発行:テックベンチャー
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-PaloAlto/8285

シリーズ『ベンチャーキャピタリストの本質』

村口 和孝
【無断転載を禁じます】

第三話 『ハイテクスタートアップとシェイクスピアの演劇』


1999年3月17日は、多分、日本のベンチャーキャピタル史上で重要な記者会見が行われたと思います。ただ、翌日の新聞は、日経産業新聞が骨だけ取上げただけで、大きなニュースとしては取り扱われませんでした。会見は大手町のKDDホールで午前11時より50人近くの記者を集めて行われました。内容は、「昨年9月に設立されたばかりのスタートアップ会社のインフォテリア社( http://www.infoteria.co.jp/ 緊急記者会見の内容を掲載)が、日本
テクノロジーベンチャーパートナーズ(NTVP) i -1号投資事業有限責任組合の投資を58百万円受け入れる、」というものです。合わせて、ベンチャーキャピタル組合のNTVPから、運営担当ベンチャーキャピタリストの私(村口)が、ロータスの菊池相談役と一緒に社外取締役に就任した事を発表しました。発表者は、インフォテリア社の35才の平野社長、ロータス菊池相談役、NTVP出資者のお一人である堀場雅夫氏(堀場製作所会長)、私、という顔ぶれでした。

ハイテク系の記者会見らしく、コンピュータ関連雑誌の記者が押し寄せた事はもちろん、日本で大変珍しい景色であったのは、証券会社のアナリストなども数人来ていた事です。まるで人種の違う(第二話で触れた文系と理系)日本人が同じ部屋の中に居て、妙な景色でしたが、「カラフルな個人資本主義」を提唱している私としては、気持ちの良い刺激でした。
技術系の専門誌の記者たちにとっては、ベンチャーキャピタリストが注目して投資をした、という事の重要性がピンと来ないみたいだったし、証券会社の人にとっては、まだ第一期の決算数字もないXMLという聞いた事もないインターネットの話に、なぜこんなに技術系の記者が集まっているのか、良く分からないようでした。その場には、技術系雑誌記者、日系証券マンだけでなく、米系証券マンやシリコンバレー帰りの弁護士の顔も見えたし、通産官僚や、大学人と称する機関投資家よりの人もいて、まことにカラフルな景色を呈していました。

何が日本のベンチャーキャピタル史上重要かと言うと、独立個人のベンチャーキャピタル投資事業組合が、設立間もないハイテク開発型(インフォテリア社は98/9設立のインターネットを変えると言われるXML専業ソフト開発会社)のベンチャーに投資し、またベンチャーキャピタリストが「投資契約」にもとづいて役員ではいり、2年程度で株式公開を目指す、という、いわゆる「シリコンバレー型」と言われるモデルを、そのまま日本で実行している点です。また、結構優秀な三十才台の開発者によるスピンアウトのプロジェクトである点も注目されます。そして何より重要なのは、「XMLという分野が今まさに立ちあがろうとしている立ち上がり鼻の産業で、リスクと可能性が混在している前例のないフロンティアを切り開いて行っているプロジェクト」で、どこかアメリカで既に成功事例の出ている分野の真似や焼き直しをしようとしているのではない、オリジナルなプロジェクトであると言う点でしょう。

当事者として弁明させていただくと、何もシリコンバレーモデルなどを目指しているのではなく、一番良い方法を法律に従って選択して組立てたら、たまたま流行の教科書が言うシリコンバレーモデルのようになった、ということで、猿真似をやっているわけではない点を強調させてください。
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シリコンバレーに短期で行った人の困った点は、目隠しをした人が象を触った印象を主張する話と同じで、非常にモノトーン(白黒)の単純な景色をシリコンバレー全体の景色だと、ステレオタイプに言いすぎる点です。例えば、「ベンチャーキャピタリストはもと起業経験者とか凄い能力を持った人しかなれない、」とか、「ベンチャーキャピタルに勇気があって、ドンとお金を出すのは、アメリカの国民性の現れで農耕民族の日本人には無理だ」とか、そういう風に信じている人は、何故日本で今回のプロジェクトのような投資が実現しているのか、理解できないでしょうし、シリコンバレーで活躍する人が必ずしもアメリカ人ばかりでなく、アジア人も多く活躍している事実を説明できないでしょう。

