反革命の大天使 アンリ・ド・ラ・ロシュジャクラン 

5・帰郷

「俺たちをこんな遠くまで、連れてきたのは誰だ!」
「司令部のおえらがたの、うまい話に騙されるのはもう沢山だ。俺たちは故郷に帰りたい」
「ポワトゥーへ!俺たちを返せ!」
 アヴランシュに退却したアンリが目にしたのは、こぶしを振り上げ、泣きながら怒り、懇願する人々の群れであった。行軍中にその衣服は破れ、垢にまみれ、食糧不足で骨を浮き出させている彼らの非難の眼差しは、総司令官である自分に向けられているのだ。
 アンリは、皆を悲惨な境遇に追いやった司令部の面々を恨めしく思うと同時に、他ならぬ自分の責任を耐え難いほどに感じていた。本当に自分の不甲斐なさのせいなのだから、責められても仕方がない。頭でそう納得しても、農民たちの愛情と信頼を失うのは、何より辛いことであった。
 カリスマ性を失ったアンリは、もはや彼らの守護天使ではない。グランヴィルですでに、
兵士たちはアンリに従わずに敗走したではないか。だが、これからヴァンデに帰還できるか否かは、戦闘員、非戦闘員共々、総司令官の命令に服従できるかどうかにかかっている。
彼らが、指揮通りに動かなければ、今度こそ王党軍の終焉がやってくるのだ。
 アヴランシュの大聖堂で、従軍司祭長ベルニエ師は、群衆を前に熱弁を奮う。
「今まで我々のために、全てを捧げ尽くしてくれた、総司令官を見捨てるというのか?」
 蝋燭の光に浮かび上がった総司令官は、もともと僅かな贅肉もついていない体がさらにやせ細り、ほつれた巻毛の下で大きな瞳だけが、哀願するようにきらめく。突然、憐憫の情にも似た、優しい感動が伽藍を包み、人々は叫んだ。
「我々は総司令官に服従を誓う!」
「ムッシュー・アンリ万歳!」
 続いて響いたのは、アンリの若々しい声であった。
「そして僕は誓う、決して君たちを見捨てず、君たちが今の誓いを守るならば、君らの先頭に立って死ぬことを。しかし同時に、僕は誓って言う。僕に従わないなら、ただちに君たちは見捨てられるだろう」
 気質に似合わぬ厳しい言葉を吐きながら、他に方法がないのだ。と、アンリは呟く。
 王党軍は、凍れる空の下、共和国軍の執拗な追撃に悩まされながら、退却を開始した。来た道を戻っても、行きがけにすべての食料、必需品を消費しつくしている。もはや略奪する物資など残っていない。飢えた人々は、道端の酸っぱいりんごを貪り、赤痢などの疫病が蔓延する。子供を初め、体の弱いものから命を奪われていった。
 レスキュール侯爵夫人は、自分の馬車の車輪が、挽き臼のように死体を押し潰し、骨を砕いていく音を聞いた。忘れようとしても、耳について離れない。その頃のアンリは会うたびに、零れ落ちる涙をしきりに袖口で拭っているのが見られた。
「涙腺が壊れてしまったみたいなんだ」
 従姉にそう言いながら、弱々しく微笑もうとするが、形になる前に消えていく。
 苦境にあっても、若き総司令官は戦いにおいて、超人的な体力と精神力を見せる。王党軍は、ポントルソン、ドルと、なおも共和国軍を撃破しつつ南下し、再びラヴァルに戻る。
アンリは再度アンジェの攻撃を提案し、今度はタルモン公爵を始めとする将官たちの賛同を得た。行きとは違う、ラ・フレーシュ経由で進軍し、補給も容易になった。しかし、アンジェの攻略はならず、大カトリック王党軍の生き残りは、共和国軍に追い立てられながら撤退したのである。
 十二月十日、疲れ切った王党軍は休息の場を求めて、ル・マンに入る。何とも奇妙な、亡者たちの行列であった。ぼろを引きずった農民たちに混じって、劇場で手に入れた、時代がかった衣装を来た士官もいる。坊さんや尼さんたちもいれば、侯爵夫人や伯爵夫人もいる。彼ら大カトリック王党軍の生き残りたちにとって、ル・マンは楽園だった。
