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―――2001年4月 僕は晴れて「名門学園」という新設校に入学した。 断っておくが「めいもん」ではなく「なかど」と読む。お間違えの無いように。 この学校を選んだのは単純に家から近いというだけの理由だった。 まぁ、新設校でうっとおしい先輩がいないというのも魅力的だったのは確かだが・・・ 反面、素敵な異性の先輩がいないのは残念ではある。 新入生のクラス分けの表がホールに張り出されている。 それを見てゾロゾロと生徒が教室に向かって歩いていく。 其の流れに乗って僕も教室に向かった。 割り振られたクラスの教室で周りを見回したが学業レベルの低い印象が強い。 有名進学校も楽勝で合格出来る学力を有する僕には事勉強に関しては気楽な高校生活が待っているようだ。 暫くすると担任の教師が入ってきてざわついた教室が静かになった。 「はい、注目!わたしがこのクラスの担任の石部です。一年間よろしく。」 担任が簡単に挨拶をすると入学式の会場である講堂に移動することとなった。 どうでもいいような長ったらしい話をチビで小太り、おまけにハゲのヒゲを生やしたタヌキのような校長がするという退屈極まり無い入学式を終えて再び教室に戻った。 全員が席に着き、担任がプリントを配って明日からの説明をした。 それが終わるとお決まりの自己紹介だった。 前列右端から順番に自己紹介をして行く。 僕の番になった。 「佐々木弘です。よろしく。」 それだけ言って僕は席に着いた。 担任が 「はい、もうちょっと何か言うことがあるだろう?趣味とか特技とか、佐々木君もう一度やり直し!」 などと駄目出しをしてきた。 仕方なく僕はもう一度立ち上がる。 「趣味は…… バイクです。小さい頃からレースに出ています。」 ぶっきらぼうにそう言って僕は着席した。 後ろの席の奴が続いて自己紹介をした。 「柴田昌彦です……」 各人の名前さえ把握すれば問題ないので後の部分は適当に聞き流す。 後はスムーズに最後までまわると担任が満足げに頷く。 「はい、注目!これから一年間このメンバーでやっていく訳だ。みんな仲良くやっていこう。」 妙ににこやかに担任はそう言うと 「はい、今日はここまで!はい、起立!!」 と号令をかけた。 一斉に全員が立ち上がる。 「はい、礼!!」 生徒と担任が頭を下げあう。 「はい、じゃあまた明日!」 そう言うと担任は教室を出ていった。 ―――次の日 僕が教室に入ると自分の席に知らない奴が座っていた。 一瞬教室を間違えたのかとも思ったが、周りの席にいるのは昨日と同じ顔ぶれだった。 「そこは僕の席なんだけど……」 そう声を掛けるとそいつはこちらを見た。 「え?そうだっけか?」 少し驚いた様子でそう言うとそいつは後ろの席にいる柴田という生徒に一つずれるように言った。 柴田は首を傾げつつも言われるままに一つずれた。 「おい、ちょっと待てよ。お前はこのクラスじゃないだろう?」 僕がそう言うとそいつだけでなく周りの連中までもが目を剥いた。 「おいおい、佐々木君。昨日始めて会ったからってそりゃあ無いんじゃないか?」 「佐藤君が可哀相だろ?」 「しっかりしてくれよ佐々木君。」 などと口々に彼らが僕を非難した。 「何を言ってるんだよ。昨日はこんな奴居なかったじゃないか!」 僕が反論すると連中は一層驚いた様子で 「君こそ何を言ってるんだ!佐藤君は昨日も居たじゃないか!!」 「あんまり酷いことを言うものじゃないぜ!!」 等と言う有り様であった。 しかし、確かに昨日は佐藤という人物は居なかった。 「でも……」 再び反論しようとした時、当の佐藤が口を開いた。 「いいよいいよ、良くあるんだ。俺って印象に残り難いらしくてさ、こういうの慣れてるんだよね。」 そう言うと佐藤はニヒヒと笑った。 言われてみればなるほど彼の容姿は特徴が無い。 本当に印象が薄いのである。 今見ているのに少し視線を外すともう思い出すことが出来ないのだ。 だが、僕の勘違いなんかでは決してないと断言出来る。 昨日、彼は居なかった。僕のすぐ後ろは柴田だった。 