南アフリカの古いニュース

新時代が来て
南ア黒人政権1周年
(2)

優遇人事
貧富格差 内部でも拡大

 世界鉄道ファンに人気のヨハネスブルク、ケープタウンを結ぶ豪華寝台特急列車で知られる鉄道会社スプアネット。旧南アフリカ国有鉄道を州別の計10社に分割、民営化したもので従業員は計6万5000人にのぼる。その中でも最大の鉄道網も持つヨハネスブルク周辺地域のスプアネット・南トランスバール社の最高決定機関、地域重役会(7人)のメンバーに、昨年、初めて黒人のアイザック・ヌカマ氏(29)が選ばれた。白人重役の平均年齢は50歳前後であり、異色の抜てき人事と言える。
 就任から1年足らずだが、スプアネットと言ったら私だ、と胸を張れる仕事をすでにやってきた。ビジネスは35歳で見切りをつけ、その後は政界入りしたい」
 自信満々に語るヌカマ氏は、ヘッドハントされた転職組。大学卒業後、新聞記者などを経て、流通、保険など14業種参加の黒人企業商工会の広報担当を務めた。それに目をつけた人材あっせん会社がスプアネット社に紹介、わずか2回の面接で広報担当重役に迎えられたのだ。
 「重役にふさわしい住環境を」と、同社は氏に、ヨハネスブルク北隣のサントン市にある高級住宅街の豪邸と、ベンツの新車を提供したが、これは周囲の裕福な白人たちにちょっとした混乱を巻き起こした。ヌカマ氏が休日に運転中、他の車に追突された時も、警官は同氏を車泥棒だと疑り、相手の車の白人中年女性は、大変なけんまくで同氏をどなりつけた。
 ところが全く偶然にも、女性は別のスプアネット社の社員だった。「僕の身分を知ると、彼女は気絶しかけたよ」。ヌカマ氏は、得意げな口調をまじえ、苦笑する。
 氏の父親は白人政権下で亡命経験を持ち、黒人政権党・アフリカ民族会議(ANC)出身の閣僚とも懇意な関係にある。氏を会社とANCとのパイプ役だと見なす社の白人幹部をいる。
 こうした「政治的」と見られる人事は、各業界で増えている。だが、黒人大衆の9割以上にとっては、それは雲の上の世界だ。
 このため、ANC政権は、産業界が白人に独占されている現状を打破しようと、アファーマティブ・アクション(人種別雇用等優先制度)の導入を検討開始。民間でも黒人経営者会議などの団体が、人種別人口比を基に、「西暦2000年には、中間管理職の4割、取締役の2割を黒人に」とする青写真を発表している。
 しかし、要職についた黒人が権限を乱用するなどの弊害も指摘されており、黒人優先制度も控え目なものになると見られる。
 マンデラ大統領は先に、ケープタウン最大の黒人居住区カエリチャで、トタン張りの小屋を背に演説、家賃、水道、電気料金の多額の滞納は、大衆の生活改善に取り組む政府の障害となっているとし、「支払い義務を忘れてはならない」と呼びかけた。
 だが聴衆の反応は、まばらな拍手だけ。その1人の失業中の黒人男性(39)は、「職もないのにどうして払えるのか。一部の連中は甘い汁を吸っているのに」と白け切っていた。
 94年の黒人の失業率は、政府の公式発表でも、白人の6.4%に対して、黒人の41.1%に上る。さらに人種間格差に加え、黒人間の貧富の格差も拡大する中、貧困にあえぐ大衆は次第に過激な変化を求めがちだ。この危険を最小限に抑えつつ、いかに民主化の果実を公正に分け与えるか。前途は容易ではない。

1995.5.10 読売新聞