ダイオードの理論2 フェルミ準位 

初出 2001.05.26
改訂 2001.07.31

おお、お主か。待っておったぞ。酒は持ってきたじゃろうな。ん?持ってきた?さっさと出さんか。
どれどれ。ふむ、土佐鶴注1か。まあまあじゃな。わしとしては梅錦注2のほうが好きなのじゃが。これもよい酒じゃ。
注1 土佐鶴:高知の銘酒  注2 梅錦:愛媛の銘酒
で、肴はどうした。肴は持ってきておらんのか。気の効かぬやつじゃのう。酒といえば肴ではないか。
しかたない。婆さんや何かつまむものはないか?なに?鍋のフタ?ボケておるのではないぞ。酒のつまみじゃ。鍋のフタをつまみながら酒を飲めるか。ああ、何?緋の蕪漬け注3がある?おお、それでよい。持ってきてくれ。ついでに湯飲みも頼むぞ。いや一つでよい。こやつに飲ませたら、わしの話を聞きながら眠るに決まっておる。
注3 緋の蕪漬け:松山名産。外側は赤紫色、中は白色をした緋の蕪が原料。この蕪を柑橘酢に漬けると、鮮やかな緋色に変わる。着色料を使っているのではとよく言われるが、無着色である。緋の蕪は松山周辺でしか取れないそうだ。
さて、始めるとするかの。座れ。何?床が固いので座布団が欲しい?おぬしもだんだんずうずうしくなってくるのぉ。
婆さんや、布団を出してやってくれ。これ!何をしておる。夜具などを出しおって。今から寝てどうするのじゃ。その布団ではない。座布団じゃ、座布団。まったくもうボケおってからに。

半導体のバンド構造

半導体のバンド構造 前回はどこまで話したかのう。ん?電子の共有結合までか。よし。それではバンド構造の話からじゃ。

原子が集合して固体結晶をつくると、個々の原子の電子軌道は無数の軌道となりバンドを形成するのじゃ。半導体のバンド構造を図にすると右のようになる。

バンドはエネルギーが低い方から順に価電子帯(valence band)、禁制帯(forbidden band)、伝導帯(conduction band)と呼ばれておるのじゃ。

価電子帯は電子が充満おるところじゃ、逆に禁制帯は電子が入ることができない場所なのじゃ。価電子帯の電子は普通隙間なく充満しておって動くことができん。つまり、価電子帯の電子では電気伝導は起こらんのじゃ。一方伝導帯にある電子には隙間があるでの、その電子が動くことによって電気伝導が起こるのじゃ。

いわゆる導体や絶縁体というものは、この伝導帯に電子があるかないかでその性質が区別されておるのじゃ。どのような状態でも伝導帯に電子がある物質を導体、どのような状態でも伝導帯に電子が存在しない物質を絶縁体と呼んでおるぞ。

さて、半導体の話じゃ。半導体は絶対零度(T=0)では電子が価電子帯にしか存在しておらん。伝導帯には電子がないので、電流は流れんわけじゃ。
これが、温度が上がると(T>0)電子にエネルギーが与えられるでの、いくつかの電子が伝導帯にあがってくるのじゃ。励起と呼んでおるぞ。
伝導帯に電子が励起されるためには、禁制帯を飛び越える必要がある。禁制帯のエネルギー幅は、バンドギャップ(band gap)と呼ばれておる。
Eg=qVg ・・・ 2.1
 Eg:バンドギャップエネルギー
 q :電荷素量
  Vg:バンドギャップ電圧
このバンドギャップを飛び越える電子の数は、熱力学の法則に従っておって、
-Eg/kT ・・・ 2.2
 k :ボルツマン定数
というボルツマン因子程度の割合で伝導帯に電子が励起されるのじゃ。

シリコン結晶と励起電子 すまんの。前回の電子の共有結合の概念図じゃが少し書き方を変えたぞ、前回のものはどうも面倒での。これでもわかるじゃろ?

