Crime Against Humanity
人道に対する罪

2003年4月10日
John Pilger|ジョン・ピルジャー
公式サイト(英語)
 
原文@Zmag(英語)

あるBBCテレビのプロデューサーが――米軍機による味方への誤爆で18名が死亡した時に彼もまた負傷したのだが,その直前に――衛星電話で母親と話をしていた。母親に件の米軍機の音が聞こえるようにと頭上に受話器をかざして彼は言った。「聞いて,これが自由の音だよ。」

『キャッチ22』(訳注1)にこういう場面があっただろうか?もちろんそのBBCプロデューサーは物凄く皮肉になっていたんだろう。いや,そうだろうか。この前の日曜の英オブザーヴァー紙の3面のことを疑問に思うのと同じように,私はこのBBCプロデューサーのことを疑問に思う。オブザーヴァーの3面,あれを誰が作ったにしても,ジョゼフ・ヘラーを頭に置いた上でこんなおかしな見出しを作ったのだろうか。「その瞬間,若いオマールは戦争の代償を知った。」この卑劣な文言には15歳のオマール少年を慰めるために手を伸ばしている米海兵隊員の写真が添えられている。一方的な侵略戦争,文明人の法のうち最も基本的な法を犯した行為の一環で,オマール少年の父母と2人の妹と弟を殺したばかりの米海兵隊員の写真が。

英国の有名なリベラル派の新聞に,死者へのはなむけとなる言葉は一切見られない。嘘のない見出しも見られない。嘘のない見出しとは,例えば「この米海兵隊員はこの少年の家族を殺した」というようなものである。自動小銃で手足を吹き飛ばされ血まみれになった,オマール少年の父母や妹や弟の写真もない。オブザーヴァー紙のプロパガンダ写真と同種の写真が,この侵攻が始まって以来連日英米のプレスに掲載されている。手を差し伸べる米兵,膝をついて彼らの「解放された」犠牲者たちの世話をする米兵……見ていてほっとするような場面。

では,フラートの村で撮影された写真はどこに?老若男女80人が爆撃されて死んだ村の写真は?家族がブッシュ組の組員に強要されて通りで膝をつく横で怯えきって手を高く挙げている小さな子供たちの写真や映像はどこに?(英ミラー紙だけは掲載していたが。)同じことが英国で起きたならと想像してもらいたい。これはファシズムの断片である。私たちにはそれを見る権利がある。

ナチス党指導者を裁いたニュルンベルク裁判で,裁判官は「侵略戦争を始めることは,国際犯罪であるばかりではない。最大の国際犯罪なのである。他の戦争犯罪と唯一異なるのは,侵略戦争はそれ自体に巨悪を内含しているということだけなのである」と述べた。国際法のこの大原則を述べる際,裁判官はドイツの主張した他国の脅威に対する予防戦争の「必要性」をはっきりと却下しいたのである。

ブッシュとブレア,クラスター爆弾を落とす彼らの兵隊,そして彼らの取り巻きメディア(their media court)が今何をしても,彼らが為したイラクでのひどい犯罪行為を変えることはない。人類の大多数に理解される記録――「私たち(us)」の代弁者であると言い張っている人々には理解されていないかもしれないが――に残っているのだ。米英協同のイラクへの経済制裁は,デニス・ハリデイが語ったように,「彼らを歴史書の中で屠る」であろう。ハリデイは1996年国連事務総長補佐をしていた時に「人道物資購入のためのイラク石油の限定的輸出許可プログラム(oil for food programme)」を立ち上げた人物で,国連が「ある社会全体を虐殺しようとする攻撃」の道具になってしまったことにいち早く気づいた人物である。彼は抗議の意を表して職を辞し,後任のハンス・フォン・スポネックも「ひとつの国家に対して悪意と辱めを与える罰である」と述べて,同じく辞任した。

この2人のことをここで書くのは,ひとつには彼らの名前と彼らの見たことはほとんどのメディアからは削除されているためである。私はハリデイが辞任した直後に『ニュースナイト』に出演した際にジェレミ・パクスマンが罵声を浴びせていたのをよく覚えている。「ということはつまり,あなたはサダム・フセインをかばうわけですね?」こういうことが,毎日,楽しそうと言ってもよいような調子で,犯罪的戦争をスポーツにしてしまうジャーナリズムの戯画化を決定付け,押し進めたのだ。リークされたメールでは,BBCテレビ・ニュースのロジャー・モージー局長は,BBCの戦争報道のことを次のように述べている。「尋常ではない――まるでサッカーのワールドカップだ。ウム・クサルから別の戦争の会場へ行って,2つの戦いの間を行ったり来たりだ。」