事実、私の友人のアメリカ人(カリフォルニア)はつい最近まで、ベンチャーキャピタリスト(ベンチャー資本家)という古臭い表現は、共産主義(コミュニズム)議論が華やかな頃の表現で、今のアメリカではそんな表現を使わない、といっていぶかっていました。また、そのおじさんは、メリルリンチは有名だが、第二話で触れたロバートソンスティーブンス(インベストメントバンク)などという証券会社は、近所の人も誰も知らないから十分気をつけたほうが良い、と私にアドバイスしてくれていました。これもアメリカの一つの典型的な景色なのです。日本よりももっと宗教的に敬虔で、農耕的で、都会が嫌いで、保守的で豊かなアメリカ人もたくさんいます。

ベンチャーキャピタリストという法的に責任を負った専門家は、アメリカにだって何千人もいないでしょう。それを取上げて、「日本人は全体が農耕民族で保守的なのでベンチャーキャピタリストなんて出来ない」とまで自嘲するのは、ちょっと行き過ぎじゃないでしょうか。またアメリカのベンチャーキャピタリストもまさにピンキリで、ベンチャーキャピタリストといえばすべてスーパーマンのように畏怖するのも間違いです。ですから、我々日本人が目指すベンチャープロジェクトは、アメリカ型である必要などなく、そもそも純粋なアメリカ型などといわれているスタイルが標準としてあるわけでないことを、心にとめておくべきでしょう。

あるのは、ただ「グローバルで過酷なベンチャー同士の競争」のみです。同様に、NTVPで御投資させていただいたインフォテリア社だって、グローバルに激しい競争にさらされています。ハイテクベンチャーの世界は、小さい世界ながら、毎日毎時間世界戦争を繰り広げているのです。ベンチャーキャピタリストは、さしずめ「ベンチャー界に大量の強力ジェット燃料をお届けする戦略武器商人」と言っても言いすぎではありません。実際の現場では、モデルがどうのこうのとは言っていられない過酷な戦いが展開され、数年もしないでその結果が、明らか過ぎる明暗となって現れます。それはそれは恐ろしいほど明解で過酷な結果です。結果の明らかさは、これも古今東西、「戦争の勝ち負け」と同じです。
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さて、大学在学中、私はシェイクスピアの演出に没頭し、一年留年をしてしまいました。二浪したのに一年留年を重ね、田舎の決して裕福ではない親父とお袋には迷惑をかけた、と今でも思い出すと心が痛いです。
しかし、私はシェイクスピアの演劇から多くのことを学びました。学んだことのひとつは、「人生の現場は戦争だ」、という過酷な、しかし、すばらしい事実です。ローティーンのロミオとジュリエットが出会って自害するまでに、たったの三日しか経っていません。その三日間の間に、いったいどれだけの多くの事件が起こったことか!人間の過ごすたった数日間と言うものが、いかに人間を、そして周囲を変えてしまうものか?

我々はたいがい、読者も含めロミオとジュリエットよりも成人した大人でしょう。読者はエンジニアで、何か研究しているのかもしれません。いつも思うのですが、成人した大の大人が何人か集まって、数ヶ月夢中になってやれば、何かあっと言わせられるような事が出来るのではないでしょうか?私は常々、ベンチャーキャピタリストとして、「あらゆるベンチャープロジェクトは1000日で勝負がつく、つかなければ早急に方向を変えるべきだ、」といつも言っています。何と千日です!
ロミオとジュリエットの出会いから自害するまでの美しくも過酷な三日間に比べたら、ベンチャープロジェクトは随分スローモーなのんびりした作業だとお思いになりませんか?
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第三話は、インフォテリア社への緊急記者会見の模様をお伝えしたので、シェイクスピアの話題が短くなりました。第四話でもう少し、大学時代の話を続けさせてください。

日本テクノロジーベンチャーパートナーズ(NTVP)投資事業有限責任組合
ベンチャーキャピタリスト 村口和孝( http://www.ntvp.com)
(禁無断転載。全ての著作権は著者に属します。)