南アフリカの古いニュース

新時代が来て
南ア黒人政権1周年
(4)

軍・警察統合
”冷遇”に反感強める黒人

 「我らこそ、アフリカ最強の軍隊だ」とオランダ系白人言語アフリカーンスで大書された垂れ幕。その上に、マンデラ大統領、モディセ国防相の黒人2人の肖像が飾られている。
 新生南ア国軍の各基地は、良く言えば人種共存のモデルケースだが、現実はどうか。
 ヨハネスブルク南東のハイデルブルクには、白人前政権下の旧国防軍と、アフリカ民族会議(ANC)の軍事部門だったゲリラ組織「民族の槍」(MK)など、かつての宿敵同士が同居する基地の1つがある。
 ここは、白人極右組織のアフリカーナー抵抗運動(AWB)が旗揚げしたことで知られる保守的な町であり、今、そこで黒人兵が実弾射撃訓練を行っていること自体、隔世の感がある。だが、軍事技術を教える将校は、全員がオランダ系白人。訓練を受ける黒人の元ゲリラ兵の従順ぶりは、拍子抜けするほどだ。
 「多くの元ゲリラ兵が、自分のカラシニコフ銃を適当に売りさばいてから入隊してきた。規律、習慣が大きく異なるので心配したが、立派な成果をあげている」と白人大佐は満足げに監督者の表情を浮かべる。
 南ア国軍は、9万の旧国防軍と、国外の拠点から祖国に戻った2万5000人のゲリラ兵、計1万人の旧独立ホームランド(黒人部族別居住地域)軍を統合したものだが、母体はあくまで旧国防軍。白人と黒人の構成比は、下級将校や下士官級で6対4、高級将校になると9対1になるという。
 「あんなのは統合ではなく、白人の軍に併合されたに過ぎない。オレたちは闘争に勝ったのではなかったのか」
 タンザニアと旧ソ連で軍事訓練を受けたという「民族の槍」の元下士官は、最近、国軍をやめた。決して恵まれているとは言えない1000円相当の日給の割には規則がうるさかったこともあるが、それより「勝利の実感が無かった」からだ。
 ハイデンベルク基地の兵士マニャレラさん(29)も「実際に破壊工作に参加した古参のゲリラ兵の多くは、脱走するか除隊した。残っている若い兵士は、武装闘争が終わりかけた4年ほど前にゲリラに参加した者たちばかりだ」と、さめた表情で説明する。
 「軍の統合が、多くの兵士にとって、どんなにつらいか考えると、居ても立ってもいられない」と、MK最高司令官だったモディセ国防相。現在の南アには、外からの軍事的脅威は無くなった。しかし、元ゲリラ兵の空虚な気持ちは、社会の「内なる敵」となりかねない状態だ。
 軍とともに治安を預かる警察でも、黒人警官の不満は大きい。
 昨年の選挙後、政治犯罪は減ったが、一般犯罪は急増、ヨハネスブルクの人口100万人当たりの年間殺人件数は、過去10年間の平均で970件と、ニューヨーク230件の4倍以上で、世界最悪だ(南ア人種関係研究所調べ)。週明けのヨハネスブルクの警察当局は、たとえば「殺人被害者23人、婦女暴行被害者36人。平穏な週末でした」と発表するほど、凶悪犯罪は慢性化している。
 そうした中、黒人警官には、警察組織内に残る人種差別の影響で、白人ほど出世できないという焦燥感が強い。今年に入って、最大の黒人居住区ソウェトで、待遇に不満を持つ黒人警官が抗議のため派出所を乗っ取り、白人機動隊に射殺される事件も起きた。
 社会の安定を実現するのに、「選挙後の1年間では短すぎる」(マンデラ大統領)のだ。

1995.5.12 読売新聞