麻風賞 参加作品から

                                         

「 天の時計 」    「麻」421号

ふところに重力レンズ初詣

声出して泣いてをるなり雪女郎

鬼は外吹き入る雨のやはらかき

春の日や賜ひてまぶた奥二重

石鹸玉宇宙押し合ひへし合ひす

行く春や虚時間にある忘れもの

しまはれしままの臍の緒水中花

青鬼灯水子の寝入る銀の籠

昼寝覚夢の地球が一センチ

少年や蛍袋の鍵の穴

月涼し後追自殺などせぬよ

ぎらぎらと女の男時実向日葵

渡れさう浅瀬は澄みて天の川

生身魂宇宙収縮すると云ふ

コスモスの蘂大盛に吹かれをり

クローンの核と置かれし露一顆

はたと来し雀隠れぬ萱の花

百五十億分の百冬至粥

冱つる夜の死者の見てゐる尾灯かな

去年今年振り子大きく戻り初む

「 色即是色 」     「麻」410号

街なかの土の校庭青嵐

紫陽花や傘の内側星座の図

あるふあの解のひとつが梅雨菌

噴水の外に人の世ありにけり

かはたれの花野や大き穴ひとつ

長き夜を色即是色徘徊す

全休符続くパートの愁思かな

鱗粉と記憶とこぼれ冬の蝶

しんしんと雪の重さのピアニッシモ

春暁や見ぬち身ほとり水の音

有りて在る者の在り処へ種を蒔く

「 母の庭 」     「麻」397号

乳張れば搾りて捨つる春の夢

児を他所に預けて渇く春の土

若草にややこの靴の脱げ易し

花栗や母となりては鎧ふもの

病めば子が飯炊く玉菜刻みをる

ペンテコステ八十路の光父母に

羅の母の静けさ参観日

廃園や惚けて母と白だりあ

まだ死ねぬ理由とくとく生身魂

枯あぢさゐ切口白く人を見る

灰となるまでを明るく柿落葉

枯木槿どこを折つても生きてをり

合掌の心たまはる冬木の芽

「 れくいえむ 」    「麻」385号

澄む水の遠ちの全き水輪かな

束ねても解いてもすがれ曼珠沙華

添ひ寝子の髪くろぐろと良夜かな

栞りたる四つ葉の枯へ訃報かな

枯園にこころひろひに来てをりぬ

待春の笑顔ひとつを遺しけり

ひとことに満たされし日の寒夕焼

まっすぐな道現るる枯野かな

養花天こめかみに置く薬指

「 春の樹 」        「麻」374号

実千両日あたるかたの粒揃ひ

凩や怙みてゆるぶ錠ひとつ

寒一燭背の闇を諾へり

従順といふ名の寒の牡丹かな

折れ易きらふそくの芯冬木の芽

沈黙の枯木の道へ差す日かな

木の芽雨めをとぢていふ主の祈り

柳の芽光初めたり風の中

春愁や尽きては復す砂時計

子には子の重荷ありけり鳥曇

聖櫃の灯のともりある朝桜

受難日や蝋涙厚きひとところ

歌弥撒の終始を柳絮飛ぶ日かな

父と子の手つなぐ春の夕焼かな

「  」          「麻」361号

淡雪や写経無の字の降積もる

犬の掻く土重たかり春の雨

啓蟄や置かれしままの子の昼餉

ぶらんこや児の繰返すここのつと

鳥帰る青い鳥とて帰るらむ

花冷や昼の臥所に子の便り

遠足の殿の掌は先生と

母の掌へ野蒜の土を零しけり

嫁してまた純潔といふ桷の花

鯉の口よりひとひらの辛夷かな

春愁や獅子の湯を吐く人の里

石仏のおん掌小さし濃山吹

ひとり入る甲斐の国なる春炬燵

朧夜の溢るるものをあふれしむ

春蘭けて耶蘇の位牌の真白かな