
「だから、ごめんって」
「・・・」
「私もねー、いきなりお相手の人が逃げるなんて思ってなかったのよ」
「お父さんからも、頼むよ。本当に困ってるらしくてね、先方も」
だからって、だからって。
「・・・実の娘を、代理に使うっ?!」
私のお母さんは、世話好き。
と言えば聞こえはいいけど、けっこういろんな人のお見合いとかを
まとめたりして、そういうのが好きらしい。
お見合い自体を悪いと思ってるわけじゃないけど、私は興味がわかないだけ。
だから、くれぐれも自分の娘にはもってこないでよ?
って、念を押しといたのに。
今回のお見合いは、お父さんの上司の娘さんと、誰か知らないけど相手の人という組み合わせで、
滅多にない良縁(っていつもこういうんだろうけど、どうせ)というわけで
二人ともはりきってた。
上司の娘さん、美人だったし。相手の顔は知らないけど、まあがんばってねって
ひとごとみたいに思ってた。
いや、実際、ひとごとだったんだけどね。
・・・そのお嬢さんに実は恋人がいて、でも隠してたからやっぱりお見合いは
無理ですって、手紙残して行方不明になるまでは・・・
そんなんなら、最初からお見合い断っててくれればよかったのにー!!
でも、何を言おうと、お見合いは明日。
というわけで。
・・・急遽代理が、ほけほけと寝転がりながら
お気に入りの本を読んでいた、この私、となったらしい・・・(涙)
昨日の回想、終了。
ということで、私は今着物なんて着ながら、
脇を両親に固められ、向かいの三白眼のかっこいいお兄さんと対峙している。
「・・・というわけで燎一さんは、ドイツ留学から・・・」
「こちらのさんも、大学では優秀な成績を・・・」
付添いの人たちが、勝手に話を進めてくれるから楽といえば楽、なんだけど。
・・・退屈かも。
お母さん、あんまり私の食欲見せるなっていうから、目の前のお菓子も
食べられないし。
う〜、地獄だよー(涙)。お腹すいたよー。
紹介の言葉は適当に流しておいて、じいっとお菓子を見つめる。
・・・ふと、目をあげると。
目の前の、燎一さんとやらと、目があって。
ふと、目をそらされた。
・・・・み、みられてた?私。
まさか、気のせいだよね。
だってこの人、お見合いにぜーんぜん乗り気そうじゃないもん。きっとつきあいなんだろうなあ。
よかったー、あんまり結婚する気まんまんの人がきたら、困っちゃってたから。
えっと、確か、フルネームは、天城燎一さん、だったっけ。
まあ、素敵なお名前。
ふむ。
よーく見ると、端正だし、真面目そうだし。
私、三白眼大好きだし。
根性ありそうな顔してるし。
これは、ラッキーかも。
せっかく代理お見合いなんてものにきたんだから、友達くらい、作って帰ってもいいよね?
にしても、無愛想な感じの人だなあ。それもまたよし。
確かに、つきあいお見合いなんて退屈なだけだもんね。
はやく私もそうだって言って、安心させたげなきゃ!
と、私が決心したその直後。
お母さんが楽しそうに、お決まりの台詞を言った。
「それじゃあ、後は若い人たちだけでお話していただいたほうが
よろしいんじゃないかしら?」
「そうですね、それでは」
あ、今、初めてこの人の声を聞いた。
低めの、少し掠れた声。
予想通りというか、なんというか。
えへへ、おしゃべりしてみるのが楽しみだな♪
そうだよねー、友達作りと思えば緊張もしないし。
なんだか、だんだん楽しくなってきたかも!
「・・・あの、さん」
「はい!」
・・・しまった。いつも通りの返事をしてしまった。
燎一さんの目がまんまる。
うっ・・・大人の女性を演じる予定が・・・(笑)
昨日一日の特訓じゃ、まあ、付け焼き刃だよね。しょうがないわ。
「その・・・これから、どうしますか」
エレベーターの前に着いた時、
どうにもぶっきらぼうに、天城さんが話しかけてきた。
「どうですね、まずは・・・お茶に、しません?」
「お茶、ですか?」
「はい!なんだか私、お腹すいちゃって。
説明してる人の目の前でお菓子食べるわけにもいかないし、困ってたんです」
「・・・やっぱり、あの視線は」
気がついてたのね、天城さん(笑)。
「え、ええまあ。目の前にあるのに食べれないなんて、もったいないって視線だったんです」
「・・・ははっ!」
あ。
ぜーったい、笑顔なんて見れないと思ってたのに。
・・・笑ってる・・・
そうしてエレベーターに乗る。
はじめての、ふたりきり。
隣に立つと、すごい身長差なんだもん。
・・・ちょっと、緊張。
「やっぱり」
今度は、私の番。
「やっぱり、何ですか?」
「やっぱり、緊張なさってたんですね」
「え?」
「今の笑顔。さっきのこわーい顔とは全然違うんですもん。
ひょっとして天城さん、女性と話したりするの、苦手だったりします?」
「・・・どうして、それを?」
「いや、何となくなんですけど」
「・・・大抵、第一印象が怖いと言われるんですが」
「うーん、怖いというよりは、緊張していらっしゃるという印象ですねえ」
しまった。初対面の人に、ぶしつけすぎたかな?
