◆05.01.11(Tue)◆

先ほどトップページを見たら、カウンターが5万を越えていました!大勢の方が見に来て下さっているようでとても嬉しいです。本当にありがとうございます。今後ともどうぞよろしくお願い致します。

まず、新年早々の訃報です。The Guardian紙を始め各紙が報道していたのですが、「或る伝記」の著者・ハンフリー・カーペンター氏が今月4日に心不全のため逝去されたとのことです。享年58歳でした。心よりご冥福をお祈り申し上げます。50代という若さで亡くなられたなんてショックですが、「或る伝記」のような良書を執筆してくれたカーペンター氏に改めて感謝の意を表したいと思います。

さて、10日以上たってようやく新年になった実感が沸いてきました(遅すぎ)。日本では新年に書初めをする伝統がありますよね。私は学校の宿題以外では書道はやったためしがないのですが、今日は日本の書道に相当する西洋のカリグラフィーについて書きたいと思います。と言うのも、どうやらトールキン教授も、相当カリグラフィーに入れ込んでいたようなのです。

ウェイン・G・ハモンド氏とクリスティーナ・スカル氏の共著「J.R.R. Tolkien Artist and Illustrator」(邦題:トールキンによる『指輪物語』の図像世界)の最後の「Appendix on Calligraphy (カリグラフィーに関する補遺)」で、トールキンとカリグラフィーの関係について数ページ触れられています。

これによると、トールキンの両親は優れた書家で、母親からカリグラフィーの手ほどきを受けたトールキンは、後にエドワード・ジョンストンの著書「Writing & Illuminating & Lettering」(『書法と彩飾とレタリング』)から更にカリグラフィーを学んだ、ということです。

エドワード・ジョンストン(1872−1944)について一言で説明するなら、現代普及しているカリグラフィーの基盤を作った人、と言えるでしょう。

彼はウルグアイ生まれのイギリス人(スコットランド人かも)で、当初はスコットランドのエジンバラ大学で薬学を勉強する予定だったのが、病気がちだった彼は学業を諦めざるを得ず、病気の療養中に、趣味である手書き文字に没頭したそうです。そして彼の作品が著名なカリグラファーであるハリー・カウリショーの目に留まったことがきっかけで、ジョンストンは1898年にエジンバラからロンドンに引越し、新天地でカリグラフィーを追求することになりました。

ジョンストンは、彼より少し前の時代を生き、トールキンも影響を受けたウィリアム・モリス(1834-1896。織物、壁紙、家具などのデザイン、手書き文字、アイスランド文学の翻訳、詩の創作、さらには政治的活動など、幅広い分野で活躍)にも影響を受けたそうです。モリスもまた、中世の美しい写本に影響を受けたと言われています。モリスは職人による手作りの美術工芸の素晴らしさを再認識すべきだと提唱していましたから、きっとジョンストンもこの提唱には多いに同調できたのではないでしょうか。

そして彼はロンドンで、中世の聖書の写本などに用いられている字体や模様、筆記具(ペンの材料、ペン先の形など)、文字間や行間などのバランス、ページのレイアウト、さらには石碑の碑文の彫り方などについて、徹底的に調査・研究を重ねました。トールキンも参考にしたという上記の彼の著書「Writing & Illuminating & Lettering」(1906年刊行)は、今でもカリグラファー達にとっての良き指針となっています。

ジョンストンが研究の対象にした数々の古い文献には、「The Book of Kells (ケルズの書)」や「The Lindisfarne Gospels (リンディスファーン福音書)」など、イギリスに古くから伝わる聖書の福音書の写本も含まれます。現在、ケルズの書はアイルランドのダブリンにあるトリニティ・カレッジに、リンディスファーン福音書はロンドンの大英図書館にそれぞれ所蔵されています。