「ここには、食料も、着替えも何でもあるぞ」
「俺は、ひさしぶりに屋根の下で眠りたい」
 疲労の限界にあった人々は喜々として、ル・マンの市街中に散らばり、酒場は外まで客が溢れる賑わいだった。
 今は何もかも、忘れたい……。ガレルヌの苦しい行軍を、後ろに見捨てていった病人や、
死人たちを……。胃袋をパンと、肉と、蒸留酒で満たし、シーツにくるまって眠るのだ。 ささやかな肉体的快楽に浸る人々の群れに、規律は失われ、将官たちが束になったとしても、混乱を収めることは不可能であるように見えた。
「雌鹿亭」では作戦会議が開かれ、アンリはあくまでも、ヴァンデ帰還を主張する。この後に及んで、どこに向かうというのだろうか。破滅的な楽天主義者タルモン公爵が、性懲りもなく、ノルマンディーへ、パリへと言い続けるのを、アンリは黙って聞き流している。
 そうしている間にも、青軍はラ・フレーシュに集結しつつあった。危険を知ったアンリは直ちに戦闘準備にかかった。
「ヴェステルマンがこちらに向かっている。戦闘員は、速やかに集合せよ!」
 しかし、居酒屋で飲んだくれ、鼾をかいている農民たちの多くは、動こうとしない。ようやく二千人ほどの兵をかき集め、アンリはストッフレと共に、一度はヴェステルマンを押し返す。ほっとしたのも束の間のことで、共和国軍は新たなる援軍を率いてル・マンにせまりつつあった。
「怖じ気づくな!反撃だ!」
 アンリは白軍の敗走を阻止しようと試みた。
「アヴランシュの誓いをわすれたのか?」
 総司令官は、乗馬で近くの窪みを跳躍しようとするが、腹帯が緩んでいたのか、鞍が外れ、落馬して地面に叩きつけられた。
「畜生!」
 拳で大地を殴りつけると、歯を食いしばりながら、アンリにしては緩慢な動作で、泥の中から立ち上がる。何故皆、敵に後ろを見せるのだ……。
 ル・マン市街に援軍が求められたが、体の芯までくつろいだ人々は、迫り来る危機を信じず、中々呼びかけに応じない。日が暮れて雨の激しく降る中で、市街戦が行われた。敵味方もろくに判別できぬ状態で、迷路のような路地に、白軍と青軍が入り乱れて戦う。時折、剣を交えるアンリのほの白い顔が、銃撃の火花に照らし出された。
 腰のサッシュ・ベルトでそれとわかる、堂々とした体躯の白軍司令官に、青軍の軽騎兵が一騎向かっていく。
「来い!」
 微笑みながら、相手を待ち受けているのはタルモンだった。軽騎兵が攻撃するより早く、
公爵のサーベルが振り下ろされ、文字通り、上から下まで真っ二つに切り裂かれた死体が、
馬から転がり落ちる。
 非戦闘員たちは、必死になってル・マン市外に脱出しようとするが、どの道を行けばいいのか誰にもわからない。やがて、戦いを放棄して、逃走する白軍戦闘員も群衆に加わり、
押し合い、揉み合いして、道を塞ぐ。死体や弾薬箱につまずき、踏み殺される者もあれば、
泣きわめきながら、見失った我が子を捜す母親もいた。無数の袋小路や、曲がりくねった道のせいで、各々がどこに居るのかも把握できなかった。
「卑怯者!戻って戦え!」
 アンリも、ストッフレも、その他の司令官も、敗走を止めるどころではなく、群衆にもみくちゃにされながら、最後には市外へ押し出される形になった。追撃する青軍は、女も子供も見境なく虐殺する。
 翌日の朝、市内とラヴァルに向かう道筋には、一万あまりもの死骸が折り重なり、列をなして横たわっていた。
「ヴィクトリーヌ!助かったんだね」
 アンリは虐殺を免れた人々の中に、レスキュール夫人の姿を認めて、驚いて声をかけた。