彼は人殺しの話をしているのである。米国人がこれをしている。でも,彼らがジャーナリストを殺している時でさえも,誰もそう言わない。か弱く大部分が無防備な人々に対するこの一方的な攻撃に,私がヴェトナム(「不死鳥作戦」という名の殺人プログラムが行われていた)で見たのと同じ人種的優越感と殺人の意図を,彼らは持ちこんだ。これは彼ら自身の分断された社会にも流れているものだし,外国での戦争すべてでも流れているものである。今起きている攻撃を見てみればわかる。先週末,彼らの戦車の列が,英雄的にバグダッドに入り,そしてまた出ていった。彼らは道すがら人を殺していた。

彼らは女性たちの手足を吹き飛ばし,子供たちの頭皮を吹き飛ばした。未編集の,放送されていないビデオテープで彼らの声を聞いてみよう。「撃ってやったゼ,ザマア見ろってんだ(We shot the shit out of it)。」彼らの犠牲になった人々で死体置き場と病院は埋め尽くされている。病院には薬も痛み止めもない。アメリカがああだこうだと54億ドルの人道支援物資(国連安保理の承認済み,イラクからの支払い済み)を差し止めているからである。最小限の麻酔で切断手術を受ける子供たちの叫び声は,BBCプロデューサーの「自由の音」としては適格だろう。

ジョゼフ・ヘラーは余興を喜んでくれるだろう。例えば,英軍ヘリの操縦士が,すんでのところで自分を撃墜するところだった米兵とケンカになった。「イラクの奴らには空軍なんてものはないってくらいのこともわからないのか?」と彼は叫んだ。この操縦士は自分が叫んだ本当のことをよく考えてみたのだろうか。恐れおののく第3世界のひとつの国に対する卑劣な企てのことを。そして彼がこの犯罪に果たしている役割のことを。いや,違うだろう。英国任は嘘とまやかしにかけては一級の腕を持っている。英米のハイテク兵器に対するイラクの抵抗は,どの基準で見ても,英雄的だった。古い戦車と迫撃砲(mortars)と小火器と伏兵攻撃で,イラク川は米軍をパニックに落とし入れ,英軍の軍人階級を英軍ならではの階級のひとつに落としたのだ――「不実且つ慇懃無礼(mendacious condescension)」。

戦うイラク人は「テロリスト」「ヤクザ者」「孤立した忠実なバース党員」「カミカゼ(kamikaze)」「フェッズ(民兵組織サダム・フェダイーン)」である。彼らは本当のイラク国民,文化があり文明化された人々ではない。彼らはアラブである。この恥ずかしい語彙はマスコミで垂れ流され,それを聞いた人がオウムのように忠実に繰り返してきた。「バスラのことはどうお考えですか」と『トゥデイ』の司会者がスタジオに招いた元将軍に質問する。「非常に頼もしい(hugely encouraging)ことですね」と彼は答える。司会者とゲストの相互の興奮は,共に朗々とした声でしゃべっているように,彼らの絆である。

同じ日に,元BBC中東特派員のティム・ルウェリンが,英ガーディアン紙に寄せた投書で この『非常に頼もしい(hugely encouraging)』真実の証拠を指摘していた――バスラの一般家庭に踏み込む英軍兵士が,ひとりの女性に銃をつきつけ,若い男性たちを小突いて目隠しをして手足を縛っている,スカイ・ニュースでほんの短い間だけ流れた映像。英軍兵士に踏み込まれた家の人々のひとりは恐怖で震えている。「英国は政治犯をつかまえることでバスラを『解放』しているのか。そうだとすれば,いかなる情報に基づくものなのか,というのは英国はこの土地との関係が深かったわけではなく,住民のこともあまりしらないのだから。……この醜悪な光景によって,最低でも,全世界のアラブとムスリムは,アングロサクソンのダブルスタンダードを思い出すだろう。私たちはおまえたちの捕虜を見せてやる。だが,おまえたちは私たちの捕虜を見せるな,断じて見せるな。(訳注2)」