むろん、伝導帯に励起された電子は移動が可能で電流を運ぶことができるのじゃ。
その上、電子の励起によって価電子帯に空いた穴は正の電荷を持つ粒子のように振る舞い、これも電流を運ぶことができるようになるのじゃ。このあたかも正の電荷をもった粒子のような穴は正孔(positive hole)と呼ぶのじゃ。

半導体は、金属と比較すると動ける荷電粒子(キャリア carrir)の密度が圧倒的に小さいから、その抵抗値はずっと大きいぞ。キャリアの数は温度の上昇で多くなるから、半導体は温度が上がると抵抗が下がるという性質を持っておるのじゃ。この性質を利用したものにサーミスタ(thermistor)というものがあるぞ。知っておるじゃろう。

純粋な半導体ではの、キャリアとなるのは熱的に伝導帯に励起された電子と、その抜け穴である正孔なのじゃが、室温程度ではこれらの数密度は小さいでの、その電気伝導度は比較的小さいのじゃ。このような状態を真正(intrinsic)半導体というのじゃ。

そこで、半導体の電気伝導度を大きくするために、不純物原子を混入するのじゃ。ドーピング(doping)と呼んでおる。ん?そうじゃの、スポーツ選手の不正薬物使用と同じ言葉じゃな。

不純物のドーピング リン(P)やヒ素(As)のようなV族の原子は最外殻に5個の電子を持っておる。これらの元素を不純物としてドーピングすると、IV族原子がところどころV族原子に置き換わった結晶ができる。
V族原子の5個の最外殻電子のうち4個は、回りのIV族原子と電子共有結合を作るが、残った1個の電子は比較的弱い力でV族原子に束縛されておるのじゃ。この力は本当に弱いので、室温ではこの電子はほぼ100%が伝導帯に励起されておるのじゃ。
この電子は電気伝導に寄与できるのじゃぞ。

一方で、不純物原子の方は、電子を1個失っておるから、1価の正イオンとなるのじゃ。

このように、伝導電子を供給する目的で混入する不純物をドナー(donor)と言うのじゃ。臓器移植の提供者と同じ言葉じゃな。

ドナーがドーピングされた(おかしな言葉じゃな)半導体は負の電荷をもつ電子が電気伝導に使われることから、negative(負)のnをとってn型半導体と呼ばれるのじゃ。

一方、ホウ素(B)やアルミニウム(Al)のようなIII族の原子を不純物としてドーピングすると、共有結合のための電子がところどころ不足した状態になる。これは、正孔がところどころにできた結晶と見ることができるな。この正孔も室温ではほぼ100%価電子帯に励起されておるから、電気伝導に寄与できるのじゃ。

不純物原子の方は、他の原子から電子を1個捕まえて、1価の負イオンとなるのじゃ。

このように、正孔を作る不純物をアクセプタ(acceptor)と言うのじゃ。

アクセプタがドーピングされた半導体は正の電荷をもつ正孔が電気伝導に使われることから、pozitive(正)のpをとってp型半導体と呼ばれるのじゃ。

ドーピングされた半導体のバンド構造
半導体中のキャリア密度

次は半導体の中のキャリア密度の話じゃ。すまんが微分方程式を使わせてもらうぞ。

半導体の中を自由に動き回れる電子の密度をn、正孔の密度をpとすると、nとpの時間変化を表す微分方程式は、次のようになるのじゃ。
dn/dt=g-nrp,dp/dt=g-nrp ・・・ 2.3
gは、単位時間、単位体積あたりに、価電子帯の電子が熱的に伝導帯に励起される数で、温度に強く依存しておる。rnpは電子と正孔が出会って消滅する数で、当然電子と正孔の密度に比例するのじゃ。rが比例定数じゃ。

定常状態(変化のない状態、d/dt=0)では、
  np = g/r ・・・ 2.4
が成り立つぞ。 gもrも温度が一定ならば定数じゃから、npは一定じゃ。つまり、電子の密度と正孔の密度の積が一定になるのじゃ。和ではなく、積が一定になるというところが面白いのう。

