みなさんこんにちは チャーリーです 今回はちょっとスタイルを換えて
私の創作です。 私小説風にかいてみました。 僕は以前
から少年ボクシングに格別の思い入れがあります。
経験もちょっとはあるんですよ。 鼻血は随分出したけれども,
顔が変形する前にやめてしまったから,誰も知らないですんでいます.
でも本当は,手ひどく殴られて,鼻柱が青く腫れていたことぐらいは
あったんですけれどね.知識はまあ豊富です
アマチュアもプロフェッシヨナルも,でもこの事、 それから、
いまでも少年ボクシングが好きなこと、 もう誰も知りません。
けれども、別に隠しているわけでもないし、僕の深層心理には
少年ボクシングの情景が強く刷り込まれているのです。 また、
僕の思い入れをみなさんに伝えたい、 だんだん執筆意欲が強く
なってきたのです。 どうぞ、お読みください。 そうだ、ち
ょっと申し上げておきましょう。 僕、筆がよく滑るのです。
口も滑りますけれどね。 よく失敗するのですよ。 書き
下ろしの最中に、とんだことになることもありました。 一応、
いまはフリーライターですけれど、エッセイストを気取ったこと
もあります。 だいぶ前ですが、エッセイストクラブ賞の候補に
なったことがあります。 本当ですよ。 嘘じゃないってば。
(つまり、空虚な自慢をしているのさ) 僕も少しは期待しまし
た。 でも、やっぱり駄目でしたね。 後で聞かされました。
内容にちょっと品のない個所が目立った。 あれでは通らないよ
だって。 ここでも、そうした批判、叱責が出るのではないか
と怖れています。 しかし、これも僕の持ち味なんです。
ご容赦いただけますか?
チャーリーの自分史抜粋
試合終了 校庭に作られた仮設のリング 周囲の観客のどよめきは未だ静まらない.激しい打ち合いのすえのKO決着。
Aくんーー勝者の少年の腕が高々とあげられる。やっ

たー 誇らしげな勝者の美少年 緋色の上下 白のストライプ,リングシューズからは白地に
紺のハイソックスがのぞく。 頬をかすかに腫らし、唇には血がにじむ。半開きの口からはマ
ウスピースが白く洩れる。 苦しげな、しかし勝ち誇った表情だ。 秋の日の午後、落日が少
年の影を長く描く。 対する敗者の少年。この子もかわいい。 若武者らしい萌葱色の上下、赤のストライ
プ,純白のハイソックス、しかしユニフォームもハイソックスも血が滲んで、 肩を落としう
つむく少年 左目を青黒く腫らし、かわいいお口も血と唾液でぐちゃぐちゃ、格好のいい鼻か
らも一筋の鮮血が流れるまま。 悔しい、両腕のグローブで顔をおおい、タオルを羽織って,
涙を隠しながら仲間の少年たちに支えられリングを去って行く。 かわいらしい顔立ちに
似合わない、若い野獣のような荒々しい体臭を漂わせながら。
手痛いダウンを2回、そうして力尽きての打倒負け、 『くそー、畜生、今度やったらぶっ倒して
やる』 内心の自分に言い聞かせるようにかすかにうめきつぶやきながら、控え室に消えて行
く。

さてこれは実況ではありません。 敗者の少年は僕に似ているかもしれないけれど、実際の僕
はボクシング部員じゃなかった。 やりたかったし、その機会もあったのに、とうとうやらないで
来てしまった。 高校ボクシングやればよかったなあ。もともと部が無かったんだ。
友達を誘ってボクシング部を創ればよかったのに。 小学生から中学生まで、僕はそれ
相応にかわいい男の子だった。 丸い顔、優しい目つき、ほほえみを絶やさない表情、頬には
えくぼもできる、顔にうぶげが出やすいたちで、だから女の子にはまちがえられなかったが、
優しい、明るい性格で女子生徒にも人気があった。 上級生の男の子にもかわいがられ,つまり
ちょっとしたお稚児さんだったんだ. 勉強はよくできました。 塾なんか行っ
てない。 必要が無かったんです。 名門の進学校つまりお坊ちゃん学校へ通ってて、よくいじ
められた。 帰りがけに途中で待ち伏せされて大勢に取り巻かれ、帽子をとられ
ちゃったり、ひっぱだかれたり、こづきまわされたり、だって、多勢に無勢だもの。 だけど、
僕見かけほどおとなしくはないんだ。 弱くても、 殴られたら、殴り返す。 いっぺんだけだけ
れど、とうとうやっちゃった。 僕、実はいざとなると性格変わる方。 殴り合いに
取っ組み合いどっちが勝ったか全然覚えていない。 多分引き分け
ドローだったんでしょう。 ただ,押し倒されて地面に顔をつけ,
前歯がアスファルトにガリガリ当たった変な感覚は覚えています
でも家に帰ったら大騒ぎになり、どうも血だらけでタンコブができていて、すぐさま外科医
院にかつぎこまれてしまった。 バンソウ膏をベタベタ、包帯をグルグル巻かれ、勇ましい格
好です。 しかし翌日、包帯とバンソウ膏をビリビリ引き剥がされ、 あまりの痛さに悲鳴を
あげて泣きじゃくり、少年ファイター形無しでした。 こうした僕が両親には歯がゆかったの
だろう、いろいろなことを考え実行した。 まず僕に家庭教師をつけた。 その話おかしいっ
て? そうでしょう 勉強ではなくて、体育の家庭教師 体育大の大学院生ネモト先生 体操が専
門だったみたい。 のちに某国立大学教育学部の教授になったそうだから、ちゃんとした先生
だったんだ。 しかし困ったことが起きた。 先生錯覚を起こして僕に勉強まで教え始めた。
父親が怒ってしまい、(怒るほどのことじゃないのにねえ)とうとうネモト先生はクビ、なんで
クビになったのか先生最後まで判らなかったらしい。 その次はこれはもっとすごいので、ど
ういうわけか、うちにはプロボクサーが居候をしていた。
たしかヨコヤマさんといって,えらく大きなやつで、ウエルターか
ミドル級ぐらい。今はもうないが、国民体育拳闘会というすごくマイナーなジムに所属してい
て、だから住むところがなかったんだろう。 一時は辰巳八郎を破って
全日本ウエルター級チャンピオンにまでなったから、まあ強かったのでしょうね。 深酒と不摂生で
若死してしまった人です.でも僕あまり彼のこと好きじゃなかった。だって
臭いんだもの。トレーニングの後なんか、汗臭くて、そりゃあ僕だって友達だってよく汗かい
てた。少年同士の汗の匂い、気持ちのいいものだった。だけど大人の汗臭さ、たまらないよ。
気が遠くなりそう。その彼が僕に『坊ちゃん ボクシング教えてやるよ』と言い出し、 本人
よりも先に父親が乗り気になり、早速練習開始、庭に練習場を建てるとまで言い出した。これ
が実現すれば、僕だって、当時中一とすると3年で高一、4年で高二だから、都の高校選手権
で、相当いいところに行ったはずなのだけれど、彼が何か不都合をしでかして家にいられなく
なり、 この話もボツとなった。 僕のサイズなんですが、中学校低学年
のころ、身長160cm、体重50kgくらい、そう小さい方でもない。体重は練習次第で変わるはずで、練習を
積んで絞ればモスキート級で落ち着いたと思う。 とにかく 惜しいことしたものです。 た
だ、すんでしまった事をいまさら悔やんでも仕方がないので、これではcharlieの思い出話に
しかなりませんが、この僕の少年ボクシングへの思い入れの吐露として受け入れていただけれ
ば幸いです。少年ボクサーへの僕の道筋には、まだ難関がありました。 実際トレーニングを
開始したとして、まず第一に、僕、実は本来左利きです。 ところが両親は旧弊で、幼年期に
無理に右利きに矯正したらしい。 そのため変なことが起きちゃった。 まず、私には吃音癖
がある。それに、少年期にすでに一見右利きらしくなっていて、字を書くのも、箸を持つのも
右。ところが、咄嗟の動作はあいかわらず左これは今でもそう。 ですからねえ、 左ジャブ
で相手に向かっていく。 ストレートでのとどめはやはり1,2,3左、右、左で
決めたい。 しかし、左腕はそれほど使っていないからパンチはブヨブヨ到底倒せない。 まだありま
す。 僕は足が小さい。 当時から今まで、24.5cm 少年としても小さいです。 現在市
販されているボクシングシューズは少年用で、最小が24.0cmじゃなかったかな。つまり
僕は足の安定が悪い。 フットワークに弱点がある。 性格的にむしゃぶりついていく方だから、
接近してのフックの連発で立ち向かい、アウトボクシングでの強打一発はまあ出来
ない。いわゆるファイタータイプ。 僕はそれに鼻血を出しやすい体質、リング中央で足を止め、
ベタ足で仁王立ち、 血まみれの殴り合いをやるんだろう。 美少年の血しぶきをあ
げての強打の応酬なんて軽量級では珍しくて評判になったんじゃないかな。 本当のところ、
強打は嘘、前にも言ったように、パンチ力がないから、インファイトの消耗戦で、気力に勝る
方が打ち勝つ結末。 ここまでの話、いろいろ述べてきましたが、これ事実じゃあ
りません。 こうだったらよかったなあといった願望の産物です。僕の内部には潜在意識のように、
少年ボクサーの姿が刷り込まれているのです。
小説
アトランティスの少年
by charlie kosugi
序の章
ギリシャ本土より西へ200キロ、アテネ近郊のピレウス港から
のフェリーで約4時間、デロス島を中心と
して環状に連なる、キクラデス諸島に到着する。
その南の端に、観光地としても名高いサントリニ島(古名テラ島)
がある。 南北に半円状をなし、面積70平方キロ
ほどの小島だが、円弧状の海岸から300メートル
の急峻な崖が屹立するその魁偉な島容でよく知られ、
観光クルーズが必ず立ち寄るところだ。 紀元前
4000年紀には人が住み始め、2000年紀ごろ
に青銅器文明の時期に入り、 エーゲ海文明のひと
つの中心になっていた。 もともとは中央に火山を
持つ円形の島であったのだが、紀元前1七世紀ご
ろ,最近の科学的年代測定の結果では
1625BCの大噴火により、島の半分が吹き飛ばされ、当時
の文明は完全に崩壊し、今日の半円状の島は火口
カルデラの西半分が海中に陥没して出来たものである。
20世紀に入ってから考古学的発掘が行われ、
島の東南部から火山灰に埋まった大きな遺跡
(アクロティリの遺跡)が出土している。 古代ギリシャ
の哲学者プラトンは、その著書の中で、失われた
超古代の島アトランティスについて述べている。
プラトンによれば、このアトランティスは大陸に匹敵
するような大きな島で、今日の大西洋中に存在し、
そこには高度な文明が栄え、その勢力はギリシャにまで
及ぶ大帝国が成立していたが、突然の大災害でアトラン
ティスは海底に沈み、その文明も失われたというので
ある。 大西洋Atlantic Oceanの語源となったのだ。
しかし、人類がなんらかの文明を成立させて以来、
ひとつの大陸を消滅させてしまうほどの大災害が
起こったとは極めて考えにくい。 プラトンの記述が
単なる空想ではなく、ひとつの事実とするならば、
アトランティスの位置はもっとギリシャ本土に近く、
しかも規模の小さい島なのではないか。 こうした
推論から、ここで述べるサントリニ島こそが
アトランティスなのではないかと、考えられはじ
めている。 サントリニに住んでいた人たちが、
どういう人種であったのかは、よく分かってはいない。
遺跡の発掘によっても,遺体の出土は僅少で,
大部分の人々は脱出できたらしく,
民族学的所見もいまだ不明のままである.
また、どういう言葉を話していたかも分かってはいないが,
想像するところ、小アジアから渡って来た海洋民族が
ギリシャ人と混血したのではないか、また、彼らが
残した文字は大部分未解読ではあるけれども、線形
文字が2種類、絵文字が1種類発見されていて、
そのうちのひとつ、線形文字Bが20世紀の中ごろ
英国の言語学者ヴェントリスによって解読され、古代
ギリシャ語が書かれていることが判明している。
また、テラの遺跡の発掘により、多数の壁画が発見
され、これの観察から、当時の人々の容貌、服装、
生態等々が明らかになった。 特に有名な壁画に、
兄弟と思われる2人の美少年が向き合って拳を
あわせている、Boxing Children と呼ばれる作例がある。
1600BCころの制作と考えられ、直後の火山爆発で
町は火山灰に埋まってしまうから、その後3500年間、
彼ら美少年ボクサーの雄姿は、人の目に触れることはなかった。
これは現在、アテネの国立考古学博物館に収蔵
されていて、筆者チャーリーも実見している。
これから語られるのは、この壁画を題材として、
筆者の自由な発想による、古代の少年ボクサーの
物語である。

第1章
早朝の冷気の中で、13歳のティノ少年は目をさました。
「寒いなあ」・・・石造りの屋敷の1室、木製の
寝台の上、敷き藁と羊の毛皮があり、防寒には十分だが、
なにしろ全裸なのだから。 当時の少年の風俗で、
衣服はつけていない。 下半身もそのまま、ただ、
腰に帯を1本巻いている。 陰部も露出したままだ。
まだ、13歳だもの。 でも、起きたての身体は元気
いっぱい、下腹部の秘所も力強く起ち上がっている。
「よし!」ティノは跳ね起きた。 健康な少年だ、
力も強い。 そのまま部屋を飛び出し、中庭を抜け、
外へ走り出す。 裸足のままだ。 オリーブ林の坂を
駆け下り、泉に身を投じる。・・・・ザブン・・・・
いっぺんに眠気が覚める。 抜き手をきってしばらく
泳いだ。 ここは海に取り巻かれた島国だ。
人々も皆すぐれた漁民、船人で、水には慣れきっている。
少年たちも幼いころから水泳に親しみ、泳ぎがうまい。
ひととおり泳ぐと、岸にあがり、水気をきり、
体を動かす。 ティノはいい泳ぎ手だけではなく、
すぐれたボクサーでもある。 同年配の少年たちの
なかではずばぬけて強い。 何人もの力自慢の
少年が拳で闘いを挑み、たちまちのうちにティノの足下に
倒れ伏した。 身体が乾くと、ティノは自分の身体を
眺めてみた。 すらりとした長身、色白の大きな目を
した美貌、優しい顔つきの町一番の美少年だ。
前髪を残して頭を青々と剃り、後頭部には長い
弁髪が背中にまで伸びている。 裸のままで拳を
かまえてみる。 長い手足、二の腕には筋肉が
逞しく盛り上がる。 股間の陰茎はまだ幼いが、
ようやく萌えだした陰毛がもやもやと、青年への
第一歩だ。 「そろそろ腰布をつけなくちゃなあ、
母様が作ってくれているんだろな」 ふたたび
泉には入り泳ぎ出す。 「兄ちゃんもう起きたのか」
一つ違い12歳の弟のネミだ。 「なんだ寝ぼすけ、
早く泳げよ」「うん」 兄弟の父親は町の首長、
だから彼ら兄弟は王子なんだ。 ともに首飾り、
腕輪、足首にも飾りの輪、豪華な装身具を身に
つけている。 ネミもかわいい。 首長の自慢の
男の子たちだ。 長兄はすでにこの世にはいない。
知力ともに優れ逞しく美しい若武者だった
長兄ロトは、昨年の隣町との戦いで壮烈な
討ち死にをとげている。 付き従っている雇従の少年
たちも勇敢に戦い,みな若殿に殉じた. 今となっては、
次男のティノが大事な跡継ぎなのだ。
この島には南と北ふたつの町がある。
仲が悪く、常に争いが絶えない。 土地の境界争い、
水争い、それに漁業の縄張り争い。 戦いのたびに
大勢の人が死んだ。 去年の戦いは特に凄まじかった。
たくさんの兵士が出て、青銅の剣で渡り合って
斬り死にし、ティノたちの南の町では、
首長の跡取りロトを失い、北の町では首長の弟が殺された。
その恨みは未だ人々の心に残り,争いはさらに激化しそうだ.
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兄弟ふたりは泉から上がった。 水気をきり,身体を乾かす.
オリーブ林に戻って,実をつまむ. 食事にはまだ早い.
「おいネミ,拳闘の稽古はしているか?」「うん,やってるよ.
もう兄ちゃんには負けないからね」「なにお,よし,試してやる,
かかってこい 負けて泣くなよ」「兄ちゃんこそ・・・」ふたりは
向き合った. 素手で拳をかまえる. 「さあ 来い! ネミ
お前が先だ」「よしきた,兄ちゃん行くぞ」 パッ・・・ネミの
拳が飛んでくる. ティノの顎に入った. ウッ・・・思わず
のけぞるティノ. 「こいつ」 体勢を立て直し,今度はティナの
強打がネミの口に.「うふっ」 ネミがよろめく. しかし,ネミは
倒れない.上体を崩しながらも,ネミのパンチが下から突き上がる.
今度はティノがよろめく. 「やったな!」 あとは美少年ふたりの
激しい殴り合い,色白の顔を赤く染め,「クッ ウッ ウッ・・・」
はげしい息遣い,苦しげなうなり声. ティノの渾身の一撃が
ネミのかわいい顔を襲う.倒れこむネミ.ネミはちょっと失禁した.
「あ,いけね」 ネミの股間がぬれていく.口惜しそうに兄を見上げる弟「おい しっかりしろ」
ネミを助けおこし,泉の水で股を洗い,顔を冷やす. 手当てをしながら,
向き合って座り,顔を見合わせて,「うふふ・・・ふふふ」
酷い顔だなあ 思わず笑ってしまった. 「おい ネミ,
お前本当に強くなったな」 「うん そうだろ,だけど,
兄ちゃんには敵わないよ」 「オレたち,強くならなきゃなあ お前,
兄様のご最期のこと,覚えているか?」「忘れるものか,
憎い北の町の奴ら」 「そうだ,あいつらはオレたちの
カタキなんだ」 「血にまみれて倒れた兄様のお首を,
あいつら斬りとって,
勝ち誇って引き上げていった くやしかったなあ」「この次は必ず・・・」
「だから,鍛錬を続けて,町を守り,母様を守ろうぜ オレたちの努めだ」
坂を登り,屋敷へ帰って行くふたり. 「ティノさま,ネミさま,
おはようございます」兄弟の顔の傷をみて「あれ,もう,お二人で,拳闘のお稽古ですか」
臣下の少年たちだ.「うんそうだよ,君たちも鍛えているかい」「心得ております」
彼らと分かれてから「あいつらの兄貴たちも,去年の戦いで討ち死に
したんだな」「・・・・・・・」屋敷に帰ると,爺が待っていた.
「若,お帰りなされ お父上がお呼びです」 「わかった,何のご用だろ」
「さてと,爺には分かりませぬ. 大事なお話のご様子です」
(続く)
ティノとネミ
稚いグローブ
はじめに
これからお目にかけるのは,私の少年時代,つまり高校生の時代に経験した
諸々のスポーツ体験,それに未熟ながら考え,実行したいくつかの活動から
題材をとった一種の青春小説のシリーズです. 若者の私小説とお考えくだ
さい. ある架空の進学名門校のボクシング部員小杉チャーリーが主人公と
なっています. すぐ判ることですが,シリーズとはいいながら,この少年
チャーリーの性格は首尾一貫しておりません. ある時は真面目なスポーツ
少年のチャーリー,またある時は成績はいいけれども,不良っぽく小生意気な高校生
のチャーリー,それから,思春期を通過中の,かなり情緒不安定なチャーリー,
いろいろなタイプのチャーリー少年が現れます. これらは皆,小杉チャー
リーの実像です. もちろん創作した部分はありますが,私の少年時代,
いろいろな事がありました. 相当にに不良で,反抗的でしたからね. 実像
としての私はボクシング部員ではありませんでした. 愛好していたし,
それなりのトレーニングはしていましたけれど,公式戦出場の経験はありません.
だけれども,嘘を書いているのではないのです. こういう風には考えられない
でしょうか. 歴史上,「もしも」と考えるのは意味のあることではありません.
もしも,関が原の戦いで,西軍が勝っていたら,あるいはワーテルロー
でナポレオンがウエリントンを破っていたら,話としては面白いけれど,これは
歴史記述じゃない. もしも,過去の私がああいう生い立ちではなかったら,
入学した高校がスポーツ重視で,厳しい競争ののち,アマチュアボクサーとして
大成していたら,等々まるで無意味な述懐ですが,物語性は増大します.
ここに空想的な,いやむしろ妄想的なスポーツ小説が完成するのです.あるいは,
こうも言えます. すでに故人ですが女流推理小説家の山村美紗さんには,京都
を舞台としたシリーズがあります. そこでは狂言回しとして,京都府警の狩矢
警部という人物が登場します. 実はこの狩矢警部,チャーリー少年と同様,
作品ごとに,その性格が微妙に変わってくるのです. 彼にからむ出演女優の
キャラクターに依るのですね. 実直そうなサラリーマンタイプの狩矢警部,
タフガイタイプの警部,そうして超エリートタイプの警部,タイプはいろいろ
ですが,難事件を解決する名警部であることには違いがありません.
チャーリー少年でも同様です.いろいろな目に会います. 勝ったり負けたり
,
負傷して血を流したり、挫折したり. しかし,強敵に遭遇しても,勇敢に
戦って一歩一歩前進していく少年ボクサーであることには違いはありません.
いろいろなエピソードをご覧にいれます. どうぞお読みください.
<稚いグローブ(改作)
チャーリーとマサルの青春

