任天堂のフィロソフィー

囲碁の世界観



任天堂のフィロソフィーに辿り着く前に、私たちは、山内社長の唯一の趣味である「囲碁」の深遠な世界観を知っておかなければならない。




囲碁。単純なルールながら、可能な手順数は10750
シンプルで宇宙的な奥深さをもつ至高の盤上遊戯。




【 源流とルール 】


「囲碁(碁)」の源流は、古代から無数に造られ遊ばれてきた盤上遊戯にある。 その中でもポピュラーだった「動物包囲ゲーム」が祖型になっているようだ。

古代中国及びインドで作られたこのゲームは、升目の書かれた石板に獲物を模した駒を置き、 それを虎を模した駒を使って盤上の隅(オリ)に追いやっていく遊び。

この盤上遊戯の1分岐である「包囲ゲーム」が改変を繰り返し、中国の春秋時代(紀元前6世紀頃)、 古代思想・哲学を吸収して「囲碁」は誕生した。



太古の遊戯盤
古代の碁盤

太古から"盤上遊戯"は様々に作られ、いろいろに遊ばれていた。 永い歴史の中で、遊び手の意志によって(飽きられたものは)淘汰また改変され、進化していった。



「囲碁」は、二人で対局し、黒と白の碁石を交互に(盤上に書かれた)縦横の線の交点に打ち、 互いの石を囲んで取り合ったり、盤上の地(石によって囲まれた領地)を確保することによって 勝敗を決めるゲームである。

対局者は、品位と礼儀を尊重し、盤上でルールに従いフェアに戦う。
序盤には布石−将来に備えた手−を打ち、中盤戦を経て、最後は対戦者の合意により終局する。 勝敗を左右するのは、大局観−全体を俯瞰し先を読む力−である。



    「囲碁」のルールや成型の背景には古代中国に芽生えた優れた思想がある。
    この遊戯へと受け継がれた春秋・戦国時代の思想・哲学を見てみたい。




【 天命観と陰陽思想 】


太古の中国人は、毎日を天候に左右されて牧農生活を営んでいた。 そして、気象を観測・経験を蓄積し、天変をいち早く察知して、これに備えた部族だけが生き残っていった。

当時の人々は、自然現象の一つ一つは“天帝(神)の意志”であると考えた。 その天命を聞き、それに順って行動を取ることが正義であり、部族に繁栄をもたらすと信じた。

その天意を知るのが占い師である。神聖な法術を持つ彼らは同時に権力をも握る。


古代人の創造した“天帝”像
“天帝”とは、天然自然・森羅万象を司る主宰者。 古代人は、自然現象−風雨晴雷・月日星辰の循環−を全て天意の表れと捉えていた。 この天帝の裔が天子(地上の皇帝)であり、天皇もこれに近い。



やがて春秋・戦国時代(BC.770〜220)ともなると、天命観は哲学的な思考へと発展し、 森羅万象は「陰」・「陽」二つの気によって運行されるという「陰陽思想」が芽生える。



    陰陽思想

    古代中国の黄河流域、寒暖の差の激し厳しい自然環境の中で 農耕生活をしていた人々は、 生活を左右する自然の推移−昼夜の循環・晴と雨・四季の変化−を体験・観察しながら 一つの思想を会得する。

    「この世界には『陰』と『陽』2つの相反する属性(現象)があり、 両者は相対峙する両極でありながら、一対としてのみ働き合う。」
    「この陰陽の働きこそが、万物・万象を生み出す根因(気)である。」

    陰と陽、2つの原理によって世界の解釈をしようとしたこの二元論は、 生と死、柔と剛、天と地、進と退、男と女など、あらゆる現象や概念に 取り入れられ、やがて他の思想と融け合いながら進化していく。



この陰陽思想に於ける「陰」と「陽」が、碁石に使われる色「黒」と「白」に象徴されている。 これは同時に、囲碁の対局者が「陰陽の2気」を司る神であることをも意味する。

    遊び手による「黒」「白」の石の布置は、万物創造を表す、とされたのだ。






    また同時に『囲碁』には、「天文学」や「兵法」の特性・構造も吸収されている。 故に、王権の中枢を担う職司(軍師・易者など)だけに許された「聖技」でもあったという。




【 兵法・天文と囲碁 】


古代の中国大陸では、天下制覇に向けた絶え間ない戦乱が繰り返されていた。 その中で武器は発展し、戦闘形態は変革され、優れた兵法が次々と編み出されていった。

特に、殷代から周代の戦に於いては、必ず天文・占術によって、作戦の成否と吉凶を策定した。 囲碁はそうした「天意」を伺うのに用いる神聖な道具だったのである。


中国大陸の地図 囲碁は古代戦争の特質を反映している。
大本営では、軍師・博士・長老らが集い、中国大陸を碁盤に、 敵味方の動きを碁石に写し、戦局の検討をした。

勝敗を決める国土の兼併は、囲碁の「地合い」に通じ、 勢力を決める人民の争奪は、「石の取り合い」に相通ずる。



宋代の天文図

加えて囲碁遊戯は天文地象に則った構造を持つ。
序盤の布石は、極(天元)を拠点にした、四季の回転を意味する。 東から西へ、72候の路をたどりつつ四季は推移する。

360の交点(1は天元であり除く)は、一年の日数・周期を表し、 盤上の一石ごとに昼夜は循環し、月日は移り世界は変わる。



「碁盤」とは大陸世界のミニチュア化であり、黒白の碁石の布置は「陰陽二気の運行」を表す。 2人の対局者は盤上を世界戯場とし、陰陽の原理を操りながら天地を創造していく。

このさほど広くない盤上で、生と死、天と地、昼と夜など、 陰と陽のドラマがダイナミックに交錯し、回転しながら、 さほど永くない時間をかけて囲碁の勝負は争われる。


    『囲碁』とは、古代中国の優れた世界観を凝縮した至高の盤上遊戯であり、
    まさに聖技、破壊と創造を好む聖者・神仙にこそふさわしい遊びである。






こうした囲碁の世界観は、古代中国の都城のプランニングに用いられた。 やがてその設計思想は海を渡り、日本古代王朝の都・平安京へと受け継がれる。






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