・・・よかった。天城さん、少しだけまた笑ってる。
「その・・・怖がらないでいただけると助かります。
それじゃ、行きますか?」
「はい!」
エレベーターのドアが、開いた。
「すみません、ミルクティーと・・・えっと、ミルフィーユに、それから」
「いいですよ、たくさん頼んで」
「そんな、いいんですかー?」
ああ、遠慮もなにもない私・・・(笑)
天城さんはやっぱり渋くコーヒー。それはそうよね。
と思ったら、しっかりシブーストを注文。意外!
とりあえず注文を終えて。
ひと呼吸おくと、私は口を開いた。
「あの、天城さん」
「・・・燎一」
「え?」
「燎一、でいいです。俺だけさん、って呼ぶのも、なんだか不公平な気がするから」
「そうですか?」
うわー。
滅多に男の人を、名前で呼んだことなんてないからなあ。
・・・緊張、しちゃうかも。
「じゃあ、燎一さん」
「そうして下さい」
「ひょっとしてこのお見合い、つきあいでいらっしゃったんじゃないですか?」
「・・・さんは、何でもお見通しなんですね」
「いえ、私もですから」
「え?」
「実は、内緒にしろって言われてたんですけど、フェアじゃないから言いますね。
私、このお見合い、代理で来たんです。
本当に来るはずだった人は、好きな人と逃避行中です」
「・・・そうだったんですか」
「だから急遽、部下の私の父のところに話がきて、私が代わりにいくことに
なったんです。すみません」
「謝らなくていいですよ」
「いえ。でも、実際にお見合いの席に来てみて、
なんだか燎一さんもそんなに乗り気じゃないように見えたから、
思い切って本当の事を言ってみようって思って」
「さん」
「だから、もうどーんと!遠慮なく断ってやってください!
あ、でも。お見合いは断っていただいても大丈夫なんですが、
せっかくお会いできたんだし。
この機会に、お友達になれたらいいなー、なんて都合のいいこと考えてるんですけど、
どうでしょう?」
だって、さっきからなんだかそわそわしてるんだもん。この事が心配に違いないわ。
「・・それは」
「お待たせしました」
「あ、ケーキがきたー!燎一さん、さ、食べましょう♪」
「は、はい・・・」
「わー、おいしい!!ここのケーキ、一回食べてみたかったんです」
「・・・そうですね。とてもおいしそうだ」
なんだか、また笑ってくれてる?
きの、せいよね。
私の食べる姿を見ていた燎一さんも、ケーキに手をつけはじめた。
ふふ。
おっきな燎一さんが、小さめのケーキと格闘している姿は、
なんだかとってもほほ笑ましい。
あれ?
ぬいだ上着から、なにか落ちた。
「落としましたよ、燎一さん」
「す、すまない!」
慌てる燎一さん。これは興味のあるところだわ。
えっと。
サッカーの試合の、チケット?
日時は今日の夕方。って後3時間後じゃない!
「燎一さん、これって今日じゃないですか!」
「はい」
「だからなんだかそわそわしてらっしゃったんですね。
だったらこんな所でお見合いしてる暇、ないじゃないですか。
早く終わらせちゃいましょう!」
レシートをとって歩き出す。
と、上着を持ってついてきた燎一さんが、私の手から
レシートを取ると、そのまま無言でレジへと歩いていってしまった。
「燎一さん、私も払います」
「いえ、俺に払わせて下さい」
待ちあわせの部屋へと戻るエレベーターの前で、燎一さんは
少しだけ微笑みながら、断りをいれる。
「うーん。私、普段割り勘で生活してるから、こういうの慣れなくて・・・
本当に、すみません。
それから、ありがとうございます!」
「・・・いえ。俺のほうこそ、さんがおいしそうに食べる姿を見られて
嬉しかったですから」
「・・・え?」
いま。
三白眼のひとがはにかむ姿を、初めてみた・・・!!
っていうか、かっこいいよ。
だって、すっごく心臓どきどきいってるもん。
「このチケットのことは、気にしないで下さい。
だから・・・もう少しだけ、一緒にお話してもらえませんか」
!
燎一さん。
身長が私よりすっごく大きくて、しっかりしてそうなのに。
ごめんなさい。
今、あなたを。
少しだけうつむいて、でも、頬が赤くなってるのが見えてるあなたを。
・・・とっても可愛らしいと、思ってしまいました。
「はい、喜んで」
「そうか・・・よかった。あ、それと」
エレベーターホールから反対方向に向かって歩き出した
燎一さんが、ふと振り向いて、笑った。
「何でしょう?」
「先ほどの申し出ですが、慎んで辞退します」
「・・・え?」
友達っていうの・・・やっぱり、だめだった・・・?
でも、だったらどうして、もう少しお話を、何て言うの。
「俺は、友達では嫌だ。でもお見合いは、断ります。
・・・・セッティングされたお見合いの返事ではなく、俺自身の意志として、
さんとのおつきあいを、申し込みたいから」
「・・・!」
「お返事、いただけますか?」
まっすぐに私を捉える瞳。
考える暇もなく、瞬時にうなずいていた私。
「・・・有り難う。・・・それじゃ、行こうか?」
繋いだ手のあったかさに気がつくのは、もうすぐ。