〈チャーリーの手記 その一〉
9月のある土曜日の午後、僕は毎週通っている目白の
YNボクシングジムのドアを開けた。
「こんにちわ!」ムッとした汗の匂いが鼻をつく。 おなじみのボ
クシングジムの匂いだ。 僕は小杉茶利15歳、Q高校1年、
このジムの少年練習生なんだ。 入門してから半年になる。 「お
お チャー坊 お前まじめだな 皆勤だろ」 ここでは誰も僕
の名前チャーリーをちゃんと呼んでくれない。 チャー坊と
か、チャー公とか、ただチャーとか、坊やと呼ぶ人もある。 会
長さんだけは小杉クンといってくれるけれどね。 会長さんはも
と有名なプロボクサーだった人だ。 大学ボクシングで名を馳せ
て、プロに転向してからも、全日本のチャンピオンにもなってる
し、世界戦にも挑戦している。 僕の従兄のひとり、といっても
年がずっと離れているから叔父さんみたいなものだけれど、彼と
友人で、その伝手で入門したんだ。 なぜボクシング始めたか
だって? そりゃあ好きだからさ. でも、本当の理由はね、不
良高校生にからまれて、抵抗して負けて、それで強くなって仕返
ししてやろうと始めたのさ。 でも、こういう不純な動機はよく
ないんで、今となっては、ただ好きだから、殴り殴られ、この快
感がたまらないんだよ。 会長さんはボクサーには珍しく、オ
シャレで、すごく上等そうなスーツを着ている。 若い時には、
試合の前に、自分のトランクスやガウンにちゃんとアイロンをか
け、身体にもオーデコロンを振りかけてリングに上がったん
だってさ。 この話をパパにしたら、「うーん、大阪夏の陣で戦死し
た木村長門守みたいだな、兜に香を焚きしめて最後の出陣だ、い
や奥床しい」だって、パパはとにかく変なところで感心するんだ
から。 みんなに挨拶してから地下のロッカールームに降りて、
手早く着替え。 ロッカーを開けると、プーンと汗と脂の匂いが
飛び出してくる。 僕の匂いだ。 家ではママが汚れ物はどんど
ん洗濯しちゃうから、僕の体臭の染みこんだシャツなんか無いけ
れど、 ここでは汗で汚れたウエアーをそのままロッカーに突っ
込んじゃう。 じきにすごい匂いになる。 そろそろ持って帰っ
て洗濯して貰わなければいけないなあ。 まず裸になってサポー
ターを着ける。 股のあたりからも汗で蒸れたサポーターの匂いがあがってく
る。 臭いなあ、はじめ白かったサポーターも、僕の流す汗を吸
いこんで灰色に変色している。 そうだ、今日は全部持って帰ろ
う。 これで腰がしっかり決まった。 今度はお気に入りの真っ
赤な色のトレーニングウエアー、でも、これも薄汚れているな。
次に白のハイソックスと練習用リングシューズ、最後に手にバ
ンテージを巻いて準備完了だ。 バンテージはつまり包帯のこ
と、グローブをはめた時、手にグローブがしっくりするように、
それから、手を衝撃から守るために両手に巻く。 巻き方にきま
りがあって、難しいんだよ。 まず親指をはずして手の甲に軽く巻き,
次に手首に巻下ろす,これをおり返してまた巻き上げ,手のひらから拳に巻き上げる,
2メートル全部を巻くと,こんもりと盛り上がり,これだけでもボクサーの拳
そのものになってくる.バンテージはグローブを使わない
時にはいらないようなものだけれども、ボクサーは試合場でも練
習場でも、常にこれを巻いている。 裸の拳だけでいることは、
まあない。 バンテージを巻くと、さあ僕はボクサーなんだぞと
いう自覚が湧いてくるんだ。 階段を上がって1階の練習場へ、
「お願いします!」「よし、チャー、今日もしっかりやろうな」
「ハイッ!」 まず屈伸運動、それから縄跳び、そうしてシャドー
ボクシング。 これ見かけより大変なんだ。 パンチ繰り出しても、
当てる相手がないでしょ。 つまり空を切るわけ、空振りだ
から拳をうまく止めないとひどく消耗するんだ。 ブザーが鳴っ
ていっせいに動き出す。 3分で停止のブザー、休憩1分、そし
てまた、3分。 ジムではすべて試合を想定した時間配分になっ
ている。 僕なんか、3分間のシャドーでもうフラフラ。 1分
休んで、また再開。 トレーナーが怒鳴る。「おいチャー公 なに
してる、手を抜くな! もっと身体を動かせ!」 「ハ、
ハイ!」 苦しい、もう倒れそう。 3ラウンド分のシャドーで、
僕はもう汗まみれ、ウエアーの背中にも、胸にも汗染みが黒く
浮いている。 ウエアーの中の肉体はグチャグチャ、首周りから身
体の熱気と体臭が立ち上っている。 水が飲みたい、冷水器から
一口、生き返った、だけど途端に汗が再び噴出す。 「おい、あ
まり飲むなよ、余計疲れるぞ」 「・・・・」 そんな事言っ
たって。 約1時間のトレーニング結構大変なんだ。 まだまだ苦行
は続く。 パンチング・グローブをはめ、サンドバッグ叩き、
これ一番やりたいんだよね。 でも油断するとバッグが跳ね返っ
て来て、こっちが吹っ飛ばされる。 「おい馬鹿、気を抜くから
そんな事になるんだ」 さらにヘトヘトになる。 次は腹筋のト
レーニング、僕ここが弱いんだ。 少年ボクサーは皆そうだけ
れどね。 スレンダーベンチに仰向けになる。 シャツも脱いで
上半身裸になる。 両腕を頭上で組み、胃を露出。 トレーナーが
メディシンボールを持ってやって来た。 僕のボディーを見て、
「ウーン、まだまだだな。 よし、こらえろよ。 行くぞ!」
「ハイ!」 ボールが容赦無く僕の胃に叩きつけられる。 歯を食いし
ばって耐える僕。 痛い! すごい吐き気。 ボールが当たる
たびに腹に力をいれ「アアー!アウー!」 ほんとにこのジ
ム、ハードトレーニングなんだから。 僕は強くなりたいんだ。
僕の弱いボディーは狙われやすい。 ボクシングを始めるきっか
けとなった、不良との喧嘩でも、まず一発腹に叩きこまれて身動
きがとれなくなり、それからは殴られるだけ、のされちゃっ
たんだ。 トレーニングも終わりに近づいた。 今日の仕上げは
スパーリング、始めての経験だ。 「おい坊や 今日はスパーをや
る。 相手は、そうだな木内とやれ、体重差があるが、タイプ
が似ているからいいだろう」 木内マサルくんは高3、フライ級だ。
僕はモスキート、体格も随分違う。 強敵だ。 ヘッドギアーを着
け、ノーファールカップをウエアーの上からはく。 重いし動
きにくい。 だけど、これが無いと、ローブローを貰ったとき、
ひどい怪我をする。 やられた経験のある先輩の話だと、大事なと
ころを潰されて物凄く痛く苦しいそうだ。 口なんか到底きけな
いんだって、すぐ外科病院に担ぎ込まれ緊急手術になってしまう。
僕にとっては、初めてのスパーリングだ。 マウスピース
をくわえ、リングに入る。 ブザーとともにリング中央へ。
「倒れるなよ」 トレーナーの激励だ。 だけど、そう言われると
本当に倒れちゃうような気がする。 マサルくんはグローブを軽くま
わしながら、右回りで隙を窺う。 僕も同様に相手の隙を見て飛
びこもうと図る。 バッ・・・彼のパンチが飛んでくる。
辛うじて避ける僕。 続いてもう一発、頬をかすめた。ヘッドギ
アーがガクッとずれ、僕の片目を覆う。 見えにくくなった。
あわててずれをなおす。 本当はヘッドギアーは自分の顔にピッ
タリ合わなければいけないんだ。 だけど、サイズが合ってい
ても、人間の顔はいろいろな形をしている。 僕は丸顔、しかし
彼は細面だ。 だから、サイズが合っていても、顔の形に合
わせて整形する。 自分専用のものを持っていなければ、本当は
いけない。 ヘッドギアーは、額、後頭部、耳のうしろなど、
危険部位を保護するんだ。 この辺りを強打すると悪くすると命に
かかわる。 ラビットパンチだよね。 ヘッドギアーでこうした
危険はかなり回避できる。 だけど、顔の前面はガードされない
から、パンチが鼻に当たれば、当然のことだけど、鼻血が噴き出
す。 霊長類の中で、顔の中央に鼻が高く出っ張っているのは人
間だけなんだ。 ゴリラでも、チンパンジーでも、オランウータ
ンでも、鼻はペッチャンコだよね。 あいつらは鼻血なんか出さ
ないんじゃないかな。 杉田玄白の蘭学事始に、解体新書の翻訳
の際に、人間の鼻について、「鼻は顔の中央にあってうずたかく
なっている」と訳したと書いてあるのを教わったことがあった。
スパーリング用のヘッドギアーは、試合用のと違って、鼻も保
護されるように出来ているんだ。 顔面を打っても、パンチは鼻
までとどかない。 誰だって鼻を潰されるのいやじゃない。 で
も、試合ではそうはいかない。 試合を重ねるうちに、鼻はだん
だん変形してくる。 プロボクサーは特にそうだ。 会長さん
も、若いころはむしろ美男子の方だったんだけれど、今ではプ
ロボクサー特有の鼻の形になってるみたい。 アマチュアでも、
そうだよね。 鼻が潰れなくても、鼻の骨が打撃で砕けてグニャ
グニャになってしまう。 先輩の練習生も皆そうだ。 マサルくんも
そうみたいだな。 僕もああなるのかなあ。 厭だなあ。 僕、実
は顔には少し自信があるんだ。 かわいい男の子だと思っている。
女の子たちに相手にされなくなったらどうしよう。 だけ
ど、やっぱりボクシング好きだもんね。 さすがにマサルくんは強
い。 積極的に攻めてくる。 スパーリングは相手を倒すために
やるのじゃない。 動きを追う能力、反射神経を鍛えるための練
習のひとつだ。 しかし、誰でもグローブを着けると、相手を倒
してやろうという気迫が湧いてくる。 僕ら少年ボクサーは特に
そうだ。 どうしてもパンチが強くなってしまう。 マサルくんに打
たれて苦しくなった僕。 夢中で彼にしがみつく。 クリン
チのつもり。マサルくんの匂いが鼻をつく。 汗の沁み込んだウエ
アーの匂い、用具の皮の匂い、それに若者らしい強い体臭、
臭いなあ。 でも僕も臭いんだろうな。 14,5歳ごろの少年は
体臭が強いんだ。 マサルくんがクリンチを振りほどき、僕を突き飛
ばす。 ロープにまで飛んで、反動でマサルくんの前まで。 そこへ
マサルくんのストレート、ガツンときた。 僕も負けずに打ち返す。
リング中央での打ち合い、ここでようやく3分のブザーが鳴っ
た。 終わった、フラフラの僕はたまらずキャンバスにしゃがみこむ。
助け起こしてくれるマサルくん。 普通は2ラウンドはやるのだけれど、
僕は初めてのスパーなので1回だけ。 これでトレーニング終
了だ。 地下のシャワールームに行く。 ウエアーを脱いで
裸になる。 僕の身体は汗でどろどろ、髪の毛も水を浴びたよ
う。 シャワーを浴びているとマサルくんが入ってきた。 いい身体
してるなあ。 僕をチラッと見て、「おいチャー、お前まだ
子供だなあ」 「よく洗えよ、お前さっきのクリンチの時すげえ
臭かったぞ、鼻がもげそうだった」 マサルくん凄いや、あそこの
毛、黒々ともじゃもじゃ生え揃っている。 僕は未だチョロ
チョロ、ペニスの付け根辺りに少しだけ。 高1と高3だも
の、しかたがないよ。 突然マサルくん僕の腕をつかんだ。 「お前、
本当にかわいいな、俺好きになるかもしれないぜ。 ははは
冗談々々」 びっくりした、だけど時々こういうことあるんだ
よね。 マサルくんのあれが、なんだか大きくなったようなのが気に
なった。 シャワールームを出て着替え、洗濯物をバッグに詰め
込んで外に出た。 マサルくんもいっしょだ。 「おい腹減ったなあ。
お前金持ってるか?」「自分の分くらいなら」「よしタンメン
食おうよ ワリカンだぜ」駅のそばの華天園に寄った。 隣が公
衆便所で、汚いけれど、ここの湯麺すごくうまいんだ。 「チャ
ー公、お前、お坊っちゃんで、こんなとこ入ったことないん
じゃないか?」「ううん、そんなことないけど」 だけど後でママ
の作った夕食、食べきれないと困るんだけどな。 駅でマサルくんと
別れた。 彼はJR,僕は徒歩で家まで。 あと半年で僕は
2年生になる。 進級したら公式戦に出れるんだ。 マサルくん
みたいに強くなりたいな。 自慢のお顔がこわれたら・・・仕方
が無いさ・・・かまうもんか。
〈先輩練習生木内マサル君の手記〉
とうとう俺にも弟分ができた。 ふたつ年下で15歳、Q高校
1年の奴だ。 小杉チャーリー、二世みたいな変な名前だよ。
色白で丸顔、 サラサラの長い髪の毛、女の子み
たいな奴だ。 声変わりしているし、 口のまわりの産毛も濃く
なってきてるから、女の子には間違えられないけどね。 俺は
チャー公と呼んでいる。 学校の運動部と違って、ボクシングジ
ムでは、案外友達ができないんだ。 入門して2年になるけど、
今まで友達づきあいしたことはない。 チャー公が入ってきたの
は半年前、でも今まで殆ど口もきかなかったな。 あいつお金持
ちの家の子なんだ。 はじめてジムに来た時、親父とお袋が一緒について来
てた。 どういうつもりなんだよ。 格闘技の道場に
両親同伴だって。 でも会長さん、随分ペコペコしていたな。
あいつの親父、有名な弁護士らしい、うちのジムの後援者で小島
さんというのがいる。 小島さん、あの弁護士の甥なんだ。 小
島さんも全然頭が上がらないみたい。 あのチャーリー、たしか
にお坊ちゃんだ、詰襟の制服をきちんと着て、 背筋をしゃんと
伸ばし、すごく礼儀正しい。 返事も、「ハイッ」「ハイッ」俺びっ
くりしたよ。 だけどよ、あきれたぜ、本人、パパにママなんだ
と。 父が、母が、なんて表向きには言っていたけど、かげで
「ねえ、ママ」なんて言っているのが聞こえちゃったんだ。
先週、チャー公は、はじめてスパーをやった。 相手に俺が選ばれ
た。 3分間1ラウンドだけ、だけど、相当こたえたみたいだ
ぜ。 ヘッドギアーにプロテクターを着けて向き合う。 美少
年のあいつ、顔つきが変わっている。 ニコニコしている可愛い顔
がいつもと違う。 口をキュッと引き締め、目つきも鋭い。 眉
のあたりには強烈な闘志が。 結構やりそうだ。 こうなったら
俺も容赦はしない。 いきなりストレートをぶちかまし、続いて
右フックで張り飛ばす。 だがあいつ全然ひるまない。 歯を食いしばり,
マウスピースを白くむきだしながら,真っ向から殴りかかってくる。 すごい
ファイトだ。 リング中央での接近戦,殴り合いが続く,
かわいい顔に似合わない荒々しい男臭さが匂う. 3分間でス
パー終了、あいつ全力を出しきって、そのままキャンバスにへ
たり込んだ。 助け起こしてやったけど、 いい根性だ、見なおし
たよ。 練習が終わって、シャワールームに下りていった。
チャー公、もう先に来ていて、 いい気持ちそうに、鼻歌まじ
りでシャワーを浴びていやがる。 色白のすらっとした体つき、均
整がとれている。 だけど、こいつボクサー向きじゃないな。
筋肉のつきが足りないよ。 パパ・ママもどうかと思うが、
女の子みたいな、かわいい丸い顔、そうして細めの顎、あれじゃ
ガラスの顎だよ。 アッパーが一発当たったら、たちまちダウン
だ。 俺が入って行くと、びくっとして「あ、木内さん 有難うござ
いました」 相変わらず礼儀正しい。 「おいチャー公、よく
洗っておけよ。 さっきのクリンチ、お前すごく臭かったぞ、
俺、鼻がもげそうだった」 「自分だって・・・」 あれ,口答えし
たな。 少し、からかってやろう。 あいつの下の方を覗い
て、「おいお前、まだ子供だなあ」 俺のを見せつけてやった。
毛むくじゃらででかい、 あれをさ。 それから、「お前、本当に
かわいいな。 俺好きになるかも知れないぜ。 ははは 冗
談々々」 あいつぎょっとしたみたいだった。 帰りがけに、華
天園でタンメン食うことにした。 「腹減ったなあ。 お前、金
持ってるか?」「ええ、自分の分くらいなら」 勘定をはらう段に
なって、俺は定期入れから、折りたたんだ千円札を引っ張り出し
た。 あーあ、これ1枚だけか。 チャー公を見ると、 あいつ
財布を取り出して,驚いたなあ,札が4枚も入ってる。 なにが
自分の分くらいだよ、全部出させれば良かった。 とんでもねえ
お坊ちゃんだ。 いかんいかん、 俺は兄貴分なんだ、弟分にタ
カルわけにはいかないよ。 おれの男がすたるというもんだ。
〈チャーリーの手記 その二〉
初めてのスパーリング、この時から僕と木内くんとはぐっと親しく
なった。 つきあってみると、マサルくんはすごくいい子だった。
ちょっと言葉が汚いけどね。 高校3年、僕よりふたつ年上、美
少年という感じじゃないけれど、見るからに少年ボクサーらしい
凛々しい風貌、それに気立てがとてもいいんだ。 お兄さんみた
い。 マサルくんの通っている高校にはボクシング部が無いらしく、
いつもジムで練習している。 あの時シャワールームでマサルくんが
言った一言はちょっと気になるけれど, まあたいした意味はない
んだろう。 今日はクラブ対抗のアマチュア・ボクシング試
合だ。 都内のボクシングジムが話し合って、トーナメント形式
の対抗試合を毎週やることになったんだ。 YNジムはNKジム
とあたることになった。 僕は出してもらえないけれど、マサルくん
はフライ級で出場する。 場所は後楽園ホール、いつもはプロの
試合が行われている。 これは、初めての試みで、もともとプロ
とアマとの交流は殆ど無い。 ジムの会長さんたち、アマボクシ
ングのルールもあまり知らなかったらしい。 どこかのジムの子
たち、トランクスは履いていたけれど、上のシャツ無しで、裸の
まま、これ反則だよ。 会長さんがあわてて財布を出してシャツ
を買い、みんなに着せていた。 フライ級第1試合、マサルくんの番
だ。 相手はNKジムの子でF。 経験豊富な相当の選手らしい。
4人兄弟でみんなボクサー、上の2人はもうプロボクサーで、ラ
ンキング入りしている。 ゴングが鳴って試合開始、すごいスピ
ードで相手選手がマサルくんに襲いかかる。 強烈なワンツーが
マサルくんの顔面をとらえ、鼻血がほとばしった。 マサルくん頑張れ、
倒されちゃうかな。 しかし、マサルくん倒れない。 打たれても、
打たれても, 激しい出血にもひるまず、前へ出ていく。 凄い
耐久力と闘志だ。 1回目終了、彼は崩れるようにコーナー
へ倒れこんだ。 セコンドの懸命の手当て、会長さんがリング下
からジェスチュア入りで、「食らいついて行け!」 うなずくマサルく
ん。 彼も僕と同じで足がきかないんだ。 懐深く飛びこんでの
インファイト、会長さんの作戦だ。 2回目、マサルくん徐々に挽回
していく。 パンチが相手にあたり始めた。 相手はだんだん
弱っていく。そうして3回目、マサルくんの執拗な接近戦が勝利を
収めた。 相手もとうとう鼻血を出し、グロッキー、ロープ際で棒
立ちになる。 そこをマサルくん、さらに追い詰める。 試合終了、
木内くんの判定勝ちだ。 やったー。 相手のあいつ、かわいそう
に、兄貴のプロボクサーにビンタを張られて怒られていた。
すごく口惜しそうだ。 歯を食いしばり、すごい形相で僕らを睨み
付け、消えていった。
チャーリーの手記 その3
2ヶ月が経った。 僕はさらに練習に励んだ。 マサルくんに追いつくんだ。 しかし、マサルくんは
さらに先へ進んでいる。 この前のクラブ対抗戦での勝利がバネになって、 マサルくんはぐっと
自信をつけたみたい。 プロボクサーになる気なのかな。 スパーリングでも積極的に相手を
攻める。 僕もなんべんかキャンバスに転がされた。 そのある日のことだ。 練習で大汗を
かき、二人でシャワーを浴びていた。 このごろでは二人とも遠慮がなくなって、平気で裸体
を見せ付け合う。 シャンプーを塗ってから、お互いに温水をかけあう。 ケラケラ笑い転げ
ながら。 ちょうど僕らのほか、誰もいなかったんだ。 温水をかけあっている僕ら二人,い
つのまにか、互いに身体を寄せ合って・・・・そうして不思議な感情が二人の間に・・・・突
然マサルくんが僕の肩を掴んだ。 「おい チャー」 「なーに?」 向き合った二人、マサルくんが胸を
押し付けてきた。 胸、腹、下腹部 僕らはピッタリと肌を密着させた。 こんな事しちゃい
けないんだ。 頭ではそう思いながら、 今の行動が自然の成り行きのように思える僕。 僕
のすぐそばにマサル君の顔が、それから唇が、僕らは唇を合わせた。 全裸の二人、下腹部のペニ
スが触れ合った。 無意識のうちに、僕らは腰を動かし、ペニスをからませた。 先端から透
明な粘液が糸を曳いて足元にこぼれた。 いつのまにか、二人はタイルの床に座りこんでい
た。 お互いのペニスを軽く掴みながら。 マサルくんがニコッとした。 そうして僕も・・・・・
誰か来たらどうしよう。 我に返った二人。 急いで身体に湯をかけ、タオルで拭い、衣服を
着けた。 帰り道、僕らは何もしゃべらなかった。 駅でも無言で別れた。
さよならも言わないで。 ・・・・・僕らは罪を犯したんだ・・・・・
マサルの手記 その3
あの事があってから、チャーリーのやつ、どうもよそよそしい。 怒っているのかな。 話し
掛けてもこないし、目をあわさないようにしている。 だけど、あれは両方合意のうえだぜ。
いやなら抵抗すればよかったんだ。 そうすりゃ、俺だって、無理はしないよ。 マズ
かったかなあ。 俺は不安な何日かを過ごした。 ある日、あいつが家に来ないかといいだし
た。 アメリカのボクシング雑誌RINGを見せるという。 俺はほっとした。 約束して、日
曜日の午後、彼の家に遊びに行ったんだ。 大きな家だった。 彼は一人で待っていた。 家
族は誰もいないらしい。 チャー公、ピンク色のカーディガンを着て、なかなかかわいらし
い。 2階の彼の個室に案内された。 きれいに片付いている。 さすがだなあ。 本棚は大きい
し、本がいっぱい詰まっている。 学習参考書,百科事典,図鑑類,それに冒険小説や推理小説,
勉強家だぜ.小型の天体望遠鏡が置いてある. 昆虫採集もやっているんだな。 ネットとか、標
本箱とか、それに顕微鏡もある。 よくボクシングやる間があるね。 「ちょっと待って
ね」 下へ降りて行くと、お盆にコップを2個と、ビール瓶をのせて戻ってきた。
「おい、お前飲んでるのか」 「うん、いつも飲んでるよ」 驚いたなあ、こいつ高1だぜ。 「怒
られないのかよ」 「大丈夫、夕食の時、いっしょに飲んでるもの」 「相当な不良だなあ」 「フフフ・・・
15になるとね、うち公認なの」 引き出しからビスケットを出して、ビールを注ぎ 「じゃあ
ね」 すぐに1本空になった。 あいつ、もう1本持ってきた。 大酒のみだぜ、こいつ。
雑誌を見ながら飲んでいるうちに、酔いがまわってきた。 チャー公は目をトロンとさせて
顔も赤くなっている。 突然あいつが言い出した。 「ねえ キスしない?」 俺が返事をする前
に、あいつビールの匂いのする口を押し付けてくる。 長いキスだった。 唇は唾液でグチャ
グチャになっている。 「駄目だよ」 俺がチャーを突き放す、あいつはふくらんで、「なん
で駄目なの? こないだはマーくんが始めたんだからね」 な、なんだ マーくん
だと? たしかに俺の名はマサルだけどな、チャー公にこう呼ばれたのは初めてだ。 俺がヘ
ドモドしていると、あいつはさらに積極的になってくる。 「ね、マーくん、お兄ちゃん、
ベッドに行こうよ」 俺は無我夢中で下着だけになり、 あいつのベッドにもぐりこんだ。
チャーもすぐ入ってくる。 あいつの少年らしい匂いのついたベッド。 二人は抱き合った。
チャー公は俺の上にのり、鼻を俺の腋の下に近づけ、生え揃った腋毛に鼻を埋めた。 「ああ、
いい、マーくんの匂いたまらない」 ベッドがギシギシ鳴った。 チャー公は俺の急所を握り、
やさしくしごいた。 たちまちのうちに、俺のものは勃起し、粘液があふれてくる。 チャー
は俺に背中を向けささやく「入れて、早く」 俺こんな事したことないんだ。 でも
・・・・・とうとう・・・チャーリーがすごい悲鳴をあげた。 「痛い 痛いよ・・ああ・・・もっ
とやって」 俺はたまらず、チャーの中へ射精した。 起き上がると、あいつはティッシュを
出して、俺を優しく拭いた。 そうして、ティッシュに鼻を近づけ、匂いをちょっと嗅ぎ、ニ
コッと笑った。 「ねえ、マーくん、僕のこと忘れちゃ駄目だよ」 ・・・・・・ こうして、
チャーリーは俺のお稚児さんになったんだ。 あいつは、本当に俺につくした。 まめまめし
く世話をしてくれるんだ。 練習後のシャワールーム、あいつはタオルで俺の全身を拭いてく
れる。 上着もうしろから掛けてもくれるんだ。 ベッドの中での関係は、あの時1回きり
だったなあ。 そりゃあ、俺たちの愛情の発露だよ。 でも、あいつがひどく痛がったし、俺の
方だって、なにしろ狭いところに太いのを無理に突っ込むのだからな。 あいつの家だって、
いつもはみんないる筈だし。 だけどよ,俺チャーリーの身体が忘れられない,しなやか肉付き,
すべすべした,やわらかな皮膚,それにあいつ独特の初々しい体臭,もう,たまらないよ.
あいつだってそうだ. 俺の汗の匂い,腋臭,チャーは夢中になって俺の固く逞しい肉体に頬ずりをしてくる.
俺たち変態と思うかい. そうじゃないんだ,少年同士の若い愛欲の極致なんだ.
俺はさらに行為を欲した. チャー公も同じだったろう. 痛みは避けたかった. 俺も痛いのは厭だし,
あいつを痛めつけるのも好まない. でも,二人で抱き合ったり,頬ずりしたり,唇を合わせたりすると,
俺のものはたちまち勃起するし, 彼の股間をまさぐると,あいつのもピンピンに立っているのが分かる.
ようやくひとつの解決を見つけた. 見つけたんじゃなく,自然にそうなったんだ.
二人はかたく抱き合い,互いに股間を愛撫する. たちまちのうちに,粘液が溢れてくる.
そうしてあいつが俺のペニスを股ではさむんだ.初めのうちはチャーの背中に俺が乗り,後ろから.
しかし,これじゃ感じが出ない,あいつの
ペニスが邪魔だし,それに絶頂期のチャーのかわいい顔みたいじゃないか.
二人で思いついた. チャー公には試合用のサポーターを着けさせる。向かい合って抱き合い,
俺は自分のものをサポーター越しにあいつに押し付ける. できた. おれは夢中で射精し,
チャーは身体を痙攣させて俺にかじりついてくるんだ. 二人の下腹部は精液でぐちゃぐちゃ,
こうして果てた後,二人は軽く眠りにつくんだ. こうして俺た
ちの秘密の関係は夢のように続いた.
どこでやってたんだって? それは聞かないでくれよ.だから秘密っていっただろ.
チャー公はあいかわらず積極的だ。 練習の後、俺が汗を
かいていたりすると、特にあいつ興奮する。 汗まみれの俺の肌に摺り寄ってくるんだ。 こ
んなにチャーリーの奴、不良だとは思わなかった。 いつも真面目そうな振りしやがって。
いい家の子は早熟だってよく言うけど、こりゃあ酷すぎるよ。 大体、どこであんな事覚えて
きたんだ。 これからどうなるんだろう。 いつまで続くかな。 同性愛ってやつ、最後は
必ず悲劇で終わるっていうからな。
チャーリー少年の手記 その4
大好きなマサルくん、ほんとにお兄さんみたい、強く逞しいし,僕に
優しくしてくれる。 僕はもう離れられない。 今日は、マサルくん
の晴れ舞台だ。 クラブ対抗の2回目、前回でNKジムに勝った
僕らのYNジムは2回戦に進んだんだ。 僕は出場できないけれ
ど、Kくんは前回の健闘が認められて、フライ級で今日も出場す
る。 相手はTKジム、歴史の長い強豪ジムだ。 ランキング入
りしているプロボクサーも大勢いるし、アマチュアでも凄い選手
がいっぱいいる。 第1試合、ライトフライ級、18歳のSく
ん。 高校生ではなくて、 社会人だ。 中学を出てからすぐ就
職し、仕事のかたわらジムでトレーニングしている。 色白で穏
やかな顔つき、練習熱心な真面目な青年、僕も尊敬しているひと
りだ。
試合開始、しかし、相手が凄すぎた。 強烈なストレート一発、
Sくんロープ際まで吹っ飛ばされた。
ダウン、しかし、Sくんは
健気に立ち上がる。 でも、Sくんショックだったんだ。
明らかに怖がっている。 腰がひけ、
前進できない. ノックダウンが怖いんだ。 でも気をとりなお
し、戦闘再開。 しかし、しばらくの小競り合いの後、再び強打
がSくんを襲う。 2度目のダウン。 ようやく立ち上がるが、
足がガクガクしている。 顔面鼻血が滲み、目の下もおかしい。
Sくん頑張れ。 1回目終了のゴング、 ここでタオルが投げ
られた。 ギブアップ、テクニカルノックアウト。 リングを降
りたSくん。 目を青黒く腫らし、唇を噛んでの退場。 口惜し
いだろうな. それにひきかえ、相手選手、「いやー 軽かった
よ」 いやな奴だ。 いよいよマサルくんの出番だ。 顔をひきし
め、グローブを打ち合わせてコーナーに仁王立ち、頼もしい勇
姿。 試合開始、だっと突進するマサルくん、敵はスッとかわし、ポ
ンと軽くフックを打つ。 体勢を崩すマサルくん。 そこへワンツー
の猛攻、ワンツー、ワンツー、スリーフォー! 敵陣営からの声
援。 「そこだ、仕留めろ!」 「フィニッシュ!」 マサルくん頑
張れ、Kマサルくんファイト! 必死に強打に耐えるマサルくん。 でも、
そこまでだった。 ピイッ・・・すごいスピードのパンチがマサルく
んのチンを強襲。 カクッと頭をのけぞらせ、彼は前のめり
に倒れる。 ガタンとすごい音をたて、キャンバスにうつ伏すマサル
くん。 あとはピクリとも動かない。 ワン、ツー、スリー・・
・レフェリーがカウントを中断し両手を振った. ノック
アウト!! セコンドが駈け寄る。 レフェリーも。 マサルくんの
身体を仰向けにし、タオルをまるめて枕にした。 白目を剥
き、半開きの口からマウスピースが白くこぼれている。セコンド
が マウスピースを口からもぎ取り、グローブを外し、シューズ
の紐をゆるめた。 瞼をつまんで、ペンライトで瞳孔を
調べる。 「大丈夫だ、あ、起こしちゃいかん」 「おい、担架だ、
急げ」 半狂乱になった僕。「マサルくん、しっかりして、マサルくん」 担架
が運び出された。 会長さんが呟いた。「私のマッチメ
ーキングの失敗だ、実力に差がありすぎたな」
マサルの手記 その4
無念の惨敗だ。 俺は1分ももたなかった。 パンチが俺の顎を襲
う、と思った瞬間、キャンバスが俺の眼前にせり上がってき
た。 俺は顔面を真っ向から強打した。 キャンバスに血が流
れた。 意識が薄れた。 意識が戻ると、俺はキャンバスに仰向け
に寝かされていた。 頭の下にタオルがはさまれ、沢山の顔が俺
を覗き込んでいる。 セコンド、レフェリー、会長さん、それに
相手の選手。 「マサルくん、しっかりして、マサルくん」 半狂乱のチ
ャーの金切り声が聞こえる。 俺は身体を起こそ
うとした。 「駄目だ、じっとしていろ、担架はどうした」 担架が運び込
まれ、そこに寝かされた俺は静かに運び出された。 俺、死ぬの
かな、ふっと思った。 チャー公、担架に手をかけて、「木内くん、
マサルくん」 半分泣きながらついてくる。 凄い相手だった
なあ。 かないっこないよ、あれじゃプロだ、俺まだ17歳だもの。
救急車で運ばれ、3日間入院した。 命には別状な
かった。 病院には、お袋と姉貴が待っていた。 「マサル、もうボ
クシングなんかおやめ」 「やだよ、なおったら仕返ししなきゃ
あ」 「馬鹿だね、お前」 「なんとでも言えよ」 チャー公は
毎日見舞いにきた。 学校帰りに寄り、何時間も付き添った。
会長さん、それからチーフトレーナーが見舞いにきた。 「どう
だ、木内、物凄い目にあったな、俺たちが悪かったよ」 「気分は
どうだ? ああいう風に倒されるとだな,案外ダメージが無いも
のなんだ、前にガクッだろ、仰向けに倒されて後頭部を強打する
と、ちょっと危ないけれどな」 「だが、きれいなノックアウト
だったな、ひさしぶりに見たよ、お前には悪いけどな」 傍で聞
いていたチャー公が口をとがらせて 「だって先生、初めからわ
かってたんですか?」 慌てて 「いやいや、そうじゃない、予
想外だった、勘弁してくれ」 少し元気が出てきた俺、「おいチ
ャー、お前怖くなったんだろ」 「うん、だけど、僕やめな
いよ、カタキをとってやるんだ」 よく言うよ。 3日後俺は回
復して退院した。 もう大丈夫だ。 それ以来、あいつの献身的
な看病で、俺たちの愛情はさらに深まった。 ただ、問題があっ
た。 このままだと、俺たちはこっそり会う場所がない。 いい
事を思いついた。 居酒屋で密会することにしたんだ。 子供が
そんな所に行ける筈がない、補導されちゃうぞだって? そりゃ
そうさ、俺はともかくとして、チャー公はどこから見ても少年だ
からな。 だけど、抜け道があるのさ。 お袋の兄さん、つまり
俺の伯父さんだが、居酒屋を経営している。 みんなも知ってい
るかもしれないな。 プロボクシングのリングアナウンサーなん
だ。 リングアナウンサーじゃ食っていけないんで、 居酒屋を
経営している。 才能があるみたい、何軒も持っているんだ。
本店にはいつも伯父さんがいる。 彼の世話で、YNジムに入門
したんだ。 伯父さんにわけをはなして、もちろん全部じゃなく、
肝心のところはぼやかして、 店を使わせてくれって頼んだ
んだ。 伯父さんちょっとためらったけど、まあいいだろう。
そのかわり、お前アルバイトをしろ。 勘定は払わなくていい。
俺は土曜と日曜、午後から働いている。 チャーが私服でやっ
てくる。 いつものかわいいピンクのカーディガンやスタ
ジャンを着込んで。 奥の小座敷を使わせて貰えるんだ。 ここ
なら、誰からも見えない。 本当は伯父さん、事の真相はわかっ
ていたんだろうな。 苦労人なんだよ。 若いころは下っ端の映画俳優で、
放蕩も随分したらしい。 チャーリーが僕が払うって言った
んだが、怒られちゃった. 「坊や、こんな事に金を使っちゃい
けねえ。 お父さんの大事な金だろうが」 いい事いうなあ。
そうなんだ、チャー公の奴、時々本を買うなんてごまかして、小
遣いをせびっているらしい。 伯父さん、まあ口やかましいが、
酒を飲む事は大目に見てくれた。 チャー公はあいかわらずよく
飲む。 酒量が上がったみたいだ。 酒が入ると, あいつ性格が変わってくる。
相当酒癖が悪い。 ぐっと俺にもたれかかり、酒
臭い口を押し付けてくる。 そうして、あいつの指が俺の股間を
這う。 14や15のガキのやることかよ。 でもかわいいぜ。
夢中で俺を慕って、まとわりついてくるんだからな。
マサルの手記 その5
チャー公との関係はその後も続いた。 あいつは相変わらず俺の
ために尽くしている。 年が明け、春になった。 もうじき新
学年だ。 俺は高校を卒業するし、チャー公は高2に進級する。 あい
つの行っている学校は中高一貫教育だから、受験の心配なんかな
い。 そうじゃなくても、あいつ秀才だから、 なんてことない
のだけどね。 あの高校、ボクシング部がある。 たいして強く
はない筈だ。 なにしろ、お坊ちゃん揃いだからな。 あいつ部活に打ちこむだろうな
。 そうしたら、俺との関係どうなるんだろう。
この頃になると、チャーの身体つき、微妙に変わってきた。
背も高くなってきたし、顔つきも大人びてきている。 あい
つ、もう、髪型を変え,若者風に、前髪を
立て、後ろ髪をのばしている。 幼い坊や顔から凛々しい美少年
の風貌そのままに, 身体の匂いも変わってきたなあ。
青臭い少年の匂いから、俺と同じ逞しい若者の体臭に。
腋毛も生えてきている.抱き合ってみるとわかるんだ。
「ねえ マーくん 僕・・・」
「おい、そのマーくんはやめろ それにボクなんていうな。
オレといえ、オレと」 「そんなことできないよ、マーくん」
「それをいうなって」 3月になった。 突然破局がきた。 怖
れていた通りに。 原因は俺にある。 女の問題だ。 俺は女を
知ってしまったんだ。 相手は同級生のN子だ。 俺の若い身体
は、異性を欲しがっていた。 精液の処理の問題なんだ。 チャ
ー公と関係して、変則的な性交だけれど、射精の快感を味
わってしまったんだ。 俺はお決まりの自慰、マスターベーショ
ンに走った。 だが、これじゃ解決にならない。 とうとう俺
はN子とできてしまった。 単に性のはけ口に女を扱ったなんて
思わないでくれ。 N子はかわいい子だった。 実は俺の今の女
房なんだ。 でも、これ、チャー公への裏切りだよね。 こうし
て悲劇が起こったんだ。
チャーリーの手記 その5
なんか変だ。 マーくんどうしたんだろう。 あんなに仲良くし
ていたのに、このごろなんとなくよそよそしい。 僕にはわかる
んだ。 抱き合い、身体を寄せあっていても、マーくんの身体が
変に固く、僕を受け入れてくれないんだ。 話をしていても、な
んか怒っているみたい。 どうしよう。 僕が高2になって、
そうしたら、部活を一生懸命やるんだといったのが、いけなかっ
たのかな。 それとも、お前は秀才だからなあ、なんて言ってた
な。 馬鹿にされてると思ったのかな。 そんな事全然ないのに。
マーくんは僕の大切なお兄ちゃんなんだ。 僕のうち、兄
妹二人だけだろ。 僕は淋しかったんだ。 頼りにできるお兄ちゃ
ん、いざとなれば、僕を守ってくれる強いお兄ちゃん、どう
して僕の気持ちをわかってくれないの。 僕、泣きたいよ。 だ
けど、もしかして、いやだ、そんな事考えたくない、だけど、
もしかして・・・・・・そうだったら僕は絶対に許さないぞ。
ぶったおしてやる。
マサルの手記 その6
とうとう俺の秘密がチャーリーにバレてしまった。 やはりすご
いな、女のカン、いやそうじゃなかった、若い少年のカンだ、
俺たちがラブホテルから出て来た時、目の前にチャー公がいや
がった。 拳を握り締め、目を吊り上げ、真っ青になって、俺たちに詰め寄っ
た。 マズイ! 俺はN子にはやく帰れといって逃がした。 そ
うしてあいつと向き合った。 薄暗い街灯の下、チャーの殺気が
ただよった。 あいつ何も言わない。ただ、俺を睨みすえるだけ。
「お前、オレを裏切ったな!」はじめて聞くあの子の荒い
言葉。 「おい、待てよ 俺の話を聞け」 「黙れ! よくもオ
レを裏切って、決闘だ、男らしくオレと戦え、ぶったおしてやる!」
すさまじい彼の怒り、憎悪。 もう駄目だ。 やるしかない。
「おいチャー、やるか?」 「やるともさ、覚悟しろ!」
拳を固め、身構えるあいつ。 なんで、こんなことになった
んだ。 でも俺も覚悟をきめた。 男の果し合いだ!やってやる。
俺たちは、凄まじく殴り合った。 たちまち、
鼻血にまみれ、顔を腫らし、傷つけあった。 ボクシングでいえ
ば、当然俺の方が強い. あいつが敵うはずはないんだ。 初め
は俺は手加減していた。 しかし、パンチを2,3発貰うと、俺
の闘争本能に火がついた。 怒りと憎しみの拳がチャー公のかわ
いい顔を襲う。 とうとう俺たちの死に物狂いの激闘が終わった。
チャーリーが俺の足元に倒れている。 血を流して、かすかに
うめきながら。 我に返った俺は、チャー公を抱き起こした。
「おい、チャーしっかりしろ」 「うう・・う お兄ちゃんご
めんよ、ごめんお兄ちゃん 殴ったりして」 「何を言うんだ、
許してくれ」 「ううん いいんだ もう・・・殴ったり、殴られ
たり、 これでオレ気がすんだ」 「チャー・・・・」 「もう、
会うの止めようね・・・・お兄ちゃん、幸せになってね」
二人は嗚咽した。 「ねえ、最後にもう一回だけ、ギュッと抱い
て」 俺たちは抱き合い、俺はチャー公の血と唾液にぬれた唇を
吸った。 こうして俺たちの青春の一幕は終わった。 俺たち二
人の大切な秘密を残して、 次の新しい一幕がこれから開くんだ。
チャー公、チャーくん、さよなら、さよなら、
さよなら・・・・俺の青春・・・・・・さよならぁぁぁーーー!
(完)
私の履歴
・・・・ある創作のまえがき・・・・
私が高校を卒業してから、もう随分経ちました。 正直に白状します

