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こういう枠で囲ってある部分は今読むと怪しい部分です

2001/09/27
グレッグ・イーガン『順列都市』、早川文庫SF、山岸真訳

いやーーすごいわ。 パウンドストーン『ライフゲイムの宇宙』 読んで以来のマイ・セルオートマトン・ブーム。 出張に読む本持って行くの忘れて、泊まった ホテルの近所のBOOKOFFで購入。クラークの『宇宙のランデブー』と どっちにしようか迷ったけど、本の状態でこっちを選択。 というわけでネタバレありの感想。


ここがヘンだよ塵理論
最初の出発点はかなり効くツボを突いている。 それはチューリングマシンのような逐次処理型のコンピュータが 意識を持ちうる、という仮定。逐次処理的なアーキテクチャかどうか はともかく、コンピュータが意識を持ちうるというのはHAL9000から 冬寂に至るまでSFではオーソドックスな話になっている。ところがこの 仮定を認めて真面目に考えると、とてつもなく変な結論、つまりパラドックス が導き出される。これが量子論のEPRパラドクスや、因果律伝搬速度の上限 を仮定して導かれるローレンツ収縮などのように一見奇妙だが正しい話なのか、 それとも始めの仮定が間違っていることを示すものなのかは分からない。 この問題は「意識とはなにか」という問題に 関わっているが、同時に「時間とは何か」とか「因果律とは何か」 といった問題とも密接にからんでいる。

こういった問題に対して、物理学はある種の「人間原理」をもって答としている。 例えば、事象の地平の向こうで何が起こっているか、という問いに対して物理学は 答えなくてよい。それは、何が起ころうとも我々が観測できる事象には全く影響を 与えないからだ。時間とか因果律といった問題も、我々の物理学というのは 我々のように時間を知覚し我々のように因果律を認識する知性体が 世界の動きをどうとらえるか、という枠組なので、我々と全く違った知性体 あるいは意識から見て世界がどう見えるかという問題は扱わないし、 答えなくて良い。だから時間をシャッフルした時に別の種類の意識が 存在しても全くかまわないし、現在の物理学とも矛盾しない。

しかしここから論理アクロバットがあって、ボーと読んでるとだまされる。 まず空間のシャッフルに関しては説明なしにポンと出て来る。 時間とは何か、という問題はつけこむ余地があるけど、空間に関しては 空間認識の方法というのは人間のやりかた、物理学のやりかた以外のものは 考えにくい。 またシャッフルによって平行世界のような無限の可能性 が出現するような話になるけど、シャッフルした世界で*この*世界の 物理法則が成り立つと考える必要はない。他の世界は人間の知性では 知覚不能な世界になるはずだ。

また 拡張するTVC宇宙も変。ノイマンとかが自己複製機械の証明を考えたとき、 簡単のために無限空間を考えたけど、実際エミュレータ作ったら有限空間 しか作れない。TVC内部のチューリングマシンがまだ成長してなくても、 エミュレータはその周りのなにもない空間で「0で周りも0なら次も0」という計算を 延々続ける必要がある。TVC上のマシンはどうあがいても TVCをエミュレートしているマシンの性能を越えることはない。 空間シャッフルで無限のリソースが提供されるなら、 TVCを走らせずに直接計算すればいい。自己増殖のメカニズムが無くても 増殖したマシンが存在する世界があるはずだから。

2001/11/05追記:塵から巨大な計算機が 作られるんだと思ってたけど、塵で実現されるのはCAのルールそのもの であって計算機はいらない。そうなるとより優れたルールに 乗っ取られるというのもありうる。 ていうか、あの設定だとなんでもありうる。(笑) サルにタイプさせた文字の羅列でも許される。だれも買わない だろうけど。

2003/05/05追記: いや、やっぱり何でもアリではない。 何らかの因果律と初期状態 を決めると塵の中からスナップショットの連なりが一意に選べて、 世界線が出来る。途中で飛躍のある世界線はどうなのか。たとえばいきなり 最初から巨大なUTM計算機が出来てる世界。それを初期状態にすれば、 いちいちUTMを自己増殖したりしないですむけど、普通に「発進」した「私」 の世界線とは因果関係がなく 独立に存在することになるから、それは「私」の世界線ではない。 「私」とは今の私の状態からあるルールにしたがって状態を更新していった スナップショットの連なりだ、というのが塵理論の考えらしい。 あるいは、飛躍のある世界線は世界線として認めない、とも言える。 そうするとエデン配置というのは大きな意味を持つ。「発進」が行われた 証拠になるから。

