最近の話題 2002年09月14 日

1.モールド樹脂問題:2002年9月13日付け日経新聞の解説の解説

  この話題はスキップしようかと思っていたのですが,9月13日の日経一面に「富士通HDDに不良品」という記事が載り,その解説が的外れなので,思い直して書くことにしました。

  同じ日経系列の日経マイクロデバイスの9月号に「LSIパッケージ内でピン間短絡事故が多発 クレーム相次ぎ,一部訴訟 封止材の難燃材が原因と見られる」という記事が載りました。この話は米国でも問題になっており,メリーランド大学が調査結果をだしています。

  ようするにICやLSIをモールドするエポキシ樹脂を難燃化するために添加したリンが吸湿により燐酸になり,パッケージのリードのメッキの銀がマイグレーションを起こしてリード間でショートを起こすというものです。モールド樹脂は基本的な材料ですから,多くの メーカのICやLSIに使われてあちこちで問題を起こしており,富士通のHDD問題はその一つに過ぎません。

  もともと難燃剤としては臭素が使われていたのですが,塩素,臭素といったハロゲン系の元素を燃やすとダイオキシン系の有毒ガスが出ると言うことでハロゲンを使わないという動きが広がっており,これに応じて住友ベークライト社も材料をリンに変更した訳です。ところが変更後の評価が不十分で,製品に使われて出荷されてから半年とか1年でぼろぼろ壊れる (不良率は1%とか2〜3%というレベル)という最悪の事態になってしまいました。

  日経の解説は「外部調達の業界 品質管理に課題」と書いていますが,パソコンメーカ→ディスクメーカ→ファブレス半導体メーカ→パッケージコントラクタ→モールド素材メーカのチェーンの一番下まで一貫生産するのは非現実的で,これを品質管理するのも至難の業です。勿論,素材メーカだけの責任ではなく,その上のチェーンの各社も問題を見逃して製品に採用してしまった責任があります。そのために報道のように,富士通はディスクの交換に100億円を越す費用がかかり,パソコン各社もリコール,修理の費用は同じような規模に上るでしょう。 これは富士通のディスク関連だけの話で,その他の用途も入れると業界全体の損害としては優に一千億円を越えるのではないでしょうか。しかし,素材メーカの売上げはこれに較べて微々たるもので,この費用を 全て素材メーカに負わせるというわけにも行きません。

  ようするに環境にやさしい材料に変更したときのチョンボで業界全体で膨大な金が無駄になったわけです。

  IBMは事業を日立に売ってHDDから撤退しましたが,2000年9月から2001年9月と言えば,まだ,HDD大手の時代で,NECもHDDを作っているはずで,この両社のパソコンに富士通のHDDが搭載されていたとは知りませんでした。

  PS. 9月14日の日経新聞の11面に掲載されたフォロー記事はまともになりました。13日の記事を見た日経マイクロデバイスあたりの記者が御注進と情報提供したのでしょうか。モールド材の問題が原因で,富士通が問題のICの供給元に対して補償を求めて訴訟を起こしていると書かれています。しかし,上に述べたような構造を考えると 補償問題は簡単には決着しそうにありません。

  PS.2 住友ベークライト社は9月13日に以下のような見解を発表しました。(1) ICメーカの仕様に適合し,評価に合格した製品を納入してきた。(2) 問題発生の報告から,調査を行ってきたが根本原因はまだ究明できていない。(3) 販売総量のうち,問題が出た用途は非常に限定されている。(4) ICメーカは完成品の品質を評価して合否を判定して使用している筈。当社は,それらがどのような環境で使用されるのか知りうる立場にない。(5) 顧客ニーズ優先の立場から無機燐含有のエポキシ樹脂封止材料の生産,販売を中止し,代替材料を供給している。要するに,当社には責任が無いという見解です。

2.IDF2002 Fall概観

  Intel Developer's Forum 2002 FallがSan Joseのコンベンションセンターにおいて9月9日から12日に掛けて開催されました。キーノートスピーチはこのリンクから見られます。

  Otellini社長のキーノートの主題はコンピューティングと通信のコンバージェンスで,高帯域の無線を通してビデオやオーディオを含む大量のコンテンツ何処でも何時でも使える時代が来るというイメージを強くアピールしていました。

  これはその通りですが,パソコンはビジカルクのような表計算,オフィスに代表されるツール,そしてインタネット接続とコンピュータならではのキラーアプリがあって普及してきたのですが,無線を別にすると向上するMIPSの使い道としては音楽とビデオしか無いというのでは,これまでの成長を維持するにはパンチ不足です。Intel-Microsoft連合はMIPSを浪費させる方法をずっと考えてきたのに,この程度しか考え付かないのではパソコンの将来が思いやられます。その点ではソニーなどの家電メーカの方がアイデアがありそうで,将来はパソコンより,ディジタル家電の方が中心になりそうな感じがします。

  Otellini社長の話で新しい話題は,LaGrandeテクノロジです。これは暗号化エンジン,プロセス間のメモリ分離をサポートするハード機能,ストレージの暗号化機能などをCPUとチップセットに取り入れてセキュリティーを強化しよというものです。MicrosoftはPalladiumのいうセキュリティー強化プロジェクトがあり,これに呼応するものと言えます。しかし,セキュリティーを強化すると使い方が面倒になることが多いので,すんなりユーザに受け入れられるかどうか難しい面があると思います。

  プロセサ関係の話題としては,デスクトップのLouis Burns副社長の話は新味がなく,3GHzのP-4が出るよという話と,アクティブ冷却と電源を上げたP-4チップが4.7GHz程度まで動いたよという話が殆どです。低温と電源アップ をやっているような説明があり,これで30〜40%程度高速化できるので,通常条件で3.5GHz程度で動くチップがあれば4.7GHzのデモは出来る と思います。ということでデモ効果は別として,大した意味はありません。もう一つはHyperThreadingを前面に出しており,Otellini社長のプレゼンでも,2003年にはサーバでは80%,ハイエンドデスクトップの25%以上で使われるといっています。

