▼ 名作と学園ホラー
本作は、同人制作による、学園ホラーものの一級品です。
アマチュアソフトの中でも、最高度の面白さ、怖さ、完成度を持った作品だと思います。その主なゲームシステムは、ファミコンの名作「スウィートホーム」を手本としているようです。
「スウィートホーム」は、同名の映画をモチーフに、
呪われた屋敷から脱出を試みるホラーRPG。
最大の特徴は、二手に分かれたパーティを交代で操作し、同時進行的に
物語を進めていくことにありました。
また、限られた道具を有効に使って解いていくパズル的な要素も、
プレイに緊迫感を与え、ホラーの醍醐味を高めています。
これが「バイオハザード」の原点とはよく知られた話でしょう。
本作「コープスパーティー」は、その名作のシステムを上手く模倣し、
舞台を学校に移し、キャラクターを学生に替え、新しく料理し直したゲームと言えます。
キャラクターは全5人。怪談話のオープニングから異次元の旧校舎へ。
男女混合、3人2人のパーティに別れて、脱出への探索が始まります。
▼ 同人風のタッチですが
グラフィックには、いかにも「同人」といった印象を拭えません。
しかし、導入部分からのストーリーテリングの巧さ、不安感を煽るBGM、
メッセージの間、効果音・無音を活用した演出力によって、
プレイヤーはいつしか世界に引き込まれていくでしょう。
この独特の絵についてですが、実際、甘く拙く見えるタッチだからか、
手作りの感触が残っていて、生々しいんです。デッサンはきちんと取れていますし、
教室や廊下、学校にありがちな舞台道具、
それらのグラフィックも、分かり易く、素朴な手触り感をもって、
静かに、淡々と置かれています。
ゲームの内容、言葉や音の扱い方が一級品ですから、
その辺りのギャップが想像の余地を生んで、
より恐怖心を高める作用があるのかもしれません。
これが半分意図的なものだとしたら、とまで考えさせます。
▼ ゾゾーッとさせる演出
プレイ中、何度もゾゾーッと背筋に悪寒が走ります。
オープニングで分かるように、言葉・音・間を活かした効果的な演出で、
プレイヤーのイマジネーションを掻き立てて、心理的な恐怖で包み込んでいく。それも緩急の利いたタイミングで。
例えば道中、何げに置いてある校内用具を調べてみる。
トイレだと「…強烈なアンモニアの匂いがたちこめています…」、
鼻の奧までツーンと匂い立つようです。
本棚では「…長い髪の毛が、いっぱいからまって落ちています…」。
あの嫌らしい艶・触感!
こうした客観的な説明を重ねておいて、突然不気味なメッセージを差し込んでくる。
背景では常に音楽が聴覚を刺激しています。心臓のリズムに合わせ、
時に不安感を煽り、時には無音で。
映像が視覚を、メッセージで嗅覚、触覚その他イメージを補完する。
これは単純で古典的な手法なのかもしれませんが、
何よりもその演出が上手なために、ゾーッとさせる怖さがある。
「バイオハザード2」でも、ほっとしているところへ、一瞬窓を
巨大な蜘蛛が這いずっていくシーンがありました。
元は映画「エクソシスト3」にあった演出だと思いますが、
本作もそれを心得ていて、
プレイヤーの心臓の鼓動を否が応でも高めてくれます。
▼ コミック風の寸劇
とはいえ、このゲームに一貫して流れる大きな要素は、
学生同士、また兄妹の恋愛劇です。
男女混合、2つのパーティで行動しますが、その原型は、
彼女と一緒にお化け屋敷に入る、その恐怖の中で手を繋ぎ、
頼られる嬉しさみたいなものでしょうか。
イベントの中では時々、恋愛ゲームに似た選択肢が出てきます。
どちらの子に声をかけるか、どちらの子を助けに行くか、それによって片方のキャラクターが
死んでしまうこともありますし、何にせよその後の展開に影響を与えていきます。
またこの選択によってプレイヤーは自然、感情移入を促されることになるでしょう。
ホラーな世界観の下で、学生たちが助け合いながら、
シーソーのように揺れあい、恋愛一歩手前のコミュニケーションを繰り広げる。
…というと若干言い過ぎですが、恐怖に満ちた暗い「旧校舎」での物語に、
血の通った暖かみを運んでいるのは、
学生たちの嫉妬や独占欲に裏打ちされたコミック風の恋愛寸劇です。
それが脱出行と絡まり、物語を分厚いものにしています。
▼ 徹底したアマチュアイズム
この作品の手本である「スウィートホーム」には、密室に閉じこめられたような
息苦しさが全編に漂っていました。会話の少なさもあったでしょうが、
探索の最中にRPG的な戦闘を強いられたり、
また回復薬が限られていることも、それを助長していました。
入り組んだ広い舞台、持つ・置く・渡すを含んだ複雑なパズル、長いプレイ時間などは、
商業作品としてのウリとは言え、気軽なプレイを尻込みさせます。
しかし「コープスパーティ」はそうではない。
このゲームには戦闘もなく、よくよく見れば、コマンドも非常に簡潔です。
移動と"決定キー"だけで、他は殆ど使用しない。
セーブしたい時にESCキーを押すぐらい。舞台やメッセージの程良い大きさ、
1〜2時間というプレイ時間にもそれは表れているでしょう。
ストーリーに集中させ、楽しませるため、操作を簡潔に、無駄な戦闘を排除する。
こうした点の重要さに気付かされることも多いのです。
この点で本作は、「スウィートホーム」を凌ぐ部分もあると思う。
これは、身近な世界観はもとより、アマチュアが本当に楽しめるゲームを創る場合の、
一つの大きな指標になるのではないでしょうか。
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