『宇宙消失』では世界線が分岐したり途絶したりという 設定だったけど、この作品では世界線を点に分割して宇宙にばらまく、という ことをやってる。ちなみに線を点に分割することは数学的に可能か?という問題を 考えると、これは可能。「カントールの塵」という集合は点の集まりだが、 線と同じ連続無限の濃度を持つ。「塵」というのはこの辺りに語源があるかもしれない。

結局「発進」後の状態に対応したTVCのパターンが宇宙のどこかにあればいい。 このパターンというのがクセモノで、ある物理状態が、あるパターンを あらわしているかどうか、というのは主観的な要素がどうしても入って来る。 たとえばコンピュータのメモリにTVCの状態を記憶する。しかし どうやって記憶させるか方法が違えば同じTVCの状態でもメモリの物理的状態は 違って来る。結局はそれを解釈する方法による、ということになる。逆に考えれば、 一見デタラメな物理的パターンでも、それがTVCの状態に見えるような 見方がある、ということになる。そういう見方はまさしく順列組合せ的に ほぼ無限の方法がある。この理屈で空間シャッフルも可能になる。

以下は読み返すとちょっと怪しい感想。
後半、『ブラッドミュージック』のオチみたいなすごいことが起こる。 オートヴァース生物の宇宙論によってTVCが影響を受ける??????? うーむ、そんなことあるんかいな。 ちょっと整理してみる。上ほど原始的階層。
塵から作られる無限の計算機
その上で動くTVC-CA TVCレベルに干渉できるダラムのコピー(boot後消去?)
TVC-CA で表現される自己増殖万能チューリングマシン(UTM)
UTM上で走るコピーの人格&VR環境+ピー UTM上で走るオートヴァースCA
オートヴァース上の人工生命
TVCエミュレータなんてのは百行程度のコードで出来そうだから、 これに穴があくとは考えにくい。でもTVC上のUTMで動いてるコード のレベルならオートヴァースの影響を受けてもよさそうだ。 アプリケーションがマズいことをしてOSが壊れるようなものか。
しかし、ふとある事を思い付いて膝を打った。 小説の中では「シミュレートしている物の影響をうけて シミュレートしているコードのルールが変わる」という現象が おきているけど、これに対応して、 「小説の内部で起きている事に影響を受けて、小説の進行のルールが ここで変化している」のだ!つまりここまでは理系の知的好奇心を満足させる ために理論的整合性を重視したルールで進行していたのが、ここからは 小説としての面白さを重視したルールに変わる。そう考えれば 納得がいく。ふーーーーむ。やってくれるよ。



結局の所、意識とは何か、時間とは何か。 難しいなぁ。たぶん、過去の出来事を記憶し、それに照らしあわせて 未来を予測し行動を決定する、ということを脳がやりはじめたときに 意識ができたんじゃないか、と今のところは漠然と考えてます。 それには過去における「自分」を客観的にとらえることが必要だろうから。 だから「過去」とか「未来」なんてものはなくて、実際は 「記憶」と「予測」なんじゃないかと。うーんまだいろいろ考える 必要あるな。
オマケ
2002/06/11
NATURE の物理ページ にある今週の注目記事の一つ、タイトルが "Deep Thought"。 もちろん 銀河ヒッチハイクガイドに出て来たコンピュータのこと。 紹介されてるこの論文 では地球だけじゃなくて宇宙全体を量子コンピュータと見たときに、 ビッグバンから今までどの程度の計算が出来たか、ということを試算 してる。"Submitted to Nature" となってるけど、出たのは PRL らしい。 で最後のパラグラフを引用:
Is the universe a computer? The answer to this question depends both on the meaning of `computer' and on the meaning of `is.' On the one hand, the universe is certainly not a digital computer running Linux or Windows. (Or at any rate, not yet.) On the other hand, the universe certainly does represent and process information in a systematic fashion: as noted above, every spin can be taken to represent a bit, and every spin flip corresponds to a bit flip. Almost any interaction between degrees of freedom suffices to perform universal quantum logic on those degrees of freedom. Such universal interactions include the fundamental interactions of quantum electrodynamics and of topological quantum field theories. These results strongly suggest that the universe as a whole is capable of universal quantum computation. In such a `universal' universal computer, every degree of freedom in the universe would register information, and the dynamics of those degrees of freedom would process that information: the amount of information and the amount of information processing possible can be calculated using the formulae derived above. Even if the universe is not a conventional computer, it can still compute.
`universal' universal computer ってのが笑える。前者は「宇宙の」、後者は 「万能」の意味。しかし、なんか「塵理論」を彷彿とさせる話。 ある物理現象が「計算」かどうかは結局は主観的な話になる。