ファンデーショナル・ハンド ジョンストンはまた、こうした古い写本に用いられた字体を元に、独自の字体をも考案しました。彼が考案した字体の一つで「基盤となる字体」の意味の「ファンデーショナル・ハンド (Foundational Hand)」は、右のような感じです。お世辞にもあまり上手な例ではありませんが(汗)、ご参考まで。ちなみにこれは「指輪物語」でガラドリエルがうたう「ナマリエ」の詩の一説です。

「J.R.R. Tolkien Artist and Illustrator」で、ハモンド氏&スカル氏が「トールキンが物語を書く際に時折用いたフォーマルな文字の基本となったのが、ジョンストンのファンデーショナル・ハンドであることは疑いの余地がない。」(この本の邦訳を持っていないので適当に訳しました)と言及しています。

トールキン教授は古い文献の研究をしていたわけですから、歴史の古い写本などの文字やデザインに精通していたはずです。テングワールなど美しい文字を創り出してしまうほどのこだわりようですしね。教授の見事なカリグラフィーは上記の「J.R.R. Tolkien Artist and Illustrator」だけでなく、「The Road Goes Ever On」でもたくさん見られますし、「History of Middle-earth」シリーズにもテングワールで書かれた「王の手紙」など、見事な作品が掲載されています。独自の文字と言えば、「サンタクロースの手紙」で多用されている、ブルブル震えた文字もいい味出してますよね。

エドワード・ジョンストンについては、もしかしたらイギリスでも一般的にあまり知られていないかもしれません。しかし、イギリス人(とりわけロンドンの人)にとっては実は非常に身近な存在だったりするのです。というのは、London Underground (ロンドンの地下鉄)の駅名の字体を考案したのが、他ならぬこのジョンストンなのです。

ロンドン地下鉄のサイン ちなみに右写真の「UNDERGROUND」の字体です。これまたあまり良い例ではなくてすみません(汗)。角度がついているし、駅名の写真じゃないし・・・。しかしこれが、自分が撮った写真の中で唯一ロンドンの地下鉄のサインが写っている写真だったりします。いかに今まで注意を払っていなかったかがバレバレですね(汗)。

実にシンプルな字体なのですが、動く電車の中から一瞬見ただけでも駅名が読みやすい、というような工夫が施されているのではないでしょうか。青のバーに赤い輪のデザインは、街の雑踏の中で目立ちますし・・・。ちなみに路線図の駅名の字体も同じです。イギリスにいらっしゃる際には(ロンドンで地下鉄に乗る際には)、ぜひこの駅名の字体にも注目して、「これがトールキンも影響を受けたジョンストンという人が考案した字体なんだ」と思いを馳せてみて下さい。次回は私もそうします(笑)。

カリグラフィーと言えば、ジャクソン監督の映画版LOTRでも、ビルボやフロドが机に向かって本を書くシーンがあったり、中つ国の地図やモリアのマザルブルの書など、沢山の手書き文字が用いられています。これらの手書き文字や地図を手掛けたDaniel Reeve (ダニエル・リーヴ)氏のサイトで、彼の見事な作品がたくさん見られます。「The Lord of the Rings」のセクションが特にお薦めです。本当にきれいで溜息が出ますよ!DVDのメニューページの文字もこの方が手掛けています。また、どうやらニュージーランドの碁ソサエティ(コアな団体があるんですねえ)の会報も担当しているそうです。

おまけ:

ここまで読んで下さった方にお薦めサイトのご紹介です。なごんで下さい。「animals on the underground」という、ロンドンの地下鉄の路線図に動物が隠れている!というサイトです。左上の「Animals」というセクションをご覧下さい。本当にいろいろな動物がいるんです!しかも可愛い!こういうことに気がつくなんて、着眼点が良い人もいるものですね。もしかしたら、東京メトロ(旧営団地下鉄)などの路線図にも、何か潜んでいるかもしれないですね(^-^)。通勤・通学中の気分転換に、路線図の中に何か見えないか探してみるのも楽しいかも?


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