南アフリカの古いニュース

マンポの青春
ヨハネスブルクの街で(1)
白人青年への切ない恋

 南アフリカ・ヨハネスブルク。かつてのアパルトヘイト(人種隔離)政策の影を引きずり、アフリカ有数の大都市として病理を抱えた街だ。支局助手として家族同様に接する黒人女性、マンポ・モレテさん(24)の喜怒哀楽を通じて、世界各国の首脳らが集い今月から「環境・開発サミット」が開かれる街の姿をお届けする。
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 「好きだと言ってほしいのに。彼は黙ったまま……」。また、マンポさんの恋の悩みが始まった。「言葉にすれば軽くなるからだよ」。そんな慰めも「サンキュー」と笑顔を返す明るさが彼女の魅力だ。
 南ア最大の旧黒人居住区ソウェトに生まれ、苦学して地元の名門大学に進み、女優としても活躍する才媛だ。
 91年のアパルトヘイト政策撤廃後、思春期を迎えた彼女の交友は肌の色を超えて広がる。ある日、白人青年を連れて来て、「今、彼に夢中なの」とささやいた。
 あるパーティーで知り合った金融会社に勤める24歳のビジネスマン。長身でスーツが似合う。「なかなかのハムサムで、物腰が丁寧だね」と言うと、「そうなのー」と上機嫌のマンポさん。
 以前、彼女が別の白人青年から「僕は黒人女性とキスしたことがないんだ」と言い寄られ、「失礼ね。ひどい人種差別主義者よ」と憤慨していたことを思いだした。だが、今度の青年は正反対のタイプだ。
 「彼とホームレス支援の奉仕活動に行ったの」。喜々として話す姿から「進展」が伝わったが、黒人と白人のカップルを街で見ることはまずない。その数日後、切ない話しを聞かされた。「彼に『ご両親に会いたいな』と言ったら、『無理だよ。黒人女性と僕が交際する姿を親は想像できない』って断られたの……」
 親たちの時代は人種の壁は高かった。「彼自身は違うさ」と励ますと、彼女は小声でつぶやいた。「いつか別れる日が来ても友情は持ち続けたい。そうして私たちの世代が人々の意識を変えていくの」


おしゃれなマンポさん
ヨハネスブルクで(城島さん撮影)

ヨハネスブルクの街で(2)
悲劇を繰り返さぬために

 「ああ……、なんてひどいことを。かわいそうに」
 携帯電話を握る手を震わせ、マンポさんが私の前で突然泣き出した。知り合いの家の娘(19)がレイプされたのだ。「妹」と呼んで可愛がっている少女だ。
 事件は白昼に起きた。自宅から買い物に行く途中、3人組の男に歩道から雑木林に引きずり込まれ、首にナイフを突き付けられた。「お願いだからやめて」と泣いて懇願したが、男たちは情け容赦なく体を地面に押し付けた。
 警察署に駆けつけたマンポさんは「妹」を抱きしめて泣き崩れた。「犯人を見つけたら生かしておかんぞ」と叫ぶ父親ら家族の背後で、「レイプは多すぎて捜査が追いつかない」と言い放つ警察官の声が聞こえた。
 ヨハネスブルクの治安は「世界最悪」とも言われる。南アフリカではレイプは通報だけで年間5万件を超える。ほぼ10分おきに発生する計算だ。
 ブルブルと夜中に突然起きて震え出す「妹」にマンポさんは1カ月ほど添い寝を続けた。エイズ検査で「陰性」の結果が出ても、「また男たちがやってくる」と、見えない犯人の影に震えがしばらく続いた。
 「本当に悔しい。でも、メディアで凶悪事件ばかり強調されるのは納得がいかない。南アには心温かな人々もいるし、悲しみを癒す美しい青空だってある」
 「どうしたら犯罪をなくせると思う?」。その問いに彼女は言葉をかみしめるように答えた。「人間の尊厳を敬う気持ちと家族の愛情が絶対に必要です。基本的な社会の価値観が崩れている。なんとかしなければ」
 彼女は今、ストリートチルドレンに対する食事の無償提供を唱え、行政や企業関係に働きかけている。


強盗防止に鉄さくを設けた店
ヨハネスブルクの旧黒人居住区ソウェトで(城島さん撮影)

2002.07.13/14 毎日新聞(城島氏)

新聞記事を勝手に掲載していることをお詫び致します