*************************◆ テックベンチャーNo.98<2002年 2月 5日(火)発行>◆***************************
           こらむ「日本人孤立のシナリオ」
             山本 尚利
          【無断転載を禁じます】

1.2005年のシナリオ
 ピーター・シュワルツ著「シナリオ・プランニングの技法」(東洋経済新報社)に
2005年のシナリオが描かれています。「新しい帝国」、「市場の世界」、「進歩なき変
化」の三つのシナリオが描出されています。3つのシナリオとも2002年現在世界を見事に表
現しています。詳細は同著をご購読いただければよろしいかと思います。ピーター・シュ
ワルツは元SRI(スタンフォード研究所)のフューチャリストで、SRIのコンサルタントで
ある筆者も彼の才能に強い影響を受けています。上記2005年の3つのシナリオは彼の90年
代初頭の予言ですが、当時の時代分析に基づいて、2005年を見通しています。その「進歩
なき変化」シナリオにおいて、アジテータとカルトの出現を予言しており、原理主義と自
由主義の対立を予測しています。
 その予言のとおり、2001年9月11日(セプテンバー・イレブン)を境に、世界は大
きく変わり、時計の針が逆転、突然10年前に引き戻されました。その兆候は2001年1月新
ブッシュ政権が誕生した瞬間から既に滲出していたといえるでしょう。筆者の見方は「進
歩なき変化」より悪質な「退行現象」です。さて米国は第ニ次世界大戦後、市場主義経済
圏を国際的に育んで、ソ連や東欧など官僚独裁国家を経済的に封じこめて崩壊に導いたのです。
60年代、米国はベトナムで軍事的には敗北したものの、その後、対ソ連経済戦争で勝
利したのです。米国にとってソ連崩壊後の脅威の対象が中近東と東アジアにシフトしました。
ところで米国の軍事的脅威に関するSRI内部レポートによると、米国にとって90年代
もっとも危険な脅威はイスラム原理主義過激派で、次が北朝鮮であると既に指摘されてい
ました。だから、セプテンバー・イレブンは米国軍事研究家の長年の懸念が現実のものに
なった歴史的な白昼夢といえます。
 さて、天才的フューチャリスト、ピーター・シュワルツ博士のシナリオで気にな
る、もうひとつの予言は2005年における「日本の孤立」です。90年代初頭、米国にとってエ
コノミックアニマル日本の台頭は非常に目障りでした。シュワルツの冷徹な透視から、当
時、非常に傲慢となった日本の10年後が透けて見えたということでしょう。 90年代初頭
は湾岸戦争が勃発、日本経済バブルがはじけた時代です。当時の日本エリートで、10年
後、今日の日本の惨憺たる状況を見通せた人が何人いるでしょう。当時の筆者は日本企業か
らのコンサルティング依頼が急減、真っ青となっていました。ところで、90年代初頭の
シュワルツによると2005年に日本が孤立しているかどうかは、その間の、米国の対日戦略如
何にかかっていると述べています。

2.ここ15年の米国対日戦略
 筆者が米国シンクタンク、SRIに所属したのは1986年ですから、この15年間の米国
対日戦略はよく見えています。80年代なかば、先代ブッシュ政権におけるクェール副大統
領の競争力向上委員会結成にみられるように、米国は対日攻略という共通目標のもと産官
軍学複合体が自然結束したといえましょう。米国空軍は日本企業のテクノロジーマネジメ
ントの徹底的な研究を米国主要大学に依頼しました。連邦政府はUSTRという対日貿易交渉
組織を結成して、強烈な輸出抑制圧力をかけてきました。日本企業の海外投資の矛先を強
引に内需転換させ、85年プラザ合意にみられるような強引な円高誘導政策が強制されたのです。
 民主主義を標榜する米国とて、経済競争が戦争化するや、とたんに我田引水のルー
ル変更を平気で強制する国です。2002年現在、経済危機に瀕する日本経済の惨状は、ここ
15年間に渡る日米経済戦争の敗戦結果と総括するのが妥当と考えます。 70年代から80年
代初頭にかけて、日本資本の米国進出ラッシュは、ベトナム戦争敗戦後の米国経済疲弊の
弱みにつけこんだものです。米国企業が病みあがりであったため、日本企業が幸運にも一
時勝てたにすぎません。決して日本が真に国際競争力があったからとは断言できません。
日本エリートはこの時点で既に日本の真の実力を見誤っていました。80年代後半から、米
国産官軍学複合体の反撃が開始され、周知のように90年代は米国独り勝ちをもたらしました。
その旗手となったシリコンバレーの隆盛は、米国産官軍学複合体が日本企業の台頭を
もぐらたたきのように、押え込んでくれたおかげであるという見方も成り立ちます。すな
わち今日、日本の惨敗は世界に冠たる日本製造業進軍(Deployment)が、手段を選ばない米
国産官軍学複合体に見事に攻略されたからです。結局日本は米国対日攻略に完敗したのです。
 一方、日本政官エリートの対米戦略の歴史を観察するに、それはあまりに屈辱的で
卑屈な対米姿勢としか言い様がありません。その卑屈さは内閣や日銀や外務省の人事は米
国首脳に握られているのかと疑わせるほどです。まさに敵に塩を売るとはこのことでしょう。
日米経済戦争惨敗の戦犯は即刻責任とってもらいたい。かつて石原慎太郎氏の「ノー
と言える日本」が米国で評判となったのは当然です。米国エリートからこんな気骨ある日
本人もいたか、という反応です。米国人に対して従順な日本人より、嫌米主義者と誤解さ
れるくらいのサムライ石原慎太郎氏のほうが、米国識者の間では評価されます。立場が違
えば、意見が対立するのは当り前、それより、卑屈な面従腹背の日本人が米国人には不気味
であり、もっとも嫌われるでしょう。この卑屈メンタリティは日本を世界から孤立させる
原因となる危険なものです。

