
草原の風を聞け
モンゴル乗馬キャラバン。旅行中にキャラバンに出会った知人から、その旅の名を初めて聞いたときはドキドキした。
翌年にも同じ旅の話を、今度は参加した人から聞いた。ざわざわした。
次の夏には、わたしはモンゴルの大平原にいた。
風が青い。 距離感が狂うほど大気が澄んでいる。
天幕「ゲル」。ツーリストキャンプの部屋だ。 天井に煙り出しの穴があり、外側に垂れ下がった紐を引いて大きさを調節できる。 中央の黒いものは薪ストーブと煙突。
空が燃える。キャンプから丘に駆け上がって見た西。
チベット密教の寺。元は大伽藍だったというが、迫害の時代をくぐり抜け、その面影はおぼろだ。
星空の写真はない。 草原に寝転んで空を見上げると、全天が星に満ちていた。 星座早見盤を持っていったのに、何の役にも立たない。星が見えすぎるのだ。 大勢でただ呆然と星を眺めていた。
実は、わたしはキャラバン移動の二日目の朝に派手に落馬して、さらにはその馬の下敷きになり、残りのほとんどの旅程を寝て過ごすことになってしまった。荷物を運んだロシア製のトラックに揺られてキャンプ地に先回りして、本隊を待っていたときに、様子を見にやって来たのがこの子供たちだった。
最後の日は少しだけ無理をして馬に乗った。終着地近く、群れを煽った牧童さんがいて、一斉に駆け足になった。 遮るものは何もない。恐ろしいほどの疾走感。確かに速足ほど揺れない。それでも痛めた足を踏ん張ることはできず、一瞬恐怖を覚えたとき、さあっと後ろから駈けてきた牧童さんに背中を支えられた。ほっとした。
別れの日、牧童さんと。
痛めた膝は靭帯を切っていた。雨の前はときどき痛むこともある。 今も宝石箱に、愛馬のたてがみで作ったリングを大切にしまっている。 草原の風の形見だから。
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