連続小説 生人〜いきびと〜


ここでは、第1話〜第27話まで収録してあります。

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第一話 始まり

単調な砂の色が地平線上の彼方まで続く砂漠に一人の男が歩いていた。
頭から顔にかけて砂よけの布をグルグル巻きにし、腰から下にはスカートを連想させる
物をまとっている。
足にはサンダルらしき物を掃いているが、焼けた砂に皮膚が当たるせいで赤い。
目は真っ直ぐに合わされ、ただ一心に歩く事に集中しているようだ。
ザッザッザッ…
砂の上を歩く音が休みなく続いている。
ザッ…
急に足音が止んだ。
男の目の前に青色に輝く小人が宙に浮いている。
小人は小さく三角座りをし、体からは薄く煙状の物がでている。
男は水をすくうかのように両手を小人に向けた。
シュゥゥゥ…
小人は両手が着く前に風にかき消された。
!!
男は足元を見て声もなくのけぞった。
男の足元には人間の腕が転がっていた。
男は、何を思ったのか腕を拾い上げ観察を始めた。
腕は肩から刃物で切り落とした様な形跡があり、所々の皮膚が焼けている。
ゴゴゴゴ… 突然、足元の砂が生きているかのように上昇を始めた。
「うわっ、」
男は素早く飛び退くと2メートル位にまで上昇した砂の固まりを凝視した。
次第に砂が取れるに連れ、砂の固まりに人間が張り付いているのが見える。
砂が完全に取れると男の顔が険しくなった。
砂の固まりは、男も女もなく素っ裸の人間が絡まりあった巨大な門と化していた。
「面倒な事になったな…」
ポツリと男がつぶやいた。

第2話 過去

男が門を発見する少し前、
砂漠の小さいオアシスに面する村サンタナーレスに二人組みの旅人が訪れた。
一人は、大人用のフード付きのコートを着た7・8歳の女の子。
もう一人は、
フード付きのコートを着ているが右目を隠すように砂よけを顔に巻いた男だった。
二人が村に着いた途端、辺りは静寂に包まれた。
タッタッタッ、
周りは、二人の視界に入らないように動いていた。
「あーっ!!」
突然、フードを着た女の子が叫んだ。
女の子が足を止め、足元にある人形を手にした。
人形は、持ち主が落としたのか人に踏まれた跡がある。
「だぁれ、こんな事するの!!」
女の子は人形に付いた砂を払いながら怒った。
「だめぇぇっ!!」
人家の影から村の者だと思われる女の子が飛び出し、人形を奪った。
「あたしのだもん!!」
村の女の子は人形を抱いてうずくまった。
何がなんだか分からないフードの女の子は連れの男に助けを求めた。
男が村の女の子に近づこうとした途端、武装をした村人に囲まれた。
「貴様! それ以上 娘に手をだすな!!」
どうやら、武装をした村人の中に人形の持ち主の女の子の父親がいるようだ。
「この野郎、おまえも子供を買いに来たんだろう!!」
「あたし達そんなんじゃないもん!!」
あわてて、女の子が否定した。
「この野郎、しらばっくれるつもりか?」
今にも、村人は襲いかかりそうだった。

第3話 人買い

「村長がきたぞ!!」
別の所から村人が飛び出してきた。
「だいじょうぶなのか…」
何故か村人は村長が来ることを心配していた。
だが、その理由はすぐにわかった。
村長なる人物は高齢で目に傷を負っているらしく、両目に包帯を巻いている。
所々に最近の傷だとわかる生々しい血の跡が残っていた。
「この村から出ていってもらおう…」
村長は唐突に話を始めた。
「数日前、お前たちの仲間が子供を買うためここに来た…」
村人はよく見ると一人一人に生傷が絶えない。
「わしらは子供を売ることを断った…」
「…」
フード付きのコートを着た二人組みは黙って聞いていた。
「すると、お前さん達の仲間は報復として村を襲ったのじゃ…」
村人の中からすすり泣く声がする。

第4話 過去

村長「そして、村長のわしの目を奪い!大切な子供たちをさらって行ったのじゃ!!」
武装した村人の生傷、村長の両目の怪我の原因がようやく分かった。
フードの女の子「だから私達じゃないもん!!」
悲しみに満ちた村人には、この2人組は悲しみを紛らわす為の格好の的だったのだろう。
村長「!!」
村長はフードの男の顔を改めて見て驚いた顔を見せた。
村長「お、お前さん、昔会ったことがないかの?」
突然、話題を変えた。
フードの男「いや…」
村長「そうか…」
村長は村人に武器をしまうように言った。
村長「どうか許しておくれ…」
村長はそれ以上何も言わなかった。

