(3)ギャップとその対策

 有効需要の大きさに基づいて決定される国民所得は、必ずしも完全雇用国民所得と一致するとは限らない。それは時に完全雇用国民所得より小さいかもしれないし、大きいかもしれない。前者はデフレーション、後者はインフレーションと規定される。デフレーションもインフレーションも国民経済に望ましくない現象であり、しかも景気循環はこのような現象が交互に生ずることを示している。そこで、この景気循環の幅をできるだけ狭め、これを望ましい状態に近づけるにはどうすればよいのかを考えていく。

§1.デフレ・ギャップ(deflationary gap)

 完全雇用国民所得(そのときの賃金で働きたい人を全部吸収して実現する国民所得)における総生産物の供給(Y)から総需要(D)を引いた値が正の値(Y>D)、または貯蓄(S)から投資( I )を引いた値が正の値(S> I )であれば、この差額はデフレ・ギャップと呼ばれる。
 この用語は、有効需要の不足に基づいて完全雇用が達成されず、失業が存在し、不況(デフレーション)を引き起こしているのはこの差額(ギャップ)に基づくものだということを意味している。(図3−3−1)はこの関係を示したものである。つまり、有効需要に基づいて均衡国民所得(Ye)が決定されるが、完全雇用国民所得(Yf)はそれよりも右にある。このYfにおける総生産物の供給は縦座標で45度線までの距離[Yf−a]である。これに対し、総需要は[Yf−b]であるので、[a−b]という差額が上で規定したデフレ・ギャップである。また、このギャップは貯蓄と投資の差額[a´−b´]として規定することもできる。これを示したのが(図3−3−2)である。

図3−3−1   図3−3−2

§2.インフレ・ギャップ(inflationary gap)

 デフレ・ギャップに対置されるものがインフレ・ギャップである。つまり、完全雇用国民所得における総供給(Y)から総需要(D)を引いた値が負の値(Y<D)、または貯蓄(S)から投資( I )を引いた値が負の値(S< I )であれば、この差額はインフレ・ギャップと呼ばれる。これを図示したものが(図3−3−3)と(図3−3−4)である。ここでYfは人的・物的資源を完全雇用した国民所得である。これに対しYeは均衡国民所得である。(図3−3−3)において、Yfにおける総供給は[Yf−d]、総需要は[Yf−c]であるから、[c−d]の超過需要が存在する。
 また、(図3−3−4)においてもYfに関連して、S< I という超過投資が見られる。実質国民所得はYf以上になることができないが、[c−d]だけの超過需要によって物価が上昇し、Yeが成り立っているのである。よって[c−d]あるいは[c´−d´]はインフレをもたらすギャップであるという意味でインフレ・ギャップと呼ばれる。

図3−3−3   図3−3−4

§3.ギャップ対策

 ケインズ経済学でいう経済政策は、総需要を上下にシフトさせることが目的であるといわれている。そのため、ケインズ的経済政策は別名総需要管理政策とも呼ばれている。総需要管理政策の代表的なものは、政府支出を増減させたり、税体系を変更する財政政策、あるいは利子率を変化させるいわゆる金融政策がある。
 この主要な目的は、経済活動が収縮して不況に陥り、国民所得水準が低下してデフレ・ギャップが生じたとき、または経済活動が過度に拡大的になりインフレ傾向に陥ってインフレ・ギャップが生じたときに、これらのギャップを解消して国民所得水準を完全水準に保ち、調和のとれた経済成長を図ることである。
 これまでは企業部門と家計部門によって成り立つニ部門経済モデルを仮定してきたが、ここでは政府部門を考慮に入れた三部門経済モデルを想定する。

T 財政政策

 (@)デフレ・ギャップの場合
 デフレーションを克服するための政府の財政政策は、総需要を引き上げてギャップを解消することである。具体的な政策は以下の2つで、いずれかまたは同時に実施される。
  (a) 政府支出(G)を増加させる。
  (b) 租税(T)を減らす。

 政府の存在を考慮に入れると、消費関数は国民所得から租税を差し引いた可処分所得の関数であるから(可処分所得:YD=Y−T)、

   C=C0+c1(Y−T)