不純物がドープされていない真性半導体では、ni=piじゃから、
  ni2 = pi2 = g/r ・・・ 2.5
となるぞ。

n型半導体ではn n=g/rじゃ。ここで、nはn型半導体中の電子密度、nはn型半導体中の正孔密度じゃ。
ドナーの密度をNDとすると、n≒ND じゃで次の式が成り立つぞ。
n型半導体での釣り合いの式 ・・・ 2.6
P型半導体では、アクセプタの密度をNAとすると、p≒NA じゃで次の式が成り立つのじゃ。
n型半導体での釣り合いの式 ・・・ 2.7
すまんがのう、ここから先はわしにもよく分からんでのう。質問はかんべんしてくれ。

なに?そうじゃ。わしじゃとて知らぬことはあるわい。知らぬことを知らぬと認めることは別に恥ずかしいことではないぞ。知ったかぶりをするほうが恥ずかしいのじゃ。なに?開き直りじゃと?開き直りのどこが悪い。

半導体中のキャリア密度の分布

パンドギャップ付近の状態密度関数 一様な固体中に含まれる電子の数はその体積に比例する。これはあたりまえのことじゃな。同様に電子が占めることができる状態の数も体積に比例するのじゃ。量子力学を使うと説明できるそうじゃが、わしにはわからん。そう信じておこうぞ。

状態の数が体積に比例するとなると、単位体積あたりの状態数を定義することができるな。状態密度と言うそうじゃ。

エネルギーeとe+deの間にある状態は、deが適当に小さければdeに比例しておる。これをD(e)deと書くぞ。D(e)は状態密度関数と呼ばれておって、単位体積あたり単位エネルギーあたりの状態の数を表しておる。

半導体のバンド構造は、この図のような電子の状態密度関数で表すことができるのじゃ。禁制帯ではD(e)=0じゃ。バンドギャップ付近の状態密度関数は、次のように近似できるのじゃ。

バンドギャップ近傍の状態密度関数の近似式 ・・・ 2.8
ここで、μe=2me*/h2、μh=2mh*/h2じゃ。me*、mh*はそれぞれ電子、正孔の有効質量と呼ばれておる量じゃ。hはプランクの定数じゃぞ。

真性半導体では、T=0の時に価電子帯の状態が全て1つずつの電子によって占有されておって、伝導帯は空じゃから次の式が成り立っておる。
真性半導体、T=0の状態密度 ・・・ 2.9
Nは価電子の数密度じゃ。

電子のように半整数のスピンをもった粒子のエネルギー分布は、フェルミ-ディラック分布に従うのじゃ。フェルミ分布関数というものがあっての、こんな式じゃ。
フェルミ分布関数 ・・・ 2.10
この式は、温度がTの熱平衡時にエネルギーeをもつ状態が1つの電子によって占められる確率を与えるのじゃ。

Fフェルミ準位と言うての、
フェルミ準位 ・・・ 2.11
という式から決まるエネルギーなのじゃ。Ntotalというのは、全電子密度じゃぞ。

2.11式を変形するぞ。
式2.9の変形 ・・・ 2.12
マイナス無限大から無限大までの積分を2つに分けた訳じゃ、Ec > e > Evの間はD(e)=0じゃからこの部分の積分も0で式からは除かれておるぞ。

ここで、Nは2.9式で定義されておるぞ。
p(EF)とn(EF)はこうじゃ。
伝導帯の電子密度と価電子帯の正孔密度 ・・・ 2.13
この2つは、フェルミ準位をEFとした場合の価電子帯の正孔密度伝導帯の電子密度なのじゃ。結局、フェルミ準位を決める条件式は次のようになるのじゃ。
フェルミ準位 ・・・ 2.14
さてと、2.10式をもう一度書くぞ。
フェルミ分布関数 ・・・ 2.10
この式でじゃ、e−EF >> kTの場合には次の近似ができるぞ。