第5話 再会

村人「お前たちのせいでぇ!!」
突然、村人の一人がフードの男に襲いかかった。
村長「やめるんじゃ!!」
村長が叫んだ時には、もう遅かった。
グサッ!!
フードの男は背中に槍を突き刺された。
フードの女の子「!!」
あまりの出来事に少女は呆然と立っている。
村人「あ、あぁ…」
フードの男を刺した村人は自分のした事に気付いたのか、その場に屈み込んだ。
村長「何てことを…」
誰もが男が死んだと思った。
しかし、男は激しい痛みに耐えながら立ち上がり 叫びと共に刺さった槍を引き抜いた。
傷口が開いているせいで出血は止まらず、血が流れている。
フードの男「俺はいいから・・・この子に一晩の寝床と食事を与えてやってくれ・・・」
痛みに堪えながらフードの男が村長に告げた。

第6話 輪廻

村長「お前さんは、どうするんじゃ?」
不安そうに村長が聞いた。
フードの男「俺の事はどうでもいい…」
村長「じゃが…!!」
村長はフードの男の腕に奇妙な刺青があるのを発見し震え上がった。
村長「お前さん、マジュヌーンなのか?」
村長の態度が変わった。
マジュヌーン…それは、邪悪な魔術師によって永遠の命をもらったもの。 例え、体が腐っても生き続ける者である。
フードの男「…」
男は何も言わず、歩きはじめた。
フードの女の子「ジィオ!!」
フードの女の子が再び言葉を口にした。
村長「ジィオ…何処かで聞いたような…」
村長は必死に頭の中の靄をはらそうとしていた。
フードの男「ティア、明日また来る…」
フードの男は歩きながらフードの女の子に告げた。
フードの女の子「いやぁ、いかないで!!」

第7話 夢

ティアと呼ばれたフードの女の子は、フードの男にしがみついた。
ドサッ…
力なくフードの男は倒れた。

村長「マジュヌーンでも、痛みで気絶することもあるんじゃのう…」
村長がフードの男の肩を抱えながら言った。
村長は武芸に秀でた者なのだろう、両目を失っても平気で歩いている。 ティア「ジィオは人間だもん!!」
ティアが村長を咎めた。
村長「すまんかったのぅ…」
ジィオと呼ばれたフードの男は村長の家へ運ばれた。
村長「おぅい、ルミア!」
村長が叫ぶと、20前後の美しい女が現れた。
ルミア「お父様…その方たちは?」
村長「ちと、事件があってな…」
村長は、それ以上何も言わなかった。
ルミア「まず、その方の手当てをしなくては!」
村長の娘だからか、年の割には良く気が利く娘だ。
ルミアは手慣れた手つきでジィオを介抱した。

その頃、ジィオは夢を見ていた。
砂漠にそびえる巨大な影の前にジィオはいた。
ふと、隣を見るとスカートを巻いた修行僧が影に立ち向かっている。
修行僧は眩い光を放った。
閃光と共に意識が薄れていく。
ジィオ「こいつなのか?」
薄れゆく意識の中でジィオは呟いた。

