5576-001
P/N : 94-X1220
EC No. C63996

記念すべき日本IIBM5576鍵盤の第一号、1980年代の面影を色濃く残す古式ゆかしい鍵盤です。マルチステーション5550の鍵盤を直接の前身とし、キー配列は基本的に同じです。1986年に発表されたPS/55に添付されたものと考えられます。同年に米IBMからPS/2が発売されていますから,PS/2端子で接続する日本語鍵盤としては最も古い部類に入ります。

キー配列は現代のものとは非常に違います。左側に並ぶ10個のファンクションキーはIBM PC鍵盤においても見られ、80年代テイストたっぷりです。十字型に配置された矢印キーも目を引きます。米IBMのPC用鍵盤において、独立した矢印キーが配置されたのは1986年発表の101鍵盤が最初です。現代のキーボードがそうであるように、そこでは逆T字型の配置が採用されました。5576-002以降の日本IBM製の鍵盤もその配置を取っています。おそらく、本機のような配列は、大型汎用機用のIBMの標準配列(一説にはIBMは「A配列」と呼んでいるらしい)に準拠しているのだと思います。実際、米国の中古市場では、1390876のような鍵盤がよく出ており、その特殊なプラグ形状から、大型汎用機の端末用途に使われた鍵盤であると言われています。その意味では、本機は、大型汎用機の規格とPCの規格の合流点での落とし子と言えそうです。歴史的には実に興味深い存在です。

5576-001型鍵盤の全体図

IBMの資料によれば,1995年6月の段階で定価38000円でした。上記発売時期を考えると生産台数はそれなりに多かったはずです。そのためか,それともキー配列の特殊さから手放す人が多いのか,あるいは会社で廃棄扱いになる時期だからか,頻繁にオークションで出回っています。4000円あれば極美品が,ジャンク品だったらめぐり合わせにより1000円以下で手に入ります。5576-B01ほどではありませんが,街の中古屋でも見かけるようです。エコシスというIBMの大型汎用機の中古品を扱う業者にも在庫があります(2001年7月現在,通販のみ)。

キースイッチは、名機と名高い5576-002と同一のアルプス電気製板ばねスイッチです。反った金属板をぺこぺこさせるようにしてクリック感とOn-off動作を実現します。くきくきというかぺきぺきというか,そういうかわいらしい音がします。座屈ばね式に特有のギャンというばねの残響音がありません。Earheart氏のように叩き打ちする人も,日本人の主流派のように押し打ち人も,どちらも魅了できる素敵な触感です。アメリカ人がこれを触ったら何と言うか興味深いです。

アルプススイッチの鍵盤は買うと結構高いものですから、本機をジャンクで入手して、触ったり分解したりして楽しむのも一興かもしれません。実際に本機を使うとなると、ソフトウェア的にキー配置を変更することになると思います。EscがA01配列の半角全角キーの位置にあったりして実は使いやすい点もなきにしもあらずで,ちょっとカスタマイズしたら手放せなくなるかもしれません。


元祖5576ということで敬意を表して,ネット上から評判を拾ってみましょう。まずakiba.ascii24.com記事には,
「『カシャカシャ』と言うより『カチカチ』というか『クキクキ』というか、あくまでソフトなクリック感。強すぎず弱すぎず、指に吸い付くようなスプリング。長く使われて多少ヘタってはいるのだろうが、とにかく”メカニカル=硬い”という概念を吹っ飛ばす素晴らしさだ。
と書かれています。Earheart氏の使用感も楽しいです。
メカニカルの中でもキータッチは脳汁もので、長いストローク、軽いにもかかわらず確かなクリック感、頑丈な底板、どれをとっても、俺が現在まで叩いた中では最高のキーボードである。とくに俺は、いちいち親の敵のようにキーを叩きつける打ち方をするので、カツン!と小気味良く止まるストロークエンドの感触には、ちょっとしたエクスタシーを感じる。
ちなみに同氏のページには,「ファンクションの下端からスペースバーの上端まで、逆ガルに反っている」と書かれています。単語の選択に意見のある方もいるかもしれませんが,勢いのある表現で,私は好感を持ちます。「逆ガル」配列を呼ぶ言葉として,カーブドスカルプチャなどという単語が流通しています。ただ英語としては,curvedはいいのですが,sculptureという言葉はいささか気恥ずかしく,それをそのままカタカナ表記すると,かなり恥ずかしいです。私は個人的に湾曲配位とか湾曲配置と訳しています。この言葉たち,つかってやってください。

キートップは着脱式で,印刷は青と黒の2色刷りになっています。定価に見合った高級感を醸し出していると言えるでしょう。SOHO Pastoralのページによれば,「キータイプ刻印の青字日本語書式コマンド群は当時PS/55へバンドルされたワープロソフト操作メニューにオリジンがある」そうです(bundle=同梱,origin=起源)。ケーブルは5576系共通の着脱式です。enhanced 101とはコネクタ形状が違いますのでご注意。また,本機のS/Nは97-62で始まり,青丸付です。日本IBMによればこのS/NはPS/55 モデル5530-Lでは使用できないとされています。青丸の由来,諸説ありますがどれも根拠薄弱ではっきりしません。どなたか知っていたら教えてください。

5576-001型鍵盤を横から眺めた図

IBMの大型機にもこれと同種の鍵盤が付属していました。3479-JA13479-JA4です。未確認ですが,むしろこちらの方が元祖ではないかと思われます。それぞれに微妙な違いがあり,鍵盤趣味者としてはうれしい限りです。スイッチの構造は完全に同じなので,耐久性についてのコメントはそちらに譲ります。また、これらの機種との互換性のために、日本IBMはキートップを別売りにして刻印を自由に変更できるようにしていました。これについては、PC/XT/AT的話題のところで透明キーキャップの話として多少補足したいと思います。

2001年8月現在,新品入手はほぼ不可能ですが,冒頭にも書いたとおり,Yahoo Auctionsやジャンク屋での入手は容易です。だいたい予算3000円を想定しつつ,1000円くらいの掘り出し物を探す,という心積もりでいることを勧めます。
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