実は私は自分の母校が嫌いでした。
お受験の
対象校、 皆があこがれる名門校なのに。 だから、
例の詰襟の格好いい制服も大嫌いでした。
少年
時代,変声期・思春期の避けられない関門、
反抗期は私には強烈にやって来ました。 家庭でも、
学校
でも。 エディプス・コンプレックスがひどく、
父親には随分反抗してしまった。 今は後悔していま
す。
私は間違っていた。 あんな事するんじゃなかった。
でも家出なんかしていません。 そん
な勇気はなかった
んだ。
家庭のことはあまりにも生々しいから、
ここでは申しません。 高校のお話をします。
やは
り反抗的な高校生だったんですねえ。
社研のキャップだったんです。
当時の付属高校の社研は東大
駒場の党細胞、
つまり代々木と直接つながっていました。有名なポポロ事件の
立役者たちから指導を受
けていたのです。
たしか,福井サンといったなあ. 変名だったらしいけれど.
私は臆病だし、
根がだらしがないから、
それ以上には発展しませんでしたがね。
制服の話に戻りますと、着ていないと
処罰されるから、一応制服は着ているけれど、中には柄物の色シ
ャツ、規定では白のワイシャツ
でなければいけないのに。 外から見えないのをいいことに、ネックレ
スをしたり、
赤いバンダナを首に巻いてみたりしていました。 こういうのもあります.
ガーゼとか,
白い包帯を首に巻き,その上から詰襟を着るのです. こうすると,
襟から白い包帯がちょっと見える,これ,当時の不良のステータスシンボル,ご存知でしたか?
髪の毛はボサボサ,随分のばしていましたね。 山賊みたいな髪はやめろ!
とよく教師に怒られいましたよ。 そうだ,かすかに覚えているのだけれど,いっぱし不良ぶって,
たしかいつも,折りたたみナイフをピカピカに研いで通学カバンにひそませていたっけ.
ある時これが転がり出して,結論として小杉の奴,真面目でおとなしそうだけど,
実は相当な不良なんだということになってしまいました. いや,本当に不良だったんだからね.
なんでナイフをいつも持っていたんだろうか. これを使って相手と
斬りあった記憶なんかは別にありません. 鉛筆を削ったのは覚えていますが.
刃渡り15センチぐらい,立派な(?)凶器ですね. 文房具屋でも売っていたけれど,
子供に怪我人がよく出て,今は禁止になっている,小刀の肥後の守を
持っている子はいくらもいましたが,こんな大きいのはねえ. どうも僕,刃物を持つのが好きらしい.
今でも,ウイグル製の短刀どこかにしまってある筈です.
それから,フインランドの民芸ナイフ,プーツコもあったけど,どこにいっちゃったかなあ.もうひとつ思い出してしまった.
詰襟の制服の中, 白のワイシャツの下に,素肌にキリキリと晒しを巻いていたんだっけ. これ,すごく気持ちがいいんだよ.
それにね,実用的な意味もあるんだ. 晒しを巻いていると,刃物でわき腹を狙われたとき,いくらかは防御になる.
どうも最近,仁義が地に落ちたというか,斬り会いの作法もなにもあったものじゃないけど,もともとは,
余程のことが無いかぎり,わき腹や胸は狙わなかった。 致命傷になりやすいから.
やるのは太腿です.次には肩,肩甲骨の上あたりを襲うわけ. 太腿を刺されると,
ひどく出血はするし,痛みもすごいわけだけれど,命にはかかわらないらしい. 肩の場合,頚動脈が近いから,
それなりに危ないのだけれど,背中がわだと,まあいいわけです. ですから,短刀でも,ナイフでも,
逆手に持って振り下ろすのが不良の喧嘩,つまりゴロをまく作法(?)でした. このごろはタイマンというんですかねえ.
こうすれば,わき腹や胸は普通攻撃できません.まだ,ヌンチャクは手に入りませんでしたね. よくあったのは,
自転車のチェーン,古いのをはずしてきて切断し,拳にハンカチを巻いた上からチェーンを巻きつける.
これでやられると,すごく効くんですよ。 もっと卑怯なやり方は,チェーンを長く伸ばして
ふりまわすのです. 飛び道具と同じです. イレズミはしていませんよ. 痛いこと嫌いなんだ.
最近流行りのプリント・タトウーが当時あったら,当然やってたと思うけれど.
それでも大学には入れました. かなりの低空飛行だったけれど.
ようやく
覚醒期が来たんです. 大学生時代は当
時の流行、
前髪を高くたてて、リーゼントにしていました。
整髪料のポマードが1週間でなくなったものです。
同窓会へも殆ど出たことはありません。 ところが、不思議なもので、
この年齢になると、 なぜか昔
が懐かしくなった。 そうした思い入れが嵩じて、
少年を主人公とした創作を書き始めました。 高校
生チャーリー少年は
私の分身です。 実在の私ではなく、空想上の私、ああだったら、
よかったのにな
あ、幾ばくかの後悔を抱いての回想の産物です。
現実のチャーリーと,空想上のチャーリー,この落
差はすごいです. 健康で真面目なスポーツ少年と
ただの小生意気な不良少年. 片方はグローブ,もう片方はナ
イフ,あーあ.
作品中でチャーリーは高校ボクシング部員という設定になっています。
本当はボクシング部はありませんでした。 今も無いでしょう。 つまり架空
のお話です。 同級生で街のジムへ通っていたのはおりましたし,私も同じようなものです。
近所に東拳ジムというのがありました. 今もあるようですよ. 入門しようと思って
様子を見にいったら,今と違ってすごくさびれていて,練習時間だというのに,
オニイちゃんが一人淋しく身体を動かしていた. 出鼻ををくじかれて帰り,それっきり.
あそこで入門するか,他を探せばよかったんですけどね.
実は最近、インターネット上のあるサイトが気に入っています。
Gloved Boy's
Square といいまして、少年ボクシングが主題になっています。
http://www.hx.sakura.ne.jp/~14143h/gbs/
ここに投稿などしているうちに、まとまったのが、この創作です。
稚いグローブ第2部
少年チャーリーのボクシング青春記
稚いグローブ第2部
少年チャーリーのボクシング青春記
その一 初試合
ある年の7月夏休みの直前、僕は渋谷から私鉄で郊外へ向かっている。

僕は小杉茶利F高校1年15歳ボクシング部員。 随分変な名前だろ。 チャ
ーリーと読むんだ。 パパとママがつけたんだ。 両親ともハイカラで、派手
好き。 パパは元外交官で弁護士、ママは赤坂の出身、だから自分達の趣味でこ
んな名前を長男の僕につけた。 だけど区役所の戸籍係が日本人らしい名前じ
ゃないと受け付けないと言ったので、無理に漢字を当てたのさ。 昔にもそう
いう人がいて、森鴎外は自分の子供にマリー茉莉、アンヌ杏奴なんてつけたん
だそうだ。 今日は夏休み前の都高校選手権、僕も出場することになっている。
まだ1年生だから僕無理だって言ったんだけど、先輩に度胸をつける為にやれ
といわれ、仕方なく出場の申し込みをしたのだけれど、不安だなあ。 僕は
自分で言うのは気がひけるけれど、まあかわいい男の子、美少年ということに
しておこう。 丸顔で顎の先はちょっと細くなっている. だからお盆みたい

な顔じゃないんだよ。目もパッチリ、小さめの口元、女の子にも評判がいい。
身体は小さいんだ,背は低いし,ほっそりした体格,高校生ボクサーでは一番軽いモスキート級
なんだよ. 電車は空いていた。 11時過ぎ、金曜日だものね。 座席に座っていると隣
に変なおじさんが、僕にピッタリくっついて座ってきた。 僕身体を固くした。
こういうこと時々あるんだ。 はじめは当り障りのない話題で話しかけ、その
うちにだんだん、片手がのびてきて僕の大事なところに、僕は凍りつくだけ。
だって未だウブな男の子だもの。 でも今日は大丈夫だ。 ボクシング部員の