第8話 業

ジィオが運ばれてから15分位たつたであろうか、 ティアはルミアがくれた砂糖水を飲んでいた。
村長「こんな砂漠で砂糖がが取れるのも、あの方のお陰じゃろうて・・・」
村長はティアの砂糖水を頬張る音を聞きながら顎鬚をなでた。
ルミア「あの方は今頃・・・」
!!
ルミアは言葉を無くした。
つい、先程まで重傷だったジィオが涼しげにベッドから体を起こしていたからだ。
ティア「ジィオ!!」
ティアはジィオの元へ駆け寄った。
村長「ほう、流石は早いのぅ・・・」
ルミア「お体は大丈夫ですか?」
ジィオ「あ、あぁ・・・」
村長「随分うなされていたの?」
ティア「悪い夢でも見たの?」
心配そうにティアがジィオの顔を覗いた。
ジィオ「村長、この村にスカートみたいな物をまとった男が来なかったか?」
村長「少し前に来なすったが、知り合いじゃったのか?」
ジィオ「いや・・・」
ティア「だぁれ、その人?」
ジィオに相手にされなかったのが辛いのか、ティアは仕切りにジィオに話し掛けた。
ティア「あ、そうだ! ジィオ!! これ飲んで!!」
ティアはルミアからもらった砂糖水を差し出した。
ジィオ「ありがとうティア・・・」
ジィオは一口、口に入れるとティアに砂糖水の器を返した。
ジィオ「これは・・・砂糖?」
村長「その砂糖は、お前さんが尋ねた男が作ったものだ」
村長「なんでも、砂漠に巣食うサソリの毒を日光に照らすと毒が消え砂糖になるそうじゃ」
ルミア「その方は、人買いに襲われ重傷の村人の傷も治したんです。」
ティア「すごい、すごい!!」
ジィオ「その男は何処に?」
村長「お前さん、その身体で追いかけるのか!?」
ルミア「まだ、お身体を休めていた方が・・・」
ティア「ジィオ、やすんでて!」
止めようとする三人に向かってジィオは血でにじんだ包帯を解いて、背中を見せた。
ルミア「まぁ、治ってる・・・」
村長「たいしたもんじゃのぅ・・・」
二人から感嘆の声が上がった。
ジィオ「その男に会ってくる、しばらくの間ティアを頼む」
ティア「あたしもいくもん!!」
ティアはジィオの服を引っ張りながらゴネた。
ジィオはティアの頭を撫でながら言った。
ジィオ「ティア、必ず帰ってくる・・・いいね?」
ティア「・・・」
ティアは半べそをかいてうつむいていた。
ティア「ジィオのバカッ!!」
ティアはそう言うと、隣の部屋に駆け込んだ。
村長「はよう帰って来いよ」
ルミア「ティアちゃんは責任を持ってお預かりします」
ジィオ「お願いします」
ジィオは軽く頭を下げると着替えを済ませ、村を出た。

第9回 影

村長「おうぅい!!」
村長がジィオの後を追いかけてきた。
村長「お前さん、この村にどうやって来たんじゃ?」
ジィオ「歩いて来た」
村長「うな事はわかっとるわい!」
ジィオ「じゃあ、何なんだ?」
村長「やっぱり、砂漠を歩く為の鎖を知らん様じゃの・・・」
ジィオ「鎖?」
村長「鎖も知らずによく来れたもんじゃ・・・」
村長「いいか、砂漠を渡るものは村と村を結ぶ鎖を伝って渡るんじゃ」
ジィオ「初めて聞いた」
村長「・・・」
村長は頼りなさそうにジィオを見つめる仕草をし、
村長「村の入り口の横に鉄の杭が刺さっている、その周りを探せばあるじゃろう」
ジィオ「すまない、スカートの男が村を出てどの位たったんだ?」
村長「お前さん達が来る、少し前だ」
ジィオ「ありがとう、ティアを頼む」
村長「あぁ、わかっとるよ」
ジィオは再び歩き出した。
村長「はよう帰って来いよ!!」
村長はジィオの背中を見つめていた。
村長「ジィオ・・・何処かで・・・」
村長は思いだそうとしていたが、一向に思い出せなかった。

第10話 砂漠

ジィオは村長のいう通りに村の入り口までいくと、既に風化で痛んでいる杭を見つけた。
鉄錆が混じった杭の周りの砂を探すと、村長の言ったとおり鎖が見つかった。
ジィオ「これか・・・」
ジィオは鎖を握り締めて呟いた。
鎖は太陽の直射日光を受け、かなりの熱を持っていた。
ジィオは腰にあらかじめ付けていた袋から包帯を取り出すと、拳に巻いた。
(これで、しばらくは大丈夫だろう)
ジィオは鎖を砂の中から引っ張り出すようにして、村の入り口を出発した。

その頃、ジィオが追っていることを知らないスカートの男は門の前にいた。
正確に言うと、門と戦っている。
普通の人間が見れば、男が門の前で飛び跳ねているようにしか見えないが
実際には、門によって作られた特殊な空間上で門の攻撃をよけているのである。
暗く、淀んだ空間で男は異形の門から出される炎を避けている。
ただの炎ではない、当たれば精神が焼かれるのである。
そして、精神を焼かれた人間の死骸は悠々と門に食われるのである。
人々は門の事を、ソウルイーター(魂を食べる者)と呼んだ。
おそらく、語源は精神を焼き死骸を食べる姿から来たのだろう。

