1997年夏

わたしが交通事故の入院から退院したので拓也の母、真美子と会うことになった。

真美子もこの頃、夏の地域大会が終わりホッとしているところだったのだろう。
わたしの住んでいるマンションでゆっくり話をする事になっていたので、当日わたしは
真美子を迎えに行き、自分の自宅マンションへと招いた。

この日に合わせて部屋に敷くセンターラグも購入した。
元々、物のない部屋なのだけどこの日は特にすっきりとさせてみた。
キングスモーカーのわたしは「今日1日くらいは猫かぶっててもいいだろう」とタバコも
吸わなかった。愛用の灰皿はキッチンに置いたままだった。

天気のいい日で、南側にある部屋の窓からは明るい太陽の光が射しこんでいた。
そこでまずお茶を入れて、改まって自己紹介をしたように思う・・・・。
と、不意にお義母さんはわたしに向って

「わたし、クリスチャンなの。」と言った。

「えっ?」
少々驚いて聞き返した。
もう一度、義母は
「わたし、クリスチャンなの。だから、あなたたちが結婚をすると言っても式にも出られ
 ないし、何をしてあげる事もできないの。でも、それは反対してるってわけではない
 から。嬉しいと思ってるし、それとはまた別の信仰の問題なの。」
せきたてるように、でも笑顔でそう言った。

「クリスチャンなんですか?はじめて聞きました。プロテスタントですか?カトリックで
 すか?」
わたしが聞くと、義母は「エホバの証人です。」と答えた。
わたしは驚くやらなんやら、ただ、頭の奥では「(拓也くんに『お義母さんは宗教持って
いないの?』って聞いた時に何も言ってなかったのに!)」とか「(やっぱり宗教持ってたのね!)」と一瞬にして考えながら、「わたしも宗教を持って育てられてきたので、
信仰を持つ人がいることもわかるし、自分も実際自分の信仰以外は崇拝したことが
ないのでお義母さんの気持ちはわかります。」と答えた。

「反対しているのではないのよ?でも、わたしはエホバのクリスチャン証人だから、
 結婚式に出席をしたりはしないけど、拓也くんが選んだ子だから間違いないと思って
 いるし祝福しなければと思っているのよ。」
義母は繰り返してそう言うと、また満面の笑みで微笑んだ。そして
「わたしは聖書のお勉強を始めたのは拓也が生まれたばかりの頃からなんだけど、
 また小林さんも(わたしの旧姓)聖書に関心を持ってくれたらもっとうれしいわ。聖書は
 子供たちも良い事がたくさん書かれているから。」そう付け加えた。
わたしは、また驚いて
「エホバの証人の人って、聖書を信じてるんですか?」とたずねた。
「そうよ。知らなかった?」

・・・・・・。知るはずもない。
輸血拒否をするというエホバの証人は知っているけど生で見たのははじめてだ。
こんなに身近にいるとは思わなかったし、まさか結婚する人のお母さんがまたまた
宗教を持っていた人だなんて、「もしかするとわたしはいよいよこの宗教をするために
創価学会を離れたのか?」とさえ思った。
ひとしきり、話をした後また義母を自宅まで送って行った。
わたしの心は興奮していた。


わたしは拓也くんに、自分が幼い時から置かれていた状況をすべて隠さず話して
いた。創価学会の3世であること。法華講員と結婚した事。信仰の家にずっといて
自分自身もなんらかの宗教は持っていなければいけないと思っているということ。

そして、拓也くんはわたしに対して
*父親は無関心で仕事もせず、ろくでもない父であること
*祖父も下品で、生理的に合わないということ
*母親はそんな父親と一緒にいてとても苦労していること
を話してくれていた。

拓也くんが父親の事をあまりにボロクソに言うのでどんな父親かと思っていた。
でも、拓也くんがいうように「仕事をしていない」事はない。きちんと収入を家にいれ、
仕事もこなしているようにしか思えない。わたしの実父のほうがはるかに仕事をして
いなかった。でも、拓也くんは「無関心でなにもしない、仕事もしないサイアクの父親」
と罵り続けた。おじいちゃんに対しても、「不潔、礼儀がなっていない、生理的に嫌悪
する、一緒にご飯なんか食べれない」等と言っていたのでわたしは「(一体どんな家
なんだろう・・・?)」と思っていた。そして、拓也くんに

「そんな家でいて、お義母さん気が狂わない?わたしだったら何かの宗教でもして
 なかったら絶対に別れてるよ〜!」
「お義母さん、なにか心のよりどころみたいな物はないの?わたしだって宗教持って
 いたけど似たようなアノ家で暮らせなくなって飛び出てきたんだよ?」

なんてのほほんと言っていた。「宗教でももってなければやって行けないよ!」と
事あるごとに言っているわたしに対して拓也くんは、
「さぁ〜?ピアノくらいなんじゃない?たまにピアノ弾いてるみたいだけど。」
としか言わなかった。

お義母さんが帰ってから、拓也くんが仕事を終えてわたしの家に遊びに来るまでの
間、わたしの頭の中は拓也くんといままで交わした会話と、今日お義母さんから
聞いた告白とがクルクルクルクルまわっていた。

何度も何度も聞いたのに、なぜ一言もいってくれなかったんだろう。
わたしはわたしの宗教の話までしてるのに、なぜ言ってくれなかったんだろう。
なんか、バカにされてるのかな?
わたし、エホバの証人になるために創価学会抜け出せたんだろうか?
本物の神様って、エホバの証人だったのかなぁ?聖書って言ってたし。

脳が沸きそうだった。

夜、拓也くんに「お義母さんから聞いたよ。」と言った。
拓也くんは、
「ああ、そうだってね。」と一言だけ言った。
「どうしてもっと早くに言ってくれなかったの?」そう聞くと
「言っても仕方がないだろ?ノリんちは創価学会だし。」そう答えた。
「お義母さんが宗教持ってないの?って聞いたのと、うちの実家の宗教の話とは関係
 ないじゃないの。どうしていってくれなかったのよ!何度も何度も聞いたのに!人が
 何度も聞いてるの、どんな気持ちで聞いてたの?!」
と、ちょっとふてくされて、泣きそうになりながら問い詰めたけど拓也くんは
「言う必要があったら、本人が言うと思ったから。」と言ってそれ以上は何も答えようと
しなかった。


となりに拓也くんを見ながら、ある日二人でドライブした時の事を思い出した。
王国会館の前を車で通りかかった時にわたしが言ったひとこと。
「ねぇ、あれってエホバの証人の人の集会所だよね?」
拓也くんは「そう?」と言った。わたしは続けて言った。
「エホバの証人って、輸血しない人たちだよね。どうして最高の医療を受ける権利が
 あるのに、それを放棄するんだろう?世界中に、それだけの医療を受けたくても
 受ける事ができない人がいるのにそれを放棄するんだろう。わたしにはわからない」
拓也くんは何も言わず、話題はすぐに他に移って行った。

その時も拓也くんはわたしに対してどんな事を思っていたのだろう?
もしかすると、わたしは「自分の正義」を振りかざして自分の知らないところで人を
たくさん傷つけてきたのかもしれない。
そう思うと居たたまれなくなって涙があふれた。
なんだか不に落ちない、嫌な気分のする初対面だったけれども、「もしかすると、本当
の神様がわたしのすぐ側まで来ているのかもしれない。」そんな足音も聞こえてきた
ような、1日だった。






       義母との初対面























































































































































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