1391472
Date 12JUN87
Plt No F2 Model M

1987年頃から1992年頃まで生産された息の長いモデルです。101鍵盤の代表機を1391401とすれば,本機はSpace Saverの代表機と言えます。

1391472の正面写真

写真のようにオリジナル品は灰ロゴなのですが,1391401同様,1990年代に入ると同じ型番で排水口付きの青ロゴのものが出てきます。私の手元にある灰ロゴ・1987年産の2台はいずれも,FとJのみがキートップ取り外し式,他のキーは一体型です。最初の一台を入手した時,これはおそらく修理品であるがためにそうだと信じたのですが,別のルートから入手した別ロットの1391472(1987年製)もまたそうだったので,これは本機の共通の特徴なのかもしれません。

1391472の灰ロゴの写真

同時期に作られた1390131と並べてみました。単に10キーを切り落としただけではなく,ロゴのある部分の幅が半分程度に狭まっていることがわかります。「アメ車」という語感に象徴的なように,アメリカという国の特徴のひとつを,不必要とも思えるくらいの巨大さに結びつける向きも多いことと思います。しかし101標準配列が確立してまもなく,本機のような小型の鍵盤が設計され流通していたことは面白いところです。

1391472と1390131の比較の写真

ケーブルは当然着脱式です。単品市販品には,1391401などと同じく,灰色のカールコードが付属したようです。1390131で添付された黒色の太いコードが同梱されたという情報は私の知る限りありません。

1391472の裏面写真

鍵盤裏面には,スピーカーの穴がありますが,例によってただの空洞です。1980年代産の鍵盤ですので,排水口はまだありません。

1391472の裏面のラベルの拡大写真

私の手元にある一台は,写真のように1987年6月製です。1992年産の青ロゴのものはPart Noに加えてFru No 1391987などとラベルに記載されています。

1391472の基板の全体写真

筐体を開け,キーをすべて取り外したのが上の写真です。白いさやが入ったものが4つあります。それ以外にはばねが入っています。おのおのの拡大写真を下に示します。言うまでもなく,キーを押し下げるとこのばねがあるところでくの字に屈曲し,その時点で導通するようになっています。座屈ばね機構です。

1391472のキーを支えるさやの写真その1 1391472のキーを支えるさやの写真その2

黒いプラスチック基板が溶着された鋼板の断面は,下の写真のように円筒断面に湾曲しています。このフォルムが打ちやすさの基本となっています。

1391472の湾曲した基板の写真

鋼板の裏には,電気回路基板が非常に太く贅沢なアース線を介してねじ止めされています。この部分に関しては,1390131と素材も作りも同様です。The Keyboard Fileというサイトに,このアース線についてのコメントがあります。本機の製造された1987年の時点では太さも材質も極めて贅沢なものが使われているわけですが,時代が下るにつれ品質低下の兆しが明らかであるそうです。引用もリンクもできないのが残念なのですが,重要な発見だと思います。

1391472の極太アース線の写真

鋼板の裏面を下に示します。黒い大き目の丸は,鋼板にうがたれた小孔から,溶着された基板のプラスチックがはみ出したものです。左下部分に小さ目の丸が10個ほど見えますが,これは溶着プラスチックが衝撃か何かで落ちてしまったものです。ばねのへたりなど表からわかる部分以外に,経年変化はこういうところにも現れます。

1391472の基板が溶着された鋼板の裏面の写真

基本的にSpace Saverものは日本では人気で,オークションでも活発に出品されています。相場は1万円からものによっては2万円程度になります。美品であることをウリに出品されている方も多いのですが,上のように筐体を開けて基板を取り出した上で,石鹸を使ってスポンジで磨けば,明らかな機械的損傷以外とタバコのヤニ以外はたいてい消えてしまいます。油性マジックの文字やガムテープの糊などはアルコールで落ちます。キートップの汚れは歯ブラシに石鹸をつけて1分くらい磨けば完全に落ちます。だから「裏にある擦り傷以外は目立った傷もなく美品です」などと言われても,本当はあんまり意味はないわけです。ぼろぼろのものでも普通に洗えばそうなるわけですから。

1391472を横上から見た写真

そのような外見上の特徴が取引の際の主要な論点になっていることの裏には,この鍵盤が極めて高い耐久性を持っているという事実があります。「ドッグイヤー」などと形容されるコンピュータの世界で,15年前に作られた鍵盤が今もなお実用品として取引の対象になっているというのは,ある意味で奇跡と言えます。

IBM PC以降約10年にわたり,IBMは,不必要とさえ言えるほど質の高い民生用鍵盤の名作を幾種も製造しました。1990年代半ば以降のPC市場の成熟によって,その「良貨」を生み出した思想は経済原則の前に敗北したと言えます。それらの鍵盤を作ったIBMの技術者たちはその後本社から見捨てられて流浪の民となり,Unicompという企業に仮の住処を見つけて今に至ります。しかし彼らの作った鍵盤が,今もなおこうしてIBMのブランドイメージを高めることに一役買っているとすれば,かつての設計思想を少しは名誉回復してあげてもよい気がします。
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