2004・2・11 思想と信教の自由を守る山口県民集会
講演 『岩国基地の米兵による女性に対する犯罪』


 この文章は、毎年2月11日に行なわれている「思想と信教の自由を守る山口県民集会」の、2004年に行われた38回目の集会の講演をまとめたものです。主催者と著者のご好意により、転載します。この場を借りて、お礼申し上げます。

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藤目ゆきさん(大阪外語大学)の講演

 梅香里の闘いや米軍装甲車による女子中学生轢殺事件に対する抗議の闘いなど、近年の韓国の反基地運動の高揚ぶりが日本にも伝わってくるが、韓国で米軍基地を問題にする運動が広がる契機になったのは1991年に「基地村」(基地周辺の歓楽街)で働いていたユン・グミさんが米兵に惨殺された事件だった。彼女の死体は体中が打撲傷とあざでおおわれ、子宮にコーラのビン、肛門には傘の柄を突き刺された状態で発見された。この残虐な事件に韓国国内は騒然となったが、韓米行政協定は犯人のすみやかな逮捕を阻んだ。
  この事件を契機に米軍犯罪を根絶するために人々が広く結集し、そのなかで「基地村の女性」の存在にも光があてられていった。それまで彼女たちは米兵による暴力の最大の被者者でありながら、その被害はとるにたらないものと軽視されていた。もし「良家の子女」が被害者なら世間はもっとの怒りを燃やしただろう。被害者が売春女性であるがゆえに無数の暴力が見逃されてきたのではないか。基地問題にとりくむ韓国の人々は、米軍の犯罪性と同時に、売春女性を「汚れた女性」だと差別する社会の態度にも批判をなげかけていったのである。女性の人権に深く思いを寄せた韓国の運動のあり方に心を打たれる。

 一方、在日米軍基地周辺にも凶悪な米軍犯罪史が綴られ、多数の女性が犠牲にされてきた。岩国基地周辺では1955年から84年までの30年間に米兵がらみの殺人事件が11件。そのうち8件は「基地村の女性」が殺害された事件だ。下腹部にドライバーやハンマーを刺された死体で見つかった女性もいれば、乳房と性器を切除された死体が遺棄されていた女性もいた。朝鮮戦争後の基地拡張で岩国基地に隣接した地区を中心に歓楽街が拡大し、米兵の相手をする女性は1955年頃に2500人。米海兵隊岩国航空隊基地は62年に正式に発足、ベトナム戦争が始まると米海兵隊で海外唯一の実践航空機部隊拠点としてフル稼働し、女性に対する性的搾取と性暴力が常態化していた。ベトナム戦後、米兵犯罪はむしろ凶悪化し、相次いで女性が殺人、傷害、強姦の被害者となった。

 だが、そんな事実は地元以外ではほとんど知られていない。殺人事件が起こったり強姦事件の告訴が行われたときにも、新聞報道は地元でしか行われず、全国的には伝えられてこなかった。また日本の女性運動や平和運動のなかでも、岩国基地周辺で起こった女性に対する犯罪はほとんど関心をもたれてこなかったようだ。1955年に惨殺された永山由美子ちゃんの名前が沖縄の人々の心に刻印され、91年のユン・グミさんの死が韓国反基地闘争において忘れがたいものとなっているのとはちがい、日本「本土」では、岩国の基地周辺で殺された8人の女性の名は人々の記憶にとどめられていない。まして殺人にいたらない傷害事件・暴行事件はほとんど起こったことさえ気づかれていない。

岩国基地所属の米兵による女性に対する犯罪は現在も起こり続けている。昨年8月1日には米海兵隊員ウイリアム・マッキントッシュ(23)が岩国市内を通行中の女性(53)を襲い、殴打し、加療約24日間の怪我を負わせ、強姦した。だが、この事件もまた全国に報道されもせず、一般の人々のあずかりしらないところで裁判が終わろうとしている。
  被害女性は犯行を許さずマッキントッシュを基地正門まで追いかけて被害を訴え、事件を告発し、マッキントッシュは強姦致傷容疑で逮捕された。ところが1月から岩国地裁で始まった公判に彼女は来ていないという。彼女自身の法廷における証言がないまま、彼女には米軍側から20万円が支払われたこと、彼女が「寛大な処置」を要望しているということが、伝えられている。
 こうした事件の展開に胸が痛む。1997年に三沢基地所属の米兵が類似の事件を八戸市で起こし、被害女性は翌98年青森地裁八戸支部の民事訴訟で米軍側全面負担による500万円の損害賠償を勝ち取っているが、岩国の女性はそんな情報を得ていただろうか? 彼女には法的な助言を与えてくれる人はいたのだろうか? 告発後の苦労をねぎらい援護してくれる人はいたのだろうか? 彼女の被害は彼女だけの被害ではなく全ての女性・基地被害を受けている全ての人々にかかわる人権問題であるのに、そして彼女が犯人に逃走を許さず告発した努力は全女性・全基地被害者の人権救済に貢献することであるのに、この裁判は一般市民がほとんど知らないあいだに終わろうとしているのではないか。

 日米軍事同盟の下、日本政府がアメリカのイラク占領・侵略に加担して自衛隊が派兵される一方で、在日米軍基地周辺で米兵に蹂躙されている女性の存在は見えなくさせられている。私たちにできることは何なのか。山口のみなさんとともにこれからも考え続けてゆきたい。


※尚、岩国基地所属の米兵による強姦致傷事件は、04年3月18日(木)に判決が下されました。

 裁判を傍聴した方の報告によると、主文は、被告人を懲役3年に処し、また執行猶予4年とするものでした。執行猶予付き判決の理由を挙げると以下の通り。

罪悪感に駆られて『姦淫』を断念・謝罪文の送付・被害弁償金として『預金残高のほぼ全額の』20万円の支払い・被害者から寛な判決を望む旨の嘆願書が提出・被害者に対して申し訳ない旨述べ、本件犯行を反省する態度を示す・前科・前歴がない・4か月近くの長期間にわたる身柄の拘束・23歳の若年

 謝罪、被害弁償、被害者からの嘆願書などは、米軍関係者の指導の結果だと思われ、まったくのごまかしです。

 そもそも、「姦淫未遂」が情状酌量の理由になること自体、被害女性の尊厳を踏みにじるものです。性行為を性器の結びつきとしか捉えられない男の価値観が前面に出た判断そのものです。

こうした理由で執行猶予付きとはいえ犯罪者が放免されたこと、犯罪が放置されたことを絶対に許すことはできません。

軍隊と性暴力は不可分です。女性たちの力でアジアから米軍基地を追い出そう!イラク戦争に反対しよう!朝鮮戦争を阻止しよう!