バッジを着けているから。 バッジが見えたら、おじさんスッと向こうへいっ
ちゃった。 部員バッジが役にたつこともあるのさ。 しかし、都内には怖い
怖い高校があって、そこの奴らにバッジ見られたらかえってやばい。 決闘し
ようなんて言い出されたら大変だ。 ボクシング部員は絶対喧嘩をしちゃいけ
ないんだ。 駅に着いて改札口を出てから、線路沿いの坂道を下っていく。
その先が会場だ。 駅にも道端にも大会の色ずりポスターが貼ってあって、
僕もだんだんその気になってきた。 僕以外にもそれらしい高
校生がグループになって数組歩いていく。 僕はひとりだけ、3時開始だから、
2時間前には来ていろと言われたけれど、遅刻すると厭だから早めに来たんだ。
だから先輩も、クラスメートも見当たらない。 それに校風があってね、これ
見よがしの集団行動皆好きじゃないんだ。 実は僕の通っているF高校は進学
校で、毎年T大へも何人も合格している。 僕も両親からは期待されているけ
れども、どうだろうなあ。 あまり自信はない。 進学校だけれどもスポーツも
盛んで、つまり両方出来なければ駄目なのさ。 野球、サッカー、体操、バスケ
たいていのものはある。 ボクシングはマイナーな方、部員も少ない。 その
方がはやくレギュラーになれるからいいと思って入部したのだけれどね、こん
なに早く試合に出ることになってどうしよう。 入部したのは今年の4月、つ
まり入学直後だけれど、まだ3ヶ月しか経っていない。 無理だと思うでしょ。
でもその前に中学時代、街のジムに通っていたから経験はほぼ1年3ヶ月、だ
から先輩やコーチが出場をきめたわけさ。 もちろん今まではスパーリングま
でで、試合は本当にはじめてなんだ。 会場に着いた。 Dコロシアム、名門
のテニス場だが、コートの中央に仮設リングを作り、まわりのスタンドから試合
を見ることになる。
通用口から入り、控え室へ向かう。 驚いたなあ、なんでこんなに汚いんだろ
う。 僕らの部室より汚い。薄暗いスタンドの下の物置みたいな所、板張りじ
ゃなく、土間になっててそこに筵が敷いてある。 ここが更衣室らしい。 コ
ーチに先輩も何人か、『おお小杉来たか、未だ早いがすぐ着替えて、身体を動か
しておけ』『そうだその前に計量して貰わなくちゃな』役員に連れられて下着だ
けで計量場に行く。 と言ったって隅っこにあるカンカン秤にのるだけだ。
『43.7 モスキート』 あれ随分軽いなあ、もう下の奴いないんじゃないかな
もとの場所にもどって用具を取り出す。 グローブは大会本部が用意した
物を使う。 使いまわしだから、前の選手が外したのがまわってくるまで、グロ
ーブはない。 バンテージを巻いて待つことになる。 試合は体重の軽い級から
だ。 はじめは僕らのモスキート級mosquito weight、
さらにフリー級flea weight(ライトフライ級light fly weight) フライ級fly weightと続いていく。 ひどい名前だよ。
蚊、のみ, 蝿なんだから。そうだ、まだあった。 バンタム級 チャボだっけ
筵の上で下着も脱いで、上半身裸体、ランニングシャツを着て、次はトラン
クス、他の選手もいるし、役員もいる。 ちょっとためらう。『おい早くしろ』
『ハイ』『なんだよ、恥ずかしいのか 誰もおまえのものなんかみてやしないよ』
『・・・・・』 シャツの丈はかなり長く、裾は僕のペニスを隠すぐらいある。
まずシャツを着て次にブリーフを脱ぐ。 前を押さえながらサポーターに足を
通す。 サポーターは身体に直接じゃなく、シャツを挟んで、つまり、僕の大
事なところはシャツの裾でくるまれ、サポーターがその上から押さえるわけだ。
うまくいった。 先輩なんかはもう平気で、僕らの前でも出しっぱなし、ぶら
ぶら見せ付けている。 僕もあんなになるのかなあ。 最後にトランクスに足を
通し、ソックスとシューズを履く。 僕のサイズは24.5小さい方だ。 だ
んだん気分が高揚し、緊張と興奮が入り混じってきた。 すごくトイレに行き
たくなる、しかも何遍も。 出るものは何もない。 それにわりにやりにくい
んだよ。 サポーターつけているから、ペニスを引っ張り出すのに往生する。
でもカップを入れたらもうできないんだ。 背中の方、トランクスのウエストラインの
上にサポーターのベルト部がはみ出している。 皆同じらしい。 ちょっとだ
らしがなく見えるけど、 一番下に、肌に直接触れるようにしない限り仕方が
ない。 シャツがトランクスからはみださなくていいんだ。 それに、サ
ポーター、僕は自前だけれど、あれも高いんで、自分で持っていないで他人に
借りる人もいる。 そうなるとじかに使うの厭じゃない? それにもうひとつ
理由があるんだ。 局部保護のために、カップの着用がルールできまっている。
カップは金属製でサポーターに挟み込んでつけるんだ。 だけどわりに落ちや
すい。 すべるんだよね。 試合中の激しい動きで、だんだんずれてきて、ガ
タンと落ちる。 特に僕みたいに身体が小さくてカップのサイズが合わないと
落ちやすいんだ。 他校の子で、たしか僕と同じモスキートの奴が、新人戦の
試合中おっこどしちゃったのを見たことがある。 もう試合にならなかった。
だんだん僕の番が近づいてくる。 もう逃げ出したい。 胸のあたりがきゅー
っと痛い。 グローブを役員の先生が持ってきた。 14オンス、丸々と大きく
重い。 今日の試合ではヘッドギヤーは使わない。 今後ヘッドギアー着用が
ルールになるらしいけれど、だから危険防止のため、大きな厚みのあるグロー
ブを使うんだ。 だけど重いなあ。 自然にグローブを着けた両手を胸の前で
あわせるような姿勢になってくる。 それに、これまで大勢で使ってきた古グ
ローブ、汗の匂いがひどい。 自分の手まで臭くなりそう。 グローブは洗濯
ができないんだ。 これは剣道の防具も同じで、天日でカラカラに干しあげると
いいのだけれど、どうせやっていないだろう。『おい小杉、お前の番だぞ、しっか
りやれ!』『ハ、ハイ』言葉にならない。出口近くの小椅子に座らせられる。
皆が僕をとりかこむ。そうだ初陣なんだ。 『死ぬ気でやれ!』大きなスポー
ツタオルが頭からかぶせられる。 わあっ これ何だ、すごく汗臭い、折角うち
から自分のタオル持ってきたのに。ママがきれいに洗濯してふかふかに天日乾
しをした、お気に入りの柄入りのタオル、『あ、あの 僕のタオル?』『ああ、
あれ駄目だよ、このタオルはゲンがいいんだ。 これ使ってみんな勝ってきたん
だからな』『・・・・』 僕の名前が呼ばれた.『青コーナー 小杉』『それ行け!
!』皆が僕の肩や背中をピチャピチャ叩く。 2人のセコンドに付き添われ、暗
い控え室から明るいコートに出た。 アンツーカーの地面を歩き、階段を上がる。
ガタガタ震えているのが自分でもわかる。 怖いよ、ボクシングなんかやるんじゃ

なかった。 すべり止めのロジンを踏んでからロープをくぐり、青コーナーの
丸椅子に座る。 口をすすぎ、水でぬらしたマウスピースを口に押し込まれる。
合わない、あわててグローブで入れなおし、モグモグさせて上前歯に安定させ
る。 プロ選手なら自分用にピッタリしたものを専門家に作ってもらうのだけれ
ど、僕ら高校生じゃそうはいかない。数も足りないし、部員の共用
だ、他人の口に入ったものなんかいやだけれど、仕方がないや。 赤コーナー
の今日の相手が見えた。 2年生らしい。 色黒で強そうだ。ピカピカ光る
赤のサテンの上下、プロボクサーみたい。 黒っぽいグローブに、シューズも
やはり黒。 凄い表情で僕を睨み付けている。 負けずに僕も睨み返す。 今日
の僕のいでたちは、スクールカラーの濃紫のシャツ、胸には校章のFの花文字
が白く縫い取りされている。 トランクスは白いサイドライン入りの濃紺色。
やはり紺色のストライプのはいった白のハイソックスに白っぽいシューズ。 凛々しく
て格好いい。 シャツはピッタリ。 身体が締まって見える.『お前まだ伸び盛りだ
し、まだ新調しなくていいよ 俺のをやるよ』と先輩に言われたけれど、パパ
が買ってくれちゃった。 小杉家の長男が他人の古なんか着るなだってさ。
実はパパは僕がボクシングやるの反対だった。 柔道ならよかったらしい。
F高にも柔道部あったけれど、柔道嫌いなんだ。 だって柔道着臭いんだもの。
でもママが賛成してくれて、うちではママが一番えらいんだ。 出場選手の紹
介アナウンスがあって,かぶっていたタオルを脱ぐ、とたんに観客から野次、
『おーい お坊ちゃんだよ かわいがってやんな』『かわいこちゃん 待ってました』 レフェリーがポン
と手をたたいて2人をリング中央に呼び寄せる。 試合前の注意。 しかし2
人とも聞いちゃいない。 ただ無言で睨み合う。 『さ 挨拶して』『・・・』
『・・・』無言で両手でお互いのグローブを会わせあい、肩の上まであげて挨拶
する。あいつの脇から腋毛が見え、腋臭がちょっとした。 口のまわりに薄髭
が生えている。大人っぽいやつだ。 僕はまだ腋毛が生えてない. 下の毛は生え
てるけど。 顔にだってまだ産毛だけだ。僕は緊張して顔をひきつらせ、相手
はちょっと薄ら笑いを浮かべた。 こいつ慣れてるな。 マウスピースが気に
なる。 それから、サポーターの下が変だ。なんかぬらぬらした感じ、もらし
ちゃったかなあ。 無意識のうちにグローブで股間を触る。 コーナーに戻る
と、もう椅子はない。 立ったまま開始を待つ。 ホイッスル、さあいよいよ
だ。 先輩の真似をして、相手コーナーに背を向けて、コーナーロープに両腕
をのせ、グローブに顔を埋める、お祈りみたいだ。 こうしてゴングを待った.
しかしこれが大失敗だった。 カーン、ゴングを聞いてぱっとふりむく。 ア
アーツ、あいつもうそばまで来ている。 なんて早いんだ。 僕が身構える間
もなく、凄い形相で、バ、バババ、バ、シシ、 シュ 猛烈なフックの連打、
僕も必死で応戦、虚をつかれた。 交錯する両者のパンチ、だけど僕のパンチ
は相手のグローブや二の腕をかすめるだけ、圧倒的な敵の攻勢だ。『コスギー
ファイト がんばれー』クラスメートたちの応援、しかし、僕は打たれるまま、

だんだん棒立ちになる。 バシッと右フックが僕のジョーをとらえる、あうっ
思わずうめく、膝がガクッとなり、身体が前のめりに、『ダウン』レフェリー
の宣告、カウントが始まる.そそんな、倒れてないじゃないか、スタンディン
グダウンをとられた。 スリー、フォー、ファイブ 苦しい、ロープをグローブ
で掴んで、ようやく体勢をたてなおす。 シックス、セブン、エイト やっと
のことでファイティングポーズ、ナイン、ボックス! キュッキュッキュッと
黒いシューズを鳴らしながら、顔をひきしめ上体を左右に振ってあいつが突進
してくる。 僕のガードを振り払い、右ストレートが僕の顔面に命中、むふっ
また苦悶する僕のうめき声、鼻の下を生ぬるいものが流れた.口の中にはすっ
ぱい味が。 鼻血だ。 実は僕は鼻血を出しやすい。 スパーリングでさえ随
分鼻血を吹いた。 だからたいした痛手ではないのだけれど、今のは酷いみた
い。 激しい出血、鮮血がポタポタと落ち、白いシューズを赤く染める。

『ようよう, かわい子チャンがんばれ』『まだまだ もっと痛めつけろ』
よろめきながら立ち向かう僕の顔面を狙うあいつのグローブ, 血糊が赤くベッタリと,
僕の血なんだ. 胸の校章も朱に染まり,トランクスも,白のウエストラインが鼻血でベタベタ,
必死で打撃に耐える僕、もう駄目か,苦しい,倒れそうだ,・・・
口惜しい,初陣でノックアウト負けなんて・・・なにくそ,まだ闘える,
倒れ伏すまでやってやる. 負けるもんか! 全体重を預け,あいつにむしゃぶりつく,
クリンチのつもりだが、ホールド、ホールドの野次が。 レフェリーが引き離
そうとするが、2人は組み合ったままロープぎわへ。 相手をロープに押し付
ける。『うふ・・・う・・うう・・う・・』うなり、あえぎ、唾液が飛ぶ。
ロープのきしみ、肉体のぶっつかりあうにぶい音。 ロープぎわの攻防、彼我入れ替
わり、また押し合う。 からみ合う両者、 あいつの肩に僕の血が落ちる。
あと30! それが合図のように2人は離れ、こんどは睨み合い。 彼も苦し
そう。 肩で息をし、顔も苦痛で歪んでいる。 あれ、案外スタミナないな。
打ち疲れてるんだ。 猛然と闘志がわく。 ジャブを連発し、続いて左をアッパーぎみに突き上げる. 当たった.
相手がぐらついたところでゴング。 1分間のインターバル よろめきながらコーナーへ戻り、
ドサッと椅子に崩れこむ。 セコンドが僕の顔にパッと水を振り掛ける。そう
してトランクスの中に手を入れ手前に引いて、ひとーつ、ふたーつ、深呼吸の合
図だ。 トランクスの中から汗で蒸れたサポーターの匂いが.
もう一人のセコンドが僕の首筋を手刀でトントンと、鼻血を止
めるオマジナイ。効くのかなあ. でも早く鼻血拭いてよ。 タオルで僕の鼻をゴシゴシ、痛いなあ、
タオルは真っ赤になった。 ビール瓶が口に突っ込まれ水でうがい、吐き出し
た水も真っ赤になっている。 無理やりレモンの一切れを噛まされる。 スッ
キリする筈が沁みて痛いだけ。 『小杉、落ち着いて行け、相手はスタミナ切
れだ。』『食らいついて、フックで攻めろ』『フ、フアイ・・・ハイ』 セコンド
アウト 2回目 ボックス 今度は初めから相手を見てかまえる。 あいつ今
度は前進してこない。 やっぱり疲れているんだ。 軽くジャブの応酬、
じきに僕は再び鼻血を吹く。 だが敵も徐々に弱っていった。 終了まぎわ、僕の
放った左ストレートが彼の鼻をとらえる。 鼻を押さえながらコーナーへ戻った彼,
口をすすぎ吐き出した水は真っ赤だ。 口も切ったらしい。 いよいよ
ラストラウンド 『あと1回2分だけだ。 死に物狂いで戦え!』ゴングが鳴る
と、セコンドが僕の背中をポンと叩いて送り出す。『よーし,やってやる』 ぐっと闘志が沸いてくる。 グロー
ブを打ち合わせ自らをはげまし、コーナーを飛び出した. 僕の執拗なフック
攻撃に相手は反撃できない。 やはりあいつも鼻血を出し、両方とも血まみれの
凄惨な打ち合いとなった。 僕もフラフラ、あいつもフラフラ、飛び散る血と汗,
最後は気力だけの勝負となった。 でも僕が打ち勝った、グロッキーになった相手にフック攻撃、両
腕を振り回し、ボカボカぶん殴る。 敵は激しい出血、それを見て僕はすごく
エキサイト、『こ、この、 この、この、 コノヤロー』汚い言葉が口を突いて
出る。 場内騒然、『コスギー いいぞ ぶっ倒せ』声援にいよいよ興奮して
もうめちゃめちゃに殴りつけた。 ワーッという喚声と拍手に、
夢中の僕はハッと我に返る。 あれつ、あいつがキャンバスに横倒しになり体をくの字に
曲げて、顔を僕の方に向け、肩で苦しそうに息をして。 血だらけのマウスピ
ースが口元に転がっている。 鼻血がキャンバスに小さな流れを。 僕は呆然
と立ち尽くすだけ 『小杉!早くニュートラルコーナーへ戻れ』はっと気がつ
いた僕は小走りにコーナーへ、だけどけつまづいちゃった。 やはり足にきてる
んだ。 ロープを伝いながら必死でニュートラルコーナーへ スリー、フォー、

ファイブ あいつは身悶えして立とうとする。 ぐるりと身体を一回転させ、
グローブをキャンバスにたて、頭はキャンバスに伏せたまま、腰をあげて、立
てるかな? 突き上げた腰のトランクスの裾から、サポーターがのぞいている。
シックス、セブン、エイト でもここまでだった。 力なく崩れ、そのままカ
ウントアウト。 勝った! ノックアウトで。 初回あんなに僕を痛めつけた
彼が僕の足元に横たわっている.しかも、血を流して。 レフェリーが僕を呼
び、グローブを着けた手を高々とあげる。 やったー 思わず見せるガッツポー
ズ でもこれやっちゃいけないんだ。 後でうんと怒られた。コーチからも、
役員の先生からも。『 何だあの態度は,勝ち誇るな,見苦しいぞ
負けた相手の気持ちになってみろ!』そりゃそうだよね. この後、
相手コーナーへ行って挨拶する、『有難うござい
ました!』 グローブの手を出して相手の手と。だけど、あいつ手は出したけ
ど、目をそらした。 その気持ち判るよ、勝つと思ってたんだろ。 悔しいだろ
うな。 そのまま控え室へ戻る。 いっぱい来ている。先輩、クラスメート、そ
して・・・ 『おい小杉 よく頑張った、初陣の功名だ!』大好きなS先輩の姿
が見えた。 『小杉 おめでとう よくやったな』とたんに涙が溢れてきた。
『先輩、僕 僕 勝ったー』 先輩に抱き着いて泣きじゃくる僕、『泣くなよ、
勝ったんだろ、喜べよ』そんなことできないよ。 先輩の胸に抱きついてただ
泣くだけ。 その僕を皆がピシャピシャたたく。『おい小杉、泣いてもいいけど
な、そんなにひっつくな。 シャツが汚れちゃうよ』そうだ、まだ鼻血が止まっ
てなかったんだ。 それから、勝利の興奮から醒めて、みんないなくなった。
ユニフォームを脱ぎ、着かえる。 裸体になると、腋の下と股間から、ぷーんと僕の
体臭が。 ソックスからもシューズの蒸れた匂いが立ち上る。 そうだシャワー浴
びたいな。 サポーターひとつで、着替えを持って、 シャワールームへ行く。
行って驚いた、エーッこれがシャワールーム? なんにもない空間に水道栓が
2,3本それだけだ。 脱衣場もない。 仕方がないから、サポーターをつけ
たまま、シャワールームに入る。 だって、しょうがないだろ。 全裸に
なってシャワーを浴びようとして気がついた。 さっきも気がついたけれ
ど、下の方がおかしい。 僕のペニス、変に濡れて
いて、サポーターをはずしたら、粘液が糸をひいた。 それから僕の下の毛、

どうにか生えそろった黒い茂みにも何かバリバリこびりついて、あれ、おかしい
な。 殴り合いをやると、慣れない若いボクサーはオシッコを漏らすと聞いた
けど、僕もやっちゃったのかなあ。 でも、これオシッコじゃないよ。 匂いが
違う。 何だろう。 気分的には、さっき殴り合いを必死にやっていた時の感
覚に似ている。 僕はこの時はじめて少年の性行動の一端に気がついたのだっ
た。 シャワールームを出て、偶然鏡を見た。わあ酷い! いささか自慢の僕

の顔、美少年顔がめちゃくちゃ。 眼の下は青黒く腫れ上がり、かわいかった
唇も無残に変形して、鼻のまわにも血の跡、もう駄目だ、女の子からは相手に
して貰えない。 チキショーやりやがったな。 でも、控え室に戻ると、様子

は違っていた。また、 いっぱい人がいて、みんな僕のことを誉める。『やあ
君よかったよ、すごいファイトだな』『こんなかわいい、おとなしそうな子が、
あれほどやるなんてねえ』『おい小杉といったな、でかしたぞ,我がF高の誉れだ!』 よ
く言うよ、負けたらはなもひっかけないくせに。『そうだ、小杉、お前のオヤ
ジとオフクロ見に来てたのか』『え、あの、パ・・・』あわてて言葉を飲み込ん
だ。 危ない危ない、ここではパパ、ママは禁句なんだ。 だけど、オヤジと
かオフクロなんて言えないよ. だって15年間言ってないのだもの。 あら
たまった時は父親、母親ということにしている。 でもうちでは、相変わらず
パパにママなんだ。 みんなに誉められて、 とても気持ちがいい。 何かえ
らくなったみたい。 僕はそんなにできない方じゃないけど、 成績はまあまあ
ぐらいだ。 得意なのは、国語、社会、英語。 理科と数学は、苦手だなあ。
期末試験と中間試験つまり1年に4回あるのだけれど、その都度、成績優秀者
上位20人が事務所前に貼り出される。 でも僕はいつも対象外、パパ、ママ
はがっかりしている。 こっそり事務のおじサンにきいたら、これは違反
だよ、 160人中23番か24番だってさ。 もうちょっとなのだけどなあ。 控え室で
休んでいる間、いろいろ言われた。 『なあ 小杉 あんなに下から構えちゃ駄目
だ。 そうだよなあ、お前みたいに顔に自信のある奴はどうしても
顔を大事にする。 本当はもっと身体を起こして、ダッキングで逃げなければ
駄目だ これが欧州スタイルだ よく覚えとけ』『問題はパンチ力だな、
それに打たれ強くならなきゃあ』 少し落ち着いたので、制服に着替えスタンドに上がっていっ
た。 おお、あの子が来たぞ。なかなか評判がいい。 クラスメートを見つけ
て、いっしょに観戦した。 ちょうどライト級の試合、このくらいの重量級に
なると、パンチはすごい。 一発あたれば、バタッと倒れる。 全試合のうち、
半分くらいがノックアウトで決まった。 僕らの軽量級とはわけが違う。 怖く
なってきた。 僕はまだ15歳、しかし、16.17、18歳になったらウエ
ートはどうなるんだろう。 フェザー級やライト級はいやだよ。 もう帰ろう

と思って、(明日もあるからね)出口まで行くと呼び止められた。『小杉くんだ
ろ』『はあ』『さっきの試合よかったな ファイトもあるし よく練習してるな
成績もいいんだってな』 『有難うございます でもなんでわかるんですか?』
『足をみればわかるさ どうだいウチへ来ないか 歓迎するよ』『・・・』
『俺はR大のMだ、こんどの土曜日だけどな、R大の道場に来てみないか 俺いつ
も行ってるから そこでいっちょう揉んでやるよ』わあ えらいことになっち
ゃった、この人R大ボクシング部の先輩らしい。 どうしよう。 これから、
僕の新しい人生体験が始まるのです。 でもこの日はそのまま家に帰った。
明日があるし。 今日の夕食、ママは何をご馳走してくれるかな。
翌朝の日刊スポーツに僕の試合の記事がでた。
昨日の試合結果 アマボクシング都高校選手権 モスキート級第3試合
○小杉茶利(F高校)----------------上野正由(S高校)●
KO3回1分32秒
初陣の若武者小杉の奮戦が光った一戦。
なまなましい少年ボクサーそのままの小杉は,
開始早々上野の速攻に鼻血を吹きダウンを喫するが、
激しい出血にもひるまず凄まじい闘志で
接近戦を挑み徐々に上野を圧倒、3回終了直前右
ストレートを浴びせ上野はたまらずダウン
そのままカウントアウトとなった。

