ベンチャー革命2005410

                           山本尚利

タイトル: 現実化する日本の孤立シナリオ

 

1.ピーター・シュワルツの恐るべき予言

 筆者の勤務する早稲田大学ビジネススクールにおいて筆者の講義のベースになっているMOT(技術経営)方法論のひとつにシナリオ・アプローチがあります。筆者の所属したSRI(元スタンフォード大学付属研究所)のフューチャリストであったピーター・シュワルツは、1960年代、戦争の作戦計画手法であるシナリオ・アプローチを企業戦略に応用した人物です。彼は1991年に“The Art of The Long ViewPlanning for the Future in an Uncertain World(注1)を出版し、90年代初頭にシナリオ・アプローチによって15年後の2005年の世界を予言しています。彼は2005年の世界を「新しい帝国」シナリオ、「市場の世界」シナリオ、および「進歩なき変化」シナリオという3つのシナリオで記述しています。(これらのシナリオは1990年の第一次湾岸戦争直後に描かれていると思われる。)

 彼の15年スパンの長期的予言が恐ろしいほど的中していることは、別途、拙著「MOTアドバンスト:技術戦略」(注2)に解説しています。

 この中の「新しい帝国」シナリオにて、日本に関してピーター・シュワルツは重要な予言を行っています。それは「もし、新しい帝国(米国)が2005年に出現するならば、もっとも懸念されるのが、日本を排除した北米ブロック(アジア太平洋経済ブロック)の形成である。これは以前に起こったことである。(つまり、日本が太平洋戦争に突入した1940年代初頭を指す。)米国政府の行うもっとも危険な対アジア太平洋政策決定とは、日本を孤立させることである。米国政府は、日本を友好パートナーとすることもできるし、敵に回すこともできる。」 とのことです。

 ところで、最近、日本に起こっていることを考慮するならば、ピーター・シュワルツの予言が恐ろしいほど的中しているといえます。日本政府の要人は今すぐ、ピーター・シュワルツの予言を徹底研究すべきです。

 

2.日中韓の分断作戦

 一般的に、国家から企業に至るまで、あらゆるタイプの支配体制において、支配者がキング&スレーブ(王様と奴隷方式)で多数の被支配者を支配するための常套手段とは、被支配者間を結束させないことです。いかに独裁的支配者であろうと、個々には弱いが、多数の被支配者が結束して立ち向かえば倒されてしまいます。これが革命というものです。米国が覇権国家としてアジア太平洋地域において、もっとも有望な東アジア地域に支配権を維持しようとすれば、当然、日本、中国、韓国という3カ国の分断作戦を行うでしょう。米国覇権主義者からみれば、日中韓の結束による米国抜きの東アジア経済ブロック化(東アジア共栄圏)は決して容認できないのです。なぜなら、すでに欧州各国が、ピーター・シュワルツの予言どおりEU経済ブロックを形成して、欧州市場に対する米国覇権の支配を排除することに成功したからです。この上、さらにアジア太平洋経済圏が米国抜きでブロック化されることは、確実に米国の孤立を招きます。このことは、MOT方法論のシナリオ・アプローチを少しでも勉強すれば容易にわかることです。ちなみにシナリオ・アプローチを修得すれば、米国覇権主義者の思考プロセスも想像しやすくなります。

 軍政産官学複合体で形成される米国覇権主義者があらゆる手段を駆使して、日中韓の分断を謀るのは当然のことです。このような視点をもてば、今、日本周辺で起きている事件はすべて起こるべくして起こっているといえます。さて米国が東アジア分断作戦で最優先しているのは、東アジアにおいてもっとも豊かな日本国家の米国化(属国化)戦略でしょう。具体的には、小泉政権に対し待ったなしで強制している郵政民営化が挙げられます。米国政府の日本政府に対する2004年規制改革要望書(注3)によれば、「民営化」の項にて、日本郵政公社を民営化するよう要求されています。このことから、いくら郵政民営化が国民のためにならなくても、米国の要望とあれば、小泉政権は何をさておいても忠実に実行しているわけです。郵政族以外の愛国的自民党議員も、このことを百も承知しているからこそ、自民党は政権与党であるにもかかわらず郵政民営化にしぶとく抵抗しているのです。次に「商法」の改正です。これによって、日本企業の米国資本化が促進されます。現に企業の敵対買収問題が日本のホットトピックとなっています。

 上記のような日本国家の米国化(日本の取り込み)と並行して、日本対中国、日本対韓国の分断作戦が実行されています。たとえば、小泉首相に、国連安保理の常任理事国のエサをちらつかせて、日本の国連拠出金を増額させるとともに、イラク戦争への自衛隊派兵を誘導する。その結果、日本の軍事覇権大国化の再来という悪夢を周辺国に連想させて、中国や韓国の反日化を促進することができます。

 それと同時に、世界に分散する親米・反日中国人(民主的中国人)をネットワーク化して反日活動を陰で扇動する。

 一方、日本国内に目を向ければ、小泉首相の靖国神社公式参拝という意図的挑発、戦前の歴史に関する教科書記述変更問題、竹島、尖閣列島、沖の鳥島などの領土問題に関して、日本の愛国主義者を刺激することなどが行われます。この分野では、台頭する親米右翼の活躍があります。日本国内の親米右翼と、日本国外の親米・反日中国人および親米・反日韓国人の共鳴によって、日中関係や日韓関係の悪化は見事に成功しています。