 社会の総需要は、個人消費、民間投資および財政支出の合計であるから、

   D=C+ I +G={C0+c1(Y−T)}+ I +G

 生産物市場の均衡を仮定すると、供給と需要が一致しているので、

   Y=D

よって、 I ・GはYと独立している(= I とGは外生的に決まる)から、国民所得の決定方式は、

   Y=C0+c1(Y−T)+ I +G

  ∴Y=1/(1−c1)( I +G+C0−c1T)

 いま財政政策(a)を実施した(=政府支出(G)を増加)とすると、

   ΔY=1/(1−c1ΔG
      政府支出乗数(=投資乗数)

 また財政政策(b)を実施した(=減税)とすると、

   ΔY=-c1/(1−c1×(-ΔT)
       租税乗数    減税

  ∴ΔY=c1/(1−c1)ΔT

の各々の効果が得られる。

 

 ところで、政府支出の増加と減税で得られる乗数効果を比較してみる。仮に限界消費性向を0.8とすると、政府支出乗数は 1/(1−0.8)=5 であり、租税乗数は 0.8/(1−0.8)=4である。理論的には政府支出乗数の方が1だけ効果が大ということになる。2つの乗数効果を図で比較すると(図3−3−5)のようになる。
 図において政府支出がΔGだけ増加したとするならば、総需要関数はDからDaまで高まる。一方同額の減税が行われた場合、可処分所得はΔGだけ増加するが、その全てが消費されるとは限らず一部貯蓄されるので、ΔGに消費性向を乗じたDbまでしか高まらない。

図3−3−5

 (A)インフレ・ギャップの場合
 インフレーションを克服するための政府の財政政策は、デフレ・ギャップ対策の逆、つまり(a)政府支出(G)の減少、(b)増税を行い、ギャップを解消することである。

U 金融政策

 金融政策とは、中央銀行が貨幣市場の均衡を変化させることを意図して実施するものである。つまり、デフレ・ギャップが存在するときには、貨幣供給量(=マネーサプライ)を増加させ、利子率を引き下げ、またインフレ・ギャップが存在するときには、貨幣供給量を減少させ、利子率を引き上げるのである。中央銀行が貨幣供給量をコントロールする手段には公定歩合操作・公開市場操作・預金準備率操作の3つがある。

<公定歩合操作>
 公定歩合とは、市中銀行が保有する商業手形を中央銀行が割り引いて買い入れる際の割引率であり、これを操作することによって貨幣供給量を調整する。公定歩合によって中央銀行が市中銀行に貸し出しを行う際の貸出金利を見ることができる。

    ◆デフレ・ギャップの場合
       公定歩合引き下げ→市中銀行の借入れが容易になる→市中金利引き下げ→金融緩和→貨幣供給量(M)増加→利子率(r)低下→投資( I )増加→需要(D)増加
    ◆インフレ・ギャップの場合
       公定歩合引き上げ→市中銀行の借入れが困難になる→市中金利引き上げ→金融引き締め→貨幣供給量減少→利子率上昇→投資減少→需要減少

<公開市場操作>
 公開市場操作とは、中央銀行が債券や手形を購入したり売却したりして、通貨量を調整することをいう。

    ◆デフレ・ギャップに対しては、買いオペ(=債券・手形を購入)を行って市中銀行の準備金を増加させれば預金高は拡大するため、貨幣供給量を増大させることになる。
    ◆インフレ・ギャップに対しては、売りオペ(=債券・手形を売却)により中央銀行が手持ちの債券や手形と引き換えに市中にある通貨を吸収することによって、市中銀行の準備金を減少させる。そのことによって預金高は減少するから、貨幣供給量を減少させることになる。

<預金準備率操作>
 市中銀行は預金残高の全額を貸し付けることが禁じられており、預金の一定割合を準備金として保有しなくてはならない。この一定の割合のことを預金準備率と呼ぶ。

    ◆デフレ・ギャップに対しては、預金準備率を引き下げれば市中銀行が保有しなければならない準備金がそれまでよりも少額になり、市中銀行の貸し出しが増加し、貨幣供給量も増加する。
    ◆インフレ・ギャップに対しては、預金準備率を引き上げることによって貨幣供給量を減少させる。

 

    デフレ・ギャップ インフレ・ギャップ
財政政策 租税政策

公共投資政策

減税

公共投資増額

増税

公共投資減額

金融政策 公定歩合操作

公開市場操作

預金準備率操作

引き下げ

買いオペ

引き下げ

引き上げ

売りオペ

引き上げ

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