まだ、ジィオは来ない・・・

第11話 戦い

絶える事の無いソウルイーターの攻撃にスカートの男は避ける事しかできなかった。
スカートの男「はぁ・・・はぁ・・・」
(もう少し、時間があれば!!)男は心の中で呟いた。
男は明らかに、何らかの呪文を唱えようとしている。
だが、ソウルイーターの執拗な攻撃の前では唱える暇が無い。
(このままでは、体力が持たない!)
男はそう考えるや否や、ダメージを承知で呪文を唱えはじめた。
スカートの男「生を司る女神、アジエンテの力を我が袂に・・・」
男の目の前には、ソウルイーターが放った炎が赤赤と迫っていた。
スカートの男「いける!!」
男は呪文を放った。
男の手の平に、何本もの光が集まり剣となった。
スカートの男「でぇぁぁぁぁっ!!」
男は一括と同時に炎を剣でかき消した。
続いて、男は力を振り絞りソウルイーターに目掛けて飛んだ。
スカートの男「滅びよ!!」
男は剣を振りかざした。
!!
スカートの男「何だと!!」
ソウルイーターは男が剣を振りかざすのを見計らって再び炎を出していた。
(ここで、死ぬのか・・・)
男がそう思った瞬間、男は何者かに突き飛ばされた。
突き飛ばした男「大丈夫か?」
スカートの男「あ、あぁ・・・」
間一髪のところをスカートの男は助けられた。
(なんだ、この懐かしさは・・・)
男は不思議な感覚に戸惑いを見せていた。

第12話 二人

スカートの男「おい、君は誰だ」
訝しげに、スカートの男が尋ねた。
突き飛ばした男「話している暇はないみたいだ」
突き飛ばした男はそう言うと走り出し、ソウルイーターの注意を自分に引き付けた。
(今なら、確実にいける)
スカートの男は別の呪文を唱えはじめた。
スカートの男「大地の化身マオよ、我が元に・・・」
スカートの男は素早く呪文を放った。
すると、スカートの男の周りの砂が宙に浮き人型を形作った。
スカートの男は自らの手に光を集めると、砂の人型はソウルイーターの方向に構えた。
スカートの男「いけぇ!!」
スカートの男は集めた光を砂の人型に放った。
シュゥゥゥゥゥッ!!
周囲の風を裂き、光が砂の人型に命中した。
ウゴゥゥゥッ!!
砂の人型が悲鳴にも似た叫び声と共に光によって加速する。
突き飛ばした男「もう、いいようだな・・・」
突き飛ばした男は素早くソウルイーターから離れた。
ウガァァァァッ!!
人間の悲鳴にも似た声でソウルイーターに砂の人型が命中した。
光によって加速された砂の固まりが当たった部分は根こそぎ取られていた。
ガアァ・・・アァ・・・
ソウルイーターの悲鳴が途絶えると死骸は崩れて塵と化した。
スカートの男「誰かは知らんが礼は言っておく、私の名はカシム」
突き飛ばした男「俺の名前はジィオ、アンタが村人を助けた男か?」
ジィオは名乗ると同時に質問した。
カシム「あぁ、それがどうかしたのか?」

第13話 思い出

ジィオ「俺の夢の中にアンタが出てきた、俺を知っているのか?」
カシムはしばらく考え込んだ。
カシム「ジィオっていったな、手を出してみろ・・・」
ジィオは少しためらったが、右手をだした。
カシムはジィオの右手を両手で軽く掴むと目を閉じた。
ジィオ「・・・」
数分間だろうか、周りは静寂に包まれた。
そして、カシムが目を再び開けた。
カシム「なるほど・・・」
カシムは難しい顔をして、ジィオを見つめた。
ジィオ「なんだ?」
ジィオはカシムの両手を振り払い、カシムに問いただした。
カシム「・・・」 カシムは再び考え込んだ。
カシム「普通は誰の記憶でも読む事ができる・・・」
ジィオ「俺の、俺の記憶を読んだのか?」
ジィオは驚きを隠さなかった。
ジィオが旅を始めたきっかけは、自らの記憶を取り戻す事である。
そして、記憶を失ったジィオが発見された時
記憶のないジィオの側に居たというティアの家族を見つける事。
なんで、早くこの男に会わなかったのかとジィオは後悔した。
もう2年の間、ティアと旅を続けている。
ティアは俺の事を家族の様に思ってくれている。
しかし、カシムは分からないという・・・
カシム「記憶に何らかの封印が施されているのかもしれない」
カシムはジィオに不思議な懐かしさを感じた事を思い出した。
(俺が、単に忘れているだけなのか?)
辺りは、徐々に夕闇に包まれてきていた。

