下記は毎日新聞に掲載された「南アフリカの作家、コリン・スマッツさん」の本の訳文です。大変興味がある記事ですのでここに紹介したいと思います。

世界の目 Global Views 毎日新聞 2002.6.9
”裏返し”のアパルトヘイト
作家 コリン・スマッツさん
(訳・白戸圭一さん)

 今年の春は、アパルトヘイト(人種隔離)政策が終了し、全人種選挙が実施された94年以来初めて、気のめいる日々を送った。二つの出来事が、南アのモラルと社会はどこえ行くのか、懸念の理由となったのだ。
 一つ目は、94年に同級生をはさみで刺して懲役5年の判決を受けた黒人青年が、わずか3年の服役で出所したことだ。故郷では英雄扱いで、彼の名を冠した教育基金までが設立された。これが「アンドリュー・バベイル(青年の名前)事件」である。
 もう一つは「ツェポ・マトロハ(被害者の名前)事件」である。南ア北部リンポポの農場に盗みに入り捕まった10代の黒人若者が、警察に引き渡されずに、白人農場主の息子とその友人らの暴行を受けて死亡し、湖に捨てられた。息子らは殺人罪で懲役18年となった。
 バベイル事件の背景には、最近、人種統合された高校に生じた人種間の緊張があった。白人の父母らが黒人生徒を締め出すためにムチを振るい、黒人の父母らがこれに抗議。この数週間後、バベイルは白人の同級生の首を刺した。
 法廷で、バベイルは白人生徒12人に暴行を受けたための自衛措置と主張した。判決後、支援者らは「裁判所は偏見に満ち、アパルトヘイト時代と変わっていない」との批判を展開し、アフリカ民族会議政権指導者たちは刑務所を激励訪問。結局、3年後に仮釈放の実現となった。
 一方、マトロハ殺人事件では「白人判事が保釈するつもりだ」との激しい批判で、担当判事は黒人に代わった。しかし、判決が懲役18年に決まった時、すぐさま「裁判所は変わっていない」との批判が起こった。「白人にあこがれの白人の心を持つ黒人判事(の判決)」というのだ。
 大衆動員の抗議やおべっか使いのマスコミにより、司法の独立は二の次となっている。そして、政府は「白人なら有罪。黒人なら無罪」とでもいう”信条”を作り出している。
 新しい政権のエリートたちは、貧困、疫病、貧弱な教育などの問題を解決できない無能ぶりを、国民の目からそらすために、アパルトヘイト国家から引き継いだ同じ差別の手法を使っている。