フロンサック勲爵士(右)とモランジアス
啓蒙の世紀にふさわしい知的なフロンサック(放蕩者だけど)が……。
このクリストフ・ガンス監督、前作ではマニ役のマーク・ダカスコスをタイトル・ロールに「クライング・フリーマン」という作品を取っています。そう、あの小池和夫原作、池上遼一画の劇画の実写版です。「クライング・フリーマン」は仏語で訳されていて、フランスでも結構人気があったようなのですよ。これだけでガンス監督がおたっきーな感性の人だというのがわかりますね。日本ではビデオが発売されています。
それでこの映画、アクション・シーンがまるでジョン・ウーみたい。現代ものならいいんだけど、これを啓蒙の世紀でやられると何ともいえず不思議
終盤もはや何だかよくわからないものに……。(笑)
やがてフロンサックはモランジアス伯爵令嬢のマリアンヌ(エミリー・ドゥケンヌ)を恋するようになり、その様子をじっと見つめる兄のジャン・フランソワ・ド・モランジアス(ヴァンサン・カッセル)。
今回一番インパクトが強かったのは、やはりヴァンサンでした。ロココ・コスプレに加え、顔はなぜか白塗りの西洋公家メークで、ひたすらアンニュイでおたんびーな雰囲気を醸し出していると思いきや、クライマックスでは華麗なる(?)変身。さすがもとアクロバティスト!と手を叩きたくなるアクションを見せてくれます。ネタばれになるのでこれが限界なのが辛い……。どちらにしてもあのすごさは口では説明不可能なのですよ。もうさんざん楽しませてもらいました。
念のため、この映画はホラー・サスペンスに加えて、ロマンスあり、フロンサックとマニとの男の友情ありの非常にシリアスな映画のはずなのです。でも、どうしてもアクション・シーンになると笑いをこらえることができないのは、監督が狙っていたんでしょうか?
私が非常に不真面目で不謹慎なのは認めますが、周りのフランス人の観客の間からも、「ぷっ」とか「くすくす」という声が漏れていました。
謎の女性シルヴィア(モニカ・ベルッチ)が娼館を訪ねてきたモランジアスのことを語る場面にも、受けてしまいました。(注:ヴァンサンとは実生活で夫婦)
フロンサックとの大胆ベッド・シーンも見せてくれますしね。
フロンサックの調査を助ける若きダプシェ侯爵(ジェレミー・レニエ)も素晴らしい美形。
サミュエル・ル・ビアンのカトガン姿もお似合いでした。
しかしロココ・フェチの悲しさで、現代ものの服装をしているときはそれほど惚れないのかもしれません。(笑)
シナリオはどうかというと、ちょっと前半もたもたしすぎていて、なかなか核心に触れないもどかしさがありました。後半は一気に見せるけど、とにかくアクションシーンになると笑いが止まらなくて。ここはどこ?いつの時代?になってしまうのです。マニのシャーマニックな魔術もご都合主義な感じが否めません。映画ではありがちだけど、西洋は理性と科学の世界で、異民族だったら神秘や魔法何でもオッケー的な考え方はどうかと思いますね。他にも、「どうして急にそんなに強くなるんだ、フロンサック!」等、つっこみたい部分がたくさんありました。
後半いよいよ姿を現すベートにも絶句してしまったし……。
ジャン・フランソワ・ド・モランジアス。
ひたすらお耽美でアンニュイなお殿様かと思いきや、彼もあとでとんでもないことに。
公式サイトの解説によると、登場人物は、マニをのぞいて全員実在の人物だということ。
それを知ると、こんなのありかい?な荒唐無稽の世界で、実在のフロンサックがこれを見たら、驚天動地するに違いありません。モランジアスをヴァンサンにキャスティングしたのも、実物に似ていて顔も長いからって、……おいおい。でも、そう言われると本物の肖像が見たくなります。史実がベースになっているのに、ここまで何でもありにされてしまと、いろいろ史実を調べて書くのが馬鹿馬鹿しくなりますね、ホント。
でもこの映画、映像はきれいで、それなりに迫力もあり、異様なミスマッチが結構気に入ってしまったのでまだ冷静な判断ができません。美形はたくさん出ているし、こういう変なものに弱いんですよ。(笑)とにかくヴァンサン・カッセルのファンは必見です!
と、ここまで書いてから二回目を見に行ってしまったので、書き直そうと思ったのですがなんだかややこしいので補足です。
あれからミシェル・ルイ著の「ジェヴォーダンの人喰い狼」も買って斜め読みしたので、それも踏まえてです。
二回目は、ストーリーがわかっていて落ち着いて見たせいか、テンポなどはあまり気になりませんでした。ヴァンサンがセクシー(はあと)。しかし赤いマントを脱ぎ捨てるといきなりあの格好かい(謎)と、またまた大笑い。
この方、デカダンで不健全な役がとってもうまいと思うので、「ジャンヌ・ダルク」のジル・ド・レ役はもうちょっとなんとかしてあげても良かったような気がするのですが、そうするとジャンヌの話ではなくなってしまうので無理だったのでしょうね。
本人はジルの本など読んで、ものすごく人物の研究などしたそうなのですけど、せっかくの役作りはあまり生きていなかったでしょうね。
ちなみにこのモランジアスという人物、モランジエスという名前で実在しています。
実在のモランジエスは、名家の跡取りながら、どうしようもない放蕩者で、財産を食いつぶしたあげく愛人にシャベルで殴り殺されるという、これまた悲惨な最期。映画の方が大分ましでしょうか。
「ジェヴォーダンの人喰い狼」を読むと、なるほど映画はこの事件の真相に関するある説に乗っ取っているのだということがわかりました。でも、それを書くとやっぱりネタばれになってしまうのでやりにくいです。
しかし、不思議なのは本にはフロンサック勲爵士の名前が一度も出てきません。
あのインタビューは聞き間違いで、フロンサックも架空の人物だったのでしょうか?
さらに、今回見たら、冒頭と最後の革命の暴徒に囲まれた城のシーンが印象的で、「滅び行く世界」を描こうとしていたのね、この映画は……。と思いました。
しかし実際のジェヴォーダンは隣のセヴェンヌとは違ってカトリック王党派で、革命期にも冒頭に描かれていたような暴動は起こらなかったというのを付け加えておきましょう。