剣山  誕生の謎に迫る  

後編

 

祖谷谷(御荷鉾構造線)の向こうに広がる三波川帯
地中深部で形成された変成岩が大規模な地殻変動によって隆起し、露出している。

「祖谷谷を見下ろすパノラマ」



 (7)三波川変成帯 

学校で習うことのなかったもう一つの変成岩「結晶片岩」について

「天然記念物」大歩危峡の「岩礫片岩」
多数の丸い礫が、高圧によって煎餅のように平たくなりながらくっついている

岩礫片岩を横から見たところ
高圧で礫が紙のように薄くなっているのが分かる


三波川帯を構成する変成岩は、高温のマグマが関係する花崗岩などと異なり、低温高圧下で作られます。

海溝にあるプレート境界の付加帯深部に潜り込んだ岩石は、海水を含んだ冷たいプレートとともに強い圧力を受けて再結晶し(低温のためほとんど固体の状態で変化しもう一度固まる)、元の岩石とは見た目も性質も全 く異なった岩石になります。これを変成作用といい、出来上がった岩石を変成岩といいます。

この「低温高圧」という条件は「水を含んだ冷たい海洋プレート」の存在なしではあり得ないそうです。

結晶片岩が出来るしくみ

変成岩は、「変成を受ける前の岩石が持っていた鉱物的な要素」「温度」「圧力 」これら三つの条件の組み合わせによって様々に変化します。
また、再結晶するとき、元の岩石に含まれる鉱物の結晶が力のかかる方向に対して垂直に並んで成長するため、板状、鱗片状、棒状などの様々な結晶が同一方向に配列し、この面から岩石が割れ易くなります。この面は「片理」と呼ばれます。

片理を持つ変成岩を総称して「結晶片岩」といいます。
「片理」は美しい縞模様となって石に現れる一方、その片理面に沿って割れやすい性質を石に与えてしまいます。


結晶片岩の表面(光る結晶面と片理)

一見同じように見える結晶片岩でもその組成や変成の度合いによって、石として固まっているものから触るだけで紙のように薄くポロポロとがはがれるものまで、その性質は様々です。


脆い片理がまるで木屑のようになっている

色も、白・黒がかった紫・ピンク・青・緑、茶、その濃淡と様々です。

四国山脈の背骨を構成する三波川変成帯は このような結晶片岩で構成されています。


写真は三波川帯の南部、御荷鉾帯の土砂崩れ現場に転がっていた結晶片岩の数々です。片理面に沿って石が平に割れています。


御荷鉾帯に分布する緑色の阿波青石
石英の白い模様が美しい

前編の最後で詳しくご紹介した「御荷鉾帯」も、三波川帯の一部です。
三波川帯は「阿波青石」と呼ばれる銘石を産する一方で、片理にそってはがれやすい性質が禍いし日本有数の地すべり地帯となっています。三波川帯の地滑りは大雨が降ったから崩れるというものではなく、天候に関係なくいつ起きてもおかしくない性質のものです。

かもかもが時々出かける「瓶ヶ森林道」沿線も三波川帯に属します。林道には御荷鉾帯と同じような、もろく瓦のように平たい石がいつもゴロゴロ転がっています。


大歩危峡


余談ですが「三波川帯」の名前の由来となった本家、群馬県の三波川は、悲しいことに上流部の岩石が庭石としてほとんど採り尽くされたため、起伏の無い平坦な川底の、ヤマメも住まない川になってしまいました。現在、石を川に戻す運動を行っているそうです。


 (8)秩父類帯に属する剣山 

秩父類帯は付加帯の特徴を最も良く残している

秩父類帯は三波川帯のすぐ南に分布している、やや弱い変成を受けている地帯です。

片理があまり見られない秩父帯の石


剣山のすぐ北を通る御荷鉾構造線(三波川帯と秩父類帯を境する構造線)から、南部那賀川流域の仏像構造線(秩父類帯と四万十帯を境する構造線)までの間が秩父類帯です。

秩父類帯はさらにいくつかの地質に分割されますが、剣山はそのうち「秩父類帯北帯」という最も北に位置する地層に属しています。


御荷鉾構造線(祖谷谷)にかかる奥祖谷二重かずら橋

剣山の麓を東西に御荷鉾構造帯が走り、その断層線崖である剣峡、祖谷渓が深い谷を刻み、剣山の高さを一層際立たせています。祖谷渓の谷を隔てたすぐ向こうは結晶片岩で構成される三波川変成帯です。
つまり剣山は古生代の地質を残す「秩父類帯」の最も北縁にあり、秩父類帯の中では最も大きく隆起した場所となります。