(その二に続く)
稚いグローブその二
稚いグローブ 少年チャーリーのボクシング青春記
その二 敗戦
みなさんこんにちは 小杉茶利(15歳)です。 チャーリーって呼
んでね。
次の日土曜日のことから お話を続けます。
前日の試合、都高校選手権モスキート級で、僕は15歳の初陣をノッ
クアウトで飾ってみんなに祝福された。 それで次の日、土曜日の午
後、2度目の試合でモスキート級準々決勝に進むことになった。 軽
量級は人数が少ないので、すぐに上位にあがっちゃうんだ。 きのう
の晩、家に帰ると、パパもママもニコニコして待っていて、『お帰りチ
ャーリー、よくやったね、おめでとう』だって。 あれおかしいな、
なんで僕が勝ったこと知ってるの? こっそり見に来てたんだな、
いやだなあ。 ママは、本当に僕の試合見たいの? 息子が殴られて
血だらけになったところなんか、見たい筈ないじゃん。 夕食はビフ
テキに野菜サラダ、食べたかったんだ。 それにこれが可笑しい。
別に豚カツが一皿、そんなに食べられないよ、それに減量調整中だし
変な取り合せだなあ。 テキ(敵)にカツ(勝つ)だって、あほらし
い。 ママは花柳界出身、だからエンギをかつぐんだ。 明日の朝は
目玉焼きだって、受験戦争みたいだ。 そういえば、今朝も目玉焼き
いつもは卵1個なのに2個、ダルマの目なんだな。 ママはすごく綺
麗だ、僕は毎日見ているからそれほどには思わないけれど、友達はみ
んないう、『おい小杉、お前のお母さん美人だなあ』べつに得意にも
ならないけど、僕がかわいい少年になったのは(あはは、また自慢し
ちゃった)ママからの遺伝なんだろう。 だって、パパは風采は立派
だけれど、美男子じゃないもんね。 それで、第2戦はどうだったか
って? やらなかったんだ。 目玉焼きのオマジナイは役にたたなか
ったらしい。 コーチが棄権しろって。 僕はやりた
いって言ったんだけれど、 『ばか、お前殺されたいのか、 ノック
アウト死なんて今時流行らんぞ』 前日の激闘でのダメージから回
復していないし、顔の傷もなおってない。 無念の不戦敗W.O.負けで
で15歳の僕の夏は終わった。 だんだん口惜しくなってきて、さ
らにトレーニングに精を出そうとR大に出かけたんだ. 道場に入
ると、大人の汗の匂いがむっと鼻につく。 中学時代通
っていたボクシングジムの雰囲気を思い出した。 大勢の人が練習
している。 大学生以外にも社会人もいるようだ。 R大の卒業生
なのだろう。 僕のような高校生もちらほら、R大は付属高校がある
から、そこのボクシング部員かもしれない。 Mさんが僕を見つけて、
『やあ 小杉君よく来たね 早速始めようか』練習着に着
替え、シューズを履き、バンテージも巻いて 『お願いします』 柔
軟体操とストレッチングをみっちりやられ、次はMさんとミット打ち
。 なかなか厳しい。 ワンツーの基本がなってないと
、何遍も打ちこまされた。ちょっと油断すると、たちまちミットがガ
ツンとコメカミに飛んでくる. 僕はもう汗びっしょり、ウエアーの
背中にも汗が滲み出してきた。 大粒の汗が足元にしたたる。 僕は
体質で鼻血を出しやすいが、汗もかきやすいんだ。 美少年の僕が
(冗談だよ)死力を尽くして戦って、血と汗が飛び散るところ、 そ
うして、力尽きてキャンバスの血だまりの中へ倒れこむ凄まじい光
景見たくない? 見たいでしょ。本当は。ねえおじさんたち。 その筈なんだ
続いてスパーリング、Mさんとやるのかと思ったら、そうではな
くて、現役の大学生の人だった。 まだ1年生だそうだが、高校選手
権で県1位だったそうだ。 スパーリングはきつかった。 すごいパ
ンチ力で、ヘッドギアーをしていても、1発でグラッと効いてくる。
でも鼻血は出ない。 パンチが正確なんだ。 僕ら高校生だとパンチ
をめちゃめちゃに飛ばすので、すぐに鼻にあたってしまう。 ここだ
とパンチが確実に急所に命中する。 バテた。 強打だけではな
く、1ラウンド3分、高校では2分だけど。 3分は実に長いんだ。
2時間たっぷりの練習メニュー。 すみっこでヘタバッていると、
『今日はここまでだ、ご苦労さん、 シャワー浴びてこいよ』 シャ
ワールームは立派だった。 タイル張りで温水も出る。 こうして3
回ほど通った。 練習の内容は濃かったし、僕も随分進歩したと思う。
だけど、R大通いはそう長くは続かなかった。 推薦で
R大に進学する気はなかったし、 お坊ちゃん高校生の
僕には、大学体育会の独特の雰囲気にはついて行けそうもなかったん
だ。 夏休みになった。 F高校では、休暇中は、 部活は縮小され 勉強中心の態勢となる。
練習場も閉めてしまうから、僕たちは自主練習をするほかはない。
縄跳び、ジョギング、腕立て伏せ、シャドーボクシングなど、
家の庭で十分できる。 勉強は、あまりしなかったなあ。
きまった勉強は本当に好きじゃないんだ。
夏休みも終わり、次の試合が近づいてきた。 今度は国体都予選。 ち
ょうどこのころ、 少年の僕の身体は、微妙に、また徐々に変化しはじ
めた。 もうじき、僕も16歳になる。 まず第一に、ペニスが前より大きく、
形も変わってきている。 かわいいロケットみたいだったあれが、いつのまにか、
大きくたくましく、先っぽも太く、さらに、皮も剥けて筒みたいになってきた。
下の毛もさらに増え、濃くなっている。 ああ大人になるんだ。
嬉しいような、悲しいような。
それから、僕の身体の匂いも変わってきたみたい。
今まではなにも言わなかった妹がことあるごとに、『お兄ちゃん 臭―い』
『うるさい!』 とにかく悪い妹なんだ。 以前はいっしょに
お風呂に入ってた。 そのうちに、僕の下の毛が生え始めると、
妹はそれをママに言いつける。 『ママー大変だよ, 知ってる?
お兄ちゃんのオチンチン毛が生えてるよ、あたし見たもん』
僕は赤面し、 兄妹いっしょの入浴はなくなった。 妹の名前は小杉詩理、つまりシー
リーなのさ。 いい名前だろ。しかし、これは失敗だったらしい。
小学生の妹が学校から泣きながら帰って来て、 『ママー、 みんな酷
いんだよ、 あたしのことをお尻だとかおケツだとかいうの、 どうしてえ』
ママは困惑し、妹を侮辱された兄の僕は激怒して、 悪童どもを殴りにでかけた。
しかし、あいつらより、もっと悪くもっと強い兄貴分が出てきて、僕は返り討ちにあった。
口惜しがった僕は、ママにねだってボクシングを始めたんだ。 ペニスが成長す
ると、精液の分泌が激しくなる。 例の夢精は、去年経験した。 びっくりしたなあ。
それからは、かなりしばしば、寝ている時でなくても、ボクシング試合で壮絶な
殴り合いになってるのをテレビで見たときとか、
僕もすでに経験したような、少年のエキサイト場面とか、それから、これが一番多いのだけれど、
綺麗な女の人のヌード写真を見たときなんか、これは学校に誰かが
持ってきて、それをまわし読みするんだ。
自然にペニスが大きく、硬くなって、液体が飛び出してしまう。
はじめは、恥ずかしいことで、僕が異常なんだと思っていたけれど、
本当は健康な少年ならば、当たり前のことなんだってさ。 いよいよ
僕は大人へのなりかかりにさしかかったんだ。 でも、パパやママに
は隠していた. だけど、パパもママもとうに気がついていたらしい。
やはり親だものね。 9月も中旬になった。僕の大人への道はいよい
よ進み、腋毛も生えてきたらしい。 腋の下に手をやると、今までは
ツルツルしていた肌が、いつのまにか、ザラザラしてきて、チョロチ
ョロと發毛が始まっている。 始まると早いもので、たちまちのうち
にモサモサ黒々となってきちゃった。 腕をあげると、脇の黒さがわ
かるようになる。 夏はじめの高校選手権で僕が討ち取った彼みたいに、
腋毛が丸見えになるんだ。 つまり、僕は大人になったんだ。
試合の当日になった。 秋晴れの一日、場所は都体育館。
大きな会場だ。
屋内だから、Dコロシアムと違って、雨が降っても
大丈夫だ。 いつもはバスケの会場になるところに、
中央にリングが張ってある。 別室もあって、そこでウオームアップも十分にできる。
今日も家を早めに出た。 いつもの通り、朝食に目玉焼きを食べて、
オマジナイはバッチリ。 観衆も多いみたい。 今日は僕は赤コーナー、
控え室には他校の選手も大勢いる。 みんなそれぞれのユニフォームに着替えている。
僕みたいに色白でほっそりした子、ガッチリと鍛え抜かれ、筋肉隆々とした奴、
皆が僕より強そうに見える。 僕は体重が少し増えていた。 44.6キロ、モスキートでは重い方だ。
僕の順番は4人目、ドキドキしながら待たなきゃならない. また、トイレに
行きたくなった。 いよいよ試合開始だ、会場から、ホイッスル、
ゴング、そうして観衆の声援が聞こえてくる。 緊張と不安が高まって
くる。 僕の前の選手が帰ってきた。 ノックアウト負けしたらしい。 抱えられて、
千鳥足で僕の前を通る。 泣いている。
僕もああなったらどうしよう。 グローブを着け、マウスピースをくわえて
立ちあがった。
『小杉、さあ行け!』『ハイ!』廊下へ出て、会場に向かう。 もう
逃げられない。 急に火事になって、試合中止になるといいなと、ふと思った。 でも、
そんなことあるわけがない。 クラスメートの声援を受けながらリングに上がった.
今日の相手は、名門のC商業高校の3年の選手、
強豪だ。 はじめから圧倒されそうだ。
でも、やるぞ!
相手より僕の方が背が高く、リーチもありそう。
だけど、肩幅や胸の厚み、それに腕の太さ、僕よりずっとある。 強
打者かもしれない。 鍛えぬかれた肉体から発散する野獣のような荒々しい体臭。
レフェリーに呼ばれてリング中央で向き合う。 相手の汗の匂い、そ
れにグッと来る気迫、押しつぶされそうだ。 かなり薄髭のある相手
だ。 今日は僕も顔を剃っていない。 口のまわりには
産毛がぼうぼうと。 剃刀を使うと皮膚が弱くなる。 だから、
伸ばしっぱなしにするのが普通なんだ。 各コーナーに分かれ睨み合
う。 ゴングとともに飛び出す。 グローブを構えながら左回りに相手の隙をうかがう。
パッ・・・凄いストレートが飛んできた。 辛うじて
避けるところへ次のストレートの追い打ち。 一発くらった。
クラッとする。 やはり強打者だ。 息をつくまもなく、今度はフックの連打、僕の頭が左右に揺れる。
僕の必死の反撃、懐に飛びこんで右のフック一発、これは決まった。 続いてもう一撃、しかし、
これはかわされた。 次の瞬間、相手の低めのパンチが僕のボデーをえぐる。

うふっ・・・膝がガクッとなり、前のめりに
そこへ容赦なく
突き上げてくるアッパー、逃げられない。 足がもつれた。
『きいてるぞ!』『フィニッシュ!』その時ゴング、助かった。 よろめき、足を引きずりながらコーナーへ。
セコンドの懸命の手当てで、僕は少し回復する。 第2ラウンド、 流れるようなフットワーク
であいつが襲ってくる。 僕はロープを背負って必死のジャブ攻撃。 しかし、
最後が来た。 真正面からのストレートパンチ、あいつ
のグローブが視野一杯に迫り、チンに炸裂し、僕はたまらず膝から崩れ
四つん這いになった。 ダウン。 カウント8でどうにか立ちあがり、よろめ
きながらファイティングポーズをとる。 マウスピースを食いしばり
凄い形相だったらしい。 そこへまた敵が迫る。 とどめの強打を放とうとした瞬間、
丸められたタオルがコーナーから投げ込まれた。 ギブアップ、僕はそのまま腰を落とし、
キャンバスに座りこんだ。 口からは血の混じった
よだれが流れ、目はトロンとして、そのまま横倒

