任天堂のフィロソフィー

山内社長の信念  京都人の特質  〜独創の旗印〜  任天堂の哲理



山内は花札屋を継ぎ、娯楽業界へと足を踏み入れた。 そこで苦しんだ末にある信念を持つに至る。 彼にとって娯楽の世界とは如何なるものだったか。

それこそが、任天堂の企業理念の根本にあるはずだ。




【 娯楽の世界 】


任天堂の理念の底流に京"京都商法"がある。しかし、 山内任天堂が他の京老舗と比べて特異なのは、娯楽の世界へ身を投じたことにある。

娯楽や遊びは、生活に必要不可欠(need)なものではない。食物・生活用具など 実用・衣食住が満ち足りた上で「欲するもの」(want)だからだ。

山内は言う。
「結局ね、ユーザーというのはすぐに飽きるんです。 最初は目新しくて、みんなが飛び乗ったんです。 しかしユーザーというのは、すぐに飽きますから。」

「テレビゲームなんて娯楽でしょ。生活必需品ならともかく、 ないから生きられないというものじゃない。世界中にいろんな国がありますが、 やはり衣食住が足りて、ゆとりができてから初めて娯楽市場ができあがるわけですから。」

「だから、ゲームなんてユーザーにとっては、いざとなったらなくても差し支えない。 面白くもおかしくもないゲームに高い金を払って付き合う義理はまったくないでしょう。」



家電品・電子レンジ   「たまごっち」 (C)BANDAI

(左)家電の世界では、最高の技術を安価に提供する事がベスト。 そこに黄金律が存在する。また、もし 10万円で売れなくても5万円に値引きすればまず売れる。
(右)ブーム時には1万円でも売れた娯楽品「たまごっち」は、 ブームが去ると、100円でも売れない。 遊びが飽きられ、付加価値(流行)を失い、欲しいと思わせない。


山内のこうした言葉は、彼がこの業界で味わった事実を淡々と語ったに過ぎない。 だがこの現実すら理解できない愚鈍な経営者は今だ多い。 (老舗バンダイもそう)

「娯楽の業界では、老舗だから安心なんていうことはありえない。 いつもいつも、新しいものを出していかないと生き残れないのです」

楽しい、欲しい、と思わせなければ誰も買わない娯楽品。その世界で生き抜いていくには、 何より、新奇なもの、新鮮な面白さのある製品を作っていく必要がある。

「ところが、全くの新製品をつくるためには、常識的な発想では人々を納得させることは できない。新製品に必要なのは、社会通念や習慣を変えるようなものでなければならない。 そのためには"非常識の発想"が必要なんです。」





【 非常識の発想 】


山内博の初ヒット商品「ディズニートランプ」は、 紙製遊具「トランプ」に、「ディズニーキャラクター」(付加価値)を付けることで 子供たちを惹き付けた。 トランプのもつ遊びの価値を、持つこと自体が楽しい(→欲しい)方向に変えてしまったのである。

携帯用の小型ゲーム機「ゲーム&ウォッチ」も、 それまでゲームセンターか自宅のTVの前でしか遊べなかったゲームを、 車の中でも学校でもどこでも楽しめるようにした。 子供の遊びの習慣自体を変えてしまった。

また二人対戦(協力)形の「VSシステム」を作ったのも任天堂である。 1人で遊ぶという業務用ゲームの習慣を、2人で一緒に遊ぶかたちに基本的に変えてしまおうとした。



この3つは今となっては珍しくもない。しかし当時としては全く新しいものだった。 トランプを全国に普及させたのも、 携帯用ゲーム機、対戦型ゲームの原型を作ったのも任天堂。 山内任天堂の半世紀は、子供の遊び文化そのものの創造・革新の歴史である。


そして、「ファミリーコンピューター」。 マイコンゲーム機に必須なものとされていた キーボードを排除し、ゲーム機能だけに特化させた。これも他社が考え得ないことだった。