複雑な横縞模様を描く徳島県の地質

秩父類帯は、海洋プレートの付加物に由来する太古の地質を複雑に挟み込むミステリアスな場所です。 剣山からおよそ10キロ程南東部および南西部に「黒瀬川帯」と呼ばれる四国でも最も古い地質が分布しています。
黒瀬川帯は周囲の秩父類帯よりさらに2〜4億年古い3~4.5億年前の放射年代を持っており、海洋プレートと共にやって来た太古の陸隗(かつて太平洋中央部にあり、その後大陸の真下に生じたスーパープルームによって分裂、四散したゴンドワナ大陸の一部と見られている)がそのまま大陸プレートに衝突したものと見られています。まあ、大陸の離合集散は地球が誕生して以来何度もあったので、特に驚くには値しませんが。
大陸隗が衝突した時一体何が起こったのかが解明されれば、地底深部から急上昇したと言われる三波川変成帯の謎も明らかになるのかもしれません。


 (9)剣山山頂に分布する石灰岩 

剣山周辺の地質
地質アトラスを参考にして製作


その石灰岩は海底火山山頂に出来たサンゴ礁に由来している

前にも述べましたが、付加帯の石灰岩はすべて、ハワイのようなホットスポットで誕生した海底火山のうち、海面まで到達した巨大海底火山の頂上に出来たサンゴ礁に由来しています。

海底火山はホットスポットを外れてその活動を終えると、プレートと山体が冷やされて収縮し少しずつ沈降をはじめます。サンゴは水深80メートル以下では生息出来ませんから、沈降する海底火山の周辺のサンゴは上へ上へと生息地を移動させ生き延びようとします。もし、沈降速度よりサンゴの成育の方が早ければ、海面下に没した海底火山山頂に分厚いサンゴ礁が発達します。

秩父類帯のみならず、外帯の石灰岩はこの海底火山山頂のサンゴ礁に由来しています。 地底深くで変成を受けた結晶片岩が広く露出している三波川帯と比較すると、秩父類帯は変成の程度も弱く、海洋プレートに由来する地質がそのまま残っている所です。ところどころに石灰岩地質が分布しており、大規模な石灰岩分布地の四国カルストも、剣山と同じ秩父類帯に属します。しかし四国カルストのすぐ南に黒瀬川古大陸隗が細長く分布しており、ひょっとすると四国カルストは古大陸周辺に発達したサンゴ礁の痕跡かもしれません。


登山道に分布する石灰石


地質図をみると、剣山周辺には東西に細長く石灰岩層やチャート層が分布しています。剣山登山道でかもかもが手にした平らな白い石は「石灰石」、ところどころにゴツゴツとそびえる巨岩は「チャート」のようです。


チャートの大剣岩


石灰岩とチャートは同じような白い石です。両者の見分け方は、簡単に傷が付き岩や石の角が取れて少しまるくなっているのが石灰岩、固く傷付きにくく表面がいつまでもゴツゴツしていているのがチャートです。チャートが強い圧力を受けると石英になります。秩父類帯は圧力による変成を受けていますので、石英化したチャートも多いのでしょう。


 (10)石灰岩によって守られる隆起準平原の山頂 

石灰岩地質は透水性が高く、雨による浸食を受けにくい

隆起準平原の山頂


剣山の平らな山頂は「隆起準平原」の姿を今にとどめています。剣山山頂から東西に続く穏やかな景色は、同じ隆起準平原の「四国カルスト」を彷佛とさせます。

剣山からのパノラマ

四国カルストのパノラマ

四国の石灰岩地質は、分布が狭く数少ない地域に限られており、しかもその石灰岩地帯は周辺より一段と標高が高いという特徴があります。
どうしてでしょう?