しに。 実質ノックアウトだ。 意識が薄れた。
気がつくと僕
はセコンドにかかえられ、赤コーナーへ。 相手選手も
付いてきている。 椅子に座らされ、頭から水をかけられる。 相手
はグローブで軽く僕の肩をたたき、ニッと笑った。 途中棄権のテク
ニカルノックアウト、惨敗だ。 口惜しい。
だけど、キャリアの違い、体力の差。 到底かなわない。
抱きかかえられながら控え室に戻る僕。 アイスノンで
額を冷やし、首筋と肩のマッサージ、そのまま横になる僕。
『小杉、よく頑張った』『うううう・・・』僕はうめくだけ。 相手の
あの子がやって来て,細い声で『やあどうも 君、大丈夫?』
『ああどうも』僕にはそれだけしか言えない。 あいつ、いい奴なんだ。.
ところで、おじさんたち、ノックアウトされた時の気分ってどんな
だかわかる? 普通に失神するのと、ちょっと違うんだよ。 倒れて
いる時、マウスピースをむき出したりして、すごく苦しそうに見える
だろ。 そりゃ殴り倒されるわけだから、これは大変なことだけど、
ノックダウン直後はそれほど苦しくないんだ。 ポワーンとした感じ
で、夢の中みたいとか、雲に乗っているみたいとか、よく言うんだ。
レフェリーのカウントも聞こえることが多いんだ。 それから後、助け起こされて控え室に戻ってから、
それからが苦しくなる。 頭がガンガンするし、吐き気もする。 次の日まで、頭痛がする子もいたな。
僕はテクニカルノックアウトで、完全ノックアウトじゃないから、 気持ちよく寝たりは出来なかった。
もう一度立ちあがって戦ったあげくの打倒負けだったら
わからないけれど、 実は高校ボクシングでは、ノックアウトされると当分の間、
厳しいルールだと、6ヶ月間試合はできない。 高校生活は3年でしょ。 だから、危なくなると、
コーチが早めに棄権させちゃう。 僕の場合も多分そうなんだ。 この後、大事な定期
戦がある。 だから・・・・
でも、口惜しいよ。
本当に倒れ伏すまで戦い抜きたかったんだ。 これが少年ボクサー魂なんだろうな。
(その三に続く)
稚いグローブ その三
少年チャーリーのボクシング青春記
その三 最後の試合
ハーイ チャーリーでーす また僕の少年ボクシングのおしゃべり聞いてね
でも、本当は気が進まないんだ 僕は今つとめて明るく振舞っている. 心の中の傷を隠して
、つまり未来の僕が、成人した僕が負い続けているトラウマを忘れようとして、明るいチャー
リー、健康なチャーリーを演じているんだ。 僕にだって、いろんな事があったんだ。 本当
は暗い性格の少年なんだけど、このひけめを乗り越えるためには、演技をしてでも明るい健康
な少年らしく装う、いつのまにか身につけた生活の知恵なんだ。 ボクシングもそう。
本当は殴り合いなんか好きじゃないんだ. 幼稚園のころは,いつも女の子と遊んでた.
オママゴトなんかして. 小学生になってからも,アヤトリをしたり,折り紙を折ったり,
お絵描きや塗り絵も好きだったなあ. 女の子みたいでしょ.
あの話はね,かわいいからじゃなくて,僕の性格の話なんだ.
そりゃあ,ほんとに女の子みたいにかわいかったんだけどね. ウフフフ・・・・ でも,僕が強く,
勇ましい少年らしくしていると,両親は喜ぶからね. だから、僕は少年ボクサーらしく,
この間から、屈託無さそうにボクシングのおしゃべりを続けているんだよ。
11月になった。 前の敗戦で受けたダメージも回復した。 いよいよ学校恒例の対G高校戦が
近づいて来た。 G高校は僕たちF高校とは関係が深く、仲がいい。 経営形態が違うから、姉
妹校ではないのだけれど、いろいろな面で交流している。 制服もよく似た濃紺の詰襟、この
ごろでは珍しいスタイルなんだ。 ともに所謂進学名門校で、つまり、お坊ちゃん学校、中高
一貫教育なんだ。 ちょっと違うのは、F高校が共学校なのに、G高校は男子校、別にG女子高校
がある。 1年に1回、各種スポーツの対校戦をやっている。 野球、バスケ、バレー、
蹴球(僕らはサッカーなんて軽薄な言い方はしないんだ)柔道、剣道、体操、陸上 などなど すご
く長い歴史のあるもので、伝統の一戦なんだ。 僕らはG戦というが、彼らはF戦という。 早
稲田と慶応が、早慶戦、慶早戦と言い換えているのと似ているでしょ。 毎年の対戦だけれど
、両校の意気込みはすごい。 特にボクシングのような、個人格闘技だと格別の思い入れがあ
って、選手はエキサイトする。 僕は出場選手に選ばれた。 普通だと、こうした伝統の一戦
には、新人が先輩を差し置いて出場することはありえないのだけれど、部員でモスキートは僕
一人だからね。 G戦出場は僕にとって実に名誉なことなんだ。 だから嬉しいんだけれど、
少し気が重い。 それはね、僕には、G高校に一人親友がいる。 Yくん、僕と同じ高1、
15歳しかもボクシング部員なんだ。 身長体重もほとんど同じ、モスキート級。 Yくんすごく
いい奴なんだ。 家が近いんで、小学生のころからの仲良し、それにとってもかわいい。 男
の子の僕がみても可愛いって思うんだから。 彼はいい家の子でね、だけどちっとも威張らな
いし、優しい子だよ。 G高校にはこういう子がよくいる。 Yくんのお母さんは大変な美人だ
、 上品で、教養がありそうで、芸者だった僕のママとは随分ちがう。 試合の2週間前に選手
の発表があった。モスキートは、F高校が僕、そうしてG高校がYくん、やっぱり。 い
つも仲良しのYくんと戦うなんて、いやだなあ。 それからの2週間、僕らは会わない
ようにしていた。 この気持ちわかるでしょ。
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試合当日になった。 僕たちは早めに集合した。 この試合でF高校ボクシング部の年間スケ
ジュールは終了する。 3年生部員にとっては高校生活最後の試合、僕にとっては15歳の少
年の最後の試合ということになる。 試合会場はKボクシングホール。 両校とも練習場を
持っているけれど、狭くて観衆が入れない。 それで、使用料は高いけれど、ここを借りたん
だ。
まずウオームアップ、皆の肌が汗ばんだころ、開会式の時間になった。 ジャージを脱いで
、ユニフォーム姿で会場に入りリング上に横1列に整列した。足を少し開き、両腕を背中にま
わして腰の位置で組む。 自衛隊風の姿勢だ。 向う側のG高校選手と向き合う。 僕らは、
濃紫のシャツ、相手はやはりスクールカラーの樺色のシャツに校章の山桜の縫い取り。 モス
キートからライトまで6階級、両校合わせて12名の少年ボクサー、僕らの汗ばんだ肉体から
発散する若い体臭が周囲にただよい、これから展開する血と汗と拳の祭典への興趣が高まって
いく。 形通りの挨拶に続き、選手の紹介。 ひとりづつ名前と階級が呼ばれる。 一歩前へ
出て一礼、バンテージを巻いた拳を胸の位置でかまえてファイティングポーズ、その度に歓声
と拍手が起こる。 最後にお互いが歩み寄り、相手選手と両手で握手。 僕はYくんと。 Yく
んの握りが強い、僕をキット見つめる。 こいつ本気でやる気だな。 そっちがそうなら、こ
っちだって。 闘志が勃然と涌いてきた。 最後にコーナーに6人が集合、互いの肩に両腕を
まわし、身体をピッタリ着けて固く円陣を組む。 互いの体臭が混じり合い、皆の息遣いが揃
う。 不思議な連帯感と使命感が生まれる。 主将のFさんが叫んだ『さあみんな いいか 行
くぞ ファイトーー!』『エーーイ!!』 円陣を解き、皆リング下へ降りる。
僕ひとりを残して、降り際に僕の肩や背中をたたき激励。『小杉 頼むぞ』『小杉 頑張れ』
極度の緊張と興奮で僕は何も言えない。 コーナーに座り、ヘッドギアーを被り、グローブを着
ける。 ヘッドギアー着用、12オンスグローブ使用、新ルールなんだ。 真新しいグローブ
がリングの中央に置いてあり、レフェリーから渡される。 新しいグローブは気持ちがいい。
重さが変わって使いよさそうだ。 ただ、打たれた時の衝撃は前よりきつそう。 だから、
ヘッドギアーが義務付けられたんだ。 最後にマウスピースを口に押し込み、開始を待つ。
胸の鼓動はいよいよ早くなる。 向う側のコーナーに座るYくんの姿が見える。 僕と同じ気
持ちなんだろうな。 レフェリーがポンと手を叩き両者を呼ぶ。 リング中央で向き合う二
人。 睨み合う二人。 Yくんの息遣いが目の前に、彼の体臭が香った。 Yくんも顔を剃って
いない。 口のまわりには産毛がぼうぼうと生えている。 口からマウスピースが白くのぞい
ている。 僕も同じだ。 互いにグローブを合わせて試合前の挨拶、Yくんのグローブがや
けに強い力で僕のグローブを押す。 僕も負けずに押し返す。 こいついつもと違うな。 コ
ーナーに戻り遠くから睨みあった。 さあいよいよだ。 ホイッスル、それに続いてゴング、
二人は勢い良く飛び出した。 軽くグローブをまわしながら、右回りで相手の隙を窺う。
バッ・・・・Yくんの右が僕の顔面を襲う。 僕は頭を傾けてそれをかわす。 今度は僕、同じ
く右で彼のジョーを狙う。 これも当たらない。 互いにジャブの応酬、続いてストレート攻
撃、二人とも有効打をとれない。 シ、シ、・・・シシ、シ・・・激しい息遣い、パンチが顔
をかすめる。 突然、Yくんの左フックが僕の右のコメカミに命中した。 グラッとくる。
目の前に火花が散った。 しまった。 立ち直る間もなく、強烈なストレートが僕の鼻に、痛
い・・・・鼻血がほとばしる。 僕の弱点なんだ。 休む間もなく、ワンツー、ワンツー、ワ
ンツー・・・・すべて出血した鼻を目掛けて。 畜生、オレの弱点を知っての狙い撃ちだな、
きたねえぞ。 カッとなる僕、しかし、Yくんは容赦なく攻めてくる。 『小杉、頑張れ、フ
ァイト』『Y,効いてるぞ 鼻狙え、鼻』・・・・両陣営から声がかかる。 そこへまた、Y
くんの強打、たまらず後退する僕。 ロープ際に追い詰められた。 足が利かない。 逃げら
れない僕。 Yくんはそこへ連打を浴びせる。 必死で応戦する僕。 一発返せたがあとが続
かない。 ついにロープにもたれかかり、半身を外にのけぞらせる。 ロープダウンをとられ
た。 もたれたままの僕の鼻から鮮血が糸を引いた。 どよめく観衆、女子が悲鳴をあげる。
もう駄目か、なにくそ、まだ戦える。 よろめきながらロープを離れ、膝をガクガクさせな
がらファイティングポーズをとる。 その時、ゴングが鳴った。 コーナーに倒れこむ僕、完
全な劣勢だ。 セコンドの懸命な手当て、アドバイス。 『ウー、ウー、ウウー』野獣のよう
に唸りながらうなずくだけの僕。 続く第2ラウンド、Yくん優勢のままに終始した。 あい
つこんなにボクシング強かったのか。 すごい闘志とスタミナ、僕は圧倒されかけている。
でもどうにか倒されないですんだ。 2分間、僕は持ち味のインファイトで抵抗した。 執拗
な接近戦にYくんはてこずり、手数は徐々に減っていった。 そうしてラストラウンド、開始
早々、僕のラッキーパンチがYくんを捉えた。 突進してくるYくんを体を開いてかわし、右
を彼のボデーに叩きこんだ。 『グフッ・・・・ウ、ウ、ウ』Yくんのうめき声、身体を折り
、前のめりに。 やった!と思った、しかし、倒れない。 すごい耐久力だ。 しかし、足は
止まっている。 そのYくんの顔面に、2発、3発。 Yくん鼻血を吹く。 これでおあいこ
だ。 さらに浴びせるパンチ、Yくんたまらず組みついてくる。 からみあいながら、ロープ
際に押し付ける。 苦悶するうめき声、きしむロープ、荒々しい呼吸、二人とも血だらけの顔を
押し付けあって、さらに執拗なボデー攻撃。 Yくんの血と唾液でくちゃくちゃになったかわ
いいお口、そうしてそれに似合わない強い口臭、こいつこんなに口が臭かったかな。 強い口
臭はボクサーの宿命なんだ。 僕だってそうだ。 ボクサーは試合前には何も食べられない、
そのうえ試合中はどうしても口の中は唾でいっぱいになる。 その口へ目掛けてパンチを一発
、決まった、唾液が飛び散った。 大喚声の中、両者の死に物狂いの殴り合いが続く。 つい
に試合終了のゴング。 しばらくは、二人とも組み合ったまま動けない。 ようやく離れた二
人、Yくんがポーンと軽く僕の肩を叩く。 コーナーに戻り、ヘッドギアーを脱ぎ、グローブ
も外してもらう。 グローブの下のバンテージは汗でグチャグチャだ。 吐き出したマウスピ
ースも唾液と血にまみれている。 なかなか判定が出ない。 集計用紙をレフェリーが集めて
チェック、リング下中央の放送席に渡す。 どうなったろう、逆転できたかな。 『勝者赤コ
ーナーY!』いっせいに飛びあがるG高校側、F高校側からはため息が。僕はがっくりと肩を
落としうなだれる。 だめだ負けた。 Yくんの手があがる。 僕は気をとりなおして彼に歩
み寄る。 両手を出して握手、急にこみあげるものがあり、僕はYくんに抱きついた。 Yく
んも。 二人は抱き合い、傷だらけの顔で頬ずりしあった。 Yくんの口から嗚咽がもれた。
泣いているんだ。 僕も同じように。 Yくんの汗の匂い、ひどく男臭かった、僕も同様だ
ったろう。 周囲からは惜しみない拍手が。 レフェリーが小声で『さ、もういいだろう、下
におりて休みなさい』リングをおりると皆が駈け寄ってくる。 『小杉、よくやった。 ナ
イスファイト!』また涙が溢れてくる。 『ごめん、オレ負けちゃった』号泣する僕。 控え
室に戻り、呼吸を整える。 次の試合が始まったようだ。 シャワールームへ行き全身を洗う。
汗と血がこびりついた髪を洗い、ドライヤーをかけた。 全裸の身体の腰にタオル
を巻き、もう一枚を肩にかけて廊下に出た。 そこでYくんに会った. Yくんも同じ格好だ。
Yくんはもとの優しい表情に戻っている。 荒々しい男臭さも消えて, 初々しい
少年の香りが。 『おい小杉、大丈夫か』『ああ、だけどお前強いなあ、 オレ完敗だよ』
『そんなことないさ。 お前のラストのボデー効いたよ、あそこで倒れてたらオレおしまいだっ
た』 Yくんと分かれジャージに着替え、会場に戻った。 試合は第4試合バンタム級。
F高校は僕に始まって連続3つ星を落とした. もう後がない。 バンタム級は主将のFさん。
主将が奮起した。 強打のアウトボクシング、敵をノックアウトに屠りここで1勝。 次のフ
ェザー級でも勝ち、とうとう最後の試合。 ライト級、選手は3年のIさん。 これがIさん
のF高校での最後の試合になるんだ。 重量級らしい凄まじい戦いとなった。 両者血しぶき
をあげての凄惨な試合展開、強打の倒し合い、スリリングなノックダウンの応酬となった。
そうして遂に、相手選手が力尽きた。 膝から崩れキャンバスに沈む. カウントアウト!
やった! 追いついた,3対3イーブンだ。 僕らは躍り上がり、抱き合って泣いた。 そして
閉会式。 僕ら6人は応援席の前に整列して頭を垂れる。 校歌と応援歌の斉唱、僕らは胸が
一杯で歌うことができない。 拳で目頭をよこなぐりにして嗚咽するだけ。 終わったんだ。
・・・・・・・・ 興奮から醒めて、皆それぞれに帰って行く。 ボクシング部員も、
ジャージを脱ぎ、制服に着替えて家路につく。 F高校はこんな時、ジャージやユニフォームで
街を歩くことを許していないんだ。 だって、公式行事だものね。 水道橋のホームで、また
Fくんに会った。 いっしょに帰宅の道をとる。 でも、話すことは何もない。 制服姿に似
合わない二人の傷ついた顔、乗客の好奇の視線が注がれる。 いやだなあ。 腫れた瞼、唇、
ほっぺた それから・・・・ 襟のボクシング部員バッジを見て、納得したような表情となる。
知らないおじさんが声をかけてきた。 『君たちボクシングか 試合だったのかい』
『ハイ』『随分がんばったんだね』『ウフフ・・・』
電車を降りて家の近くまで肩を並べて歩く。 別れ際にYくんが『ね、またやろうよ』
『うん、来年だな、今度はオレが勝つからね』『そうはいかないさ、この次は完全
ノックアウトだ,ぶったおしてやる』『あははは・・・』笑いながら、手
をふって分かれた。 それなのに、3ヶ月後、あんな事になろうとは。 僕らは再び戦い、僕
はYくんにぶったおされた。 そうして、悲しい分かれが・・・・・・・
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******************************************
G高校戦がすんで、ちょうど3ヶ月ぐらい後、僕らが16歳になったころ、僕とYくんとは
仲たがいした。 大喧嘩になっちゃったんだ。 どっちが悪かったかって、うーん そうだな
あ 両方だなあ。 後で考えると、原因はつまらないことなんだ。 でも、世間知らずでお坊
ちゃん育ちの僕とYくんには解決できなかった。 僕はひとつ秘密を持っていた。 それをYく
んには話さなかった. あんなに仲が良くてなんでも話していたYくんにだよ。 ところが、Y
くんも僕に話さない秘密があったんだ。 これがお互いにバレた時、重大な裏切りだ
と思いこんでしまったんだ。 二人の間に深い溝ができた。
やっぱり,本当のこと話さなきゃいけないかなあ. 僕らの愚かしい行動のこと,
すごく後悔しているんだよ. だけど,もう,とり返しがつかないんだ. それはね・・・・・
試合のあと,1月ぐらいの時だ,学校から家へ帰る途中,目白駅で僕は突然声をかけられた.
「ね,小杉くんでしょ,F高ボクシング部の」 「ハ,ハア」 「あたし,きみの試合見ていた
のよ,すてきだったわあ」 とても綺麗なひとだった. アマチュアボクシング好きなんだっ
て. G女子短大の二年生,静岡県熱海から出てきているんだ. 実は,僕は熱海と縁が深い。
住んでいたこともあるし,今でも伯母さんが芸者屋をしている. 立ち話だった
けれど,話がはずんだ. これが始まりだった. それから,たびたび駅で行き会ったんだ.
綺麗なお姉さん,すごくいい匂いがする. 僕はじきに夢中になった. なんとなく,僕は
自分の身の回り気にするようになった. 襟元の汚れ,たまったフケ,常にブラシをかけ,
揮発油で入念に汚れを落とす. 今までこんな事したことないのに. ・・・・オレ汗臭いん
じゃないかな・・・・脇の下に、ようやく生えそろってきた黒い茂みに手をやって匂いを嗅いでみる。
・・・シャワーを浴びる回数が増えた. だって,いつも詰襟の制服着ているだろ.男の子の
若い活気が服の中にたまり,夏だったらシャツはグチャグチャになっている. 冬場だって
汗ばむことが多いんだよ. 僕は特に体質で汗をかきやすいしね. 口のまわりにもしゃもしゃと
生えている産毛も,気をつけて剃るようになった. 立ち話だけだけど,お姉さんと話して
いると,すごく楽しかった。 3週間もしたころ,お姉さんは僕をアパートに誘った.
僕は喜んで付いて行った. 雑司が谷墓地の近く,狭い部屋だけれど,きちんと片付いている.
ピンク色のカーテン,花柄のかわいいベッドカバー,若い独身女性の部屋に入るのは初めて
なんだ. 紅茶とケーキをご馳走になった. そうして,また,おしゃべりが続く. だんだん
暗くなってきた。 僕はあわてて立ち上がる。 「あの、じゃ僕これで」ドアまで行くと、
お姉さんがうしろから僕の肩に手をかけた。 「ね、泊まっていかない?」僕はどきっとした。
「駄目だよ、怒られちゃうよ」「そうね、じゃ、もう少しだけ」お姉さんは僕を背中ごしに
抱いた。 暖かい息が僕の首筋にかかる。 身体を固くする僕、胸の鼓動が早くなる。
でもね、内心、いくらか期待していなかったわけじゃないんだ。 お姉さんは前にまわり、
顔を近づけてきた。 唇が合わさった。 僕のペニスはすごく固くなって、大きくなって、なにか
漏れだした感覚になった。 いつのまにか上着を脱がされて、そうしてワイシャツも、いきなり
ベッドに押し倒される僕。 お姉さんの手が僕のズボンを引きずりおろす。 僕の股間に手を
あてて、勃起したペニスを確かめ、ふふっと笑った。 「あら、震えているのね、怖がらな
いで」「だって僕」「いいのよ、それにボクなんて言わないで、オレにしなさい、お友達なん
だから」「・・・・」お姉さんはスリップだけになり、僕はランニングシャツとブリーフだけ、
ベッドにもぐりこんだ。 お姉さんがぐっと抱きついてくる。 怖かった。 お姉さん、こんな
に綺麗なんだもの、他にも男がいるかもしれない。 見つかったらどうしよう。
殴られちゃうかな。 しかし、思い出した、オレはボクサーじゃないか。 逆に殴り倒してやる。
覚悟は決まった。 初めて嗅いだ若い女の匂い、同級生の女子なんかのほこりっぽい匂いとは全然違う、
なんていい匂いだろう。 お姉さんは僕の上にのしかかり、腋の下に,そうして脇毛に鼻をちかずける。
「駄目だよ、オレ汗臭いだろ。 シャワー浴びてないんだ」
「このほうがいいの・・・ああ いいなあ若い男の子の身体の匂い・・・あたし、たまらなく
なっちゃう」ベッドがギシギシ鳴った。 お姉さんが僕のペニスを優しく揉んだ。 「むむむ,ううう、・・・」
僕はうめき,彼女の胸に顔を埋めた。 無我夢中でお姉さんの中に入って行き、射精した。
「あああーーー」お姉さんが叫び声をあげ、僕にかじりついた。 二人とも汗びっしょり、
しばらく虚脱状態が続いた。一瞬の静寂, 僕はそっと起きあがり、汗を拭き、ぬらぬら
になっている局所をティッシュでぬぐった。 性行為は,はじめての経験だ. だけど,これまでにも,
自慰やなんかで,股間を汚したことはある. 手当ての仕方は知っているんだ. お姉さんは眠っている。
僕は服をつけ、鞄を持って、そっとアパートを出た。 これが始まりだった。 僕は童貞を失った。
たった16歳で女を知ってしまったんだ。 パパ、ママごめんなさい。 僕は悪い子です。・・・・・・・・
僕は両親の期待と信頼を裏切ったんだ. 恥ずかしい. だけどね,これは言い訳にすぎないけれど,僕は淋しかったんだ.
僕のうち,妹がひとりいるだけだろ,オレ,
お兄さんとか,お姉さんとか欲しかったんだ.
なんでも話せる,相談にのってくれるお姉さん,それから,いざとなったら僕を守ってくれる強くて
頼もしいお兄さん,本当に欲しかったんだ. そりゃあ,ママはなんでもしてくれる.
すごくいい母親だと思ってる. だけどね,ママは芸者だったんだ.
もちろん,僕はそれを恥じたりはしていない.
むしろ誇りに思っている. だけどね,やっぱり
ママはよそのお母さん,友達のお母さんとは違うんだよ.
なんと言ったらいいかなあ. つまり,家庭的じゃないんだ.
それから,パパだけれど,すごく偉い有名な弁護士だ.
お金もいっぱい持っている. ある時,パパとママとがいる部屋に
入っていったら,パパがお札を数えていた.
すごい大金だった. こんな所へくるんじゃない!ってうんと怒られちゃった. だけど,
何百万円もあったんじゃないかな. 一度,東京駅の近くの
丸ビルにある事務所に行ってみたことがある. 驚いちゃった.
えらく大きい事務所で, 人がいっぱい働いていた.
パパはすごく偉いみたい. みんなが先生と呼んでピリピリしていた.
でも,パパは忙しいから,いつも帰ってくるのがおそい. 夕食をいっしょに
食べることは滅多にない. 朝起きるのもおそくて,
僕が学校へ出かける時には,たいてい寝ている.
だから,大事な相談なんてできないんだ. 少年の性衝動,
15歳ぐらいになると,たびたび僕の局所は興奮する.
なんか熱くなったような気がして,ペニスが固く,大きくなってくる. 気をつけないと精液が飛び出してくる.
ブリーフが汚れちゃうんだ. あわててはきかえてこっそり洗濯籠へ,
出来るだけ下の方に隠して. こんなこと誰にも相談できない.
ああ,お兄さんがいれば.うちへ帰ると,すぐにシャワーを浴びた.
懸命に身体を洗った,特に下腹部や腋の下,お姉さんの匂いが残らないように.
「あら チャーリー,今日も練習だったの?」 ママが聞いた. 「うん まあね」
僕は両親に秘密を持ってしまったんだ. これは誰にもいえない. Yくんにだって・・・・・・
ああどうしよう. 限界を踏み外してしまった世間知らずの僕が崩れるのはあっという間だった.
性を知ってしまった少年の生理,微妙に変わってきている.
ペニスの形,太くはなって来ているけど,これまでは外皮が長くなっていて,
固く起ち上がってきた時だけ,中のものが露出する. ところが,
お姉さんとの行為のあと皮がめくれあがって戻らなくなった. ボクシングの練習の時,
着替えをしてサポーターを着けると,サポーターのストラップに,直接に触れてしまう.変な触感だ.
それから,下腹部の匂い,ブリーフを脱ぐと,身体の活気から,汗と垢の混じったような
特有の異臭が上がってきたものだ. それも変わってきて,大人っぽい妙な
匂いがむーんと. 裸にならなくても,
ズボンを通して鼻に感じてくる. みんなに分かるんじゃないかな. 困った.
もともと好きじゃない勉強は,まったく手につかなかった. ボクシングの練習にも身が
はいらない. 何遍もアパートに通った. 学校帰りではなく,一度うちへ帰ってから,
口実を作って,私服でお姉さんのところへ忍んだんだ. そうして,その度にお姉さんと交わった.
すごくいい気持ちだった. 行為はだんだんエスカレートする. キッスからディープキッス,
性交も激しく異常なものにまでなった. 僕は堕落したんだ.
優等生で,真面目なボクシング少年だったオレが・・・・ でも,夢のような2ヶ月だった.
ところが,突然,本当に突然,破局がきた. それも,恐ろしい形で. ある夕方,
いつものように,お姉さんと交わってから,僕はベッドに腰掛けていた. 下着だけじゃなく,
もう帰ろうと服も着ていたんだ. お姉さんは,いつものとおりベッドの中で眠っている.
急にドアが開いて,Yくんが入ってきた.「あっ」 僕は驚愕し狼狽した. なんでこいつが.
Yくんの顔色が変わっている. 目を吊り上げ,拳を握り締め,身をふるわせて僕を睨みすえる.
どす黒い怒りと憎悪がYくんの全身から立ち上っている. どうしよう,僕は起ちあがり,
お姉さんに助けを求めるようにベッドの方を振り向いた.しかし,しかし,お姉さんは寝たまま,
壁の方へ顔を向けて. 起きてる筈なのに. 僕は
すべてを察した. 僕だけじゃなかったんだ. Yくんもそう
だったんだ. 考えてみれば,当たり前のことだ. はじめてお姉さんと顔見知りになった
きっかけは,G高戦での試合だ. 相手はYくんだったんだ. だから,お姉さんとYくんと
知り合いになっても,ひとつも不思議じゃない. それに,お姉さんの短大とYくんのG高校は
系列校なんだから. だけど,だけど,酷いじゃないか. 僕は騙されていたのか. お姉さんは
とても綺麗だけれど,性格はよくなかったみたいだ. 自分の欲望のために,性欲のために,
純情で世間知らずの僕たちふたりを手玉にとったんだ. 今日だって,Yくんが来たのは偶然じゃなく,
お姉さんがわざと呼んだのかも,きっとそうだ.
強烈な嫉妬と怒りが僕の身体をふるわせる. Yの奴,オレよりずっと美少年だ.
それに,あの時試合に勝ったのはあいつだ.
畜生,僕らは睨み合った. 凄い形相で,歯をみにくく剥き出し,荒荒しく息を吐いて.
Yくんがうめくように低い声で「小杉 お前よくも 表に出ろ」 「おお 貴様 許さんぞ」
僕らはもつれ合うように外に飛び出した. うしろで,ドアの鍵がカチリとおりる音がした.
外はまだ暗くなっていない. 人通りもある. Yくんが(いやそうじゃない Yの奴が)
目顔で「ついて来い・・・」 少し歩いて墓地の中へ,ここなら人も来ないし公園もある.歩いているうちに,
ふたりは少し冷静さを取り戻した.怒りを辛うじて押さえ,
ベンチに座って話しあった. 口には出さないが、事情はもうふたりとも分かっている.
しかし,僕はあとにはひけなかった. Yくんもあきらめる気は
なかったんだ.『オレが先だ』『いや 本気なのはオレの方だ』 ふたりは言い合った.
本当に僕たちは仲のいい友達だった。 犬ころのように転げまわって遊んだ小学生のころ、
宿題の教えっこをしたり、個室にこもって冒険小説を読んだり、二人でハイキングにも行った。
お小遣いを出し合って映画も見たし、あこがれのロックコンサートにも
行ったんだ。 幼いころは,「キミ,ボク」成長したからは「オレ,オマエ」 なんの遠慮もなく仲良く付き合っていたんだ.それ
から、それからね、もっと悪いことを親にかくれてこっそり、個室に鍵をかけて、学校で借り
てきたポルノ雑誌をドキドキしながら見たこともある。 一番悪かったのは、言うの恥ずかし
いなあ。 やはり個室に鍵をかけて、あれは中3の時だ。 二人のあそこを、分かるでしょ、
見せ合い、比べ合った。 でも、言い出したのはYくんなんだよ。 Yくんの通っているG高
は、男子校で、変な秘密の伝統があった。 男の子は13歳ぐらいになると下腹部に發毛する。
僕もそうだったけれど、恥ずかしくて隠すようになる。 だから、みんなやるんだ。
なるたけ、おとなしそうな、力の無さそうな奴を選んで取り押さえ、ズボンやパンツを剥ぎ取る。
つまり検査をするわけさ。 やられた子はたいてい泣き出す。 でも、立派に生え揃っ
てる子は、それから大きな顔ができる。 そうじゃない子は・・・かわいそうに。
これを〈毛見〉って言うんだって。 なんて品のないことばだろう。 Yくんも当然やられている。
なにしろかわいい子なんだから。 F校にはこんな野蛮な習慣は無い。 こっちは共学だから
ね。 そのYくんが僕の個室に来て言うんだ。 『ねえ、君どうなの? 見せっこしようよ』
僕は驚いたが、何しろ親友の言うことだもの、すぐ承諾し実行した。 二人ともまあまあの發
毛だった。 ついでにペニスの長さも比べてみた。 これはYくんの勝ちだった。 だけど、
こんな事いっぺんきりだぜ。 こういう親友のYくん、なんでも話し、相談したり、され
たり、秘密なんかなんにも無いはずの二人が隠し事を持っていた。 怒るの当たり前だよね。
しかし僕らは解決することができなかった。 これまでにも、とにかく長い付き合いなんだ
から、喧嘩は何遍もしている。 つかみあい、取っ組み合い、そして殴り合い、でもすぐ仲直
りした。 殴り合いのあと、出した鼻血を二人でティッシュで拭きあったこともある。 しかし、
今度ばかりは違った。 暗い公園灯の下のベンチで長いこと話し合った.
結論が出るはずもなかった。 とうとう僕らは腕力で、拳で決着をつける羽目になった。 こんなことをし
ても、解決にはならないことは分かっている。 しかし、これ以外に方法は無かったんだ。
先に手を出したのはYくんだった。 話がこじれてきたなと思ったとたん、急に激したYくん
の強烈なパンチが僕の左目を急襲した。 すごく痛かった。 たちまち僕の左目の下は腫れあ
がった。 こうなったら、僕もだまっちゃいない。 『チイー やったな 貴様 やるか』僕
は着ていた私服のスタジャンを放り投げ、素手で拳を固め身構えた。 この間の試合の情景が頭をよぎった,
ボクシングは,あいつの方がずっと強い,きっとオレは倒される,
だけど,男の子の意地だ,殴り倒され,動けなくなるまでやってやる. Yくんは、はじめ
しまったと後悔したようだが、僕の態度を見て覚悟したらしい。 やはりシャツだけになって、同
様に身構える。 もうあとにはひけない。 少年同士の死に物狂いの決闘が始まった. 薄暗い公園灯に
照らされた芝生の上で僕らは激しく殴り合った。 少年でも僕らはボクサーだ。 素手のナッ
クルの衝撃は強い。 僕らはお互いに傷つけあい、倒しあった。
顔面への拳の衝撃,激痛が走った. ううっ くくっ 苦痛をこらえ,反撃する. 強打を浴びながら,
不思議な感覚が身体をよぎった. これでいいんだ,充足感と満足感,
痛みは同時に快感だった. ボクシングの試合中とはまるで違う感じだった.
戦いはさらに続き,凄惨さを増した. 僕は右の目尻を切り,Yくんは僕のストレートで
前歯を折った。 鮮血が口からあふれ出る。 それでもYくんはひるまない。 固い石のよう
な拳が僕の胃をえぐる。 たまらず僕は膝を折り前に崩れる。 胃液が突き上げてくる。 そ
れを見下ろすYくん。 あのやさしかった目に憎悪の光をたたえ、拳を固めたまま。 胃液が
滝のように僕の口から芝生に流れ、僕は意識を失った。 気がつくと、僕とYくんは芝生に座
りこみ向き合っていた。オレ負けたんだ. ぶったおされた僕をYくんは助け起こし座らせたんだ。 彼の目
から、もう憎悪の光は消えている。 Yくんはやさしく僕の肩に手をかける。 その手を邪険
に振り払う僕。 しかし、Yくんは再び悲しそうに手をかけてくる。 僕は思わずYくんにか
じりついた。 Yくんはしっかりと僕の背中を押さえた。 二人は嗚咽した。 しばらく泣い
た後、ぼそっとYくんがいった。 『なあ小杉、俺たちもうお終いかなあ』『そうかもなあ』
『俺、本当に馬鹿だったよ』『俺だって』・・・・・・Yくんはひょろっと立ちあがり、自分
の皮ジャンを羽織ると、クルリと背を向けてよろめきながら去って行った. 後を振り向かな
かった。 僕は涙でかすむ目で公園を出ていくYくんを見送った。 Yくんの姿が消
えるとき、僕は小さな声でつぶやいた。 『Y,さよなら』 僕は芝生に突っ伏して声をあ
げて泣いた. 家に帰ると、ママは僕の顔の傷を見て驚いたようだったがなにも言わな
かった。 Yくんと喧嘩になったことを察したんだ。 僕は黙ってそのまま二階にあがり寝てしま
った。 つまり,泣き寝入りしちゃったんだ. 次の日の朝、
パパとも顔をあわせたけれど、やはり何も言わなかった。 きっとママ
が報告したんだ。 表面的にはYくんと仲直りして、それからも会ったし、口も聞いたけど、
なんとなくよそよそしかった。 お姉さんの所には二度と行かなかった. 会う回数はだんだん減り、とうとう行き来は無くなった。
僕はボクシングをやめちゃった。 あんなに好きだったのに。 ぼくが退部届を出すと、なに
しろ僕とYくんとの一騎討ちの死闘はボクシング部の語り草になっていたし、アマチュアボクサーとしての
未来を嘱望されていたから,皆驚き、惜しみ、引き止
めた。 しかし、僕の決意は堅かった. だって、ボクシングやっていると、Yくんのこと思
い出すもん。 受験準備はいい口実だった。 なにしろ受験校だからね。 退部は
すんなり認められた。 他校と違い、リンチに会うことも無いんだ。 それからの僕は本気
で勉強した。 成績はぐんぐんあがった。 先生があきれるほどだった。 なにしろ体力には
自信がある。 徹夜の1回や2回なんでもないんだよ。 とくに得意の国語や社会では全校一
になるのはたやすいことだった。 英語だって相当の位置まで行った. ボクシングで強いパンチを浴びると,
単語の二つや三つどうしても頭から消えるからね.しかし、不得手の数学は・・・やっぱり芳しくない。
パパとママは単純に喜んでる。 『おいママ、チャーリーはどうしたんだろうな、どいう心境の
変化かな、あの子がこんなに勉強が好きだったとはなあ。 これならT大も夢じゃないぞ。
法学部に入れてワシの後を継がせる、ワシの地盤はみなあの子のものだ。 これで小杉家も安
泰だ。 よかったなママ』『そうですわねえ、私も安心しましたわ パパ』でも、そうはなら
なかったんだ。 世の中そんなに甘くはない。 僕はT大にはいれなかった。 不得手の数学
が最後まで響いたんだ。 不合格が分かったとき、パパはひどく怒り、ママは泣き出した。
妹のシーリーももらい泣きしてしまった。 ぼくはしょげこんだが、すぐに許してもらえて、
もうお前が好きなことをやればいい。 やっぱり親はありがたいよ。 浪人して、T大再挑戦
の気なんてさらさらなかったんだ。 僕はG大にはいることになった。 T大の発表は3月20日
ごろで、ここまでくると受験できるところはそうはない。 僕はあわてたが、幸いこの年はG
大はどういう理由か補欠募集をしたんだ。 僕はそれを知り、かけずりまわって書類を1日で
作り、出願した。 試験日まであと3日だった。 僕は2日間だけ準備をして試験に臨んだ.
入試問題を見てびっくりした。 G大には悪いけれど、そのやさしいこと。 苦手の数学・理
科でも、これはどこかに落とし穴があるんじゃないかと深刻に考えたくらいだ。 とにかく理
学部に合格したんだ。 どうして嫌いな理数系なのかって? そりゃあそこしか募集してなか
ったんだよ。 G大は例のG高校の上にのっている大学なんだ。 皆さん気がついたで
しょう。 Yくんはどうしたって。 入学式の日、ぼくは恐る恐る会場の中でYくんの姿を探した。
しかし彼の姿はなかった。 YくんはT大に入ったんだ. Yくんはかわいくてボクシングが強いだけじゃ
なく、すごい秀才なんだ。 つまり僕は何をしてもYくんにはかなわない。 大学生になると,Yくんもボクシング
やめたみたいだな. T大にも弱いボクシング部があるけど. 僕の方も
ボクシングはそれっきり,G大にはボクシング部が無かったしね.
大学時代,喧嘩になりそうになった事は,なんべんかあるけど
僕は我慢して手をださなかった. だから僕がボクシングの経験があること
誰も気がつかなかったんだ. おとなしい,女の子みたいな奴で通っていたんだよ.
ねえ 分かるだろ,オレ,女の子みたいに
かわいかったんだ, Yくんにはかなわないけどね. あはははは・・・・
G高生はよほどの事がないかぎりG大に入学できる。 ところがYくんはその特権を棄てて
T大を受験したんだ。 大人になった未来の僕のことお話しましょうか。 僕は化学者になっ
た。 大学の先生になったり、いろいろしたけれど、いまではフリーライターで落ち着いてい
る。 いや本当はフリーターと言った方がいいかな。 僕がボクシングが好きなこともう誰も
知らない。 Yくんともたまには会うけれど、 ボクシングの話はしたことがない。 そうそう
秀才の彼はT大から国際公務員になっている。
さて、これで僕チャーリーのおしゃべりはお終いです。 どお、おもしろかった? え、つま
らないって。 うーん そーかー。 でも僕は楽しかったよ。 このあと、大人の僕が昔を思
い出して少年ボクシングのお話をすると思います。 そのときはよろしくね。
また会いましょう
じゃーね バイバーイ
(終わり)
小杉チャーリーの学校生活 (その1)
チャーリー少年の部活日誌
*月*日
今日は中間試験の日だ。 みんな昨夜は徹夜で準備したんだろう
けれど、オレはやらなかった。 国語と社会には自信がある。
英語も・・・なんとかなるな。 問題は数学と理科だな。 これ
は明日だし、今さらジタバタしたって。 いつもの通り、池袋駅か
ら歩いて20分、学校に着いた。 トレーニングのこと考え
たら、徒歩じゃなくて、走った方がいいんだけど、授業開始が近
いし、息をはずませて教室に入るの好きじゃないんだ。 シャツ
が汗で汚れるしね。 1時間目、国語、教師がやって来て問題を配
る。 あれ、教師っておかしい? オレたちいつも陰では「教師」なんだ。
表向きはセンセイだけどね。 誰が先生なんて言えるかよ。
おかしくって。 でも、先公よりましだろ。 オレの通っ
ている高校、名門の進学校なんだ。 でも、言葉遣いはよそなみ、
汚いよな。 オレ、ボクシング部員なんだ。 毎週3回、ト
レーニングをしている。 練習量は少ない。 なにしろ受験校だ
からね。 それもあって、うちの部、全然強くない。 出るとマ
ケだな。 だいたい、オレ、今2年生だけれど、3年生になった
ら主将をさせるとコーチが言うくらいだから、 このオレがだぜ。
問題を見た、あれ、国文法か、予想がはずれたな、 えー
と、文語形容詞の活用形をかけ。 なんでもないじゃん。 未然、
連用、終止、連体、已然。 次は、泳を語幹として、4段活
用形を完成させよ。 ガ、ギ、グ、グ、ゲ、ゲ だろ。 四段活
用っていうけど、実際は五段あるんだよね。 和歌の問題、「願
はくは花の下にて春死なむその如月の望月のころ」 作者は誰か
・・・西行法師。 如月を仮名でかけ・・・きさらぎ。 何
月のことか・・・二月。 なぜ春なのか・・・旧暦だから。 望
月の意味(人名ではない)・・・ハハハ、満月のこと。 まだま
だあるけど、まあ易しいな。 じき出来てしまった。 腕時計を
見たら、まだ10分しか経ってない。 すること、無くなっち
ゃった。 でも、今答案出して出てったらマズイよ。 少し
我慢しよう。 モジモジしていたら、 教師が「おい小杉、出来
たんじゃないのか、出てもいいぞ、 お前が残ってると気持ちが
悪いよ」 みんな笑った。 次は英語、これは歯応えがあった。
でも、持ち時間を15分余らせて提出できた。 何点取れたか
な。 100点は無理だなあ、だけど、85点ぐらいはあるん
じゃないかな。 ここで昼休み、弁当を食って、午後の社会の試
験だ。 世界史の問題、フランス大革命をリードした政党の名前
は、また、指導者の名前3人をかけ。 ジャコバン党、ダント
ン、マラー、ロベスピエール。 バッチリだ。 第1次世界大戦
の発端となった事件をかけ。 サラエボのオーストリア皇太子暗
殺事件をかけばいいんだろ。 それから、それから、すぐ出来
ちゃった。 まだ10分過ぎ、おそるおそる答案を提出し、教室
を出た。 そのまま部室へ行き, カバンを置いて練習場へ。
だから、早く終わった方がいいんだ。 制服を脱ぎ、トレー
ニング ウエアに着かえる。 全裸になったところで、
誰もいないからね、 振るチンで鏡の前に立つ。 オレ今2年で
16歳だろ、去年に比べると、まあ身体は出来てきたなあ。
肩幅も広くなり、胸も盛り上がって逞しい。 ファイティング・
ポーズをとってみた。 二の腕には力瘤、脇からは腋毛が黒く
覗く、オレの少年らしい強い体臭, ボデーも腹筋が発達し、格好いい。 股間にも生え揃った黒い茂み.

