ベンチャー革命2004925

                           山本尚利

タイトル: MGM買収:ソニーの危険な賭け

 

1.ソニーの米映画会社経営の経緯

2004925日付け、日経新聞には、ソニーがMGM買収に最終合意したと報道されています。この記事には、米国金融企業連合軍とのやりとりが細かく報道されています。 ところで、ソニーは1989年、バブル崩壊前、コロンビア映画を34億ドルで買収、米国の反日運動の起爆剤となったことを思い出します。ソニーを代表とする当時の日本のコンシューマ・エレクトロニクス・メーカーが米国市場で家電製品を売りまくり、米国家電ブランドのRCA(注1)を消滅に追いやったことに対し米国民の激しい恨みを買ったのです。その神経を逆撫でするかのように、ソニーは、無謀にも、米国で稼いだお金で、コロンビア映画を買収してしまいました。このニュースで米国民がついにブチ切れたのです。強烈なジャパン・バッシングが起きて、米国覇権主義者(注2)の対日攻略が正当化されてしまいました。そして、90年代初頭、ついに日本経済はオウンゴール(自殺点)のバブル崩壊に至ったのです。

 上記のように、米国人のあまりの反発に当時のソニー幹部は仰天し、急遽、米国に派遣されたのが、出井(現)ソニー会長だったのです。コロンビア映画の経営は見事に立ち直り、後に、出井氏はソニー社長に昇進することになります。他方、松下もソニーに倣ってMCAを買収しましたが、こちらは無残に失敗して数千億円の損失をだしました。いずれにしても、日本企業が米国企業を買収して経営を好転させるのは非常に困難です。その意味で、ソニーがコロンビア映画の経営を成功させたのは奇跡に近いといえます。ソニーはそれ以前から、ソニー・アメリカの経営を米国人にまかせ、米国人材の扱いに関するノウハウが蓄積されていたことがコロンビア映画再建にプラスに作用したと思われます。

 80年代、コンシューマ・エレクトロニクス・メーカーであったソニーが、まったくの異業種である映画事業への進出を企画・実行したのは、大変な冒険でした。盛田会長という優れた経営者あってこその偉業でした。ただ、ソニーの先行モデル企業、RCANBCというテレビ会社を経営するなど、メーカーにおける脱製造業の多角化戦略は米国では珍しくなかったのですが・・・。RCAは結局、多角化戦略に失敗、GEに買収されますが、GEはメーカーでありながら、RCA買収で手に入れたNBCに加えてGEキャピタルというノンバンク金融業で高収益を上げています。80年代から90年代にかけてのソニーの事業戦略は、RCAGEの事業戦略が強い影響を与えているのは明白です。

 ところで筆者らは、以前から、ソニーの新事業戦略には注目していて、MOT(技術経営論)の観点から、日本企業の中では理論的にダントツに高く評価しています。(注3)

 今回のMGMの買収も、ソニーの中長期的な事業戦略に沿って、実現したのだと信じます。

 

2.ソニーのMGM買収の問題点

 上記、日経新聞によれば、コロンビア映画の買収時、全額、ソニーの自己資金(34億ドル)で賄われたのに対し、今回、MGM買収は、米国金融会社連合軍との共同買収で、ソニーの出資はわずか3億ドル(出資総額16億ドルにおける出資比率19%)でしかありません。MGMの保有する負債20億ドルを含め、買収総額は49億ドルであり、出資総額16億ドルとの差額33億ドルは、米国金融会社JPモルガン・チェースなどからの融資で賄われるようです。同じ買収でも、コロンビア映画の買収とは、今回の買収条件に天と地の差があります。ソニーがMGM経営権の3~4割を握ったと報道されていますが、それが事実なら、巨額融資の保証をソニーが受けているということでしょう。素人の筆者からみても、このMGM買収案件は、ソニーにひどく不利にみえます。不利の第一は、コロンビア映画(現ソニー・ピクチャーズ)と違い、MGMの経営では、ソニーは米国投資企業連合軍から干渉されることは避けられません。それでも、ソニーのてこ入れによって、もしMGMが収益を上げれば、利益の大半を米国投資企業群にもっていかれます。逆に、MGMが損失をだせば、その損失をソニーがそっくりかぶることになります。

 これほどまで、譲歩しなければソニーはMGMの経営権を手に入れることができなかったと推察されます。逆に、これほどソニーに不利な買収であったからこそ、米国覇権主義者がこの買収案件を認めたのでしょう。さて筆者は、以前、ソニーのMGM買収計画のニュースが流れたとき、よくもまあ米国覇権主義者が反対しないなと不思議でした。今回、日経の報道で、その疑問が氷解しました。こんな不利な条件なら、米国覇権主義者は反対しないはずです。ところで、筆者の米国覇権産業論(注2)によれば、映画は、旅行とならび、経験産業(注3)の代表的産業であり、日本に絶対に譲らない、米国覇権産業のカテゴリーに属します。しかしながら、ソニーがここまで譲歩したことで、米国覇権主義者は折れたのだと思います。本案件は、日本企業による米国軍事企業の買収ではないので、マアイイカ!という、米国覇権主義者の鷹揚さがよく表れています。彼らには覇権産業の国家戦略的優先順位があって、家電産業のように戦略的優先度が低ければ見逃すことがあるのです。ちなみに最高優先度はもちろん、航空宇宙を含む先端的軍事産業です。

