リニアモーターカー見学に
行ってきました (その1)




1. 初めに

 皆さんは「リニアモーターカー」ってご存知ですよね。未来の鉄道としてJRらが現在実験を繰り返している浮上列車のことです。最近、「鉄道における世界最高速度550 kmを達成」などといったニュースが報道されていましたので、この列車の走行実験が着々と進行しているのは結構知れ渡っているのではないでしょうか? 

 「磁石の力で浮上する夢の超特急」と聞けば、鉄道通でなくとも興味が湧いてくるかと思います。実はこのほど、私は研究室(超伝導が専門)の関係で、山梨にあるリニアの実験線を間近で見学することができましたので、今回のコラムではこの見学ツアーのレポートをしようかと思います。久々に童心に帰り、興奮して思わずデジカメで写真を撮りまくってしまいました。画像のダウンロードが重いかもしれませんが、写真を楽しみながらこの文章を読んで頂けたら幸いです。

未来を感じさせる滑らかな走り。美しい流線型を持つリニアモーターカーの勇姿。


2. リニアモーターカーの走行原理

 突然ですが質問です。「リニアモーターカーの走行原理を説明できますか?」 いやぁ、これって実は結構難しくて、間違って理解している人が多いんですよ。多分、超伝導が関係しているってのは皆さんもご存知かと思うのですが、これがどう浮上と関連しているかが誤解され易いです。よく耳にする意見としては、

  • 超伝導のマイスナー効果(超伝導体が磁石の上で浮かぶ現象)を利用している。
  • 列車上の超伝導電磁石と、地上の磁石の反発力を利用している。
がありますが、これらは正しい説明ではないんです。特に2番目のやつを信じていた人が多いのではないでしょうか? 確かにこれ、惜しいことは惜しいのですが、実際にはもう少しトリッキーな方法を使っています。

 さて、正解は以下の通り。

列車に強力な超伝導磁石を搭載し、これを高速で移動させて
地上側に設置されている「浮上用コイル」に誘導電流を発生させる。
この誘導電流が生み出す磁場と超伝導磁石の引力・反発力により
列車が浮上する。

…おっと、これだけではちんぷんかんぷんですね。これから順を追って解説していきます。

 最初に超伝導磁石を簡単に説明しましょう。「超伝導」とは、ある特定の金属を極低温(マイナス269度)くらいに冷却する際に現れる「抵抗ゼロ」の状態のことです。抵抗ゼロってことは、電流が導線中で減衰しないことを意味します。例えば、超伝導のリングを作ってこれに電流を印加すると、電流がいつまでもリングを回り続けます。これを応用して、超伝導のコイルを作って大電流を流してやれば、大きな磁場がエネルギー補給することなく長時間キープされる訳です

 リニアモーターカーでは、このような「超伝導電磁石」が搭載されています。磁場の強さはピップ・エレキバンの10倍程度。具体的には10,000ガウスという強さを持ちます。「こんな1メートル程度の大きさの装置で車両が浮くんかい!」 と思う方がいるかもしれませんが、磁場の力を侮ってはいけません! 磁力は何千何万ガウスともなれば、想像もできないような力を発揮します。例えば、800,000ガウスの磁界が存在すれば、水面を2つに割ることすら可能なのです(「モーゼ効果」っていいます。これホント)。実際、このような電磁石数個だけで20トンもの車両を地上から10センチも浮かせています。

リニアの心臓部、超伝導電磁石。大きさは1メートル程度。

 写真の下部、箱のような所に超伝導線コイルが入っています。上部の円筒状の部分には超伝導発現に欠かせない液体ヘリウム(冷媒)が貯められます。蒸発したヘリウムは、列車内の冷凍機で再び液化させ、超伝導コイルが暖まらないようにしています。コイルへの印加電流は数百 A。この大電流を超伝導により冷凍機への電力だけで維持している訳です。

 続いて「地上側に設置されているコイル」を説明しましょう。地上側の浮上用コイルには電流が印加されていません。これが重要なポイント。つまり、列車がいないと地上側には全く磁場が発生しないことになります。そもそも、長いレールに磁石を敷きつめるのは、どう考えても効率が悪いですよね。

 ここで登場するのが「誘導電流」なる現象です。誘導電流とは、導体の近くで磁石が動く際に生じる電流のことです。これは、「金属は、磁束線が内部に侵入するのを妨げようとする」という自然法則に由来します。つまり、磁束線を排除しようと金属が勝手に電流を発生してコイルのように振る舞う訳です。

浮上の原理

 実際には、列車側面に取り付けられた超伝導電磁石と、地上側の側壁に並べられたコイルの間で浮力を発生させています。例えば、超伝導コイルがS極を持っているとしましょう。浮上用コイルは8の字型に巻かれており、誘導電流によってコイルの下部がS極、上部がN極になるようにすれば、列車は上向きの力を受け浮上します。ここで、この誘導電流は、列車がある程度高速で走らないと浮上に必要な分だけ確保できません。要するに「助走」が必要なんですね。実際、この列車は時速150 kmまでは車輪で走行するそうです。

 さて、これで走行原理の説明は完璧か? といいますと、そんなことはありません。実は、これだと列車は加速できないんです。加速を実現するためには、地上側にもう一種類のコイル「推進用コイル」を用意しなくてはなりません。原理は簡単、浮上用コイルの裏側に設置された推進用コイルの磁極をN - S - N …と変化させます。こうすれば、列車内の超伝導電磁石は交流磁場による引力と反発力を交互に感じて列車が推進していきます。列車の速度は、反転周期(つまり交流周波数)に応じて変化します。早く磁場の極を反転させれば、列車はより高速で走行することになります。

推進の原理

 以上の説明、理解できましたか? もう一度リニアモーターカーの走行原理をまとめると、

  • 列車内: 超伝導電磁石で高磁場を発生。
  • 地上側: 浮上用コイル + 推進用コイル。

  • 浮上: 超伝導電磁石と浮上用コイルの間に発生した磁気引力及び反発力を利用。
  • 推進: 推進用コイルの交流磁場を利用。
となります。
これであなたもリニアモーターカー博士(かも?)。


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