8月18日 強行軍

2日目となった今日出発するということは,それだけ後の日程がきつくなることを意味する.前回の経験から往復コースでは往きでできるだけ距離を稼いだ方が楽な事を知っていたため,なんとしても今日は,昨日の遅れを取り戻すだけでなく,それ以上に進まなければならない.このため,今日は6時起床7時出航,夜の7時頃まで走れるだけ走ることを決めていた.昨日は暑い位天気が良かったのに,今朝は朝からどんよりした天気なのが気にかかる.

ボートセンターの脇には電動のリフトブリッジがあり,さっそくYukiさんに操作してもらうこととした.段取りを決め,皆で確認してからの出航である.まず道路をゲートで遮断し,リフトブリッジの制御板を操作して橋を上げると同時にボートの舫を解き,出航である.ボートを回し,上がっているリフトブリッジの下を通過し,ボートを左に寄せる.リフトブリッジを下ろし終わったYukiさんをボートに乗せ,さあ,いよいよ運河の旅の始まりとなった.

 
電動リフトブリッジ   電動リフトブリッジの操作パネル.操作するには British Waterways の鍵が必要.下の3つのボタンで,「上げ」,「下げ」,「緊急停止」を操作する.

今回の運河の旅では全航程でロックの数が16個(前回は100以上!)しかないが,リフトブリッジの数が多い.しかしなんといっても初体験の3連続のステアケースロックがある.通常のロックは上流と下流にゲートがあるが,ステアケースロックでは上流のロックの下流側のゲートが下流のロックの上流側のゲートを兼用しているのである.本を読んでその構造は知ってはいたが,実物を見ないままで完全に理解するのは難しい.

いくつかの(通常の)ロックを越えて,そろそろステアケースロックに差し掛かるというところで,ひとりのイギリス人が我々のボートにやって来て,私に「着いてこい!」というのである.ボートをYukiさんと家内にまかせ,訳も分からずにその男に従って後をついていくと,その男はやたらロックの説明をし始めるのである.そんなことはもう知っているよ,と言う暇も与えず,その男はしゃべり続け,先へ先へと私を引っ張っていくのである.とうとうステアケースロックの一番下流側のロックが見えるとこまで来ると,「ここで一旦ボートを係留させ,ステアケースロックのところまで歩いていき,青いベストを着ている British Waterways の人間にロックに入ることを告げるんだ」と説明する.私としてはこれがだけが知りたい情報であった.来た道を戻ってやっと解放された私は自分達のボートを見て愕然とした.ロックを上っている最中のはずだったボートは,既に上がり終わっただけでなく,ロックから完全に出てしまっていて,Yukiさんひとりがボートに乗っているのである.

ステアケースロックの入口にある説明のための看板.事前の段取りが一番重要である.
もっとも難しいのは真ん中のロックの水位調整.ロックの中に書いてある白い線に合わせるよう上下のゲートのパドルを操作しなければならない.
実際には British Warteways のロックキーパーがロックの操作をやってくれた.

「そのまま次のロックに入れ!」と私は叫ぶ.Yukiさんは日本の小型船舶操縦士免許を持っているのでなんとかなると思ったのだ.しかしYukiさんはこの時かなりパニックになっていたらしく,前進にギアを入れるとかなりの速度で突進し始めたのである.次のロックまでは50メートルもない.肝を冷やした私は「バック!バック!」と大声で叫ぶが,エンジンの音でYukiさんは聞こえないらしい.身振り手振りで叫び続け,やっとYukiさんはバックに入れるが間に合わなかった.ボートは運河脇の土手にぶつかってしまった.おかげで速度が落ち,ボートの向きも適切になったので,そのまま,今度はゆっくりとロックに入るよう指示する.陸にいる私としては他にどうしようもなかった.これがYukiさんのロック通過初体験となったのである.

Yukiさんが凛々しく舵をひく.

Yukiさんは小柄なので,舵をひいているとスロットルレバー(アクセル)に手が届かない.身長180cmの私でさえも右に舵を切っていると,左側にあるスロットルレバーには手が届かない.

今回のボートは舵が重く,一日舵をひいていると疲れ果てる.Yukiさんに代わってもらうことができて,本当に助かった.

一番心配していたステアケースロックは,British Waterways のロックキーパーがロックの操作を全て行ってくれたので,私はボートに乗って言われるままにボートを進めるだけで無事通過することができた.しかしながら,このステアケースロックの水流は私が知っているロックの中では一番強く,上流側パドルを勢い良く開けると水流でボートが押し戻されて後ろのゲートにぶつかりそうになり,かなり焦った.ステアケースロックを抜け終わったところで丁度お昼となり,ステアケースロックの先にボートを停泊させ,ロック脇にあるレストランで昼食のサンドイッチを皆で食べる.

ステアケースロックの最上段ロックから下を見たところ.かなりの段差である.写真左奥にショップ&レストランが見える.ここで買ったフェタチーズはとっても美味しかった.(Yukiさん撮影)

午後になると雲行きはますます怪しくなり3時頃には本格的な雨となった.しばらく雨の中を往き,ボートを止められる場所を見つけ停泊しようとするが,土手の草が雨で濡れて靴が滑り,ボートを係留するのにもかなり手間取った.休憩後も雨はしばらく降っていたが,2時間もすると小降りになり始め,夕方には止んでくれた.7時近くになってやっと目標としていた Ellesmere に着く.ここでボートを停泊させ,今日はここまでとする.旅の疲れ,悪天候,強行軍と悪条件が重なり,皆の口数は少なめで,早々と就寝した.


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