石灰岩で出来た土地は水が浸透しやすく、降った雨はすぐ内部にしみ込むという性質をもっています。そのおかげで地表を流れる水の量が減少し、削られる表土が少なくなります。石灰岩で出来た地質は雨による浸食を受けにくいわけです。

山頂に石灰岩を頂く剣山や四国カルストは、大量の雨が表面を削る四国山脈の中にあっても、降った雨水をすぐに吸ってしまう石灰岩のおかげで山頂部の浸食が最小限に食い止められました。従って、周囲が雨の浸食や破砕帯の影響でどんどん低くなる中で、まるで削り残されたかのように相対的に標高が高くなりました。


 (11)山頂に石灰岩を頂く剣山は、海底火山が再び地上にそびえた姿か? 

付加帯に見られる石灰岩はすべて海底火山山頂に生息したサンゴが作り出したものです。

剣山山頂付近に見られる石灰岩層は、付加する時に海底火山山頂から外れた石灰岩の岩隗と見られています。しかし、剣山周辺は石灰岩のみならず、火山性の変成岩やチャート、剣山南部に東西に走る断層に沿って蛇紋岩(海洋プレート基盤であるカンラン岩が地表で不安定となり変質したもの)が泥岩層の中に東西に細長く分布しています。

海底火山が大陸プレートの下に潜り込む時、火山そのものはローラーに延ばされたようになり原型をとどめていないでしょうし、山頂の石灰岩も外れてどこかへ行ってしまうかもしれません。

しかし火山の山体は玄武岩質で固く、一部は枕状溶岩化石として太古の海底溶岩流の姿を止めたまま地上に再び姿を現しています。また付加帯に出来る断層は地質の違う所を迂回し曲線的なりますし、石灰岩やチャートは硬いため断層活動による破砕を免れます。従って、付加する時に周囲を取り巻く大陸由来の柔らかい土砂や厚く積もった堆積物に埋もれた海底火山の本体が、粉々に粉砕され跡形も無く消失してしまうとは考えられませんし、巨大な火山がそれまで堆積し続けた付加体の中をかき分け混ぜ返しながら、全くその形のままプレートと共に地中奥深く没して行ったともなかなか想像出来ません。さらに、突然火山本体が外れてそのまま付加帯に付加するということも想像出来ません。そのとき一体どんな現象が起こるのでしょうか?境界面で起こる地震との関係は無いのでしょうか。それらはかもかもが是非知りたいことの一つです。


周辺に分布する赤い岩


剣山は山頂に石灰岩を頂き、南壁にマグマ由来の鉄分を多く含む赤い岩(赤いチャートか?)が分布します。
剣山山系の南部から流れ出す那賀川支流の坂州木頭川には赤い岩がゴロゴロ転がっています。

一見、そこに元海底火山が存在しているように考えたくなります。
しかし、岩石が「のしイカ」のように南北に圧迫され東西に長く引き延ばされた付加帯の中にあっては、どんなにひいき目に見ても「剣山は海底火山が再び地上にそびえた姿」とは言えないでしょう。

むしろ、「海底火山の一部が付加し再結晶して東西に連なる剣山系に姿を変えた」と言う方が妥当かもしれません。何故なら、元となった海底火山本体は剣山とは比べ物にならないほど大きかったはずですから。



 (12)まとめ 

以上を踏まえて、かもかも説・剣山の生い立ちは、以下のようになります。
(例によってあくまでも妄想です。)

  1. 山頂にサンゴ礁をいただいた海底火山の一部が、プレート運動に伴い日本近海で「付加帯」として大陸側プレートにくっつく。この時圧力を受けて東西に長細くなる

     

  2. 付加帯生成の性質上、新しい付加帯は以前に付加した部分の下に潜り込もうとするため、至る所に東西に走る衝上断層(新しい付加帯が低角度で潜り込むため、古い地層が新しい地層の上へ乗り上げ隆起する)を形成する。付加体の堆積物はギュッと圧縮されて頁岩となる。

     

  3. 剣山の元となった海底火山のすぐそばにも衝上断層が出来るが、まだ地質が十分固まらないうちに出来た断層なので、硬い岩盤と石灰岩を持つ元海底火山を迂回するように断層が発生した。

      

  4. 白亜紀に後ろから押し寄せたゴンドワナ大陸の一部、黒瀬川古大陸がどーんと衝突して驚天動地の大地殻変動が。 このとき地中深部が急上昇しその後露出、三波川変成帯となった。きっと乗り上げたりプレートがちぎれたりひっくり返ったりしたんだろうなぁ…。
    剣山周辺も大きく持ち上げられ、隆起準平原となった。