第14話 帰り道

カシム「どうやら、日が落ちてきたようだ」
カシムはジィオと違い、夜の砂漠の恐怖を知っている。
砂漠は温度差が非常に激しい、ジィオのように2・3日砂漠を歩いた位ではわからない。
確実に人間の体温調節機能により、刻一刻と体力は失っているのだ。
ジィオ「もう1度、記憶を読んでくれないか?」
ジィオはすがる思いでカシムに頼んだ。
(今、ここで取り戻さなくては!!)
ジィオは、焦っていた。
何が自分を焦らすのかがわからない。
カシム「まぁ、そう焦るな・・・明日がある」
ジィオはカシムに諭されると、しぶしぶ同意した。

ジィオとカシムは共にサンタナーレスへの鎖を手にとり、歩きはじめた。

第15話 夕闇

カチャン、カチャン・・・
辺りが夕闇に染まっていく中、ジィオとカシムはサンタナーレスへの鎖を辿っていた。
太陽は徐々に濃い赤へと変わっていく。
ジィオ「カシム、アンタは砂漠を越えて何処に行こうとしてたんだ?」
ふと、ジィオがカシムに話し掛けた。
カシム「サンタナーレスの子供達を取り戻しに・・・」
カシムは少し間を取ってから答えた。
ジィオ「・・・」
ジィオはカシムの表情を見て察した。
(話題を変えなくては!) ジィオ「アンタの術、なんていうんだ?」
カシム「神の力、と人は言う」
ジィオ「なんでだ?」
カシムは立ち止まり、右手をジィオに突き出した。
カシム「触ってみろ」
カシムが真顔で言った。
ジィオは不思議に思ったが、左手で握手をするようにカシムの右手に触った。
ジィオの右手に突き刺さるような冷気が伝わった。
ジィオ「痛!!」
ジィオは突然の痛みに手を外した。
カシム「俺は、手から冷気を出せる。」
ジィオはわけがわからなかった。
それがカシムの術と、どう関わるのか?

第16話 神の力

カシム「訳が分からない顔をしているな・・・」
先程の質問の後のせいか、元気なさそうにカシムがジィオに語り掛けた。
ジィオ「手から冷気を出せると、どうなんだ?」
真剣に考えているジィオを見てカシムが説明を続けた。
カシム「いいか、俺の手からは空気を氷にする位の冷気が出る。」
ジィオはカシムの説明に、腕組みをして耳を傾ける。
カシム「その冷気で空気を氷の粒にして、光を集める事ができる。」
ジィオ「なるほど、光の剣はそうやって作っていたのか!」
ジィオはカシムの説明に納得したようだ。
カシム「光の剣を砂にぶつければ、砂は光の速さで敵に当たる。」
カシムは再び鎖を握り締め歩きはじめた。
ジィオも続くように鎖を握り締めた。
ジィオ「なんで、手から冷気を出せるんだ?」
ジィオがもっともな質問をした。
カシム「何故かは知らんが、俺の家族は皆できる。」
カシムはあっさりと答えた。

第17話 生きる屍

夜に近づくにつれ、辺りは一層暗くなっていく。
相変わらず二人は鎖を引いていた。
視界が徐々に狭まっていくに連れ、不安がよぎる。
しかし、昼間の暑さが嘘のように涼しい。
カシム「見ろ、明かりだ」
カシムは両手が塞がっているため顎を使って明かりの方向をジィオに教える。
ジィオ「あぁ、本当だ」
ジィオは元気なく答えた。
(ティアに合わせる顔がないな・・・)
村につく頃には日はとっくに消え、村人たちが眠りにつく時間帯だった。
村は何処の家にも明かりが点いている。
きっと、子供が心配で眠れないのだろう。
カシム「仕方ない、今日は村長の家にでも泊めてもらおう」
ジィオ「そうだな」
二人は村長の家の玄関へ向かった。
コンコン・・・
カシムがドアを叩いた。
「はい・・・」
ジィオ「この声は・・・」
聞き覚えのある声にジィオが反応した。
ガチャ、
ルミアが恐る恐るドアを開けた。
ここにも村が襲われた後遺症が残っていた。
ルミア「お二人とも、ご無事で!」
ルミアの瞼には、うっすらと光る物があった。
おそらく、帰りが遅いので心配してくれていたのだろう。
カシム「一晩の宿を頼みたいのだが、」
カシムが丁寧な口調でルミアに告げた。
ルミア「村人の怪我を治して下さった方を泊めないわけにはいきませんわ」
ルミアはそう言うと、二人を中へ招き入れた。

