実録・外タレコンサート Part2

2002年3月15日、炎天下のプルンチットを歩いていて、やる気の全く感じられないジューススタンドの前を通りかかった。と、そのとき、無表情な売り子さんのいる窓口の下に、見覚えのある馬面が。もしやこれは……御大、ロジャー・ウォーターズ先生!お懐かしゅうございます。しかし、なにゆえ、このような埃だらけの暑苦しい場所に……。

地べたにしゃがみこんでポスターを良く読むと、なんと、『4月10日、バンコクでライブ!360度サラウンド音響システムと巨大プロジェクタを使用した、3時間に及ぶ天才の創造的なステージ!』とか。う〜ん。相変わらず仰々しい……。アジア蔑視発言で有名な御大のこと、おそらくバンコクでは、きっちり手抜きするんだろうなと思いつつも、やはりこれは、見逃すわけにはいきません。



ポスターによると『
タイチケットマスター』というサイトでチケットが買えるようだ。帰宅後早速アクセ〜ス!
http://www.thaiticketmaster.com/
こ、これは……ズラリと並ぶ難解な漢字と半角カタカナと不思議な記号。御大からファンへの暗号メッセージか?違う。単なる文字化けだ。タイ語サイトかよ!(さまぁーず三村調) 

しょうがない。コールセンター(02-262-3837)とやらの番号が載ってるから、電話してみよう。
タイ語での問い合わせが厳しい人は、『9』を押すと英語可のオペレーターが出る。日本の『ぴあ』なんかと違って、売り出し初日だろうとなんだろうと、電話は当たり前のようにラクラク繋がる。

『チケットは、セントラルデパート・チッドロム店などへ自分で買いに行って下さい』

それが答えかよ!(再び三村調) どうやらWEB予約なんて、元々なかったようだ。



タイにあふれるセントラルの中で、訪問客のエンゲル係数が最も低いといわれるハイソなチッドロム店。その6階に、『タイチケットマスター』のカウンタはある。目の前でロジャー御大のチケットを買ってる、フーリガンみたいな毛唐の兄ちゃんがいた。横入りなどしたら、前歯の2本は折られそうだ。日本でピンクフロイドとかプログレのファンというと、高校で鉄道研究会とか天文部とかに入ってた切手集めが趣味の人といったイメージがあるが、毛唐のプログレファンには、ピアス入れたごっついのもいるようだ。

コンピューターディスプレイの会場見取り図を見ながら、じっくり検討。英語ができる親切な窓口の青年のアドバイスに従い、スロープ席の最前列2000バーツのチケットを購入する。カイリー・ミノーグのコンサート行くわけじゃなし、かぶりつきアリーナ3000バーツにする必要はないとの判断だ。ちなみに、背中に赤十字しょったフーリガンは、一番安い1000バーツの席を買っていた。ふっ、私の勝ちだ。


チケットは名刺大のハードプラスチック製。表がポスターと同じデザインで、裏は左の通り。会場のImpact Arena Muang Thong Thaniには、どうやって行けばいいんだろう?アジアンゲームやってたとこか?電話で問い合わせたとき尋ねたら、戦勝記念塔から166番のバスに乗ってチェーンワッタナの方に行けといわれたが、カウンターの兄ちゃんは、BTSモーチット駅から無料シャトルバスが出ているという。遠くて面倒だなあ。これでは、東京から水戸市民会館に岡田有希子のコンサートを観に行くようなものだ(誇張表現)……。

はたして、気むずかし屋、アジア嫌いで知られるロジャー・ウォーターズは、本当にタイにやって来るのか?もし来なかったら、ちゃんとチケットの払い戻しはしてくれるのか?いまどき、ピンクフロイドの残党なんか見にくるタイ人&在タイ外人が、一体どれほどいるのか?そして私は、ちゃんとムアントンタニの会場までたどり着けるのだろうか?なぁんて、わざとらしく盛り上げつつ……。


4月10日、ライブ当日。

会場までは、『ロットトゥー』というワゴン車バスで行ってみることにした。多少距離のある通勤などに使われる小型乗合バスだが、路線番号すらついてないローカル仕様ビークルだ。乗りこなせれば、安くてなかなか便利なのだが、ガソリンスタンドや空き地みたいなとこから出発したり、普通のバス停によったり、いきなり高速はいっちゃったり、油断も隙もない乗り物でもある。バンコクだけで1万台は走ってるそうだが、運輸省の許可とってるのは3割ほどで、ほとんどがモグリ営業とか。

ロットトゥーの溜まり場になっている、プルンチットのガソリンスタンドへ行き、どれに乗ればいいんだろうかとキョロキョロしていたら、強烈なデザインのピンクフロイドTシャツを着たタイ青年の姿が……。


さりげなくオイリーで中途半端なロンゲ。生気の感じられない虚ろなまなざし。伸ばしているのか伸びてしまったのか判定困難な口ヒゲ。そうか!キミもそうなんだね!わかるさ!ボクと同じ目をしてるもの!

