thermal diodeの温度特性

初出 2000.03.13
改訂 2000.04.08
追記 2000.05.22

実は、この「CPUの内部温度を測定しよう」を立ち上げてからずっと、「そのうちやるぞ」と考えていたことがあります。「thermal diodeの温度特性の測定」です。でも、実際に測定ができるようになるまでには5ヶ月を必要としました。
一体何が原因でこんなに時間がかかったのか?測定方法が思いつかなかったのです。もちろん電流一定の条件でdiodeの電圧を測定する方法は簡単に考えつきました。思いつかなかったのは、「温度を一定にする方法」だったのです。

温度を一定にする器具として「恒温漕」というものがあります。私の母校にも何台かありました。でも非常に高価なもので、個人で手の出るものではありません。何か恒温漕の替わりになるものはないか。これを考えつくのに数ヶ月を必要としたわけです。

ところで、恒温漕はどのようなものできているかご存じですか。基本的には、外部の温度の影響を受けにくくするための断熱性のある箱と、発熱体と、発熱体を制御するための温度監視機構と温度制御機構です。

このうち、発熱体はすぐに思いつきました。白熱電球(普通の電球)です。発熱体として電球を使うことを教えてくれたのは、高校の時の物理の先生で、電球の電圧を変化させれば室温から数百℃までの温度変化を作り出すことが可能であることを示してくれました。
以来、何か発熱体が必要なときには必ず電球を使用しています。

次の温度監視機構は結局のところ「温度計」ですので、カー用品の温度計を使用することにしました。監視機構の一部分は「人間の目」が担当します。

温度制御機構は電球の電圧を調整することで行うことにします。確か我が家にスライダック(日本語では「単巻可変変圧器」と言います。一種のトランスで、AC電圧を簡単に変化させることのできるものです。)があったはずです。

以下、私と妻の会話です。

私 おーい、スライダック何処にやったっけかな。
妻 何、それ。
私 ほれ、これぐらいの(15cm位の円を示し)円筒形で高さはこれくらい(20cm位を示す)
  上にツマミが付いとって、回せるようになっとって、結構重うて・・・

    この間約20分、最後には図を書いて説明。
妻 ああ、それなら知っとるよ。
私 どこにある。
妻 この前の引っ越しの時に捨てた。
私 へっ? 何で捨てるねん。
妻 あれいる物やったん。結婚してから一度も使こうとるん見たことないで。
  重いし、邪魔になるから捨てた。

     この後少しの間口論。
妻 やかましいこと言よったら、今度はパソコン捨てるよ。
私 申し訳ありません。私が悪うございました。

と言うわけでスライダックは捨てられてしまい、電圧を変化させる方法がなくなってしまいました。しかたがないので、スライダックを買おうと近所のホームセンターに行ったのですがありません。なじみの電子部品店で聞いてみると「注文生産で受け付けている」とのこと。とんでもない!注文生産品などいくらになるかわかったものではありません。スライダックはあきらめることにしました。

しかたなく、サイリスタでも使って可変電圧の替わりにしようと、本屋でサイリスタの規格表を探したのですがありません。全く不自由な世の中になってしまったものです。

そうこうするうちに、電気店で調光機なるものを見つけました。説明書きを見てみると、電球の明るさを50%〜100%に可変するとか、換気扇の回転数を変えるとか、半田ゴテの温度を制御するとかいったことに使えるもののようです。
もしやと思い買って帰って分解して中身を見てみました。予想通りサイリスタを使った電圧変換器でした。今はこんなものが売っているんだ。ありがたや。

なにはともあれ、これで温度制御機構が手に入りました。もちろん自動制御などはできませんから、温度調節は「人間の手」で行います。

最後に必要なものは、「断熱性のある箱」です。もうご存知のようにこれは釣り用のクーラーボックスを使用することにしました。結局、ほとんど家庭用品だけで簡易な恒温漕の完成と相成りました。