「私たちがやられたのは、あなたが戦死してしまったからだと思ったわ」
「いっそ死んでいたほうが、どんなにか良かっただろう」
 アンリは従姉の手を握りしめると、目に涙を溜めつつ立ち去った。

 二万人ほどの生き残りは、再びラヴァルを経由し、やっとのことでロワール河沿いの、アンスニにたどり着く。ロワールはフランスで一番、水位の高低に差がある河川である。十月には馬を泳がせて容易に渡れた河が、今では増水し、木立ちや生け垣を飲み込んで、茫茫と広がっていた。
 アンリは対岸の安全を確認するため参謀長のストッフレと、百名あまりの兵士を連れ、初めに河を渡った。しかし、左岸に到着すると、共和国軍の騎兵が姿を現し、前哨部隊に銃撃を浴びせたので、たちまち部隊は散り散りになって内地の奥深く逃げ込んだ。アンリの側を離れなかったのは、ストッフレと、アンリの補佐を努めるラ・ヴィル・ボージェだけである。放浪の果てにたどりついた故郷は、共和国軍が跋扈していたのである。騎兵たちは執拗に追ってきたので、アンリたちは途中で馬を捨て、徒歩で田園に身を隠すしかなかった。 
「早く皆の所に戻らなければ」
 アンリが望んでも、うっかり姿を見せることもできない状況で、渡河に使った船や筏も流されてしまった。王党軍と完全に分断されてしまったのである。
 いつまでたっても戻ってこない総司令官に、しびれを切らした王党軍は、渡河をあきらめ、ロワール下流へと移動した。
「敵前逃亡だ!」
 アンリを糾弾するものもいた。
 ヴィクトリーヌは残されたアンリの衣装箱を開けてみた。中には馬具と、数枚の赤いハンカチしか入っていなかった。農婦に身をやつしたレスキュール侯爵夫人は、そのハンカチを首の回りに巻きつける。ハンカチの持ち主とは、もう二度と会えぬ予感を感じながら。
「アンリさま、どうして僕を置いていってしまわれたんです?」
 この数ヵ月間、アンリの側を離れたことのなかったアラールは、ル・マンを最後まで守備し、アンスニに着いたときには上官の姿はなかった。忘れがたい戦友を追って、アラールは危険を承知で一人、ロワールを渡るのであった。
 今度こそは当然自分の番と思い込んでいた、タルモンの期待を裏切って、新総司令官に選ばれたのは、フルリオ勲爵士である。
「役立たず共め!勝手にするがよい」
 憤慨した公爵は、ついに王党軍を見捨てた。じきに共和国軍に捕らわれたタルモンを待っていたのは、ラヴァルの自分の城に設置された断頭台だった。見せしめのため、その首は城門にさらされた。
 王党軍はその後、クリスマス・イヴを前にサヴネーで壊滅した。ヴェステルマン将軍は、
国民公会にこう書き送る。
「ヴァンデはもはや存在しない。ヴァンデは我々の自由の剣の下で、女や子供と共に死んだ。私は彼らを、サヴネーの沼や森に葬り去った。命令通り、子供は馬の蹄にかけて踏みしだき、女どもは痛めつけた。二度と悪党を孕まぬように……」
 二ヵ月あまりで八百キロを踏破し、十の都市と百門の砲を奪取して、ガレルヌ彷徨は終わりを告げた。生き残った人々に襲いかかったのは、共和国の弾圧と、処刑に継ぐ処刑だった。ギロチンの刃は休みなく落下し、銃殺隊の銃口からは硝煙が上り続けた。ナントではカリエという男が、「溺死刑」なるものを発明し、ヴァンデの残党を大量にボートに乗せてはロワール河の中央まで運び、船ごと沈めた。フランスは、山岳党による恐怖政治のただ中にあった。

 一方、アンリに残された道は、故郷ポワトゥーに戻っていくしかなかった。共和国の憎むべき敵ナンバー・ワンと目される、彼自身の首にも多額の賞金がかけられていた。