『偶然だね。僕もこれからロジャーのコンサート行くんだ。君はどこから来たの?日本人?そう、タイに住んでるんだね。ベルリンでのライブ、ビデオで観た?客席とステージの間に、レンガを積み上げて壁を築いてしまうんだ。すごいよね。歌ってる人が客席から見えないコンサートなんて。今日はどんなかな?古いのと新しいの、両方やるはずだけど』

マニア特有のイカくさいオーラを発しながら、遠い目をしたまま、つぶやくように語るチャチャイ君(仮名)。広告関係の仕事をしているが、今日は大事なライブのため、早引きしてきたという。これっぽっちも業界人のようには見えない
が、どうやら優しい人のようだ。ちゃんと会場にたどり着けるか心配していた私を、引率してくれるという。国籍も言葉の壁も超えた『たく』の絆……感動的だ。ありがとう、チャチャイ君!

♪All alone, or in two's, The ones who really love you,
  Walk up and down Outside the wall.


ロットトゥー乗り場には、1日の勤めを終えたカタギな人たちが一杯。そんな中、自閉症丸出しの暗黒ウォールTシャツを着たチャチャイ君は、見事に浮きまくっている。しかし、そんなハンデをものともせず、チェーンワッタナに行く車両を見つけ、乗り込むチャチャイ君。ひたすら彼を信じて、後に続く私。

17時10分、乗客で満席になったところで車は出発。私は助手席に座らされたのだが、運転手はムスリムらしく、ミラーのとこに、『アラーは偉大なり』のペンダントがブラブラ。しかもハンドルには、『さわタイ』でも話題をよんだ不気味な『ぐりぐりノブ』が……。カンダハル方面から指令があれば、いつでもアメリカ大使館に突っ込んでいけそうな不穏な雰囲気だ。高速にのるや、ノブだけ握っての片手運転で130キロだすアルカイダ・ドライバー。あんまり長生きしたくないんだろうか?


高速降りたあたりで、料金30バーツ払ってから、チャチャイ君とロットトゥーを降りる。彼もムアントンタニなんて、よく知らないらしく、通りかかった自転車の少女を呼び止め、道を尋ねている。不気味な長袖Tシャツを着こなしたアキバな青年に声をかけられ、さぞや少女も怖かったことだろう。彼女に教わった通り、筋向いのソイに移動し、やってきたソンテウに乗る。料金5バーツだったが、いつの間にか私の分まで払ってくれてるチャチャイ君。なんて優しい人なんだ。『たく』だけど。

18時、ついにムアントンタニ・インパクトアリーナに到着。レッチリからTOTOまで……最近の外タレは、皆ここでやるようだ。高島平団地みたいな感じの敷地内には、アリーナ以外に、海老釣りレストランのある巨大食堂やレンタルビデオなど、お店もいっぱい。ファラン(西洋人)客が多いが、タイ人の来訪者は、ミアノイ(愛人)同伴の金持ちオヤジがやたら目立つ。『原子心母』や『エコーズ』演奏したら、イントロが終わらないうちに熟睡してしまいそうなミアノイたちが、わけもわからずドレスアップしてご来場だ。嗚呼、おいたわしや、ロジャー御大……。チャチャイ君も、『たく』なりに思うところはあるらしく、ボソボソ感想らしきものをつぶやいている。

『こんなTシャツ着てるの、僕だけだ……』
『それにしても、若い女の子は全然来てないなあ……』


20時、国王讃歌が流れ、観客全員起立。3時間26曲という大げさなステージがついに始まった。前半は、『ザ・ウォール』や『アニマルズ』などのナツメロで盛り上げまくり、後半は、ソロアルバムの新曲で大観衆の眠気を誘うロジャー御大。幸か不幸か、私の席の周りにはイカレ毛唐が多く、曲がつまんないときの観察対象には事欠かないのだった……。
@開演前から、両手を広げてグルグル旋回しつつ、あの世と交信しているジョン・レノン。どう見てもはた迷惑なのだが、哲学的な風貌のせいもあって、誰も注意できない。
A目に染みるような黄色いスーツにスキンヘッドの挙動不審者。ステージではなく、振り返って客席のほうばかり見ているのはなぜだ?
B『ダークサイドオブザムーン』が始まるや、おもむろに私の右横1メートル(写真の”このへん”)で、特製タバコを吸い始めるワガママ野郎。周囲のタイ人も、あからさまに顔をしかめている。

……そんなこんなで、世の中、法律とか公衆道徳とか、あんまり気にしない人たちもいるんだなあと、感心せずにはいられない夜でした。おしまい。


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