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 ● 2003/02/27
G・イーガン『Diaspora』
作者による解説
数理的なネタに関してはこちらにまとめました。
作者のページで一章だけ読めます。古い順に読もうと思ってたら Distress と Diaspora を間違えた。現在第二章読み中。 "Schild's Ladder" で、肉体を持たずにサイバースペースにいる人達が 出て来たけど、「子供はどう作るんだろう」と思ってた。その作り方が 第一章に書いてある。基本的に何人かの意識プログラムを混ぜて子供を 作るらしい。そうでない「孤児」は0から作られる。セルオートマトン 上にニューラルネットを作り、 外界からの刺激で回路が出来て意識ができる様子が書いてあって面白い。
追記:「脳」が出来る過程は生物のをまねしてる感じ。「種」はたぶんDNA。 種をバラまくというのは卵割でDNA が倍々に増えるのに対応。 十分細胞数が多くなると今度は化学物質の濃淡の波ができて、それにより 場所ごとにDNAの異なる部分が発現して分化していって、という感じ。 そうやって脳神経網がある程度DNA 配列の影響を受けた初期配置を完成 させた後は今度は 外部からの刺激によるネットワークの学習で更に発達していくという。

第二章は短篇『ルミナス』を連想する話。地上の「公理」から論理の トンネルを通って「命題」の中を掘っていき、新しい「定理」を見つけ ようとする "Truth Mining" を描いている。
「人物なんて飾りですよ」という感じで、ひたすら面白いアイディアの嵐。
追記:トーラス表面にいる二次元人の見る景色 についての描写でひっかかった。外側にいる人から出た光は赤道方向に 行くと反対側で焦点を結ぶように書かれている。本当か? 計算してみた。トーラスを X=(1+r cos φ)cosθ, Y=(1+r cos φ)sinθ, Z=r sinφ で表す。0<r<1は定数。表面上の曲線を φ=φ(θ)と してφをθの関数にして表す。曲線の曲がる方向は a=(d/dθ)^2 (X,Y,Z)。 これが法線方向 n=(cosφcosθ,cosφinθ,sinφ)と接線方向 v=d/dθ (X,Y,Z) の成分以外を持たない、つまり a・(n×v)=0 というのが測地線の条件。 ごちゃごちゃ計算すると
rφ'' + sin φ + (r φ')^2 sin φ=0
という微分方程式になる。厳密解あるかもしれんけど特殊関数あまり知らないんで、 r=0.25 の場合について初期条件 φ(0)=0 でφ'(0)をいろいろ変え て数値積分すると下図のような結果になった。 一点で交わるわけではないし、ちょうど反対側という訳でもない。
ただ、φが0 に近い場合、上の方程式はほぼ線形になるので、 θ=π√Rにおいてほぼ一点で交わる。



付録:数値積分コードとgnuplot 用表示スクリプト
 ● 2003/03/05
PART 2 部分を読み終る。 スターリング『スキズマトリクス』を連想させる設定が面白い。 時は A.D.2997、 人類は肉体をもつ flesher と機械の体の gleisner、さらに肉体を 持たない意識プログラムの polis citizen に分かれ、戦争とまでは いかないが微妙な緊張関係にある。そんな中である中性子星の連星で異変がおこり、 いきなり「地球滅亡まであとン日」という事態になる。 緊迫した話で面白かった。ここまでで、まだ150ページ。

