8月19日 歩いて渡るアクアダクト

昨日の雨の中の強行軍のお陰で少しは運河旅行に余裕が出始めた.なによりも天気がだんだん良くなってきたのが嬉しい.ここの運河は Llangollen 運河という名が付いているが,運河案内書によると往きと帰りで速度が違うので注意すようにと書いてある.そもそもこの運河は,ボートを通過させるためでなく,運河の終点である Llangollen から下流の運河に水を供給する役目もあったらしい.運河は基本的に水平で流れが生じないように造られているのだが,この Llangollen 運河は例外で,若干の傾斜があり水流がある.このせいで Llangollen への「上り」が遅く,「下り」が速いのである.Ellesmere を過ぎた辺りからこの流れが実感できるようになってきた.曲がりくねった運河を「上って」いくと,次第に丘陵地帯になって来る.

昼食は運河沿いの Jack Mytton パブで食べ,犬と遊ぶ.パブの主人に聞くとウェールズはもうすぐだそうだ.4時頃になって Chirk という町に着く.買い出しのためボートを停泊させようと適当な場所を探す.この先は狭くて交互通行のようだからここらで止めた方がいい,とナビゲータ係の家内が言うので,森の中にボートを停泊させ,皆で歩いて買い出しに出かける.運河沿いに歩いていって右に曲がったとたん,急に展望が開けた.なんと,そこは Chirk のアクアダクトであった.つまり運河地図で見た「狭い部分」とはアクアダクトのことだったのである.そしてこのアクアダクトこそ今回の運河旅行の最大の見所のひとつだったのである.あまりに唐突にアクアダクトが目前に現れたので,皆で唖然としてしまった.私はカメラをボートに置いて来てしまったことを悔やんだ.

通称「Chirk のアクアダクト」,正式には "Frontcysyllte Aqueduct".手前の我々が立っているところがアクアダクトで,奥が鉄道用の橋(Yukiさん撮影)

このアクアダクトのすぐ横に汽車のための橋がある.汽車と言えば100年以上も前に運河衰退の原因を作った,いわば運河の敵であり,こうして運河の脇に汽車の橋を造るということは明らかに運河の追い落とすのが目的であったろうと推測される.しかし現在となっては,汽車と運河の2つの橋が平行していること自体が Chirk アクアダクト最大の特徴となっている.

Chirk の町で観光案内所に行くと,私を除く我がボートの女性陣は入ったままなかなか出てこない.この案内所は土産物屋を兼ねており,本来の目的である買い出しを忘れ,土産物を物色しているのである.この後の旅の間中,私は何度もこのパターンに遭遇することになる.30分以上も経ってからスーパーマーケットに行き,買い出しを済ませボートへと帰る.途中,アクアダクトと鉄道の橋を見下ろせる展望台を見つけた.

Chirk 展望台からの眺め(Yukiさん撮影)

ボートに戻り,今度はカメラを用意し,ボートに乗ってアクアダクトを渡る.天気が良くなったこともあり,素晴らしいパノラマを皆で楽しむ.アクアダクトを渡り切ると,やはり交互通行のトンネルがある.反対側からのボートが通過するのを待って,我々のボートもトンネルを抜ける.そして今回の運河旅行の最大の目的であり,世界最大のアクアダクトである Pontcysyllte の手前でボートを停泊させた.折角なので,Pontcysyllte アクアダクトを皆で歩いて往復した.

Pontcysyllte のアクアダクトは Chirk のそれより高さがあり,トウパスの幅が狭いせいか,歩くと足がむずむずする.

アクアダクトの下は,Chirk から来ると,前半は草原だが後半は Dee 川の渓谷となっている.何故か渓谷側の方が怖い.

不思議なことに,私はボートに乗っていると全く恐怖を感じなかった.ボートから落ちてはいけない,という意識のせいだろうか.

訪れた時が丁度夕方だったため,アクアダクトの影が草原に長く伸びていた.

さて Pontcysyllte まで到達したので今回の旅の最大の目的を達成できることがほぼ確実となった.しかしながらこの運河の終点は Llangollen である.運河案内書によれば,Llangollen は小綺麗な町でウェールズ特有の雰囲気があるそうである.そうまで書かれても行くのに躊躇するのには理由がある.ここから先 Llangollen までの運河は狭く,交互通行部分が多い.それだけではない.Llangollen 近辺での係留場所も限られており,特に夏のハイシーズンは満杯の事が多い,とある.つまり Llangollen に行くまで通常よりも時間がかかり,無事着いたとしても泊める場所がないということもあり得るのである.

ここからは列車かバスで Llangollen に行く方法も調べたがそれらも簡単ではないようだ.そこで,明朝早くに出航し,他のボートが出発する時間頃までに Llangollen に着けば係留も可能なのではないか,と考え,6時に出航することにした.はたして作戦通りにいくだろうか?


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