉の祇園、雨が降らねば金が降る」という言葉があるほど、下関の先帝祭は雨になることが多いと言われている。(「金が降る」とは晴れたら大勢の人出で地元が潤うという意味。) その言葉の通り、今回の先帝祭は雨なのだろうか。とりあえずイベントの中心である唐戸地区へと向かった。
☆いきなりの衝撃
唐戸地区に着いた。唐戸地区は戦前までは山陽本線の終着駅があったこともあり、昔ながらの建築物がいくつか残っている場所だ。その一つが観光センターになっている。そこでイベントの案内チラシ手に入れた。それを読んでみた私の頭の中で「ガチョーン!」という言葉が浮かんでしまった。最大の目玉である「上ろう(じょうろう)道中」は、私が下関駅についた直後くらいに下関駅周辺で見られたらしい。今さら駅まで戻るわけにもいかず、メイン会場で行われる開会式を見ることにした。
☆上ろう道中とは?
壇ノ浦の合戦の後、生き残った平家の人間は赤間が関(現在の下関)の近くに住み着いた。そして安徳天皇の命日に、遺体が葬られたとされる阿弥陀寺に威儀を正して参拝したという。その中でも女官たちが参拝した姿を写したのが「上ろう道中」だとされる。
実際の道中は高下駄を履いた遊郭の太夫が「外八文字」という独特の足運びで進むものだ。下関は昔から港町としてにぎわった場所であり、遊女たちも多くいただろう。場所柄「壇ノ浦の合戦で敗れた女官たちが遊女となった」噂があって、そんな噂が元になって太夫の阿弥陀寺参拝が始まったのかもしれない。
いずれにしても下関のお祭りとしては一番有名なものだ。
☆開会式
メイン会場は海響館という水族館の横にある広場で行われる。ステージの向こうには関門海峡の海が見える。挨拶している人の向こうに船が見えるのが面白い。まだ降ってはいないが、今にも雨が落ちてきそうだ。時間的にちょうどいい、唐戸商店街で行われる武者行列を見に行くことにした。

海峡まつり開会式
☆源平武者行列
唐戸の商店街に向かう途中で信号待ちをしている武者の一団を見つけた。白い旗をかかげる源氏の皆さんだ。商店街の方からは「エイエイオー」の声がする。慌ててそっちに向かうと赤い旗の平家の皆さんがいた。
手に入れたチラシによると、開会式が行われたメイン会場まで行進し、そこで源平船合戦ということになるらしい。付いて行こうかとも思ったが、ついに雨が降り出した。
唐戸商店街で待っていれば上ろう道中がここにくるらしい。とりあえず屋根のある商店街の中で待つことにした。

横断歩道を渡る源氏の皆さん
☆異空の商店街
唐戸商店街を歩いてみる。一つだけではなく、三つほど通りがあるらしい。戦前の唐戸は山陽本線の終着駅だったこともあり、下関駅周辺と並ぶ下関の繁華街だ。ただ、「いい感じにのどかになっている」感触がある。
そこを歩いていて私の耳は「プロレス」という言葉をとらえた。「こんな所でプロレス?」と不審に思ってマイクの声のする方に歩いていったら、そこにはリングがあった。よりにもよって商店街のど真ん中にリング。一瞬どこかの異空間に迷い込んだのかと思ってしまった。
そこでもらったチラシとアナウンスの説明で事情はだいたい理解できた。実は巌流島で行われるはずだった「巌流島フェスティバル」が天候不順のため、巌流島での開催を中止し、その一部がこの商店街で行われることになったらしい。
屋根のある場所ということで代替地にここが選ばれたらしいが、それでも商店街のど真ん中にリング。確かにプロレスはホテル前の駐車場などいろんな場所で開催されるが、それでも商店街で開催された例を私は知らない。
ちなみにここでプロレスを開催する団体は「華☆激」だった。新日本プロレスなどと比べれば遙かに小さい団体で、プロレスマニアでもないとその存在を知らないだろう。しかし、博多を中心としてプロレス興行を続けているという実にユニークな団体だ。中心選手のアステカ選手は新日本プロレスや大阪プロレスでも戦っている。(でも、マスクはライオンをモチーフとしていて、全然アステカ文明っぽくない。)
試合開始までしばらく時間はあるが、「商店街プロレスを見なくてはなるまい!」と心に決めた。

巌流島フェスティバル開会式。せ、狭い!
☆上ろう道中
気が付くと「上ろう道中」が唐戸に来る時間だ。「上ろう道中」は武者行列と同じ通りだ。そちらに急ぐ。たどりついたらすでに「上ろう道中」の一行が来ていた。
しかし、人が多くて、道中一行の頭しか見えん! 笛の音と共に太夫が外八文字の足運びを披露していたが、下の方は何も見えない。デジカメを高く掲げて絵だけは押さえたが、結局太夫の外八文字の動きは全く見ることができなかった。(帰ってからのニュース映像で見ることはできたが。) もう一度、外八文字を披露して、上ろう道中の一行はバスに乗り込んで赤間宮へと去っていった。