"memetic replicator" なるものが flesher の間で流行したとあった。 meme ってなんだっけ、と思い調べる。ああ、ぶっちゃけ「貞子のビデオ」 みたいなもんな訳ね。概念や信条が人の間を伝染していくと。 この提唱者のドーキンス、利己的な遺伝子とかも提唱してるけど、 「ふーん、そういう見方も出来るか」とは思うけどそれ以上ではないな。 ことさらマスコミ受けのよいキャッチーな用語(というかミーム)を宣伝するのは、 「ゲーム脳」とかに感じる反感と同種のものを抱いてしまう。まあ 自分の理論を実践してる、てことなんでしょうね。それはそれですごいわ。
最近だと 美しい水の結晶 とかのミームが癌のように広がってるけど、こういうのに対抗するには 同じくらいキャッチーな文句で批判や揶揄しないといけないな。
 ● 2003/03/10
PART 3 部分を読み終る。Kozuch 理論という ワームホールに関する仮想的な理論が説明されている。 巻末の参考文献にある、 ``Gauge Fields, Knots, and Gravity'' by John C. Baez and Javier P. Muniain から訳して引用。
ワームホールとモノポールは理論物理において思弁の極北に位置し、 SFと紙一重である。
..中略..
相対論研究者のジョン・A・ウィーラーは、ワームホールの「口」が電荷を持った 粒子として振舞うという興味深いアイディアを提唱した。電気力線が一方の口に 流れ込み、もう一方から流れ出すことで一方の口が負の電荷、もう一方が正の電荷を 持つ粒子のように見え、その電荷は符号が反対で絶対値が等しい。 もしワームホールの計量と、ワームホールを流れる 電場(あるいはゲージ場)の相互作用を記述する理論ができれば、 このようなワームホールが様々な安定状態をとり、 それらが異なる世代の粒子に対応することを示せるかもしれない。 さらに質量を計算することさえ出来るかもしれない。 残念ながら、これらは現在のところ夢にすぎない。なぜなら..以下略
この夢が実現したという設定。 素粒子の振舞をエレガントに説明するため導入された ワームホールの概念だけど、いわゆるワープに 使うためには大変な装置が必要、という設定。とほうもない大きさの 加速機でついにワープの実験が可能になる。はたしてその結果は、、、
実験結果から理論の大幅修正が必要になり、ほとんどの研究者はこの理論を 捨ててしまうが、登場人物の一人は単身この理論を発展 させようと試行錯誤する。研究がうまくいかない様子が描写されてて、 生々しい。

対生成したペアはずっとワームホールでつながっているらしい。 それだと粒子の同一性がなくなるような気がする。
ボゾンは二つの口が重なっていて、360度回すと全体で720度回転し、 ディラックのベルト手品によって0度に戻れる、という設定。 フェルミオンが二つ合わさってボゾンになるのも再現できるかな?
ワームホールで瞬間的に違う地点へ移動するとなると、 どの座標系で見た同じ時間へ行くのか、という問題がある。 別の座標系で見ると同時刻に二つの地点に粒子があったりする。 またワームホールを組み合わせてタイムトラベルも出来てしまう。 ローレンツ共変にするのは難しそう。
単純に空間の2点を同一視する、ということになるだろうけど、 簡単のために空間が一次元で周期的な系を考えてみた。 単純なローレンツ変換だと等時刻面が螺旋状になって変になる。 それに一周する長さとかローレンツ変換で変わるかも。なんか変だ。 検索したら ずばりの解説を発見。そうかやっぱり駄目なんだ。
追記:全ての等速運動をする座標系が等価だと仮定する。ある点 (これを全ての座標系でx=0, t=0とおく)から右と左に 光を出すと、両方とも同じ距離だけ進んで宇宙を一回りして x=0, t=L/c で 出会うはず。つまり任意の観測者について観測者の世界線上で左右の光が 出会うはずだけどそれはありえない。したがって始めの仮説は成り立たない。 やっぱりどことどこがつながるか、というところが座標系に依存してしまう んだろうな。
タイムトンネルのある系での拡散方程式とかシュレディンガー (あるいはディラック)方程式なんか考えると面白いかも。未来の値が 必要なので単純な時間発展の陽解法は使えない。反復計算で self-consistent にしないといけない。変な場合だと収束せず 発散したりするのかな。
 ● 2003/03/12
PART 4 読み中。ここは短篇『ワンの絨毯』として発表されたもの。SFマガジンに 昔邦訳が掲載されたらしい。いやー、おもしろい。 このモトネタは知らなかったなあ。 Baxter(物理屋)の本 に載ってそうな話だ。 感想は 別ファイルに。
ワームホールに関しては、 前野さんの解説が参考になりました。 Diaspora のワームホールは、「負のエネルギー」を使わない 作り方でワームホールを作っている、という設定で、「本当にそうなんだろうか」 と思ってメールで前野さんに教えを請うたところ、いろいろ教えていただきました。 けど、きっと前野さんが件のページに解説を追加して下さるんじゃないかと 期待してますんで、待たせていただこうと思います。
 ● 2003/03/17
イーガン "Diaspora" 映画館で紛失。あと少しだったのに!しょうがない。 高くないからもう一冊買おう。現在はスタージョン「君の血を」読み中。
前野さんに教えて頂いた論文、 http://arxiv.org/abs/hep-th/9207076。タイムトンネルのある 系での経路積分。
 ● 2003/04/07
PART 5, 6 まで読了。 PART 4 が中篇「ワンの絨毯」なんだけど、PART 5, 6 ともに それぞれ他の星の生態系を描いていて、さながら「ビーグル号」のような 感じ。しかもそのインパクトはワンの絨毯に匹敵して、FoR をぐゎんぐゎん 揺さぶってくれる。さらに人格をクローンしてそれぞれ別の星を探検 したりするんで、イーガンお得意のアイデンティティの問題も絡みまくり。
以下はネタバレ
となります。最後まで読んでない人は読まないで下さい。

