近似式1 ・・・ 2.15
さらにじゃ2.8式から、eがEcよりも大きいときには、
状態密度関数 e≧Ec ・・・ 2.16
2.15式と2.16式を2.13式に代入してみるぞ。まずは下側の伝導帯の電子密度の式じゃ。
伝導帯の電子密度 変形1 ・・・ 2.17
さてと、積分にはこんな公式があるのじゃ。
積分公式 ・・・ 2.18
この公式が使えるように2.17式をもう少し変形するぞ。
伝導帯の電子密度 変形2 ・・・ 2.19
2.19式の一番下の式は、積分記号から右側の部分がkT・π1/2/2となるでの、結局は次のような式に落ち着くのじゃ。
伝導帯の電子密度 ・・・ 2.20
同様にして2.13式の上側の価電子帯の正孔密度の式からは次の式が得られるのじゃ。
価電子帯の正孔密度 ・・・ 2.21
ここで、2.4式を思い出してくれ。電子の密度と正孔の密度との積は一定になるというやつじゃ。
2.20式と2.21式の積を計算してみるぞ。
価電子帯の正孔密度 ・・・ 2.22
ただし、C=(1/2)(k/2π)3(μeμh)3/2じゃ。
電子と正孔の密度の積は、温度が一定であればEFに依存せず一定なのじゃ。2.22式は2.4式と同じ意味の式じゃ。
ここでついでに2.2式も思い出してくれると嬉しいのう。

フェルミ準位の計算式、N−p(EF)+n(EF)=Ntotalに2.20式と2.21式を代入してEFを計算したものがこれじゃ。ただし、真性半導体の場合、Ntotal=Nじゃ。
真性半導体のフェルミ準位 ・・・ 2.23
禁制帯のほぼ中央にフェルミ準位があることがわかるぞ。

さて、次はn型半導体のフェルミ準位じゃ。n型半導体ではドナーによって余分の電子が供給されるので電子密度がそれだけ多くなっておる。室温ではほとんどの電子が親イオンを離れて伝導帯に励起されておるから、電子の密度NtotalはND(ドナー密度)だけ増えていると考えてよいのじゃ。つまりNtotal=N+NDじゃ。

もう一つ、電子密度が上がることによって、正孔密度は下がっておるから、n(EFn) >> p(EFn)となっておるのじゃ。じゃによって、n型半導体のフェルミ準位EFnを求める式は、
n型半導体のフェルミ準位を求める式・・・ 2.24
となるのじゃ、この式からフェルミ準位を求めるぞ。
n型半導体のフェルミ準位 ・・・ 2.25
これがn型半導体のフェルミ準位じゃ。

同様にしてp型半導体については、アクセブタによって電子が不足しておるから、電子密度は下がっておる。電子密度はNtotalはNA(アクセブタ密度)だけ減っていると考えてよいのじゃ。つまりNtotal=N−NAじゃ。

したがって、p型半導体のフェルミ準位はこうなるのじゃ。
p型半導体のフェルミ準位 ・・・ 2.26
ふぅっ・・・やれやれやっとここまで来たか。今日はずいぶん難しい話をしてしもうたぞ。
どうした?ぼんやりした顔をしおってからに。なに?さっぱり解らんかった?ふむ、一度ではなかなか解らんかもしれんのぉ。まぁ、今日のノートを持って帰ってもう一度じっくりと考えてみることじゃな。

何ぃ?ノートなぞ取っておらんじゃと。するとおぬし、そこに座ってボケッとわしの話を聞いておっただけなのか?
よいか。人の話を聞こうというときには、ノートの一つも持ってきてメモを取っておくというのが当たり前じゃぞ。次からはちゃんとメモを取りながら話を聞くのじゃぞ。判ったの?判ったら今日はもう遅いぞ、帰れ。

なんじゃと?、何時になったらダイオードの話になるのかじゃと?ようやっと基礎知識が終わったところじゃ。今度の時にはちゃんとダイオードの話になるわい。そう焦るな。

今度来るときは酒は梅錦を持ってくるのじゃぞ、肴も忘れぬようにな。

なんじゃ?その不服そうな顔は。なに?金がかかってかなわん?バカをいうな。酒肴の金くらいで文句を言うやつがあるか。わしとしては教授料をちゃんと貰いたいくらいのところなのじゃが、おぬしじゃによってこうして気持ちばかりの土産で教えてやっておるのではないか。いわばボランティアじゃ。ぐずぐず言わずに早う帰れ。

婆さんや。酔うてしもうたぞ、もう寝ることにするから布団を敷いてくれ。何をしておる?座布団なぞ出しおって。わざとボケておるのか?寝ると言うたじゃろうが。夜具じゃ、布団じゃよ。さっさと敷け。寝るぞ、おやすみ。

前のページへ