南アフリカの古いニュース

21世紀をどう踏み出すか
第38回 貧困 (下)

「感染症」拡大の元凶

 援助関係者がよく口にする言葉に、「ウインドーズ・オブ・オポチュニティー(機会の窓)」という言葉がある。数少ないチャンスを生かすための窓というぐらいの意味で、貧困や災害から人々を救うには、この窓をいかに開き、チャンスをつかむ戦いだという。それに失敗し続けてきたものがある。貧困ゆえにかかる感染症との戦いだ。
 世界保健機関(WHO)によると98年に世界で病死、事故死、自然死を含め約5390万人が死亡した。うち「感染症」による死亡は25%だ。だが、貧困地域が多いアフリカ、南西・東南アジアに限ると、これが45%に跳ね上がる。
 その病因を見ると、9割までが6つの病気に絞られる。98年は、1位が肺炎・インフルエンザなどの呼吸器系感染症(死者数350万人)、2位がエイズ(230万人)、3位が下痢性感染症(220万人)、4位が結核(150万人)、5位がマラリア(110万人)、6位がはしか(90万人)だった。
 エイズを除けばどれも安値な薬で病気の進行を遅らせたり、防いだりできる。エイズにしても、有効な治療薬は未開発だが、教育やコンドームの普及などで予防はできる。WHOのデビッド・ヘイマン感染局長は「病気の発生する国の資源、認識不足による対策の遅れが、まん延を防ぐのを困難にしている。その多くが途上国だ」と語る。
 この20年間、急速に広がり、人類の脅威とのったエイズが、まさにそうだ。WHOと国連エイズ計画(UNAIDS)の最新エイズ報告書によると、現在、エイズウイルスに感染している人は3610万人で、今年の新感染者は推計530万人。これまでにエイズで死んだ人は実に1180万人にのぼる。
 中でも、サハラ砂漠以南のアフリカの状況が深刻だ。この地域だけで今年380万人が新たに感染し、地球全体の70%にあたる2530万人の感染者が生活している。うち55%が成人女性で、10人に1人の子供がエイズで母親をなくし、2010年までに4000万人の孤児ができるという。
 エイズの広がりは、アフリカ各国の経済にも影響を与えている。全体の影響を示す統計はないが、同報告書は南アフリカについて、エイズが今のままなら「国内総生産(GNP)は2010年に17%減る」と警告している。
 さらにエイズに加え、90年代半ばからエボラ出血熱が新たな脅威として注目を集めている。感染すればほとんど死ぬと言われ、今年10月にもウガンダで発生が確認された。WHOのヘイマン局長は「この先、新たな感染症がまた出現するだろうし、グローバル化で、もはや一国の問題では終わらなくなっている」とし、情報収集のためのネットワーク作りや予防システムの整備が必要とする。
 最貧国では、もともと医療予算が限られ、国連では年間の1人当たりの医療予算は10ドルに満たないとみている。世界では年間560億ドル以上が「健康の研究」に費やされているが、「全人類の90%に影響する健康問題」にはその1割も充てられていないともいう。
 日本は沖縄サミットで、感染症対策に、今後5年間、総額30億ドルの援助を行うと表明、WHOは、先進国が感染症に目を向けるきっかけを作ったと評価している。平均寿命の最も長い日本と最も短い国の間には2倍以上の開きがある。この地球のいびつな現実を放置してはならない。

 寿命 WHOが今年発表した報告書「世界の健康状態」によると、1999年の平均寿命のトップは日本の80.9歳。一方、最も短かったシエラレオネの34.3歳で、これに続くマラウイ、ザンビア、ニジェール、ボツワナのアフリカ諸国も、平均寿命が40歳に達しなかった。
 WHOの担当官は、「アフリカ諸国での寿命の短さの主因は、感染症や貧しさによる栄養状態の悪化、内戦など。サハラ以南の諸国では99年、エイズのため平均6年間も寿命が縮まった」と指摘している。

2000.12.8 読売新聞