顔つきも変わってきたなあ。 丸顔で、かわいい少年の顔から、 頬もそげ、精悍さ
の増した若いボクサーの風貌に。 でも、まだ美少年だぜ,あははは。
ウェートは47.5kg ライトフライ級だ。 1年のころは
モスキート級で、 あまり相手にしてもらえなかったんだ。 で
も、もう大丈夫さ。 もっと体重を増やし、 重量級の試合で
の、 壮絶な打ち合い、早くやりたいな。 耐久力には自信が
あるんだ。 練習場には誰もいない。柔軟体操をしていると、コーチ
がオレを見つけ、「おい小杉、試験受けないのか?」 「もう終わりました」
「なんだと、呆れたもんだ」 おかげでコーチに特訓さ
れちゃった。 ミット打ち、それにサンドバッグにパンチン
グボール。 こたえた。 そのうちに、みんなやって来る。 1
年生新人のT, オレと同じライトフライ、 シャツを脱いで、
腰にタオルを巻きつける、 ふふふ、恥ずかしいんだ。 オレも
そうだったけれどね。 タオルの中に手を突っ込んでブリーフを
脱ぎ、タオルの裾を押さえながら、サポーターを着ける。 さあ
始めよう。 シャドーで汗を流し、最後はスパーリング。 Tの
相手をしてやった。 こいつ、必死で殴りかかる。 だけど、
パンチは不正確、全然オレに当たらない。 ポンとジャブを一発、
鼻に当たって鼻血がパッと飛んだ。 以前の自分を思い出した。
Tのやつ、ちょっとひるんだ。 鼻を押さえてロープに寄り
かかる。 「なんだ これくらいで、ファイト!」 グローブで鼻
を横殴り、また向かってくる。 かわいいなあ。 去年は
オレも随分鼻血を出した。 このごろは練習のおかげで出なくなっ
たけど。 ブザーが鳴り、スパー終了。 Tのやつ
精魂尽き果ててキャンバスに倒れこんだ。 抱き起こしてやり、
タオルで鼻血を拭いてやる。 「小杉さん、すみません」 「もっ
とスタミナつけないと駄目だよ」「ハイ」 シャワーで汗を流す。
お互いの身体を見比べた。 1年の時のオレに比べ、いい
身体している。 制服に着替え、校門を出た。 「おいT、試験
どうだった?」 「駄目だった、完敗です」 「しょうがねえな」
「小杉さん いいなあ 成績いいから、それにボクシングも強い
し、オレ尊敬しちゃうな」 「なに言ってるんだい」
少年チャーリーの勉学ノート
読書感想文
2年2組 小杉茶利
課題書名 おさかなパラダイス
著者 吉田 浩
出版社 全日出版
小学生高学年を対象として書かれているが,僕たち高校生にとっても,
今まで知らなかった事柄が沢山述べられているし,単に魚に関する知識
としてではなく,環境問題,日本語,日本の庶民文化にまで及ぶ,幅広
くかつ深い考察が行われていて,ただの子供向けの本ではなく,僕たち
若者にも,また,両親を含めて周囲の大人たちにとっても,十分にため
になる(?)と言えるだろう. しかし,「ためになる」なんて,これは
本書の中で,何遍も使われている表現だが,また随分古めかしい言い方
だなあ. もちろん,すごくためになった(!). 僕にとっても,
クラスメートたちにも,本当に何も知らなかったんだ.恥ずかしかった.
はじめてこの本を手に取ったとき、「馬鹿にするな!」と思ってしまった.
字は大きいし,表現も子供向きだし,漫画調のイラストで,幼稚な気がした.
僕は高校2年,しかもここは進学高だ.成績も悪くない.特に国語と社会には
自信がある.なんでこんな本が課題になるんだろう.しかし,課題だから
仕方がない.僕はいやいや読み出した.そうして驚いた.ぼくは間違って
いたんだ.今は後悔している.でも,幼稚だとか,馬鹿にしているとか,
口に出して言わなくてよかったな.恥の上塗りになるところだったな.
そういうわけで,心を入れ替え,本気で読み始めた. まず,巻頭の
くじら雲の挿絵に目をうばわれた.最近,みんな空を見上げることがない.
青空の中に浮かぶ雲,美しい朝日と夕日,都会人は大自然の多彩かつ
奥深い諸様相に目を奪われることがなくなっている.僕は何いうとなく,
空を見上げるのが好きだった.いろんな現象を見ることができた.校舎の屋上から
眺めた潜水艦みたいな雲,それがどんどん僕らに先端を向け近づいてくる.
宇宙船の着陸みたいだ.なんべんか見た雨上がりの虹,それから五色に輝く彩雲,
でも鯨は見たことなかったな.こうして僕は本書に没入していった.
おさかなの名前から話は始まる.めでタイ,よろ昆布,ただの言葉のシャレだけれど,
たしかに僕ら日本人は,言葉をオモチャにして遊ぶのが好きなんだ.
僕はボクシング部員だけれど,試合の前にはいつもトンカツとビフテキを食べる.
敵に勝つ!同じ発想なんだな.それから,忌み言葉,スルメ・・・アタリメ,
ふぐ(不具)・・・ふく(福)おさかなを食べながら,知らず知らずのうちに,
我々の保持してきた庶民の生活意識に気づく.出世魚の話も面白かった.
平社員→課長→部長→取締役→社長 僕の父親は弁護士だから,
会社の地位など関係がないけれど,友達のうちなんか,いろいろあるのだろうな.
鱈腹からタラのようなサラリーマンを思い出し,ウチのパパがどんなに大変か,
子供心に気がつくようになる. これ,なかなか分からないんだ. ぼくの父だって,
上役もなにもないのだから,気楽のようにも見えるけれど,でも,やはり,
大変みたい.よくよっぱらって帰ってくる.きっと外でいやなことがあったんだ.
お小遣いをセビルだけじゃなくて,もっと気持ちをわかってあげなくては
いけないんだな.僕は小杉家の長男なんだから. でも,本当にためになる(?)本だ.
いろんな事も覚えられる.魚に関することわざ,腐ってもタイ,
イワシの頭も信心から.ゴマメの歯軋り.等々.自分の語彙も豊富になるし,
考え方も柔軟になっていく.この本の内容は,言葉の問題にとどまるものではない.
魚の生態,共生,擬態,それからイトヨとトミヨの子育て僕はホロリとして
感激しちゃった.こうした小さな魚の生態から,僕らは大自然の不思議の
一端に触れることができるのだ.実は僕ら少年は,あまり魚が好きでなく,
肉類を好む.野菜もあまり食べない.しかし,これは間違いだったらしい.
肉を食べていれば,体力もスタミナもつくし,旺盛なファイトで
試合にも勝てる.そう思っていたんだ. しかし体重のコントロールにも,
視力の維持にも,明晰な判断力のためにも,魚を食べなくてはいけないんだ.
そういえば,我々日本人は魚が好きで,縄文時代からいろんな種類の魚を
沢山食べていたのだそうだ. この事もちゃんと書いてある.
もっと魚をたべよう. だけど,ひとつ問題がある.
魚って食べにくいんだ. 小骨を取らねばならないし,身をうまく
箸で摘み上げるのもわりに難しい. 昔からの生活の知恵で,
上手な食べ方があるはずだ.しかし,誰も教えてくれなかった.
こういう事についても書いてあると,もっとよかったと思う.
惜しいなあ.でも,本当に勉強になった.妹の詩理にも読ませてやろう.
あいつ勉強嫌いだけれどね.最後に,読んでいて僕が感銘を受けた語句を
あげておきます.すぐにアンダーライン(じゃなかった
縦書きだからサイドライン)をひいてしまった.
*自然界では「ともぐい」は絶対にやってはいけない
行為なのに,それを人間がやってしまったのです
*海に生きる漁師が山に木を植えるのは
人間の心に木を植えることなのです
*サケは故郷に死ぬために帰ってくるのではなく
命の輪をつなげるために帰ってくるのです
*サケがもとの川に帰っていくように,もしかしたら
人間も,宇宙のどこかにあるふるさとに
帰っていこうとしているのかもしれません.
終り
社会・世界史レポート
自由課題
古代の少年ボクシング
2年2組 小杉茶利
多くのスポーツの中で,もっとも古くから存在したスポーツのひとつとして,ボクシングがある.
これは英語起源であるから,古代のエジプト,ギリシャ,ローマ文明においてこの
語が使われたわけではない. だから,この場合,むしろ拳闘と読んだ方がいいかもしれない
が,便宜上ボクシングboxingを用いることにする. 古代ギリシャ語では,拳のことをピュグ
メーpugme と言った. ラテン語では拳を突き出すこと,つまりジャブに相当するけれど,プ
グナーレpugnare である. それで,英語でも稀な言い方であるが,ボクシングのことを,
プジリズムpugilism と呼ぶことがある. 解説書で,よく古代にはギリシャ語でプジリズム
と言ったとあるが,これは誤りだと思われる.
古代オリンピック競技の中に,このボクシングがあり,もうひとつ,類似の格闘技としてパン
クラチオンがある. これは,今日のK−1等のマーシャルアーツの類であるらしい. 今こ
こで話題としようとしている,エーゲ海文明時代のボクシングでは,すでに時代が
さらに古く,紀元前16世紀ころと考えられるから,当時どういう名称が用いられていたか,また,
どういうルールであったかは殆ど不明のままである. 当時の人々がどういう人種であったか,
また,どういう言葉を話していたかさえ,未だ解明されていないのであるから. 想像すると,
小アジアの辺りを起源とする海洋民族が南下してクレタ島を含むエーゲ海の諸島に達し、 そ
こでギリシャ系の民族と混血して形成されたものではないか. また,用いられている
言語・文字も不明であるけれども,クレタ島で発見された粘土板に刻まれた3種の文字,成立した
年代順に,聖刻文字(ヒエログリフ,象形文字),線形文字A,線形文字Bがあり,
このうち紀元前11世紀ごろの線形文字Bが,1960年代に英国の古代学者ヴェントリスによって解読され,
しるされている内容が古代ギリシャ語であることが判明している. ただし,エーゲ海
文明の最盛期,紀元前1600年ころの青銅器文明期に使われていたらしい聖刻文字は,
クレタ島のファイストス出土の円盤に描かれた例がひとつあるのみで,全く解読でき
ていない. 文字が知られない場合,有力な手がかりとなりうるのは,絵画や彫刻の作例である.
エーゲ海文明の中心として当時繁栄した所に,サントリニ(古代名テラ)島がある. この島
はその繁栄の真っ最中に,ちょうどポンペイと同様に火山爆発によって滅亡した. それから
3,500年後,1960年代に大規模な発掘が開始され,その全容が明らかになりつつある.
出土した壁画の中に,「ボクシングをする少年たち」がある. 12,3才と推定される全裸で裸
足の少年二人が,直立して相対し,
拳を当てあっている構図である. 顔つきはアジア系や
アフリカ系ではなく,ギリシャ系の少年を思わせるし、
頭を青々と剃り,前髪と長い弁髪をのこ
している. ストレートパンチを長く伸ばして,
互いの顔面に当てあっているが,それぞれ片
方だけにグローブを嵌めている構図は,実のところ
本当かどうか分からない. というのは,
この壁画は火山噴火に付随する強烈な地震で
破壊され,かなりの部分が失われていて,のちに
想像によって補修されたもので,作業に当たった考古学者は
ボクシングに関して知識が僅かであったらしく, その再現構図はかなり
出鱈目のようだ. 第一に,グローブを片方づつだけ
というのが不思議である. 一対のグローブを融通しあったのだというのが,ひとつの解釈で
あるけれども,(この推測は米国の著名なボクシング指導者によって述べられた)どうも疑わ
しい. 第二に,競技者の安全のためにソフトグローブが発明されるのが,19世紀の英国に
おいてであるから,果たして当時グローブが存在したかどうか. 古代オリンピック期の
ボクサーが,拳に牛皮のベルトを巻いている彫刻が多数知られているが,これは本人の拳の保護
のためで,対する相手に配慮したものではない. さらに古い時代にあっては,なおさらのこと
であろう. 僕はグローブ無しで,素手で殴り合ったのではないかと思う. もうひとつの疑問
は,両少年が,首飾りや腕輪などの装身具をつけていることである. 少年たちが,支配階級
の子供たちであるからというのが,一般の解釈であるけれども,それにしても,金属品をつけ
たままの戦いというのは,いささか乱暴に過ぎる. これは,今日のボクシング試合で,指輪
をしたり,ピアスをやったままの登場が禁じられているのを考えれば,至極当然の結論で
あろう. いずれにしても,この壁画は,古代の少年ボクシング,さらには少年スポーツ全体を考
察するための貴重な資料であり,一層の復原調査が望まれるものといえよう.
『終わり』
部活日誌
(その2)
*月*日
中間試験が終わった. 結果はまあまあだったな. 予想通り国語と社会は楽勝だ.
英語もよかったが,数学と理科は,いつもの通り,あーあ. まあすんだことは
仕方が無い. くよくよしてもはじまらないよ. ちょっと気が楽になったし,
気晴らしに遊びに行く事にした. 日曜日の午後,ガールフレンドのヨシコと
待ち合わせて井の頭公園まで行ったんだ。 オレにだってガールフレンドは
いるのさ. サクライ・ヨシコ,いい子だぜ. 色白で長い髪の毛,目元が
とてもかわいい。 学年は同じだが,クラスは違う. オレと違って文化部,
放送部員なんだ. だから,声もきれいだ. 校内放送で部活の取材があった時,
知り合いになり,それから付き合い出したんだ. 公園の中,池の周りを歩いた。
腕を組もうかな,どうしようかな,と思った時,向うから厭な連中がやってきた.
かなり不良っぽい高校生の3人連れ,マズイなと思ったけど,引き返すわけに
もいかない. すれ違おうとしたら,あいつら,いきなりオレたちの前に
立ちふさがった. 「おい小僧,お安くねえな,かわいい子じゃねえか.
俺たちにまわしな」 腹がたったが,無視して通りすぎることにする. しかし,
あいつら,オレの腕をつかんで,「野郎,なめやがって」 殴りかかってきた.
咄嗟によける,パンチは無様に空を切った. 思わずニヤッと笑うオレ. これがいけなかったんだね.
あいつらいよいよいきりたって,またパンチが飛んできた. これもダッキング,
当たるはずないだろ. あいつら鈍い奴だ,オレの身のこなしでわかりそうなもんだ。
3人ともかなりデカイ奴だ,オレ小柄だしね. あとはこの繰り返し,無駄な
パンチとオレのきれいなダッキング,だんだん面倒くさくなってきた. よーし,
おどかしてやれ,ヨシコを背中にかばいながら,拳をにぎり,あいつらの
真正面を向いて怒鳴ってやった. 「おいテメーら,マジかよ. オレはF高校
ボクシング部の小杉だ. ゴロまく気か!」軽いステップでシャドーの
ワンツーを2、3発. 当てやしないよ.寸留めさ. ようやくあいつら
気がついたらしい.「おいヤベーぞ,逃げろ」 ばらばらと逃げて行く. ヨシコが
オレにかじりついてきて,「ああよかった,小杉くん強いのね」 「あんなの
なんでもないさ. だけど,もう帰ろう,し返しにもどって来るとマズイよ」
ヨシコはガタガタふるえている. なにオレだって,
ほんとは,
足がふるえてたんだ. おっかなかったなあ. そりゃあ殴り合いなら当然
オレの方が強い. だけど,ナイフかなんか持ち出されたら.ヤバイしさ.
急いで公園を出て電車に乗った. 渋谷まで行っちゃった. 胸くそが悪いから
「ね,映画見ないか」「そうね」 〈嵐が丘〉を見た. 暗い中でオレ彼女の手を
はじめてにぎってしまった. 映画館を出てから,フルーツパーラーで
チョコレート・サンデーかなんか食べ,彼女と分かれた. 「じゃーね」
「バイバーイ」 ああ変な一日だったなあ.
*月*日
次の日は月曜日,昨日の事はすっかり忘れて,いつものように登校した.
校門
のところでヨシコに会った. 彼女,知らん顔している. オレ,ちょっと
ウインクして,そのまま通りすぎた. 教室に着くと,とんでもない事に
なっていた. お呼び出しなんだよ. 入り口の壁に張り紙がしてあって,
〈2年2組小杉茶利即刻職員室に出頭せよ〉な,なんだ. 何がバレのたかな.
試験でカンニングなんかしてないし, 掃除当番もサボってないし.
クラスメートがからかう. 「おい小杉,何やったんだ. 大変だぞー,多分,
謹慎1週間ってとこかな」「いや,退学かもしれねーぜ」 「うるせーや,オレが
こんな事でびくともするかよ」 でも,おっかなびっくりで職員室に行くと,あれ,学年主任に
クラス担任が怖い顔をして座っている. そのうえ,コーチまでいる.こりゃマズイや
引き返そうとしたが,たちまち見つかってしまった.「おい小杉,こっちへ
来い」 「ハイ」 教師たちの前にしおらしく立つ. なに,これも演技の
うちさ.「小杉,昨日何をした?」 「はあ?」 「とぼけるんじゃない!,昨日
井の頭公園で何をしたか聞いているんだよ」 あ,あの事か.「・・・・」
「他校の生徒を殴ったろう,通報があったんだよ」 「でも,オ,オレ
(とは言わなかった,僕と言ったんだ)ボ,ボク殴ったりなんかしません」
「ごまかすなよ」 「ボクはボクシング部員です.喧嘩絶対禁止の部の内規は心得ています」
教師は顔を和らげて「なあ小杉,キミが真面目な生徒だってことはよく
判っているんだ. まあ暴力はふるっていないのだろうが,なにしろ
通報があったのでな. 本当は何があったのか言いなさい」 仕方がないから,
一部始終を白状した. だけどヨシコがかじりついてきた事はいわなかったぜ.
「なるほど,そんな事だろうな. ときに,キミたち制服着ていたのか?」
「いえ,着てません,私服です」 「そうだろうな,校則では外出の際は
制服着用のこととあるが,誰も守ってはいないだろう」 「それで,校名と
自分の名前言ったのか?」 「ハイ,言いました」 「馬鹿だなあ,なんでそんな時
正直に言うんだよ. だから通報されちゃうんだ」 「スミマセン」 コーチが
言った. 「お前,パンチの寸留めか.よく止まったな」 「だって先生,オレが本気
出したら,あいつら無事ではいられませんよ」 「またそれをいう,とにかく
お前は一言多いんだから」 みんな笑った. これで無罪放免,やれやれだ.
教室に戻ると,内緒の筈が,もうみんなに知れ渡っている. 「おい小杉,
かっこいいぞ!」 「お前なんで得意のアッパーでぶったおさなかったんだよ」 「サクライ,
だきついて来たんだろ,いいなあ,オレもやりたかった」 一時間目は数学,出席をとる時,
教師がにやっと笑った。 チキショー! 昼休みになると,オレのこと,
全校に広まったらしい. 絵の上手い奴が,マンガを描いて掲示板に
貼り出した。 なんだあ,〈白面の少年騎士,激闘のすえ美女を救う〉だと.
オレそっくりの少年(ウマイもんだなあ,だけどオレこんなに顔白かったかな)がいかにも悪そうな
奴をアッパーでぶちのめしているところ. そうしてかわいいヨシコも
小さく描きこんである. ふざけやがって,犯人を探し出し,ぶん殴ってやろうと
思ったけれど,そうもいかねえな. 本当に退学になっちゃうよ. ああ,いやだいやだ.放課後,
練習場へ行くと,ここでも同じだ. みんなニヤニヤして,
特に1年生のTの奴, すごく嬉しそうに,「あ,小杉さん,聞きましたよ.
やっぱり凄いや オレ,いよいよ尊敬しちゃうな」 「うるせえ!
黙って練習しろ」 腹がたつから,いつもよりもきつくシゴイテやった.
「この野郎,ふざけやがって」・・・・・
「小杉さん,もう勘弁して,オレ悪かったですぅ〜」 それからの1週間,
オレは針のムシロの上に座っているようだった. ヨシコも別に呼び出され,
こっぴどく叱られたらしい.
*月*日
ようやく1週間が経った. オレの1件もほとぼりがさめた.
でも,連中みんな忘れてしまったわけじゃない. 授業で,
騎士道とか,美女だとか,山賊なんていう言葉が出ると誰でもがオレの方を
チラッと見やがる. あーあいやだいやだ. オレ,コリゴリ
だよ. ヨシコもしずみっぱなし,よほど担任にねちねち
やられたんだろうな. シクシク,うるうる泣きじゃくったらしい. あのクソ教師が,
オレの責任だ. デートはよほど気をつけてやらないといけねえな.
くさくさするし,彼女の機嫌もとらなきゃならない.
それで次の日曜日,つまり今日だけど,ヨシコを誘ってハイキングに
行くことにした. 健康的だろ. 安全だしね. また出会うとまずい,
例の不良の奴ら,どうせ骨惜しみをするから,山歩きなんかする筈はない.
池袋の駅で落ち合って,西武線で西吾野まで行った。 スポーツシャツに
細身のジーンズ,長い裾を捲り上げる. 登山用のベストにチロリアンハット,
それに青のキャラバンシューズ, おきまりの格好さ. 用心のために,部員
バッジをシャツの襟につけといた. カンジ悪くて,本当は
オレこういうの嫌いなんだけどね. バッジが役に立つことよくあるのさ.
ナップザックには,オフクロに作って貰った弁当が入っている. ヨシコ
の方は,柄物のシャツに,やはりベスト,茶色のコーデユロイのパンツ,
登山帽と赤のキャラバンシューズだ. よく似合っている,かわいいなあ.
それにさ,やっぱし女の子だ. 弁当その他,オレの分もあるらしい.
「あたしが作ったのよ」 「わあ・・・・」 電車は適当な込みようだった.
二人で並んでつり革につかまった. 開け放した窓から涼しい風が通り
心地よい. 楽しくなってきた. ヨシコも嬉しそうだ. 電車を降りて
歩き出した. 今日の計画は正丸峠まで登り,峠越しに正丸駅に降りる.
半日コースでちょうどいいだろ. オレたち山歩きは初心者だし,
それに明日はすぐ練習があるから,あまりハードなことはしたくない.
登りの山道,たいしたことはないけど,少し息がきれ,汗ばんできた.
ちらっとヨシコを見た. 色白の顔が赤味をおび,汗が一筋二筋.
あらためて思った. 綺麗な子だなあ. 1時間ほど黙って歩いた.
峠の中ほどまで来た.「ねえ 少し休もうか」 「そうね」 山道の傍らに
並んで腰をおろす.ヨシコがザックからキャンデーやチョコレートを
出した. オレはジュースのペットボトル, 飲んだり食べたり,二人とも黙ったまま. ほんとは
話したい事がいっぱい,でもお互いに言い出しそびれている. 「ねえ・・・」
「あの・・・」両方が同時に. 顔を見合わせて笑ってしまった.
「ねえ,サクライさん」 「なによ,小杉くん,急にあらたまっちゃって」
「このあいだの事だけどさ,怒られたのかい?」 「そうよ,先生ったら酷いのよ,
あたし泣いちゃった」 「そうなのか,悪かったなあ,オレの責任だよ,ごめんね」
「そうじゃないのよ,あの時小杉くんがあたしを守ってくれたでしょ,
あたし嬉しかったわ. 強いし,勇敢だし 」 「うーん,ほんとはね,
オレも怖かったんだよ. あいつらデカいし,3人もいるし,
オレちっちゃいだろ,それに,ナイフかなんか持ってるかもしれないしさ.
でも男の意地さ. キミのためだもの,必死だったんだよ」
「ほんとに素敵だったわよ」 「うふふふふ・・・」
「ね,これからもあたしを守って闘ってくれる?」 「もちろんさ,
死ぬ気で,倒れるまでやってやる!. だけど,あんな事,無い方がいいもんね」
「そうだわね」とうとう言ってしまった. 気が楽になった. 「さあ,
行こうか」 また峠道を登りはじめた. とりとめのないおしゃべりをしながら.
頂上に着いた. ここは昔,入間と秩父との境目だったところだ.
秩父盆地が見下ろせる. だいたい昼時になっている. 「弁当食べようぜ」
オレの弁当,オフクロが作ってくれたやつ,海苔を巻いたオニギリ,
卵焼き,鶏のから揚げ,古典的だよ. だけどサクライの手作り,きれい
なサンドイッチ,フルーツサラダ,ゆで卵のゼリー寄せ. こっちの
方がうまそうだなあ. 仕方がない,両方食べちゃえ. 食べ過ぎると
体重コントロールに響くけど・・・・・. 食べながらふっと思った.
新家庭での若夫婦の食事,いけない,考え過ぎだ. 1時間ほど頂上で
過ごした. 「さあ,下りよう」 すこし下ると平たいところに出た.
また,腰をおろした. 午後の西日が当たり,明るい昼下がり,他には
誰もいない. お茶を飲みながらまたおしゃべり. 静かだなあ. ならんで
座っているヨシコの肩にそっと手をまわした. おそるおそるだけどね.
彼女ちょっとからだを固くした. でも拒まなかった. 「ね いいだろう?」
「ええ」 オレは勇気を出してヨシコをぐっと引き寄せた. 彼女が
もたれかかってくる. 二人は頬ずりした. ヨシコがかすかにあえぐような
呼吸をした. 目をつぶっている. 西日が顔を照らし,顔の産毛が金色に
光っている. オレは唇を近づけ,ヨシコと唇を合わせた. 「むうん・・・」
「あ,ああ」 しっかり抱き合ってのキス,オレとうとう限界をこえちゃった.
シャツの合わせ目から片手を滑りこませる. ブラジャーに触れ,そうして
腋の下をまさぐる. 剃り残した腋毛,少し汗をかいていて,
生暖かさを感じる. 「ね,サクライさん, オレ好きだよキミのこと」
「あたしもよ,小杉くん」 オレ,彼女を押し倒したい衝動にかられた.
股間が熱く感じ,ペニスも固く膨張し,粘液が漏れた.
ヨシコの身体が欲しい・・・・. オレまだセックスの経験はない. 自慰は覚えがあるけどね.
でも本気でそう思ったんだ.
しかし,ぐっと踏みとどまった.そうなっても,ヨシコは抵抗しなかったと思う.
だけどね,後のことを考えたら・・・・・. 実は悪い前例があるんだ.
何年か前,まだオレが中学生だったころ,高校で事故があった.
先輩の人,まだ高1だったのに限界を超えてしまって,女の子を
妊娠させてしまった. 大騒ぎになっちゃったんだ.
すごくかわいい美少年で,部活も勉強も真面目にやっていたのに,
油断したんだろうな.15歳ぐらいだと,まだ未熟だから,
男子も女子も妊娠の危険は無いと思っている.だけど,そんな事は無い.
みんな十分に大人の身体なんだ. それに,少女の
生理は不規則で,排卵の間隔は一定していないのだそうだ.
だから,だから.・・・・・・・・・・・・
先輩は真面目な性格だったから,余計に責任を感じて,自分の生命で
始末をつけてしまったんだ. でも,後に残った両親,それに相手の女の子,
それを考えたら・・・・向こう見ずなことはできないよね. 人の声がしてきた.
誰か来るらしい. 慌ててオレたち,唾液でぐちゃぐちゃの唇を拭きあい,
身繕いをして起ち上がった.顔を見合わせ,ニヤッと笑った. 「おい,これ
内緒だぜ」 「当たり前でしょ,だけど,小杉くんがこんな事するなんて思わなかったわ」
オレ慌てて「ごめんよ,つい夢中になっちゃった」 「あははは,でも嬉しかった,
秘密にしましょうね」 オレ,ほっとした. いざとなると,女の子の方がしっかり
してるなあ. オレたち,峠道を黙って歩いた. 正丸から西武線に乗り,池袋でヨシコと別れた.
家に帰ると,もう夕食時だった. いつものようにして,早目にベッドに入った。
ちょっと寝苦しかっ
た. 夜中に目が醒めた. 何か夢を見たみたい.
ヨシコと二人,全裸になって抱き合う. 夢だもの,支離滅裂だ. おぼろげながら,うつらうつら夢を思い出す.
彼女との性行為,身体がほてっている. はっとした. 「いけね!」あわてて下腹部をまさぐる.
ちょっと湿っていて,べったりとした感覚. あ,漏らしちゃった.
だけど, まだ・・・右手が・・・いつのまにかオレ,ペニスをしごいている. ヨシコの姿が頭をよぎった.
うつぶせになって,下腹でペニスをベッドに押しつけ,夢中で腰を動かした.
あぁあぁあぁ・・ううう・・オレはあえぎ,とうとう自らを涜した. そのまま,また寝ついてしまう.
ふたたび目が醒めると,朝になっていた. 寝起きがいつになく悪い.
妙な気持ち.また,身体を調べる. ブリーフがパリパリになっていて.
下の毛にもなにかこびりついている. しまった,シャワーを浴びた。 ブリーフを引き出しから出してとりかえ,
汚れたのをベッドの下に隠した.
エッセー集
Adoration for Gloved Boys
その一 美少年の香り