失敗に終わった「バーチャルボーイ」も、 3次元立体映像(覗き見型)という革新的な発想に基づくもの。 全く新しい次元の遊びを生むための土壌がここにある。

非常識ゆえにリスクも大きい。それでも山内任天堂は断行した。 そう考えると、山内社長の言葉はいっそうの迫力を増してくる。



    失敗が才覚の基

    山内任天堂は、決してヒットばかりしてきたのではない。むしろ失敗の方が多い。

    「任天堂五ヶ年計画」は、トランプの売れ行きが止まり中途で捻挫した。 ノウハウ無しの「インスタントライス」は惨敗、横井の玩具がヒットしてもブームは急速に萎む。 「光線銃カスタム」は、値段が高すぎて売れず、 「レーザークレー射撃システム」はオイルショックで夢と散った。 こうした挫折にもめげず、未来を睨み、挑戦を繰り返したのが山内社長である。 彼は自ら試行錯誤して、失敗の積み重ねの中から勉強し、 それを栄養にして才覚(アイディア精神)を伸ばしていった。

    先天的な才能もあるにせよ、山内博という玉は、艱難辛苦の中で磨かれたのだ。





【 独創の旗印 】


「面白いソフトをつくるための一般法則などはない、あったら教えてほしい」 と山内は言う。 しかしそれでも任天堂はヒット商品を生みだしてきた。

どうもその理由は、彼の口癖である 「よそと同じことをしない」という言葉の中にある。 言い方を変えれば「独創性」ということになる。

「娯楽の世界では、かつて経験したことのない遊び用具を提供できればいい。 既にあるものを改良するという発想では絶対うまくいかない。 だから任天堂は、 新しい発想を求め、創造することに全てのエネルギーを費やしてきた。 それがモットーなんです。」

今まで誰も体験したことのないような「遊び」をつくる。 それに不可欠なのは、 社員の独創的な「アイディア」。 そのためにも、 「人と同じことをやっていては駄目。 皆が右へならえの発想を払拭し、 オリジナリティを追求する」と言う。

加えて、 「消費者が娯楽にかけられるお金はそう多くない。だから、 この世界にはNo.1だけでNo.2などはあり得ない。」、 一強皆弱の論理で市場独占を目指す。

新奇なるものを求め、人の歩いた道は追従しない。 己を信じて独創し、市場のないところに市場をつくり、独占する――、 これが山内イズムか。



    1勝14敗の思想

    山内社長は中小企業の特質として、 「大企業は失敗を恐れ、堅実策をとりたがる。 いわば8勝7敗でいいという思想です。 しかし中小企業なら、14回続けてミスしても、一発ヒットが出ればミスは帳消しできる。 私たち中小企業は思いきった冒険ができるという利点があるから、 大企業の消極的戦略は少しも怖くないのです」と言う。

    中小企業の利点・・・小回りがきき、時代の変化に素早く対応できること。 その点から彼は、大相撲の15日に喩え、 一発金星を取れば14敗なんてチャラに出来ると述べる。 まるで博奕の世界のようだが、娯楽業界ではこうした要素が強いのだろう。





【 哲学など無い 】


任天堂は娯楽(遊び)を売る会社。重要なのはアイディア。 それを生み出すのは人間の独創性。 山内が「任天堂は天才が支えている」と豪語するように、 任天堂には少数精鋭のプロがいて、彼ら社員がそのアイディアの源である。

山内は、彼らには 「自由な発想、柔軟な思考がいちばん必要」 だと考え、その上で 「思い切ったアイディアを生み出すためには、まわりには何もない方が良い」 と言い、ゆえに、 「社是から社訓といったものは邪魔になる」 と決めつける。

なぜなら、 「もともと私自身、ある目標や志に基づいて、肩に力を入れてなにかをやるというのは好きなほうじゃない。」 し、 「第一、"一寸先は闇"のこの業界(娯楽)で、こうしなきゃならんなどという固定的な 考え方は、なんらプラスにならない。それどころか、自ら負けを招くようなものです。」 と言う。

故に任天堂は企業理念を掲げない。これが任天堂だという社風もない。下手にそんなものがあると、 社員がそれに縛られて、自由な発想・発言ができなくなる恐れがある、という理由からだ。

娯楽の世界に生きる企業として、理念など足枷にすぎない。 むしろ"何も無い"ことが糧となる――、 私はこの山内の言葉に重みを感じる、信じる。
任天堂に「フィロソフィー」など無いのだ。


しかし、「何か」がそこに厳然と存在する。





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