第18話 巡り会い

ジィオとカシムは大きいテーブルのある居間に座っていた。
ルミア「何もありませんけど・・・」
しばらくすると、何も言っていないのにルミアが食事を持ってきた。
実に良く気が利く娘である。
二人が素早く食事を平らげると同時に村長が現れた。
村長「よく帰ってきてくれたのぅ・・・」
村長は二人の正面に座った。
急にカシムの顔が険しくなった。
カシム「村長・・・」
ジィオもカシムが何を言うのか分かっているだけに辛い表情をしていた。
村長「わかっとる、何も言うな・・・」
村長は初めから覚悟していたらしい、光を失った両目から涙がこぼれた。
村長「わしらでは未来ある子供達の命をどうする事もできんかった・・・」
村長「遅かれ早かれ、人買いに捕まった子供の運命は・・・」
奴隷・生け贄・性倒錯者の愛玩具・子供のできない貴族の養子、
いづれの道も生きては帰れない道である。
カシム「すまない・・・」
ジィオ「・・・」
暗く重い沈黙がしばらくの間続いた。

第19話 記憶を求めて

ルミア「お父様、お二人とも疲れていらっしゃるから・・・」
ルミアがジィオ達の事を考え、村長に話し掛けた。
村長「うむ、そうじゃのぅ・・・」
村長は立ち上がると、ドアの所まで行った。
村長「すまんかった、ゆっくり休んでってくれ・・・」
力無しに村長はジィオ達に告げ、部屋を出た。
ルミア「部屋へご案内します」
ルミアはジィオたちを使われていない部屋へ案内した。
しばらく使われていなかったのか、部屋の空気は少々淀んでいた。
ベッドがひとつ、床に毛布が置いてあった。
小さな窓が正面にあり、月の光が差し込んでいる。
ルミア「別々の部屋にしたかったんですけど・・・」
ルミアが気の毒そうに告げた。
カシム「いや、そこまで気を使わなくてもいいよ」
カシムはすまなさそうに返事をした。
二人が部屋に入るのを見届けると、
ルミアが部屋の入り口からジィオに話し掛けた。
ルミア「ジィオさん、ティアちゃんの様子を見ます?」
ジィオ「あぁ・・・」
ジィオは荷物を足元に置くと、ルミアと共にティアが眠る部屋に向かった。
ティアはルミアの部屋で寝ていた。
ルミアの部屋はベッドがひとつあり、机と椅子が一組とタンスだけの比較的質素な作りだった。
ルミア「ティアちゃん、ジィオさんが帰ってくる少し前まで起きてたんですよ」
ルミアがティアの横に座り、髪を撫でながら言った。
ジィオ「ずいぶん、迷惑をかけたな・・・」
ジィオはティアを挟んでルミアの反対側に座った。
ルミア「いいえ、とんでもない・・・」
ルミア「じっと、ジィオさんを待っていたんですよ」
ルミアが優しくジィオを見つめた。
ルミア「ティアちゃん、心からジィオさんを信頼していますね」
ジィオ「そうでもないさ・・・」
ジィオは軽く否定をした。
ルミア「明日・・・どうするんです?」
ルミアがためらいがちにジィオに尋ねた。
ジィオ「カシムはどうだかしらんが、俺はティアと一緒にここを出るだろう・・・」
ジィオは軽く顔を下げた。