古来我国日本は香りの国であった。 匂いの国と呼んでもよい。
源氏物語における匂宮、馨大将の挿話、あるいは 本居宣長作 敷
島の大和心をひととはば朝日に匂ふ山桜花 の表現 に見られるよ
うに、繊細かつ微妙な嗅覚の産物として
香りないし匂いは 我々の感覚のうちで重要な位置を占めている。
ただし、この感覚概念に関し多くの錯覚あるいは誤解が存在するこ
とは否めないし、 これが今後も継続するだろうことは、 まった
く、あたくしcharlieの遺憾とするところです。
まず、今日の日本では、異常なまでの匂い潔癖症とでもいうものが
あって、無臭であることがひとつの美徳であるように思われていま
す。 しかし、そんなことがありうるだろうか。 それからもうひ
とつ、汗は男の香水だというような スポ根マンガによって情報操
作されてしまった錯誤も世にはびこっているのが現状ではないで
しょうか。 たしかに、昔はこうじゃなかった。 そりゃ スポーツ
に打ちこめば汗をかくから、衣服はベタベタに汚れるし臭くもなる。
だけど、だからといって、臭い方がいいんだとは私には どうしても
思えない。 僕は剣道家に知り合いが多いのですが、剣道具のあの
特徴的な異臭が芳香だと感じるようじゃなくては一流にはなれん
とのたまう剣士はいくらでもいます。剣道具は洗えないのですね。
だから天日に干して乾かすだけなんですね。 (実は僕の義弟は空
手の師範ですが、彼も親族中で評判の臭い男だ) さて、ボクシン
グですが、ここでも同じ事情があります。 しかし、ボクサー全員
がそうなのじゃない。 大学ボクシングで名を馳せ、プロ転向後全
日本の王座に君臨し、世界戦への挑戦の実績もある某氏、引退後は
大きなジムを経営して後進の育成にあたっている某氏は、リングに
登場の前、トランクスにアイロンをかけ、みずからの身体にはオー
デコロンを振って登場したと聞いています。 Charlieは大阪落城の
際の木村重成の故事を思い出しました。 奥ゆかしいですねえ。 か
の某氏、ロータリアンですから、特別な人なのかもしれないけれど。
もうひとつ、木村長門守重成 討ち死にの際は美青年の誉れが高か
ったのだから、少年時代は間違いなく美少年だったのにちがいない。
さてようやく本題の美少年に戻ってきたのですが、 次は江戸時代の
お話。 赤穂義士の義挙に先立つこと数年、江戸浄瑠璃
坂の仇討という事件があります。 北関東の譜代大名、たしか宇都
宮藩主奥平家で内紛が起きています。 重臣同士の紛争です。 こ
れについては、史実の真偽は別として、昭和初期の文士、直木三十
五の著作で詳細を知ることができます。 もう今は読む人はほとん
どありませんが、その名は芥川賞と並ぶ直木賞の名称として今も残
っています。 大変な変人だったようで 三十五という名前は 1年
前には三十四、2年前には三十三だったのだそうで、毎年改名し、三十五
(つまり実年齢35)となって変えるのをやめちゃった。
多分これがいけなかったのだと僕は思うけれど、じきに病死してし
まう。 大変文章のうまい人で、大文豪谷崎潤一郎がそ
の著書文章読本の中で激賞しています。 彼の小説の発端部で、次
のような文章があります。 今、手元に原本がないので、ざっと粗筋をもうし
ますとね、前藩主の法事で、重臣たちが菩提寺に集まってくる。
そのうちの一人、奥平内蔵は病身で不参、代わりに嫡男の美少年奥
平源八郎を差し向ける.・・・・・みなさまおそなりもうしました
嫡男の源八郎 十四だ。 前髪に振袖、美少年特有の魅香が、あたりに
ただよう。 おお源八か よく来たな さあこちらへ入れ・・・・
ここで源八郎は侮辱され、憤激した父親の内蔵は自殺してしまう。
仇討劇の発端です。 ここで出てくる魅香とは何を意味するのだろうか。
僕は抽象的な表現ではなく、実際の香りを
言っているのだと思う。 それでは、その香りとは? いくつかの
因子が考えられる。 先ず、髪油、時代は元禄だから、武家の少年
の前髪はかなり大型で油も相当量使われたのにちがいない。 しか
し、髪油は美少年でなくても、少年武士全員が使用していただろう
し、女性も使っていた。 つまり、美少年特有とはいえないのじゃな
いか。 次は体臭そのもの、あるいは汗の匂い、このほうが考えやす
いとcharlieは考える。 口臭は考えなくてもいいでしょうね。 あ
とは、所持していた匂い袋。 これが少年武士の嗜みだったという
記録はありません。 なお、江戸城内のお数寄屋坊主は持っていた
ようです。だから、あたくし独特の独断と偏見、あるいは我田引水、
口からでまかせの、charlie一流のロジックから、やはりこれは肉体
の香りと考えたいのです。 体臭とか身体の匂いというと、たいて
いは、それあの腋臭と短絡してしまう。 我々日本人は腋臭につい
てのかなりの誤解があると思う。 西洋人は臭い、しかし我々日本
人はそんなことはない。 みんなそう思っている。 しかし、人
類学的な統計によると、成人男子の腋臭発生率は、西洋人(この分
類はあまりにも大雑把すぎるけれど)70% 日本人10%中国
人4〜5% ツングース人0% となっていて、そんなに低い数字じ
ゃない。 もうひとつ、西洋の人々は我々のことを、生臭い、イカ
やタコみたいの匂いがするとよくいいます。 私もいわれました。
だんだん何を言っているのか自分でも分からなくなってきのだけれ
ど、 本題にもどりますと、美しい少年の持つ、初々しくかつ爽や
かな体臭は昔から賛美の対象だったんじゃないか。 美少年愛は、ど
この民族にも、どの時代にもあったと思います。 匂いは形に具体
化できないから、残らない。 博物館に保存されないのですね。
しかし、メタフィジカルには、具象美術として、明らかに保持されて
きました。 名画の画面から、大理石像やブロンズ像から、そこに
表現された美少年のしなやかな姿態から立ち上る芳しい香りを我々
は容易に感得できるのです。 皆さんそう思いませんか? 少年ボ
クサーの実例は、まず、エーゲ海文明、サントリニ島のティラの遺
跡から発掘された“ボクシングをする少年たち”があげられます。
現在は首都アテネの国立考古学博物館に収蔵されています。 多分
12〜3歳の少年が、上半身裸体、髪をポニーテール風に結って、
片手だけにグローブをはめ、互いにパンチを相手の顔面にあてている画
面でした。 まさしく本題に該当します。 ただし、ここでは、
英語訳で、Boxing children とされ、boys となっていない
のは何故か charlie は存じません。 しかし、この画面からは汗の匂い、
体臭は伝わってこないのです。 これの原因は、壁画が大きく破損
し、その修復にあたって、考証が十分にされなかった為と思われま
す。 こんなことをいうと、考古学者は怒るでしょうが、少なくと
も、少年ボクシングに関する知識は殆ど皆無だったと私は思ってい
ます。 次の実例は米国ロスアンゼルスのゲティー美術館にありま
す。 これはボクシングではなく、少年レスリングですが、美しい
肢体の少年2人がいざ組みあおうと身構えているところ、charlieは
彼らの肉体から発散する香気をまざまざと体感しましたね。 実は、
少年ボクシングの表現例は決して多くはない。 ギリシャ彫刻でも、
憎たらしい髭もじゃの成人ボクサーの例ばかりで、これは多分、古
代オリンピックはたちまち堕落し、職業的なボクサーばかりになったか
ら。 近代オリンピックも同じ道をたどっているのじゃ
ないかな。 古代オリンピックの無批判な賛美は、一部のスポーツ
ジャーナリスト、そうして政財界に寄生する体育関係者の常套手段
です。 あはは、とうとう僕チャーリー本性を現わしちゃった。
中世ヨーロッパにも美少年愛好はよくあります。 カソリック教会
は一応は女子禁制です。 しかし、彼らの欲求不満の解消はやはり
行われなくちゃならない。 マリア様や聖女様も当然対象になった
のでしょうが、 主流は美少年です。 もっとも有名なのは 聖セ
バスチャン この聖人はローマ軍団の兵士だったのが、弓矢で射殺
されて殉教する。 美青年だったことになっていて、だから、美し
い半裸の身体に矢が無残に何本も突き刺さった形で造形されている。
もう少し詳しくいいますと、腰のまわりに小さい布が
巻きつけられているだけ、若者の肉体を惜しみなく見せつけている
わけだ。 極端な場合には、本当に美少年で、体型それから容貌か
ら15,6歳の年齢と想像される子が、 腰の布はさらに小さく、そ
れが下にずり落ち加減で、 陰毛がいくらか見えている作例もある。
実例はたしか、ルーブル美術館にあった。 女性の裸体つまりヌ
ードだけれど、実に美しい。 しかし、それにも増して、美少年の
肢体の美しさ、筆舌に尽くし難い。 これは単に均整がとれている
とか、色が白いとか、 足が長いとか、そういう限定された形の美
しさとは違うと思う。 それ以上の、身体の内面から吐露するメタ
フィジカルな美の極致の体現ではないだろうか。 美はアポロ的な、
そうしてディオニュソス的(つまりバッカス)な2面をもっている。
ニーチェの考え方だ。 実は、ギリシャ・ローマ彫刻では、この2
神とも全裸の美少年として表現されることが多い。 なお、下腹部
の陰毛は表現されていないのが普通だ。 ただ美しく,かわいいだけ
でなく、特にアポロは武器を持った凛々しく雄々しい若武者の姿な
のである。 僕はここに現代の美少年ボクサーの姿を重ね合わせたいのだ。
Adoration for Beautiful Gloved Boys その2
文学に現われた少年ボクサー
ボクシングは歴史上最古のスポーツのひとつだろうし、また、英
国は近代ボクシング発祥の地であるのだから、 英国文学にはボ
クシングを題材とした作品が多数現れている。 しかし、その多
くは児童文学ないし少年文学の範疇であって、 特に「文学」と
銘打って、我国に紹介されたものは、比較的に少ない。 もっと
も有名なものは、今日では全編に流れる英国一流の悪しき教養主
義、貴族趣味がむしろ批判の対象となり、また、純文学の香気に
やや欠けるところがあるけれども、1857年出版の「トム・ブ
ラウンの学校生活 ”Tom Brown's School-days”」 だろうと
思う。 その内容は、パブリック・スクールに入学した少年の成
長を取り扱い、モデルとなったのは、ラグビー校であった。 と
にかく、スポーツ万能のお国柄だから、当然、ラグビーやクリ
ケットの情景描写が目に付くが、ボクシングの記述もある。
グローブの採用が1747年、クインズベリー・ルール すなわ
ち、10秒KOルールやリングのサイズ、それに試合時間3分、
休憩1分など、現行のルールが制定されるのが1886年である
から、まさに近代ボクシング揺籃期の作品である。 クインスベ
リー・ルールはクインズベリー侯爵の名が冠してあり、この当時
ボクシングは、上流階級のスポーツと考えられ、後世のハングリ
ースポーツのイメージは無かったのだろう。 トム少年、多分、
14歳くらい? がいじめっこの上級生にボクシング形式の
決闘を挑み、激闘苦戦のすえ勝ってしまう場面がある。 東京帝
国大学の英文科講師だった小泉八雲も本書を紹介しているが、彼
はかなり批判的な紹介をしている。 たしか映画にもなっていて、
見た覚えがあるのだけれど、 詳細は忘れてしまった。
もうひとつ、これは少年ものでないので恐縮だけれども、次は
シャーロック・ホームズ、この名探偵は、たしかミドル級のア
マ・ボクサーという設定の筈で、題名は失念したが、ホームズ
がボクシングの技で無頼漢を打ち倒す場面のあるTVがありました
ね。 今日のフットワークやパンチの繰り出し方とは、まるで
違っていたことだけ記憶しています。 どなたか、ご存知ない
ですか? 最後に、これはむしろゲテモノですが、 夏目漱石に
女子ボクシングと思われる記述がある。 明治38年に漱石が明
治大学で行った講演の筆記の中に述べられているもので、
この題材は Amusements of Old London 1901 からとられている。
漱石というと、なにか常に気難しくて、ムンズリしているように
我々は思ってしまうが、実際はなかなか下々のことにも通じてい
たようで、たとえば作品の中で、はじめて麻雀を紹介したのも漱
石だろうと思う。(満韓ところどころ) ただし、自分でやった
ことはなかったらしく、ルールも知らなかったようである。 多
分、上記の女子ボクシングも観戦した経験はなかったんでしょうね。
チャーリー小旅行
【スコットランドとイングランド北部で】
私チャーリー・コスギは,もともとは理工系の出で,化学薬品だとか,
放射能だとかをいじって来たのだが,ある時よんどころない事情から,
美術系の学校の教師になる羽目となり,これが運命の分かれ目で,
とうとうチャーリーおじさんになってしまったのである.こうした
職業上,いつのまにか美術工芸にも関心をもつようになり,絵を描く
ことなど全然できないのに,いっぱし芸術について語ったりもする.
我が国では,西洋の油絵というと,それはすべて印象派になり,
立場が変わると逆に極めて前衛的な創作がもてはやされる. 考えて
みると随分窮屈なものである. まだまだいくらでも芸術のジャンルは
存在するのに,どうしてかくも偏った嗜好にのみ集中するのだろうか.
ここで我が国における西洋画の始まりについて考えてみたい.
この起源はほぼ幕末にあるので,当時の若い画家の中に新しく流入して
来た洋風の絵画技法に興味を持ち,勉学を開始した者がいたのである.
よく知られているのは,平賀源内で,この異才は洋風の油絵にも手を
出していた. 彼の業績が後年の洋風画家たちに影響を及ぼしたとは
考えにくいが, ひとつの道標としての記録ではある.
幕末にあっては,幕府創設の蕃所調所,開成校,さらには維新後の
工部美術学校,東京美術学校(のちに東京芸術大学美術学部)へと
我が国の美術教育研究は発展して行くが,その前駆として,幕藩体制下,
諸藩の開明藩主のもと,佐賀鍋島藩,秋田佐竹藩等の藩士の中から若い
洋風画家が出現している. その中の逸材として,鍋島藩の百武兼行
(1842〜1884)をあげなければならない. 主君鍋島直大は,
明治政府に仕え,外交官としてヨーロッパ諸国に滞在するが,百武は
その随員として渡欧,公務の傍ら西洋絵画技法を学ぶ. 前述の平賀源内
や国沢新九郎などの先駆者にあっては,制作は手本の模写の色彩が
強いけれど,百武は実際の写生に励み,ここに近代的洋画技法の基礎が
完成されて行くのである. 彼の経歴からみて,作品はヨーロッパ諸国
での風景画が多い.
代表作として,「羅馬の古城」がある. やや暗い色彩で,崖上の
石造りの廃城が描かれている. この作品の題名については,以前から
疑問があった. 第一,どう見ても羅馬すなわちローマの地形ではない.
また城の形式もローマ所在のものとは思えない. 私の若い友人のO君は,
こうした近代洋画史に強い興味を持つていた. 彼は私の旅行計画を聞き,
当該古城は百武が英国滞在中,イングランド中部のバーナード城を写生
したものに相違なく,その証拠が欲しいと言い出した. チャーリーも
物好きだから,じゃあそうしようという事になり, 今回の目的地
スコットランドのエジンバラから,一日をさいて,出かけてみたのである.
エジンバラで科学史と科学哲学の国際学会があり,ここで講演をするのだが,
実におおげさな学会で,会期が1週間以上,行事も多い. 例のレセプション
とかエクスカーションとか,なかなか愉快なものだが,現地に行くまで
細かいスケジュールが判らず,いったい,いつ私は講演するんだろう.
登録してはじめて判明したのは,私の出番は最終日,1週間も後のことだ.
興味の無い題目も沢山あるから退屈な日々にもなるし,ホテル代も大変だった.
しかし,行事の多いのはいい事である.有名なミリタリータトゥー
つまり軍隊の分列行進 の切符をくれたり,宴会で,これも有名な,
伝統料理ハギスの儀式を見せてくれたり,いろいろある. 政府主催の
レセプションがあり,スコットランド大臣(つまり女王名代の総督)閣下が
ホストで,女王陛下の命によりと書かれた立派な招待状を持って,
何の気なしに行ったら,セクレタリーがしかつめらしく,日本からの
チャーリーコスギ教授であると紹介し,閣下はまことに旧知の如く,
(なに全然知らないんですよ)親しげに握手を賜わった. どういうわけ
だか,先代の春風亭柳橋そっくりで,スコットランド伝統のキルトを着し,
私びっくりしました.次に大臣夫人を紹介され,また握手を賜わったが,
驚きましたね. 手を差し伸べられたのはいいのだけれど,その高貴な
手がスット上に,私の口近くにまで来てしまった. 手にキスするんだな
とは思ったが,流石のチャーリーもこればかりは出来ず,不得要領に
終わったお粗末でした 後で物慣れた人に聞いたら.それはやはり
敢然と実行すべきであると言われました.
こうした,快適な,有意義な(?)経験に比べ,バーナード城は
全然つまらないが,約束だから,ある朝,早起きをして日帰りの旅に出た.
わりに面倒な場所で,まず,英国国鉄でエジンバラから南へ
200キロほど,つまりロンドンの方向へ戻って行く. いつもの通り
車内はすいている. 快適な2時間の旅である. この路線は一番の
幹線なのだけれど,日本のように混雑することはない. ツイード河を
越えると,スコットランドからイングランドに入ったことになるが,
別にゲートがあるわけではなく,国境のフェンスもないが,建て前は
別の国家である. ほとんど気が付くことはないが,第一に,これまで
至る所で見かけた青地に斜め十字のスコットランド国旗,
聖アンドリュース旗が見えなくなる. また,スコットランド紙幣も
見当たらず,使い勝手も悪くなる. 法的には平等に使用できるのだが,
イングランドではなんとなくいやがられる.
2時間ほどの乗車でダーリントン着,ここは1825年9月,
スティブンソンがはじめて蒸気機関車ロコモーション号をストックトン
まで走らせた所である. この5年後にはリバプール〜マンチェスター間で
営業運行が開始されており,イギリス近代産業の幕開けであった.
駅舎は典型的なレンガ造りのイギリススタイル,ここを出て,
西に数百メートル歩くと大きなバスターミナルがあり,ここから
路線バスで1時間,やっと目的地に到着した.なんということもない
田舎町である.町名は Barnard Castle で城の名称そのまま,
ここはイギリスだから,キャッスルではなくカースルとなる.
英語も難しいもので,アメリカ式の発音だと通じないことがある.
ここは,バーナードというお城だから,キャッスルでも判ってくれる
けれど,ダーリントンに着く手前,Newcastle upon Tyne という大きな
港町があるが,これを ニューカースル でなく ニューキャッスル
なんて言うとまあ判ってもらえない. これ言いそうですよねえ.
バスを降りて標識に従って少々歩くと,あった. 百武の写生画と
同じ風景が目の前にあった. 川が流れ,その対岸,崖の上に古城が
建っている. やはりこれなんだ.百武兼行が滞英したのは,
1870年代だろうから,鉄道網はすでに全国に広がっている.
ロンドンの地下鉄も,1863年にメトロポリタン線が営業開始,
1884年にはサークル線が全通しているのだから,百武は当然
こうした交通手段を駆使して,各地を不便なく旅行し,制作を
続けたにちがいない. 城の下に空き地があり,ちょうど百武の
作品と同じ構図で写真を撮ることができる. ここに画架を立てて
城を見上げ,写生を行ったと推定される 夕方にはエジンバラに
戻った. 些細な調査旅行だけれど,ひとつの知見を得たことになる.
帰国してからO君に写真を渡した. 彼がどのように論文を
まとめたかは聞いていない..