ベンチャー革命2005717

                           山本尚利

タイトル:軍事・防衛技術の日本型MOT

 

1.ミサイル防衛(MD)技術の輸入

 2005716日付け朝日新聞夕刊のスクープ記事は、三菱重工(MHI)が迎撃ミサイルPAC3(地対空誘導弾パトリオット3)の国内生産を行うというものでした。日本がMD技術を米国から導入するにはとりあえず1兆円レベルの国家予算が必要といわれています。財務省はそのために、自衛隊員の削減をほのめかしているそうです。日米の貿易収支の改善には、米国からの兵器輸入はもっとも手っ取りはやい。これまで日本が米国から買うものは、石油、牛肉、先端医薬くらいしかありませんでした。その意味で、米国にとって軍事同盟国(?)であるはずの日本が米国産の防衛ミサイルを輸入してくれることは実にありがたい“はず”です。一方、日本にとっては防衛ミサイルを単に、輸入するのでは能がない。国民の血税を使う以上、ついでに、国産軍事・防衛技術の獲得を目指したいところです。

 ところで日本の防衛庁とMHI80年代前半、中曽根政権時代に、国産戦闘機FS-Xの開発を企画したことがあります。ところが、当時の米国は、この案件を日米構造協議のサカナにして、徹底的にもみつぶした歴史があります。(注1)結局、米国はゼネラルダイナミックス(現ロッキード・マーチン)のF-16を押し付け、しぶしぶ、MHIのライセンス生産(国産F-2戦闘機)を認めたという経緯があります。

 筆者の米国覇権産業論(注1)に従えば、米国の最優先覇権産業が軍事産業ですから、彼らが日本単独(米国抜き)の国産戦闘機の開発を認めるはずがないのです。ただ、彼らが日本国民に向かって、その本音をあまり露骨に出すと、日米安保条約という軍事同盟(形だけの)を結んでいるという事実との矛盾が表面化するので、米国は次の2条件が満たされれば、同盟国日本の兵器国産化を認めざるをえなくなっています。すなわち(1)日本の国産兵器は世界最先端の兵器ではないこと(2)米国技術によるライセンス生産とすること、です。この2点を満たしていれば、米国にとって、国益が脅かされることはないと考えられているからです。

 筆者の見方では、米国にとって日本は永遠に、かつ決して、気の許せる同盟国(ホンモノの同盟国)とはなりません。本音では、依然、日本は油断のならない仮想敵国(ただし潜在的)です。なぜなら、日本が本気になれば、米国の技術を越えるような最先端兵器を開発、生産する潜在能力(MOT力)をもっているとみなされているからです。現に、自動車や電機では日本の技術は米国のそれを凌駕しています。筆者の持論では、自動車も電機も米国覇権産業としての優先順位が軍事や航空宇宙に比して低いために、かろうじて大目にみてもらっているのです。トヨタはさすがに、このことを日本の産官学有識者の誰よりもよくわかっているからこそ、米国でこれ以上シェアを上げないように最近、米国での車の小売価格の値上げ(一種のオウンゴール)に踏み切った。虎の尾を二度と踏みたくないばっかりに・・・。

 

2.PAC3は最先端技術ではない

 朝日新聞のスクープどおり、米国がPAC3のライセンス生産をMHIに認めたとすれば、PAC3が世界最先端技術ではないからでしょう。PAC3を開発・生産するロッキード・マーチンはイスラエル国防軍と共同でアローUという最新鋭防衛ミサイルを開発しています。(注2)要するに日本は、軍事・防衛技術に関して、常に二番煎じの旧式技術しか提供されない運命なのです。それもこれも敗戦国のハンディキャップですからやむを得ません。しかしながらこの際、贅沢は言っていられません。1を聞いて10を知ればよいのです。軍事産業の分野では依然として、改良型新製品開発に強い日本型MOT(技術経営)(注3)が威力を発揮するはずです。日本型MOTは米国後追いという条件の下で初めて威力を発揮します。日本型MOTが威力を発揮すれば、旧式PAC3の技術体系の範囲内で、最新鋭アローUの性能や品質を一部、凌駕するかもしれません。これまで、日本は米国を油断させておいて、あっと驚かしてきましたから・・・。ただ、お人好し企業のMHIはスパイや陰謀に対するリスクマネジメントが実に下手なのが気になります。(注1)

 さてMHI200579日、米国ウェスチングハウス(WH)の買収提案を発表しています。筆者の見方では、この話は米国の国際金融資本からもちかけられたと思いますが、MHIWHを所有する(させられる?)ことで、MHIは米国覇権主義者から鎖でつながれるような立場におかれることになります。PAC3のライセンス生産とのバーター取引かもしれません。さらに別の見方をすれば、日本の国際競争力が凋落してしまった現在、MHIは欧州系国際資本に支援されて成長した、幕末の岩崎弥太郎時代の三菱社のレベルに再び逆戻りということでしょう。つまり、MHIは米国覇権主義者の監視下で、PAC3のライセンス生産を認められるわけです。子分MHIは絶対に、親分のロッキード・マーチンやボーイングを超えてはならないのです。トヨタが絶対に、GMを超えられないように・・・。

 

3.極東での「アジア兄弟げんか」が必要条件(注4)

 米国がPAC3を日本に売りつけて、日本にたまったドル債権を減らすためには、極東での軍事的な緊張関係を醸成する必要があります。極東が平和であれば、PAC3は無用の長物です。その意味で、北朝鮮や中国が日本に向けて攻撃ミサイルを配置してくれているのは、米国軍事産業にとって実に好都合です。太古の昔から人類は戦争を繰り返していますから、極東におけるにらみ合いを解除するのは実に至難です。現在の日本は、日本海と東シナ海を隔てて、一瞬の油断もできません。あいにく、排他的経済水域の境界線には、海底石油資源が存在し、早くも領土争いが始まっています。欧米国際資本の挑発がなくても、日本と中韓朝、あるいは中台は勝手に対立を深めて、お互い墓穴を掘りあっていますから、極東各国は欧州各国に比してまったく大人気ないといえます。軍事技術や石油資源探査技術を独占する欧米国際資本は笑いが止まりません。

 極東各国が、愚かにも彼らにまんまと踊らされている以上、きれいごとを言っても始まりません。近未来、極東緊張が避けられないというシナリオを前提に、この際、日本は軍事・防衛技術をできるだけ、速やかに、効率よく獲得しておくに越したことはありません。ともかく民主主義ルールの通じない国家が複数、極東に存在するのは動かしがたい事実ですから・・・。このような国々には、話し合いは、もともと通用しません。また、いかに平和的な話し合いベースで外交しようと努力しても、今度は、極東内部ではない第三の外部勢力から、さまざまな陰謀が仕掛けられて、所詮、極東内部の対立が煽られてしまいます。この点は日本にとって、まったくのアンコントロラブル・ファクター(制御不能)です。だとすれば、近未来の極東緊張は不可避であり、日本は到底、丸腰国家ではいられません。

 

注1:山本尚利「日米技術覇権戦争」光文社、2003

注2:各国ミサイル防衛への取り組みと日米共同技術研究:防衛白書HP

http://jda-clearing.jda.go.jp/hakusho_data/2004/2004/html/166321.html

注3:寺本・山本「MOTアドバンスト:技術戦略」日本能率協会マネジメントセンター、2003

注4:ベンチャー革命No.132「アジア兄弟げんかの顛末記」20041219

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr132.htm

 

山本尚利(ヤマモトヒサトシ)

hisa_yamamoto@mug.biglobe.ne.jp

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/melma.htm

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/magazine-menus.htm