第20話 新たなる旅立ち

ルミア「寂しく・・・なりますね・・・」
ルミアがティアの寝顔を見つめた。
ルミア「これから、どうなさるんですか?」
ルミアは無理に明るく装っている。
たった、半日でもルミアはジィオとティアをかけがいのない友人として見てくれていた。
ジィオにはルミアの気持ちが限りなく重く感じ取れた。
ジィオ「俺達は西にあるペシャワールの都に行く予定だ・・・」
(なぜだ、以前にも会ったような・・・)
ジィオは村長とルミアにも以前出会ったような感覚があった。
ルミア「そうですか・・・また、あえるといいですね」
ルミアがジィオに笑顔を見せた。
どことなく寂しげな感じがするが、どこか懐かしい。
ジィオ「あぁ・・・」
ジィオも苦手ではあるが、笑顔を見せた。
ルミア「じゃ、もう遅いんで私は寝ますね」
ルミアが話を畳み掛けた。
ジィオ「そう、だな・・・」
ジィオも同意した。
ジィオはティアの頬を撫でると立ち上がり、ルミアと共に部屋を出た。
ジィオが部屋に帰ると、カシムはもう寝ていた。
ジィオ「さて、寝るか・・・」
ジィオは毛布を巻いて床に転がった。

第21話 再び砂漠へ

東の空が徐々に明るくなり、地平線に沿って光の筋が延びた。
やがて、光の筋の中央が膨らみ太陽が姿を見せた。
小さい村ではあるが、点々とした村の家々の煙突から煙が昇る。
サンタナーレスの村に朝がやってきた。
トントントントン・・・
ジィオ「う、うぅ・・・」
ジィオはルミアが朝食を準備する音で目を覚ました。
隣を見ると、カシムが地図を睨み付けていた。
ジィオが起きたことに気がついていたのか、カシムがジィオに話し掛けた。
カシム「ジィオ、ここを出て何処に行くんだ?」
体を起こし、毛布を畳みながらジィオが答える。
ジィオ「西の都、ペシャワールに行こうと思う・・・」
カシムが驚いた。
カシム「俺と一緒だな」
毛布を畳み終えたジィオが立ち上がった。
ジィオ「じゃあ、一緒に行かないか?」
カシムは地図をしまった。
カシム「それもいいだろう」
二人は部屋を出て台所へ向かった。
ルミア「おはようございます」
二人が部屋をでてすぐ、廊下でルミアに会った。
カシム「・・・いい匂いだ」
廊下はルミアが作った朝食の匂いが立ち込めている。
ルミア「食事の準備が出来たので、お呼びしようと思っていたんです」
ルミアが笑顔で答えた。
ルミア「ティアちゃん起こしに行ってきますね」
ジィオ「じゃあ、先に向こうで待ってる」
ジィオとカシムの二人は朝食のある大きなテーブルの部屋に向かった。

第22話 ティアとの再会

ジィオとカシムは昨日 食事をした部屋に入った。
目の前の大きなテーブルには、小麦粉と水と少々の塩で作られたパン、澄んだ水、
ラクダの肉と数種類の野菜を煮込んだスープがジィオ達を含め、人数分用意されていた。
水は簡単にゴミを取り除いた薄く濁った水を飲むのだが、
この村では 一度ナベに入れて蒸留した物を飲むらしい。
村長「おはようさん」
村長は既にテーブルの正面に座っていた。
ジィオ達も習うようにしてテーブルの側に座った。
ティア「あ!ジィオ!!」
ジィオが振り向くとルミアの古着を着たティアが目を潤ませていた。
ジィオ「遅くなったな・・・」
ジィオが一通りティアに詫びを告げるとティアは無言で抱き付いてきた。
ティア「ずっと・・・待ってたんだからね・・・」
ティアはジィオの服の裾をきつく握り締めた。
ジィオ「悪かった・・・」
ジィオは自分の胸で泣いているティアの後ろ髪を優しく撫でた。
ルミア「良かったわね、ティアちゃん・・・」
部屋の入り口の側に立っているルミアが喜んでいた。

第23話 朝食

ジィオ「ほら、顔を上げて・・・」
ジィオはティアの両肩に手をつけた。
ティア「・・・」
ティアは涙で顔一面を濡らしていた。
ジィオ「かわいい顔が台無しだな・・・」
そういうと、ジィオは自分の手ぬぐいでティアの顔を優しく拭った。
ティア「う・・・うぅん・・・」
ティアがジィオに顔を拭かれながらうめいた。
村長「まるで親子じゃな・・・」
ルミア「本当に・・・」
カシム「・・・」
3人は、ジィオとティアを見つめて感嘆した。
ティア「おなかへったぁ・・・」
顔を拭い終わったティアがジィオを見つめて呟いた。
村長「はっはっはっ、そろそろ食べようかの」
ルミア「そうですね」
ルミアはスープを器に移し、村長はパンを配り始めた。

