ザ・ブラックオニキス
BPS / PC-8801, X1, FM-7, Etc.  

 
 青い迷宮

 「イロイッカイズツ…」と聞くと、遠い目でニンマリ微笑んでしまう。 この不思議な呪文から、マイコンゲーム黎明期への懐古、 当時のゲームが持っていた強烈な魔力、 ユーザー同士の連帯感、明るい未来観まで、 時を離れて一瞬、あの頃に戻ることができる。

 そんな「ブラックオニキス」は、ゲーム史に輝く至宝である。 国産初のRPGながら、世界観とゲーム性が磨き込まれていて、 今やっても吸い込まれてしまう。 "ウツロの町"という、聞き慣れぬ暗い町が舞台の3D-RPGだが、 その深遠な空間は、黎明の時代の奇跡だったのかもしれない。

 独特の、緊張感に溢れた空気。透き通った"青"がこの世界の基調か、 こちらに冷静さを求めてくる。 大きな盾や、長い剣を見ると、いつか装備したいと思う。 兜も格好いい。 「Diablo」の魅力の原型はこれではないか、とさえ感じる。

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 最初にキャラクターメイク。 何人でも作れるが、パーティに加えられるのは5人まで。 手本であろう「Wizardry」にあった種族や職業といった煩わしいものは一切ない。 髪型と服装に加え、ランダムで決まる LIFE(生命力), STR(腕力), DEX(敏捷性)の値が個性になるだろうか。

 ウツロの町は、その名に違わず、不気味で暗い。 中心には商店街があり、武器や防具店、薬局や床屋が軒を並べる。 離れには寂れた宿屋に銀行。町外れには牢獄、墓場、井戸がある。 町の外へ面する門には、Gate, Temple, Arena の三つがあり、 これらは続くシリーズの舞台となる。

 目指すは、街の片隅にそびえ立つ巨塔、ブラックタワー。 地下に広がる迷宮深くにその入り口があり、 そこを登った先に、不老不死の宝珠「Black Onix」があるという。

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 井戸や墓場から地下迷宮へと降りる。 歩いていると、不気味な音と共に「ナニカチカヅイテキタ」と表示され、 モンスターや同志が現れる。 戦うか、逃げるか、話すか、 相手のグラフィックとライフバーを見て判断。 人間なら、話すことでパーティに加えたり、金を要求したりもできる。

 迷宮を探索し、敵と戦い、経験値をため、金を拾う。 傷ついたら町に戻り、治療して、武器や防具を買って……、 それを何十回、何百回と繰り返すのだが、これがとにかく異常にハマる。 この成長のサイクルこそRPGの根源的な快感なのかもしれない。

 パーティの容姿は常に画面に表示される。これも意欲を高める要素だ。 早くあの長剣を装備したい、格好良くキメたい、と視覚面から向上心をそそられる。 そして、マップ作り。ジグソーパズルのように、断片だった迷路マップが埋まっていく、 複雑なトラップが解けていく喜びも大きい。

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 そして、「Kraken(クラーケン)」と聞くと、一瞬背筋に悪寒がよぎる。 深い井戸の底に棲む、巨大なタコの怪物。 ライフバーが画面の外まで続いていて、一撃で味方のライフがズバッと赤く染められる、その恐怖感。 この世界の中でも、最大級の存在感をもったキャラクターだ。

 モンスターは、獣から鳥、虫、怪物、幽霊まで、そのグラフィックは勿論、 特徴や性格(臆病、好戦的など)までバラエティに富んでいる。 人間にも悪党や狂人がいて、モヒカンとかヤンキー風とか、ある程度見た目で判断するしかない。 敵は下へ降りるほど強くなるから、初めて階段を下りる時は、かなり緊張する。

 ダンジョンは黒を背景に、青のワイヤーフレーム。壁も青。扉が黄色。 「Wizardry」にちょっと色付けしたぐらいか。 タワーに通じる最下層だけは、赤や緑、紫のカラー迷路が広がる。 そこを解くための謎掛けが「イロイッカイズツ」…。 しかし、これで十分だ。装備を調え、薬を袋に詰め込み、今日もこの青い迷宮に潜っていく。

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 ウツロの町の外に通じる扉の一つ、"Temple"(寺院)から行ける続編 「Fire Crystal」の世界は、狭苦しい、難解な世界で、 魔法を見てみたい思いはあっても、やる気は殆ど起こらなかった。 如何にこの世界が絶妙なバランスで成り立っていたか、よく分かる。

 最近聞いた話では、このソフトメーカー、BPSは会社を畳んでしまったという。「アーコン」や 「テトリス」の日本版でも名を馳せた、渋いメーカーだった。 この作品の、"Gate"(町の出口)の向こうにある「Moon Stone」は、 一つの夢また伝説として、いつまでも語り草になるのだろうか。

 ウツロの町で、同志から「オニキス メザシテ ガンバリマショウ!」と声を掛けられる。励まされる言葉だが、これはゲームの中だけでなく、 作り手と遊び手の心を結ぶメッセージでもなかったか。 互いの垣根の低かった、 あの古き良き時代を象徴する言葉として、今聞こえてくる。


 
 






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参考サイト: 窓の向こうのものがたり > ゲーム語り〜ザ・ブラックオニキス 


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