クーラーボックスは17Lの小さな物です。この中に10W、20W、40Wの電球を入れてどの程度の温度になるかを確認してみました。どの電球でも温度が一定するまでには1〜2時間程度が必要でしたが、10W:室温+13℃、20W:室温+25℃、40W:室温+55℃以上という結果になりました。40Wの実験では、温度測定に使ったカー用品温度計が最大70℃までしか測定できないものであったため、最高温度を確認することができませんでした。
とりあえず、40Wの電球を使用し、その電圧を調整することで室温から70℃までの温度を作ることができそうです。以下の実験ではこの方法で温度一定の条件を作り出しています。

前置きが長くなったしまいました。まずは、温度を変えて電圧−電流特性を測定してみました。もちろん測定は5回行い、その平均を取っています。

thermal diodeの電圧-電流特性の温度変化

温度が高くなると特性曲線が左(つまり電圧の低いほう)へシフトしていることがおわかりだと思います。

次に電流を一定にして温度を変化させた時の電圧の変化を調べてみました。
高温側はクーラボックスを利用した簡易恒温漕で20℃から70℃までを5℃毎に測定しています。また、低温側として、-19℃と3.3℃を測定しています。冷蔵庫の冷凍室と冷蔵室にCPUを入れて測定したものです。電流は、10μA、25μA、50μA、100μA、200μAの5点です。

温度(℃) -19 3.3 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 V/T(mV/℃)
10μA 706.6 664.2 631.8 623.4 613.0 603.8 594.2 584.4 574.6 564.8 555.6 545.8 535.6 1.92
25μA 727.2 686.2 655.2 647.4 637.6 628.4 619.2 609.8 600.6 591.0 582.0 572.8 563.2 1.84
50μA 742.6 703.0 673.0 665.4 655.6 647.0 637.8 629.0 620.0 611.0 602.0 593.0 584.0 1.78
100μA 757.8 720.0 690.4 683.2 673.6 665.4 657.0 648.2 640.0 631.2 622.4 613.8 604.8 1.72
200μA 773.6 736.4 708.6 701.4 692.4 684.4 676.4 668.0 659.6 651.4 643.2 634.4 626.2 1.66

グラフにしたのがこれです。

thermal diodeの温度特性

すごいと思いませんか。高温側だけでなく、低温側でも完全に直線になっています。直線の傾きは、電流値によって違いますが、直線であることに違いはありません。たとえば秋月電子温度計を使用してダイ温度計を作成する場合などでは、最高と最低の2点の温度で校正しておけば、ほぼ正確な温度計を作ることができそうです。

少し気になるのは、V/T(1℃あたりの電圧変化)が10μAの時1.92mV/℃、200μAの時は1.66mV/℃と、一般に言われている2.0mV/℃から大きくはずれていることです。間違った値を測定してしまったのではないかと心配になります。
でも、間違った値を測定したのなら、グラフはこんなにきれいな直線にはならないはずです。
とりあえず、今回の測定の目的は、thermal diodeの温度特性の直線性を確認することでしたから、他のことは気にしないことにしましょう。

ここでもう一つお遊びのグラフを書いてみました。上のグラフを低温側へ延長したものです。

thermal diodeの温度特性を低温側へ延長

絶対零度(-273℃)あたりで全ての直線が交差していることがわかりますね。

2000.5.22追記
例によって半導体工学の本を立ち読みしてみた結果、次のような記述を見つけました。
「バンドギャップ電圧:バンドギャップ電圧というのは、絶対零度におけるP−N接合部の順方向電圧降下をいいます。シリコンダイオードではアノード・カソード間電圧は、ふつう0.6Vあたりで2mV/℃程度の負の温度係数をもっています。そして絶対零度になると、これが1.205Vに収束するのです(これがシリコンのバンドギャップ電圧です)。」
もう一度上のグラフを見てください。1.205Vではありませんが、かなり近い1.18V位で収束しています。私の測定結果は間違っていなかったんだ。たぶん。

さあ、これで、thermal diodeの温度特性の直線性が確認できました。いよいよ秋月電子温度計によるダイ温度計の作成に取りかかろうと思います。秋月電子温度計を使用すれば、CPU毎に校正することができるので、CPUの個体差を気にしなくていいというメリットがあります。

でもその前に、一つ気にかかることがあります。そちらを先にすませておきたいと思います。

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