第24話 涙を忘れて

村長「そろそろ食べるかの」
ルミア「さぁ、どうぞ」
村長とルミアが食事を促した。
ティア「やったぁ!!」
ティアが自分の皿に置かれたスプーンを取り、スープをすくい上げた。
そのまま、口元に運び満面の笑みを浮かべた。
ティア「おいしい!!」
その一言でルミアの料理の腕が良いことを連想させる。
カシム「ぅん、うまい!!」
カシムもルミアのスープに舌鼓を打った。
ジィオ「確かに・・・」
ジィオも自分のスープを飲む速さに驚いた。
(これも料理の腕なのか・・・)
ジィオは既に器に注がれたスープの半分を飲み干していた。

第25話 話題

カシム「このパンもなかなかいける・・・」
カシムがパンを手でちぎりながら食べている。
ティア「おいしいね、ジィオ!」
ティアはパンにかじり付いていた。
ルミアはおいしそうに食べるジィオ達を見て嬉しそうだ。
ルミア「まだ、お代わりありますから・・・」
そういうと、台所へ余ったスープとパンを取りに行った。
村長「あ、そうじゃ」
村長がスプーンを置いた。
村長「食事の前に祈る民族がいる・・・と、聞いたが本当なのか?」
村長がジィオに話し掛けた。
ジィオ「あぁ、そういう人間もいる」
ジィオがパンをちぎりながら答えた。
村長「何に祈るんじゃ?」
村長がもっともな質問をした。
カシム「自分達を作った[神様]に祈るんだ」
カシムが話に加わってきた。

第26話 神とは

村長「見たことも無い者に祈るなんてのぅ・・・」
村長は不思議そうに呟いた。
カシム「自分たちで作り上げた[神]によって、秩序が保たれているんだ」
カシムが食事を中断して力説した。
ジィオ「神か・・・」
ジィオは、ある男の事を思い出していた。
神に選ばれた男、理想の名の下に殺戮と混沌を背負った男。
村長「おい、どうしたんじゃ?」
村長が顔をジィオへ向けた。
ジィオ「なんでもない・・・」
ジィオは口を徐に閉ざした。
ティア「もう、おなかいっぱい!!」
どうやら、ティアが食事を終えたようだ。
村長「さて、わしも終わるかの・・・」
カシム「ルミアさんおかわりもらえますか?」
ジィオ「俺も・・・」
ルミア「はい!」
ルミアは笑顔で器にスープを移した。

第27話 第1部最終話

カシム「ふぅ・・・」
カシムは2度目のお代わりで満足していた。
ジィオ「・・・」
ジィオはまだ食べれる様子を見せている。
ルミア「お代わり、します?」
ルミアは自分の料理の売れ行きが嬉しいらしく
しきりに、二人に尋ねていた。
ジィオ「もう、食えない・・・」
ジィオはルミアの誘いを優しく断った。
(不思議だ・・・いくらでも食える気がする・・・)
ジィオは余り食べては悪いと思い、断ったのだ。
村長「おぬしら、いつ旅立つのじゃ?」
村長が尋ねた。
カシム「うーん、そろそろ行くか?」
カシムがジィオに尋ねる。
ティア「えぇ、もう出発するの?」
ティアがゴネだした。
ジィオ「しかたない・・・いくか・・・」
ジィオはティアの宥めながら決心した。
村長「そうか・・・」
ルミア「寂しく・・・なりますね・・・」
二人ともジィオ達と別れるのが辛いようだ。
カシム「なぁに、また会えるさ」
カシムも無理にを明るくしようとしている。
ジィオ「ティア、いいね?」
ジィオがティアに優しく問い掛けた。
ティア「うん・・・」
どうやら、ティアも納得したようだ。
カシム「さて、行くか!」
カシムが勢い良く玄関のドアを開けた。
ジィオ「随分、世話になったな・・・」
ジィオが礼を村長とルミアに告げた。
ティア「また来るね!!」
ティアも笑顔で別れを告げた。
村長「あぁ、また来いよ・・・」
ルミア「さようなら・・・」
二人も笑顔で別れを告げた。
ジィオ達は時折、後ろを振り返りながら村長の家を出た。

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