 結果的に、アンリが命がけで守ろうとした王党軍の人々を、見捨てることになってしまっ
たのだ。引きちぎられた両翼の生々しい痛みを感じながら、アンリはボカージュへ向かう。
「シャレット閣下、ラ・ロシュジャクランさまがお見えになっています」
 側近の言葉に、食事の真最中だったシャレット勲爵士は、鹿肉の塊を危うく喉につまらせそうになった。前に通された三人の男の内、一番若い青年はやつれてはいるが、紛れもなく「ムッシュー・アンリ」であった。ヴァンデ再生を期して、無傷なシャレット軍と共に戦う心づもりだったのである。。
 生きていたのか、この坊やは……。シャレットは内心苦々しく思う。しかも、大嫌いなストッフレまで従えているとは……。シャレットは、他の王党軍将校たちとは気が合わず、ロワール右岸戦には参加しないで、左岸で独自の戦いを続けていたのである。ここモージュや、ボカージュにも進出を試みたのだが、もともとシャレットのテリトリーではない。この地方で戦いを続けるならば、土地の人々に人望のある、アンリやストッフレの方が有利に決まっていた。 
「大カトリック王党軍総司令官閣下は、ずいぶんと苦労されたようですな。そのうちにまた、ロワール右岸の武勇伝など伺いたいものです」
 ナプキンで口もとを拭いながら、不躾な態度で勲爵士は言う。育ち盛りの青年は、ひどく気分を害しながらも、視線がテーブルの上に並べられた肉やチーズ、上等なワインに引き付けられてしまうのを、どうすることもできない。何日も、ろくなものを口にしていないのだ。シャレットはほくそ笑みながら、あえてパンの一切れさえも勧めない。見兼ねたラ・ヴィル・ボージェが、近くの農家で食事を取ってきましょうと、上官を促した。
 あらためて行われたシャレットとの会見は、険悪な雰囲気の中で行われた。勲爵士は、王党軍が崩壊した今、事実上、反革命勢力の総指揮官は自分なのだと自負していた。もちろん、アンリにその地位を譲るつもりもなかったし、それぞれが首領となって自分の軍を率いるというのならば、行動を共にするつもりなどない。シャレットはそういう男だった。
「私の下で戦う意思がおありなら、喜んで将校の地位を贈りましょう。お望みなら、馬もプレゼントしますよ」
 かっては、総司令官になるのを拒んだアンリだが、最も苦しいガレルヌ戦を戦い抜いた今、シャレットの指揮下に置かれるなど、誇りが許さなかった。
「お言葉はありがたく思いますが、私は誰かに従うよりも、命令を下す立場に慣れておりますので」
 言い残すと、アンリはシャレットに背中を向け、再び会うことはなかった。
 アンリは一人、懐かしいラ・デュルブリエールを訪れた。アンリが育まれた城館は、反逆者の住居として、火をかけられ、廃墟と化していた。
「どうして僕は、生き残ってしまったのだろう……」
 やっと少年期を終えたばかりの若者は、戻らぬ日々を思って泣いた。レスキュールも、ボンシャンも、サン・トーバン・ド・ボービニェの幼なじみたちも、みんな死んでしまった。ヴィクトリーヌやエルメネー、アラールももう生きてはいないだろう。呼吸もできないような日々を繰り返しながら、無窮の時を過ごしてきたように思えるが、農民たちを従えてこの城から出撃したあの春の日から、まだ一年も経ってはいないのだ。
 しかし、アンリにはいつまでも感傷に耽っている時間はなかった。ヴァンデの反乱を根絶やしにするために、国民公会はテュロー将軍の率いる、十二の特別部隊をこの地に送り込んできたのである。ヴァンデの人々から、「地獄部隊」と呼ばれた彼らの使命は、裏切り者の温床であるヴァンデの村という村を焼きつくし、出会う住民はすべて反逆者として処刑することであり、命令は実行にうつされた。効果的に地域の人々を虐殺するために、実用化こそされなかったものの、毒ガス入りの気球を飛ばす方法までが考案された。
