実際の測定回路による誤差

初出 2000.04.24

thermal diodeの特性測定回路

左の回路図は、「thermal diodeの電圧−電流特性」のところで示したもので、今回の一連の測定で使用した回路です。ここまでの測定では、1回の測定の度に電流値を正確に(少なくとも誤差1%以内に)測定回路の半固定抵抗で調整した上で測定をしてきました。

しかし、実際に温度を測定するための回路では、diodeに直列になっている抵抗値は固定された値であり、電流を一定にするために可変できるようにはなっていません。

diodeによる温度測定回路

「thermal diodeによる温度測定の原理」のところで、右の回路図で「抵抗値をダイオードの順方向抵抗よりも十分に大きくとっておけば、この回路は定電流で動作するものと見なすことができます。」と書きましたが、実際にはダイオードの(見かけの)抵抗は測定値を基に計算すると次のようになるのです。

  20℃ 30℃ 40℃ 50℃ 60℃ 70℃
10μA 63.2 61.3 59.4 57.5 55.6 53.6
25μA 26.2 25.5 24.8 24.0 23.3 22.5
50μA 13.5 13.1 12.8 12.4 12.0 11.7
100μA 6.90 6.74 6.57 6.40 6.22 6.05
200μA 3.54 3.46 3.38 3.30 3.22 3.13

抵抗値の単位はkΩ

つまり、ダイオードの(見かけの)抵抗は、200μAの時の3.4kΩ前後から10μAの時の60kΩ前後までと少なくともkΩのオーダーの値を取ることになります。
上の回路を定電流動作と見なすためには、これらの抵抗値に対して十分に大きな(せめて十倍以上の)抵抗を直列にする必要があります。

ここで問題になるのは、電源電圧です。電源に3Vを使用したと仮定して、50μAの時の直列抵抗を計算してみます。50μAの時のダイオードの抵抗はだいたい13kΩですから、直列の抵抗をRとして次の式が成り立ちます。

3000mV/(13+R)=50μA
R=3000/50-13=47kΩ

ダイオードの抵抗値の3.6倍でしかありません。この程度の抵抗値では、定電流動作の回路と見なすことはできないでしょう。

「だったら、200μAの時のダイオードの抵抗値が約3.4kΩなんだから200μAにすればいいじゃないか」ですって? ふむ。では200μAの時の直列抵抗値を求めてみましょう。

3000mV/(3.4+R)=200μA
R=3000/200-3.4=11.6kΩ

ダイオードの抵抗値の3.4倍でしかありません。

10μAの時についても同様に抵抗値を求めてみます。10μAの時のダイオードの抵抗値は約60kΩです。

3000mV/(60+R)=10μA
R=3000/10-60=240kΩ

ダイオードの抵抗の4倍ですね。
電流の低い方がまだしもましなようです。それでも、この程度では定電流で動作していると見なすことはできないでしょう

電源の電圧を上げてみればどうでしょう
これまでの計算では電源電圧を3Vとしていましたが、例えば12Vにして、50μAの時を計算してみると、

12000mV/(13+R)=50μA
R=12000/50-13=227kΩ

直列の抵抗はダイオードの抵抗値の17.5倍ということになり、定電流回路と見なすに十分な値です。つまり、電源電圧は高い方が有利であるということになります。
しかし、実はこの電源電圧は私たちが自由に決めることはできないのです。
通常A-DコンバータICは、A-Dコンバートのための基準電圧を用意しています。これは、文字通り「基準」となる電圧であり、通常の定電圧電源に比べても安定度の高いものであるはずです。したがって、thermal diodeに使用する電源もこれを利用することが望ましいのです。

たとえば、W83782Dもこの基準電圧を用意しています。「モニタチップのピン配置と測定回路」のところで説明したVREF(37番ピン)というやつです。W83782Dのデータシートによると、この電圧は3.6Vであると書いてあります。

W83782Dでは3.6Vに30kΩの抵抗を直列にしているのですから、このときの動作電流はだいだい100μAです。ダイオードの抵抗はこのときだいたい7kΩ程度でしょう。

また、秋月電子温度計に使用されているICL7136CPLでは、秋月の取扱説明書によると2.9Vの基準電圧を用意しているそうです。

これらの電圧を使用する以上、測定は定電流で動作するとは見なせない回路で行うことになります。
そこで、定電流で動作するとは見なせないこの回路でダイオードの特性を測定すると、どの程度の誤差が生じるのかを測定してみることにし、一番誤差が大きくなると考えられる200μAで、ダイオードに直列になっている抵抗値を変化させず、電流値と電圧値を読んでみました。
使用した電源は単三電池2本で、電圧は実測で3.19Vでした。新品の電池は結構高い電圧が出ますね。
例によって、測定は5回行いその平均を取っています。

温度(℃) 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70
200μA一定時の電圧 708.6 701.4 692.4 684.4 676.4 668.0 659.6 651.4 643.2 634.4 626.2
測定電圧 708.2 700.6 692.0 684.0 675.8 667.6 659.8 650.6 642.6 634.4 625.8
測定電流 198.4 199.0 199.8 200.4 201.0 201.8 202.4 203.1 203.8 204.5 205.1

測定値の差がもっと大きく出ると思っていたのに、予想外の結果でした。差がほとんどありません。というか、この程度の差は「測定誤差」の範囲内です。私の電子テスターは700mV前後の測定では最小分解能が1mVまでなのです。5回の測定による平均を取っているため、測定値は小数以下1桁を記載していますが、有効桁は小数以上と言っていいでしょう。

つまり、定電流で動作していないと言っても、この程度の電流変化であれば、測定値に大きな影響は出ないということになります。
最初の考えでは、「電流が一定でない回路での測定は誤差が出る。だから、その誤差をも含めて個別に校正のできる秋月電子温度計の利用が望ましい」という結論に持っていこうとしていたのですが、残念です。
まあ、いい方向(誤差のない方向)へ予想が外れたわけですから、これは「これで良し」としましょう。

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