南アフリカの古いニュース

新時代が来て
南ア黒人政権1周年
(5)

国益至上主義
内向き姿勢の地域大国

 「国の周囲の問題や、外交の洗練された一貫性など、どうでもいい。今は国内発展が重要なんだ」
 白人政党・国民党から連立政権に入閣しているルロフ・ボタ鉱業エネルギー相は、先月、プレトリアの大臣室でこう語った。白人政権のこわおもて外相として、ドイツのゲンシャー前外相と並ぶ世界最長の17年間在職期間を誇り、つい1年前まで独自外交を貫く南アフリカ共和国外交の”顔”だった経歴を忘れたかのような内向き姿勢だ。
 「南アはかつて、国際社会から刑事被告人扱いされ、周辺国の脅威にも1人で立ち向かわなくてはならなかった。だが、軍事的脅威も消えた今、至上命題は国内の経済再建。外交も、国外からできるだけ多くの援助を得る方針に基づいていなくてはならない」
 こうした外交姿勢に対し、西アフリカの大国、ナイジェリアの政府関係者は、「南アは(黒人主導政権になってから)もっとアフリカ大陸に目を向けるべきだ。黒人解放闘争に勝てたのは、アフリカ諸国支援があったからじゃないか」と注文をつける。
 現在の連立政権内で、黒人政党・アフリカ民族会議(ANC)のマンデラ大統領は重要案件に関して国民党のデクラーク党首(第2副大統領)らと協議しなくてはならない。ジンバブエの主要紙は、最近、「これでは白人支配から抜け出したと言えない」と辛らつな論評を掲げた。
 前政権時代、外交的に孤立していた南アは、新政権誕生前後から、一気に国際社会に復帰した。90年に正式な外交関係があったのは39か国だけだが、昨年末には124か国に急増、国連にも復帰した。
 国民総生産は他のブラック・アフリカ47か国の総計を上回る1200億ドルにのぼり、軍事的にも旧国防軍からハイテク兵器を引き継ぐなど、アフリカではずば抜けた先進国であるだけに、黒人解放闘争を支援した国々からは、何らかの「恩返し」や「アフリカの新たな指導国としての役割」を期待する空気が強い。
 連立政権は、だが、半世紀ぶりの英連邦への復帰にも見て取れるように、投資や貿易で現実的利益ももたらす欧州との関係を重視している。マンデラ大統領は国家再建が急務だとして、国連が要請したルワンダへの平和維持活動(PKO)部隊派遣を断った。
 懸案の対中国、台湾関係でも、ヌゾー現外相(ANC)は1月、黒人解放組織を支援してきた中国との国交樹立に意欲を見せたが、台湾政府との国交を国民党に加え、ANC内部から強い反発で、発言を撤回した。一方、台湾は、軍統合で生じた失業者の職業訓練に資金援助を開始するなど、迅速にANCとのパイプも確保した。ANC出身閣僚の間でも、「中国問題は中国人が解決すればよい。重要なのは、南アの国益を満足させること」という声が聞かれるほどだ。
 マンデラ政権の内情について、ケープタウン大学のシュライヤー政治学部長は「白人外務官僚の定めた目標に従っているだけで、自主的な外交路線は決められない状態だ」と指摘する。
 国内の人種間経済格差解消のため、国益至上主義路線をひた走る南アが、地域大国として一定の責任を果たせる日は来るのか。
 「わが国の将来は、今後2、3年の間で決まる。それまで(外交上の)課題を与えないでほしい」とボタ前外相。この1点では、ANCと国民党は、今や、長年のパートナーであるかのように息が合っている。

1995.5.13 読売新聞