 故郷の人々をまもるため、アンリは再び立ち上がる。
「アンリさまが、わしらをまもって下さる」
 大天使の残像を求め、人々はアンリのもとに集った。アンリはストッフレとガレルヌ戦に加わらないで残っていたものや、やがてポワトゥーに戻ってきた王党軍の生き残りを集め、ゲリラ戦による徹底的な抗戦を試みたのである。待ちぶせをしては、共和国軍を襲撃し、アンリ自身も恐るべきスナイパーと化した。ボカージュの暗く深い森を住みかとする、
妖精の化身ででもあるかのように、現れてはどこへともなく消えていき、決して捕えることのできぬ痩身の若者を、青軍は魔物のように恐れた。一方でアンリの心はやりきれぬ憂いに閉ざされ、「常に死に場所を求めているようにも見えた」と、当時の彼を知る人は語っている。
 そして一月二十八日、ヌアイエにおける小競り合いで、アンリは一人の兵士を追い詰めた。
「降参しろ!さもなくば命はないぞ!」
 アンリはこの兵士を助けるつもりだったのだ。兵士は一旦、アンリの勧告を受入れ、銃を差し出すかに見えた。兵士は、軽やかに馬を乗りこなした上品な青年が、金髪をなびかせて近づいて来るのを見た。
「……賊軍の首領だ!」
 反射的に銃を構え直すと、狙いをつけ、至近距離から発砲した。弾丸はアンリの額に命中し、その美しい顔のほぼ右上半分を吹き飛ばした。
 もちろん即死だった。
 離れた場所で戦っていたストッフレは、アンリの死を伝える伝令が来るより早く、アンリの馬の蹄の音を聞いた。振り向くと、誰も乗っていない馬が、不吉な足取りでこちらにやって来る。
「まさか……、アンリさま!」
 ストッフレが、駆けつけたとき、遺骸は地面に横たえられていた。共和国軍兵士が回りをうろついているため、アンリを埋葬している余裕もなかった。遺体が敵の手に渡り、冒涜されることだけは、避けたかった。
「アンリさま、お許し下さい」
 ストッフレは、部下に命じてアンリの衣服を脱がせると、自ら剣を取り、泣きながら敬愛する大天使の顔の残りを切り刻み、誰だかわからないようにした。
 やっとアンリが葬られたのは、数日後のことであった。
 こうして僅か二十一年の生涯を閉じたアンリは、ヴァンデの反乱の結末を見ることはなかった。地獄の部隊はなおもヴァンデを荒らし回り、数字は定かではないが、少なくとも二十万人あまりの住民が、女性、子供を問わず虐殺された。
 ヴァンデでは、アンリの後を継いだストッフレと、シャレット勲爵士が抵抗を続けるが、
九十六年の春にまずストッフレが、続いてシャレットが捕らえられ銃殺された。三年に及んだヴァンデの戦いはこうして幕を閉じたのである。
 アラールは、左岸にたどり着いたものの青軍の捕虜になり、アンリとの再会は叶わなかった。処刑を免れた後に、シャレット軍に加わり、師団長としてシャレットの銃殺まで戦い続けた。
 レスキュール侯爵夫人も、ヴァンデの戦いを生き抜き、アンリの弟ルイと再婚し、ラ・ロシュジャクラン侯爵夫人を名乗った。鮮明な記憶力と、鋭い観察力に恵まれていた彼女は、ヴァンデ戦役を記録した「回想録」を書き綴った。とりわけアンリの姿は鮮やかに描かれ、歴史のうねりの中に消えた、存在そのものが奇跡のような、青年の生涯を今日に伝える。

                                     完

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