ホーボーズララバイ     

                                  舎長@風来坊


「疲れて眠れば街の灯が揺れる・・・」
ウッディガズリーが唄っている。

目覚めると「急行八甲田」は盛岡に停車していた。
外は霧雨、時計に目をやると午前6時。
もう8時間以上僕はこの堅いシートに座っている。
ホームの洗面所で顔を洗い背伸びをすると発車のベルが鳴った。

昨日静岡を「急行東海」で出発し稚内を目指している。
ありったけの物を質屋にぶち込み手にした周遊券・・・、
あの娘から聞いたあの島へ渡るため。

青森駅の連絡船待合室、聞き慣れない言葉を耳にうどんをすする。
普通船室の桟敷席で見知らぬおっさん達と酒を飲む。

「島に私の両親がいるの、行くことがあったら寄ってみて」
「しばらく漁師でもしてみれば?」

函館発「急行ニセコ」、倶知安回りの列車はのんびり走る。
午後の日差しを浴び、駒ヶ岳の残雪が光る。

「中学を卒業して島を出てずっと紡績工場で働いてきたの」
「こんど島へ帰るのは親のお葬式かなぁ」

夜の札幌駅、ホームのベンチで煙草をふかす・・・。
ぼんやり人の流れを見ながら数時間。

「都会に出たのは知ってる人がいないから」
「だって島はみんな知り合いだから」

真夜中の名寄駅、腕木式信号機がぼんやり灯る。
「急行利尻」荷物車から放り出される新聞紙。

「中学ん時、フェリーターミナル近くの食堂でアルバイトをしたの」
「ラーメンの上に色々載っていて驚いちゃった」

目覚めると雪のサロベツ原野。
遠くでウッディガズリーが唄っている。

「父さんは時々漁に出ているの、ほっけや鰈とか」
「母さんは最近体が弱くって」

島が見える。花の浮島と呼ばれるその島は、
鉛色の重い空の下に細長く横たわっていた。

「着いたらこれを渡してね」
「途中お腹が空いたら食べちゃっていいけど」

礼文郡礼文町香深村字知床。
にわか漁師一名、船の上で吐きながら・・・、
ウッディガズリーが唄いだした。

「兄さんは旭川で大工さんをしているのよ」
「父さん働けなくなったら・・・
          島を離れるのかな?」

稚内発「急行天北」くすんだブルーの客車。
ホーボーズララバイ、旅を続けよう。
周遊券を握りしめウッディガズリーを相棒に。

霧の中から馬主来沼が見えてきた。
「急行まりも」釧路行、
僕はこの近くに落ち着くことになった。

「旅かぁ・・・ 私、島を出てからず〜っとよ」
「でももうすぐ終わるの、結婚するのよ」

握りしめていた周遊券はいつか無くなり、
相棒だったウッディガズリーも遠く去り、
僕は、もうすぐ歩き始めようとしている長男を抱いている。

旅は終わってしまったのだろうか?
「そんなことないさ・・・」
だれかが遠くで唄っている、懐かしいホーボーズララバイ。
僕たち家族は新しい旅に出る準備を始めている。


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