      

  5. その後も、日本列島そのものの移動に伴う引き延ばしや容赦なく続く付加作用にともなう断層活動や破断面の破砕作用も一段と進むが、幸いなことに海底火山に由来する硬い岩盤や石灰岩やチャートのため断層活動や地殻変動による影響を受けにくく、山体が粉々に破砕されることは無かった。

      

  6. 全国有数の降水量による土砂崩れ、構造体に沿って出来る断層破砕帯の崖崩れ、また放っておいても自然崩落する結晶片岩による斜面崩壊のために四国山脈がどんどん低くなる中、浸食に強い石灰岩やチャートを多く山頂にいただく剣山周辺は雨の浸食から山体が守られ、隆起準平原の姿をそれほど変えることなくそこに止めおかれ、「剣山系」となり現在に至る。

      

  7. 南海トラフでは海洋プレートの潜り込みに伴う付加帯形成が進行中で、四国ではそれに伴う土地の隆起が現在も続いている。

      

以上がかもかもが妄想する剣山誕生の物語です。



スーパー林道からの眺め


 おわりに 

四国は付加帯によって地球の歴史がタイムカプセルのように保存された土地です。
剣山周辺は太古の地球に起こった様々な出来事を、形を変えながらその地質に刻んでいます。
剣山以北の四国山脈には、脆くも美しい結晶片岩が妖しく光りながら広く分布しています。

スーパー林道からの眺めた剣山山頂


かもかもが四国を走り回って最も美しいと思った場所は、剣山の東を走る国道193号線沿いにある那賀川最上流部にある支流のひとつ、沢谷川です。
この川は三波川変成帯と秩父帯の境界周辺から流れ出し、海底火山由来の塩基性変成岩と石灰岩の岩盤を削って流れています。そのため、緑や青の結晶片岩、純白の石灰石や石英化したチャート、鉄分を含んだ赤い岩など、両帯に分布する色とりどりの大岩が河原を飾っています。
数キロ下流にある堰のため、残念ながら美しい景観はそれほど長くは続きません。

しかし秩父帯を南下して四万十帯に入ると、景観は一変し河川は急速に色を失います。まるで夢から現実に引き戻されたように、川岸はよく見かける灰色や黒っぽい頁岩に変わり、水も濃い緑色になります。四万十川流域に代表されるように、こちらでは川の景観そのものより、周辺の穏やかで緑豊かな南国の風景に目が移って行くことでしょう。


穴吹川上流の集落


剣山周辺に確かに存在する天上の世界。

昔、人が初めてこの地に分け入ったとき、厳しく美しいその景観に、この地が本当に神の領域だと思ったかもしれません。

四国中心部にお出かけの時には、断層に沿って走る深い谷や屏風のように立ち塞がる山とともに、河原の石、層状になってせり出し目まぐるしく色を変える岩壁、片理に沿ってはがれ落ちたスベスベと輝く岩肌の声に耳を傾けて下さい。
土砂崩れの現場を通りかかったら、転がっている五色に輝く結晶片岩を手に取って御覧下さい。

それらのひとつひとつが、四国誕生の不思議なドラマをあなたに語りかけてくれることでしょう。

お し ま い

長時間お付き合い戴き、ありがとうございました。



神山町の雲


参考文献

「日本の地質8 四国j地方」日本の地質編集委員会  共立出版

「日本列島-その形成に至るまで2ー下」 木村敏夫 古今書院

「日本の国土 自然と開発 上」 小出 博  東大出版会

「地学のガイド 徳島県」 奥村清 徳島県地学のガイド編集委員会 コロナ社

「百名山の自然学 西日本編」清水長正 古今書院

「日本地形誌」 辻村太郎 古今書院

岩波地球科学選書「日本の地質」岩波書店

「日本地質アトラス」 地質調査書 岩倉書店

「日本地質図体系 中国四国地方」地質調査書

「鉱物・岩石」 保育社

「プルームテクトニクスと全地球史解説」 熊澤峰夫 丸山茂徳  岩波書店

「構造地質学」 狩野謙一 村田明広  朝倉書店


 剣山:前編にもどる 

2003年11月29日記   撮影 Nikon D1x   

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