そう言おうとした時、担任の石部先生が教室に入ってきた。 担任がきたのならすぐに僕が正しいことが解るだろう。 そう思って僕は黙って席に着いた。 「はい、朝のHRを始めるぞ!全員席に着いて!!」 担任の言葉に慌てて全員が席に着く。 いや、着こうとした。 しかし、一人だけ座る席が無かった。 そう、僕の列の後部で席が一つ足りないのだ。 考えてみれば当たり前である。 佐藤なるイレギュラーが紛れ込んだのだ。その分誰かが割りを喰う事になる。 「はい、そこ!どうした!?」 担任がそう尋ねても 「席が一つ足り無いんです。」 不安そうにそう答えるしかない。 僕は改めて確信した。やはり昨日はこのクラスに佐藤なんて存在しなかったのだ。 「何故席が足り無いんだぁ?」 驚いたことに担任はその理由が解らないらしい。 教室はザワザワと騒がしくなる。 「先生!」 我慢できずに僕は担任に声を掛けた。 「何だ?佐々木は心当たりがあるのか?」 「はい、彼が原因だと思います!」 立ち上がるとすぐ後ろの席にいる佐藤を指し示した。 担任が怪訝な表情を浮かべて佐藤を見つめる。 ほら、やっぱり担任なら解るはずだと思ったんだ。きっと佐藤にお前は誰だと尋ねるに違いない。 しかし、担任の反応は僕の予想を裏切るものだった。 「おい、佐藤。佐々木はああ言ってるが席が足りないのはお前の仕業なのか?」 担任は佐藤の存在をいぶかしむ事無くそう尋ねた。 そんな馬鹿な…… 僕が内心そう考えた時、もっと驚く言葉が佐藤から発せられた。 「ああ、そうかぁ!イヤだなぁヒロちゃん。目立たない僕のために幼なじみとしてこんな事までしてくれたんだね?」 佐藤がそう言った途端教室に居る全員の視線が僕に集中した。 ちょっと待て、今佐藤は何て言った?幼なじみ?僕がやった?どういう事だ? 軽い混乱を来した僕に担任が尋ねる。 「佐々木、そうなのか?お前がやったのか?」 「え?いや、違う。違います!僕は知りません!第一僕はこいつと幼なじみなんかじゃありませんよ!」 そう答える僕に佐藤が 「そんなぁ…… ヒロちゃんそんなに力一杯否定しなくても良いじゃないかぁ〜」 と何処から出したのか赤いハンカチをくわえながらご丁寧に涙を流してそう言った。 その後も聞き取れない位の小声で恨めしそうにブツブツと呟いている。 「おいおい、しっかりしろよ佐々木。お前たちは幼なじみだと昨日の自己紹介でお前が言ったんじゃないか。」 呆れたように突拍子もないことを担任が言った。 僕が?いや、昨日の自己紹介でそんなことは言ってない! おかしい、どうしてなんだ?一体どうなってるんだ!? 完全に混乱した僕はフラフラと歩き出した。 「おい!佐々木!?」 担任の声を背後に聞きながら廊下に出た僕は何かにぶつかって我に返った。 「こ、これは!?」 なんとそこには机と椅子が一組あったのである。 「おお、これを取りにきたのか。ということは、やっぱり佐々木が佐藤のためにやったんだな。」 後を追いかけてきた担任がそんなことを言った。 もし、僕がこれをここに置いたのなら先程教室に来たときに担任が見ているはずだがそんなことは気にしてはいないようだ。 「幼なじみを思ってのことだし今回は大目に見ておくから、後で迷惑をかけた早田に謝っておけよ。」 ポンと僕の肩に手を置いて担任がそう言う。 いつの間にか側に来ていた早田が 「いや、もういいよ。気にすんなよな、佐々木君。」 などと言って微笑んだ。 反論する元気もなくうな垂れて僕は教室に戻った。 その後、何事も無かったかのようにHRが行われ、続いて授業も始まった。 一限目は担任が担当する教科の授業だったので仕方が無いにしても二限目以降も佐藤が居ることに対しどの教師も何も疑問を持たないのには閉口した。 そんなこんなで授業初日はどっと疲れて寄り道する気力すらなく家に帰った。 なんとか家に帰り着き、疲れ切った身体を休めようと自分の部屋のドアを開けた瞬間僕は固まってしまった。 何故ならば、そこには『あの』佐藤が居たからである。 「あ、ヒロちゃんおかえり〜」 にこやかに佐藤はそう言うと手にした湯呑みを口に運びズズズズと茶を啜った。 |