『竜が飛ばない日曜日』/咲田哲宏(角川スニーカー文庫)
『神の系譜T 竜の封印』/西風隆介(トクマノベルス)
『殺竜事件』/上遠野浩平(講談社ノベルス)

 最近読んだ本がたまたま「竜」繋がりでしたので、まとめてしまいました。


『竜が飛ばない日曜日』

(粗筋)
 親友が死んでから、世界に竜が現れた。空想上の存在だった筈の竜が、いつの間にか歴史的に裏打ちされた当然の存在となっており、そこにおいて人々は竜の単なる餌に過ぎない。竜に捕食されることに喜びを覚える人々の中で、竜の存在に疑念を持つ主人公たち。竜のいない世界を取り戻すことはできるのか。

(感想)
 日常にズレが生じてゆくタイプのファンタジー。親友の死の謎を追いつつ、竜について探る羽井貴士の視点と、同じ日が二度繰り返される藤谷瑞海の視点によって物語が紡がれていきます。淡々とした文章によって醸し出される乾いた雰囲気が、作品世界の異質さとともに漠然とした恐怖を感じさせますね。キャラクターの印象はやや希薄でしたが、好感を持てました。物語の核に「竜」という謎があり、それを解き明かしていく過程はミステリそっくりで、まとめ方がやや大雑把ですが意外性もあり、思った以上に楽しめました。ストーリー、プロットの両方がハイレベルです。次回作が楽しみ。

『神の系譜T 竜の封印』

(粗筋)
 片田舎の屋敷に、付き人の老人である桑名竜蔵とともに住む少年・天目マサト。十数回に及ぶ引越し・転校のため友達もできず、他人との付き合いが不得手になりつつあるマサトには、ある不思議な能力があった。彼は新しい通学先であるM高で親しくなった友達とともに、学園祭の出し物のため淨山寺へと向かう。その頃、警察は駅で起きた怪死事件を巡って刑事たちが捜査を進めていた。

(感想)
 ファンタジーっぽいタイトルですが、オカルトとミステリの中間みたいな内容です。淨山寺の秘密を暴くパート、人間の認識について考察するパート、駅の怪死事件を追うパートの3つがあり、これが互いに関係しながら物語が進んでいきます。物語といっても、そのほとんどが薀蓄で、はっきり言って薀蓄ばかり読んだ記憶しかありません。が、そんなに退屈だったわけではないです。既存の作家で言いますと京極夏彦高田祟史の作風に似てますね。薀蓄を伏線として理論武装し、解決編でそれを使って論理展開しています。ネタ自体は既に知っていることでしたが、飛躍が激しく、これを好意的に受け取れるかどうかは人によりけりでしょう。私はそこそこ楽しめました。淨山寺パートの存在意義がいまひとつ判らないのと、いろいろ含みを残したまま「つづく」になる辺りが不満点。結局タイトルの「竜の封印」がどういう意味なのか判りませんし……。期待と不安の両方に応えてくれたような感じで、まあ妥当な出来です。

『殺竜事件』

(粗筋)
 竜が殺された。“絶対”の象徴であり、不死身として神聖視されていた竜が。誰が、何故、如何にして殺したのか? 調停士のEDを含めた一行は1ヶ月後の停戦交渉までにこの謎を解かなければならない。何千、何万という人命、そしてEDの生命すら懸けて、一行は真相を巡る旅へと出かけた。

(感想)
 ファンタジー世界を舞台にして、ミステリをやろうという試みみたいです。魔法の概念がいまひとつ曖昧だったり、ありがちなオーバー・テクノロジーが絡んだりしてきて、いかにもな、あまりにいかにもなファンタジー世界が安易に感じられます。3人でパーティを組んで容疑者たちの証言を聞いて回るため旅に出る、というのはなんだか安手のRPGをやってる感じです。旅パートのウェイトが大きい割には、結果として見ると「真相を求めて旅する」というより「冒険をするため旅をする」という風に見えます。だから、ミステリとして読もうと思うと旅パートが無意味なものに思えてきますね。旅パート自体は面白いんですが、いろいろな要素が詰まっているのは良くも悪くもライト・ノベル的です。解決編も意外性はあるもののあっさりとしていますし、やはりミステリとして読もうと思うと不満が残ると思います。「ミステリとライト・ノベルの融合」みたいなことを謳っていたように記憶していますが、ライト・ノベルが馴染めない人はこの安手のRPGっぽいファンタジーが鼻につくのでは。私はミステリとライト・ノベルの両方が好きですが、「ああ両方の要素があるな」とは思いましたものの、感動的とも革命的とも思いませんでした。やはり、これは「良くも悪くもライト・ノベル的」です。面白く読めたことは確かなんですが……。


 とりあえずハズレはなく、どれも最低限の期待には応えてくれました。
 一番のアタリは『竜が飛ばない日曜日』。『殺竜事件』とは違う意味でミステリの要素を持ったライト・ノベルとして楽しめました。オススメです。



記憶をちょっと溯る

記憶をかなり溯る