 さて米国覇権主義者の読みは、MGMでソニーがもうけられる可能性は非常に低いので、思い切りただ食いして、ツケを回せばよいと考えていると思います。ソニーも、他の日本企業よりははるかに、したたかですから、米国覇権主義者の腹の中はすっかり読みきっているでしょう。

 

3.ソニーの狙いは何か

 米国企業なら絶対に受けないような不利な条件を飲んでまで、MGMを買収したソニーの狙いはいったい何でしょう。新聞には、次世代DVD時代への主導権を確保することではないか、と書かれています。日本の新聞記者は、ソニーはメーカーであるとの先入観にとらわれ、ソニーはデジタル機器ハードのシェアを獲るために、コンテンツ・ビジネスを拡大しようとしていると考えているようです。しかし、筆者の見方はいささか異なります。ソニーのトップ経営者はハード機器事業で、日本の松下やキヤノンなど「ものづくり」優良企業と競争する気は、もはやないと思います。ただし、ソニー社員がどう思っているかは知りませんが・・・。

 ソニーの事業戦略は、筆者らの経験産業論(注3)を完全に先取りしていると見て取れます。ソニーの先見的経営者は、ソニー・ブランドを映画、音楽、ゲームなどの娯楽コンテンツ・プロバイダーのブランドに転換しようとしているのだと、筆者は思います。この事業戦略は、マイクロソフトのビル・ゲイツの事業戦略に近いのではないでしょうか。米国覇権主義者は、このソニー経営者の野望を十分、掌握しているでしょう。そのソニーの野望を逆手にとって、ソニー・ブランドを奪い取ろうと企んでいるかもしれません。なぜなら、日本発企業ソニーの野望は、米国覇権主義者には絶対に許せないアンタッチャブル領域への侵入だからです。一方、ソニー経営者も、長年、米国覇権主義者との葛藤の経験から、彼らの心理を読みきっているでしょう。したがって、ソニー経営者は危険を十分承知の上で、社運を決する賭けに打ってでたとみなすことができます。

 筆者の考えでは、日本人が経営する限り、ソニーが映画事業で世界一になることを米国覇権主義者が許すことは絶対にありません。日本発企業ソニーが米国市場で今後とも活躍したいならば、残された道は二つです。まず、ソニーがMGMを抱えて、経営がつまずき、株価が暴落、米国外資に経営権を奪い取られる「外資化シナリオ」、もうひとつは、赤字の映画事業をもてあまして、かつての松下のように安値で売却を迫られる「撤退シナリオ」です。

 米国では現在、伝統のRCAブランドが消滅しているので、米国には、ソニーのガチンコ・ライバルが不在です。ところが、米国覇権主義者には余裕ができて、マイクロソフト、デル、HP、アップルなどを日本ライバル攻略の旗手として応援しようとしているように見受けられます。それと同時に、日本発ソニーが外資化されて米国ブランドに変貌すれば、事実上、栄光のRCAブランドに匹敵する米国ブランドの復活となり、米国覇権主義者にとって、長年の懸案事項であった、コンシューマ・エレクトロニクス覇権の奪回に成功することになります。これまで、この分野の覇権優先順位は軍事産業や医薬産業に比べて低かったので、単に後回しにされてきたにすぎませんが・・・。

 米国覇権主義者による日本支配が進行してきた今、ソニーを攻略できれば、次はいうまでもなくトヨタ・ブランドの攻略が待っているでしょう。米国人は何事も、優先順位をつけて、ひとつひとつ、潰していきます。その執念たるやプレデター(猛獣)そのもの、草食動物に近い日本人の想像をはるかに超えるのです。

 

注1:RCAのデビッドサーノフ研究所は、1987年、RCAを買収したGEのジャック・ウェルチによって、筆者の所属していたSRI(スタンフォード研究所)に1200人の研究員込みで無償譲渡された。ただし、移籍に応じた研究員は900人。テレビ、ビデオ、液晶、画像処理技術などRCAの特許の多くは日本家電メーカーに安値で売られて、今日、世界最強を誇るデジタル家電産業が日本で形成された。

 

注2:山本尚利「日米技術覇権戦争」光文社、2003

本著は、光文社の要望にて、光文社ヒット作の石原慎太郎・盛田昭夫「NOと言える日本」を意識して書かれているが、ソニーの盛田氏は石原慎太郎と並び、昔から、いろんな意味で米国人からマークされていたと思われる。この両者は米国人から見て、小泉首相の真反対の気骨日本人に映る。

 

注3:寺本義也・山本尚利「MOTアドバンスト:新事業戦略」日本能率協会マネジメントセンター、2004

 

山本尚利(ヤマモトヒサトシ)

hisa_yamamoto@mug.biglobe.ne.jp

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