  モバイルではBaniasの情報がある程度公開されました。77MTrで1MBのキャッシュを内蔵しています。分岐予測の高度化やuOP フュージョン,ハードウェアでのスタック管理などの高性能化を適用したとの説明で比喩を使った説明があるのですが,省電力のために必要なところだけ電気を入れる方式の説明で,高速道路の照明が車が居るところだけが点灯し,車の移動に従って点灯しているところが移動する説明は良く分かるのですが,その次のスタック管理 ハードの説明で,有料道路の料金所が次々とある絵で,一方はそれぞれのゲートで止まるのに対して(スタック管理を入れた)もう一方は止まる必要がなくスムーズに抜けられるという説明が全く分かりません。何方かお分かりの方があれば教えて下さるようお願い致します。

  皮肉はともかく,電力制御を徹底して消費電力を減らし,MPEG4のデコード状態で7W,待機時は1W以下というのは大したもので,Transmetaなどには強力なパンチです。また,液晶などの他の部品の省電力への取り組み,燃料電池を含めた高性能電池への取り組みなど,無線での常時接続を行った状態で電池寿命8時間への取り組みを着々と進めているのは大したものです。

  何時でも何処でもの思想を実現する802.11a/bの無線機能のどこがBaniasチップ自体に関係があるのかはよく分かりませんでしたが,Banias PlatformとしてはCalexicoというチップセットで,802.11a/bの無線とBlue Toothを標準装備する構想は評価できます。それから無線の問題であるセキュリティーとしてVPNスタックをサポートするという姿勢も評価できます。

  サーバの最大の話題はItanium Family Processorの三代目であるMadisonがデモされたことです。各社のItanium 2採用製品の紹介の後,UnisysのシステムでItanium 2の4CPUモジュールをMadisonに変更して性能が向上するというデモをやっていました。SAP APOベンチマークでは1.25GHzのAlpha 21264を1.0として1GHzのMcKinleyが1.09,Madisonは1.4というスライドが公開されました。Madisonのクロックは公表されなかったのですが,キャッシュは6MBに増強されたのですがコアアーキは殆どエンハンスが無いので,この性能からみて1.4〜1.5GHz程度のクロックと思われます。

  通信関係で興味を惹いたのは,Ethernetの高速化への取り組みで,特に1GBit Ethernetチップの低電力化です。これでデスクトップはもとより,ノートでもGbitEtherが使えるようになるといっています。現在は10M/100Mが中心のEthernetが,2003年にはGbitが同程度のシェアを持つようになると予測しています。

  もう一つの目玉はXScaleで,PDAのような小型のデバイスではこちらが中心になることから力が入っている感じです。大きな目玉はWireless MMXで,PentiumのMMXを多少拡張した機能をARM V5のアーキテクチャに独自拡張しています。これにより,例えばMPEG4のデコード性能が60%向上すると言っています。また,PC用に作られたマルチメディアソフトの移植が容易という点をアピールしていました。しかし,残念ながらこのWireless MMXは他社にライセンスする予定は無いとのことなので,ARMの将来のマルチメディア拡張とは別のアーキになってしまいます。

3.NECのItanium 2サーバがtpc-c結果を登録

 2002年9月9日にNECのItanium 2ベースのサーバであるTX7/i9510のtpc-c結果が登録されました。 この結果は,IDFでも大きな扱いで報告されました。

  1GHzのItanium 2 32CPUで308,621 tpmcという結果で,Intelプロセサを使ったノンクラスタ システムの記録をほぼ倍増しました。世界最高という報道もありますが,これはIAの中でという話で,全体としては富士通のPrimepowerの記録は破られていません。

  OSは.netサーバ,DBは64bit版のSQLサーバで,トランザクションモニタはMicrosoft COM+を使っています。サーバハードは256GBのメモリを搭載して約$1.4M,20TBのディスクが$2M弱,32台のクライアントとソフト等を合わせてシステム全体では$4.08Mです。これに3年間の保守費用$1.26Mが加わり合計$5.33Mになりますが,大型システムのディスカウントがあり,全体では$4.6Mとなっています。

  32CPUの結果としてはIBMのp690の403Kの3/4程度の結果で,CPUのSPECint2000がほぼ同じことを考えると,ちょっと物足りない結果です。多分,MicrosoftのDBやOSがまだ十分にチューニングされていないのではないでしょうか。性能では負けているのですが,性能当たりのコストではp690が$17.8/tpmcに対して$14.96とTX7が勝っています。

  しかし,NECのTX7のページは,「高度な計算性能を,より身近に,使いやすく。科学技術計算の多彩な分野で,最新の計算ニーズに応えます。」とあり,TX7は科学技術計算用と思っていたのですが,これでコマーシャルアプリの典型であるtpc-cをやられてはExpress5800の立場がないような気がするのですが,如何なものでしょうか?

4.AMDのClawHammer遅延

  2002年9月12日にAMDがプロセサロードマップを更新しました。大きな変更はX86-64の第一弾であるClawHammerの時期が2003年1Hとなり,従来のロードマップから3ヶ月程度遅延したことです。上位のサーバ用のSledgeHammerの時期は変わっていません。また,現在のThoroughbredの後継である512KB  L2$を内蔵したBartonコアのAthlonも3ヶ月程度延期したロードマップになっています。

  IntelがIDFでバンバンアピールしているのを見ると,劣勢が目立ち,また,赤字が増えそうな気配です。