3.日本人の孤立
 前述ピーター・シュワルツの警告「日本の孤立」は看過できない重要なメッセージです。
 筆者はすぐさま、カルタゴの悲劇を連想しました。カルタゴは紀元前10世紀に地中
海文明をもたらしたフェニキア人都市国家として有名ですが、エコノミックアニマル時代
における日本とのアナロジーが数多く研究されています。ところでカルタゴは紀元前2世
紀頃、ローマ人に全滅させられます。現在のローマ人とは米国人であると比喩できます。カ
ルタゴがなぜ全滅させられたか、現代風に言えばローマ人にとって「不気味な脅威」とい
う目障りな嫌悪の対象だったからです。カルタゴ市民はおとなしく、表立ってローマ人に
逆らうことはなかった。何も悪いことをしていないのに、なぜ滅ぼされなければならな
かったのか?一方、戦後日本は米国から徹底的に軍事力増強を制限され、さらに子羊のごと
く従順な日本政官エリートの対米隷属主義にもかかわらず、軍事力を全く持たない平和的
日本製造業が米国産官軍学複合体から、なぜこれほど完膚なきまで叩きのめされなければ
ならないのか?。
 さらに深刻な問題は、多くの日本人の、米国対日攻略に対する被害者意識が極めて
希薄である点でしょう。おかげで対日攻略の米国エリートは笑いが止まらないので
す。また今では構造不況の元凶とみなされる日本的経営は、米国産官軍学複合体の徹底的研
究によって、ズタズタにされたと言えます。日本人のアイデンティティが国際的に否定さ
れたのです。実に巧妙な知能的対日攻略です。日本的経営は伝統的日本人の良きメンタリ
ティが生きてこそ成立します。ところが伝統的日本人メンタリティは既にメタメタに滅ぼ
されました。戦後、初等教育を通じて米国価値観の移植が行われ、いま日本人の価値観が
大混乱を起しています。特に、日本政官エリートの米国民主主義原理のつまみ食いには目
に余るものがあります。現在の日本の社会システムは全く論理的一貫性のないデタラメな
ものです。そしてこの社会システムを牛耳る日本政官エリートのモラルもデタラメとなっ
てしまいました。しかもこの病根が社会全体に蔓延し始めました。その証拠に繰り返され
る無数の政官不祥事のみならず、某食品会社詐欺事件のように最後の砦である日本製造業
界まで伝統的日本人のモラル喪失が拡大する事例が出たことでそれは窺われます。多くの
日本人は「ブルータスよお前もか」と大ショックを受けました。
 しかし、この一見稚拙な事件とて、最終的に誰が高笑いするのか、陰謀はないのか
と疑わなければなりません。日米欧企業は相変わらず経済戦争を戦っているのです。戦争
に陰謀はつきものです。日本の村社会は善意の癒着(トラスト)社会を前提にしているの
で、日本人のモラルが堕ちたら瞬く間に始末の悪い利権横行社会と化すのです。世界は国
際経済戦争を戦っているのに、国内でのんきに盗賊的利権の死守に血道をあげている場合
ではありません。もはやここまで堕落すれば、米国の対日攻略エリートは日本をただ傍観
していればよいのです。日本が勝手に自壊し始めるからです。後は、かつての日本人が遺
した国内資産を合法的にごっそり頂ければよいのでしょう。国家栄枯盛衰のメカニズムは
紀元前から本質的には変わってはいないのです。

山本尚利(やまもとひさとし)
http://gatecity.gaiax.com/home/hisa_yama
hisa_yamamoto@mug.biglobe.ne.jp

●編集後記
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 殷鑑遠からず、ならぬ、カルタゴ鑑遠からず、ですね。さてしかし、とかく目先の
ことに追われ、つい先日のことすら鑑とできない場合はどうしたらいいんでしょうね?
 もちろん、そんなときにはTech Ventureを読むことです。もうすぐ100号達成で
す。最初からあるいは途中からご愛読の皆様に多謝多謝。さて、100号はどなたの、どんな
原稿がのるでしょうか? お楽しみに(Y)