 こういう現象を米国覇権主義者はシメシメ「シナリオどおり」と表現するのでしょう。

 

3.日本のトップエリートの弱点:シナリオ発想の欠如

 誰の仕掛けとはあえて言いませんが、現在進行中の東アジアにおける日中韓の分断作戦は極めて順調に行っているようにみえます。筆者はSRIという米国シンクタンクに所属して、米国覇権主義者のすごさを目の当たりにしてきました。その貴重な経験の結論として、90年代半ば、日本がアジア太平洋地域にて平和的に繁栄する国家に成長するためには、米国の傘から自立して、東アジア共栄圏(注4)のリーダー国家を目指すべきという考えにとらわれた時期がありました。そして1995年、「日本人が東アジア人になる日」という本を出版しました。(注5)同著は、当時、国際経験のある日本人の多くからから共感を得たと思います。耳に入った異論は皆無でした。同著の趣旨は、日本人は白人コンプレックスを棄てない限り、東アジアで平和的リーダーシップを握ることはできない。日本という国家の枠を超えて東アジア人のメンタリティを持とうという主張でした。あれから10年、2005年の今、周知のように中国と韓国にて反日運動が激化しています。1995年当時、筆者の期待のウラに潜んでいた危惧は残念ながら今、現実化しつつあります。つまり、10年後の2005年、日本人は残念ながら筆者の期待通りに東アジア人に脱皮できませんでした。なぜ、期待がはずれたか?

 2003年、筆者は「日米技術覇権戦争」(注6)を出版し、米国の国際シンクタンクSRIの在籍経験に照らして、国家技術戦略の見地から、日本国家がいかに米国覇権主義者に巧みに(しかも無痛で)攻略されていったかを分析しました。米国のトップエリートは日本のトップエリートより、一枚も二枚も上手(うわて)だったのです。とりわけシナリオ戦略発想が非常にプアである点が日本のサラリーマン・エリートの決定的弱点だと思います。この点は戦前から変わらない宿命かもしれません。

 

4.なぜ日本は孤立させられるのか

 ところで日本が中国と韓国から分断されても、日本が米国の同盟国であれば、アジア太平洋経済圏にて孤立は免れることになります。そのせいか日本企業の中国からの即時撤退を主張する親米右翼は強気です。日本において台頭する親米右翼の反中的主張は、米国への絶対的な信頼が前提となっています。ここで再度、ピーター・シュワルツの警告を振り返れば、前述のように「米国は日本を友とすることもできるし、敵とすることもできる」という行(くだり)です。この発想は、MOTの戦略意思決定論におけるオプション理論に基づいています。親米右翼には、このオプション理論的発想が欠落している点において、宿命的なお人好し日本人(能天気)の域を出ていないといえます。

 さて米国覇権主義者は、アジア太平洋地域における潜在的仮想敵国とはどの国を想定しているのでしょうか?それは北朝鮮ではもちろんなく、中国でもロシアでもないでしょう。それは実は「日本」なのかもしれないのです。天然資源もないちっぽけな島国、日本がなぜ、米国の潜在的な仮想敵国なのか?筆者の持論によれば、日本のもつMOT技術競争力こそが米国が口に出せない潜在的脅威だからです。それはなぜか、MOT技術競争力こそ、軍事競争力に直結するからです。日本のMOT技術競争力のすごさ(敵視される)は中国やロシアの比ではない。それがわかっていないのは、米国覇権主義者ではなく、実は、我々日本人自身です。だから、なぜ日本の孤立という国家リスクが存在するのか、日本人自身が気付かない。なんという能天気でしょうか。

 最後に警告すれば、技術大国日本の小泉政権があまりに米国に従順であることは、近未来の日本がローマに滅ぼされたカルタゴの二の舞となる危険をはらんでいます。不必要に従順であることは、異邦人からみると軽蔑と警戒を呼び、最後は「抹殺の対象」となる危険があるのです。(注7)しかも米国の反日戦略のみならず、中国や韓国の反日戦略にまで、余計な正当性を与えてしまいます。結局のところ、日本の国家外交における自立性の欠如は、所詮、軽蔑の対象でしかないのです。

 

注1:ピーター・シュワルツ著「シナリオ・プランニングの技法」東洋経済新報社、2000

注2:寺本義也監修、山本尚利著「MOTアドバンスト:技術戦略」JMAM2003

注3:在日米国大使館ホームページ

http://japan.usembassy.gov/j/p/tpj-j20041020-50.html#shoho-s

注4:ベンチャー革命No.102「東アジア共栄圏の行方」200489

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr102.htm

注5:山本尚利著「日本人が東アジア人になる日」JMAM1995

注6:山本尚利著「日米技術覇権戦争」光文社、2003

注7:ベンチャー革命No.38「対米観の甘い文化人」2003429

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr038.htm

 

山本尚利(ヤマモトヒサトシ)

hisa_yamamoto@mug.biglobe.ne.jp

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/melma.htm

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/magazine-menus.htm