ワームホールの「口」が素粒子に対応してるという設定だったはず だけど、粒子をつなげるというのが分からない。口と口を つなげると口は消えてしまうはず。 「ドーナツは穴がいちばんおいしい」みたいな話だ。 ボゾンとフェルミオンの違いは 口が重なってるかどうか、だったはずなのに、ワームホールの管に 二種類の性質があるような話になってる。まあそのへんは流してしまえば、 あとはすごく面白い。ワームホール上のボゾン/フェルミオンの シーケンスと蛋白質のフォールディング問題を絡めるとは。
以前の日記から引用:
タンパク質はいろんなアミノ酸が数珠繋ぎになったヒモみたいなもの。色んな 色のビーズを繋げたようなもので、たとえば同じ色のビーズは引き合うとか 反発するとかあって、ぐにゃぐにゃと折り畳んで一番ぴったりする形で落ち着く。 この形がデンプンを分解するとかDNAを複製するとかいろんな機能を決める。 でも二番目にぴったりする形とかに間違ってなったりもする。これが 全く違う形だと機能しなくなる。普通は自然に直るけどプリオンは 間違った形があると近くのやつも間違った形の方が一番ぴったりになってしまう。 こうしてどんどん増殖していくと本来の機能を果たさなくなって病気になるという わけ。ウィルスとかよりも結晶の成長とかに近い。

双対性(Duality)も面白い。数学だと双対空間てのは元の空間の線形写像の集合 だけど、物理だともうちょっと意味が広い。 二次元のグラフで、各多角形の中心に頂点を置き、隣接する多角形の中心同士を線で 結ぶと Dual なグラフとなる。元のグラフ上で定義されたモデルを Dual なグラフ上のモデルに焼き直して考えることがよくある。特に正方格子上の イジングモデルは Dual 変換しても同じモデルになる面白い特徴を持っている。
他にはマクスウェル方程式で(モノポールとか磁流とか入れると) 電場と磁場を入れ換えることができるのも、 一種の Duality 。通常の Duality 変換では一方の空間の出来事と双対空間の 出来事は一対一に対応してるんで、同じ現象を違う見方で見るだけになる。 しかし macrosphere の自由度はこっちの物理現象とほぼ decouple してるんで、 U^* はほぼ独立に存在できる。
●五次元回転の不変空間が三次元であるように書かれてるけど、 正しいのか?1+2+2次元にして、各二次元で回転すると不変空間は 一次元だけどな。 と思ったら作者が訂正してた。 こちら。 自転軸と周期が二つあるから、一方がたまたま回転速度0ならば不変空間は 三次元だけど、普通はありえない。
●ヤドカリ(Hermit)生物の、という形容詞で Hermitian という語が出て来たけど、 「エルミート行列の」という意味になるな。偶然か?
 ● 2003/04/08
読み終る。最後の飛しっぷりは爽快。Contingency Handler はナイスだな。 スタトレのQみたいだ。その後もブッとばして、とばして、とばして、 とばしてとばしてとばしとばしばしばしばしばしばしばばばばばばば……!
みたいな。最後に頭がボーっとして 満足感とも空虚感ともつかない感じはまるで(以下略