上ろう道中の太夫
☆リングの小次郎
リングのある所まで戻ってくると少年剣道大会が始まるところだった。これも「巌流島フェスティバル」の一つらしい。門司と下関の剣道少年たちが剣道の試合をするもので、ある意味でこれが一番巌流島フェスティバルに相応しいといえる。こちらも巌流島の予定が天候不順により唐戸商店街で行われるようになったものだ。
しかし、この剣道大会、かなりの不思議なものになっていた。何せ、リング上で剣道の試合が行われることになったのである。(リングが設置してあるのを見た少年剣士たちが「リング上でやりたい」と言い出し、それを華☆激が認めたらしい。)
確かに上田馬之助やケンドー・ナガサキなど、竹刀をリングに持ち込んだレスラーはいるが、リング上で行われる剣道の試合は前代未聞じゃなかろうか。
試合形式は五対五の団体戦。門司側が白い紐、下関側が赤い紐を頭に締めている。団体戦ということもあり「武蔵と小次郎の決闘」より「源平合戦」の方が近いのかもしれない。
試合は下関側の四連勝、最後に門司側の大将が一矢報いる形で、四対一で下関の勝利となった。ロープが邪魔になるかとも思ったがそんなこともなく(むしろリングの上に張られていたアナウンスマイク用のコードに竹刀が引っかかっていたりした)、少年剣士たちは気迫あふれる試合を展開していた。
四月に手向山公園で、スニーカーで剣道の試合をしていた少年剣士たちといい、関門地区は武蔵小次郎のおかげで変わった試合を経験できるのかもしれない。

ケンドー・オブ・ザ・リング
☆過激なる商店街プロレス
剣道の試合の後、下関のラーメン有名店「一寸法師」に行ったり、亀山八幡宮に参拝しているうちにプロレスの開始時間となった。雨でもそれなりの人が集まっている。
ふと気が付いたのだが、リングの設置されている場所は金子みすず(←山口県出身の女流詩人)の詩碑の前だった。金子みすずの詩碑の前で開催される商店街プロレス。もし、雨が降らなかったらこんな不思議な光景は見られなかっただろう。
二試合予定されている試合のうち、最初の試合は「コスモソルジャー対黒影」のシングルマッチ。コスモソルジャーの名前は聞いたことがあったが、黒影の名前は初めて聞いた。(インディーズの試合の選手ともなると、必ずしもプロレス雑誌に名前が出てくるとは限らない。)
二人ともマスクマンだったが、なかなかいい動きをしてくれた。特に度肝を抜かれたのが、リング外への空中殺法だった。商店街プロレスである以上、リングの下にマットなど敷かれてはいない。あるのは堅い地面のみ。失敗すれば大怪我だ。それにも関わらず、場外へのトペスイシダーが炸裂した。
メキシコではそんなこともあると聞いていたが、まさか日本でそんな光景が見られるとは思わなかった。正にここは異空間。
試合は技のミスが多かったものの、コスモソルジャー選手がトップロープからの空中殺法で試合を決めた。

手前にあるモニュメントは金子みすずの詩碑。

黒影選手にアンクルホールドを決めるコスモソルジャー選手。
☆過激なる商店街プロレスその2
メインイベントは、アステカ・KAZE組VSUMA・TAIRA組のタッグマッチ。四人ともマスクマンで、どうやら華☆激は覆面レスラーが多いらしい。
この中で一番有名なのはアステカ選手だが、一番動きがよかったのはTAIRA選手だと思う。レスラーとしては線の細さが気になるが、ラ・マヒストラルなどの丸め込み技や空中殺法などを楽々とこなし、試合を盛り上げた。最後はアステカ選手の垂直落下ブレーンバスターに沈んだが、「インディーズにもこういう選手がいるもんだ」と思わせてくれた。
さすがに集まった人たちは関節技とかは理解できなかったようだが、それでもチョップや投げ技の迫力には驚きの声を上げていたし、空中殺法が決まると歓声を上げていた。これこそプロレスの根本的な醍醐味なのかもしれない。

トップロープに上がるTAIRA選手とUMA(ユーマ)選手。

向こうの赤い選手がアステカ、青い選手がKAZE。

商店街の激闘!
☆最後に
華☆激プロレスを見た後、赤間神宮に行こうかとも思ったが、風雨共に強く断念して帰途についた。ニュースによると風雨の中、源平船合戦も行われたらしいが、結局こちらも見なかった。つまり今回は当初の目的である赤間神宮も源平船合戦も全く見ず、商店街のリングという異空間を見た不思議な旅だったのである。
雨の先帝祭、そこには謎の異空間が出現していた……
(終わり)