ロジャー・モージー(BBCニュース局長)はウム・クサルの苦難を「サッカーのワールドカップのようだ」と言った。ウム・クサルには4万人がいる。必死になった難民が流れ込み,病院は収容能力の限界だ。この悲惨な状況のすべては,「連合軍」の侵攻のせいであり,英軍の包囲(このために国連の人道援助活動のスタッフは撤退を余儀なくされた)のせいである。カトリック系の救援機関CAFODは,ウム・クサルにチームを派遣しているが,非常時に必要な水はひとり当たり1日20リットルが基準であると言う。

CAFODの報告では,病院にはまったく水がなく,人々は汚染された井戸から水を飲んでいるという。WHO(世界保健機構)によれば,南イラク一帯の150万人に水がなく,伝染病は避けられない状態だという。では「我が兵士たち(our boys)」はこれを軽減するために何をしているのか?大統領宮殿の占領などという子供じみた演劇的な真似のほかに。民間人しかいない街に肩に乗せて発射するミサイルを撃ちこんだりクラスター爆弾を落としたりするほかに。

ある英軍大佐が従軍(embedded)記者団に向かって「まだ戦闘が行われている地域に援助物資を届けることは難しい」と嘆いた。大佐自身の言ったことの論理が大佐自身の首を絞めている。もしイラクで戦闘が行われていなければ,つまり,もし米英が国際法を犯していなければ,援助物資を届けることには何ら支障はないであろう。

英軍将校から流される恐ろしいプロパガンダには,実に酷いものがある。彼らはPR上手なだけで,イラクとその国民については何もわかっていない。彼らは「世界で最悪の暴君」からの解放をもたらしつつあると言うが,こともあろうか,クラスター爆弾や赤痢で死んでも「サダムの圧制」よりはましだと言うのだ。彼らには都合が悪かろうが,事実は違う。UNICEFによれば,バース党員は中東で最も近代的なヘルスサーヴィスを作ったのである。

フセイン政権の暗く全体主義的な性質について異を唱える人はいない。しかしサダム・フセインは石油で得られる富を,近代的社会と大きく繁栄した中産階級をつくるために使うようにしていた。普及率90%の上水道と無償での教育があるのは,アラブではイラクだけであった。このすべてが,米英の経済制裁で破壊された。1990年の経済制裁では,イラクの市民サーヴィスが食料配給システムを組織した。これについては国連の食料農業機構が「効率性という点では模範的……イラクを飢饉から救うことは間違いない」と述べている。これもまた,今回の侵攻で破壊された。

米軍の「味方への誤爆」で死んだりケガをしたりした兵士を収容する際に,兵士が防護服を着なければならない理由を,なぜ英国はまだ説明していないのか?その理由とは,米軍はミサイルや砲弾に固形ウランを使っているからである。私がイラク南部にいた時,医師たちは,1991年に英米によって劣化ウラン弾が使用された地域では,ガンが7倍になると予測していた。続いて起きた経済制裁で,イラクは,クウェートと違って,汚染された戦場を浄化するための機材を持つことを許されなかった。バスラの病院は,1991年以前には見られなかった種類のガンに罹った子供たちであふれていた。鎮痛剤もなく,アスピリンがあれば幸運という状況だった。

誇るべき例外(ロバート・フィスク記者とアル・ジャジーラ)を除いては,こういうことはほとんど伝えられてこなかった。そのかわり,メディアは帝国アメリカの「ソフト・パワー」としてあらかじめ決められた役割をつとめてきた。「われわれの」犯罪をはっきりさせることはめったになく,あるいはそれを善き意思と邪悪の権化との闘争として描いた。職業上,倫理上軽蔑すべきこの失策は,このような英雄的物語,うその勝利について,まだ見えない危険を招きよせている。そしてイラン,コリア(北朝鮮),シリア,キューバ,中国で同じことを繰り返させかねない。

ジョージ・ブッシュはこう述べている。「『命令に従っただけ』と言うことは防御にならないだろう。」その通りである。ニュルンベルクでの裁判官は,一般の兵士が違法な侵略戦争において自身の良心に従う権利を言明している。2人の英軍兵士が勇気を出して良心的異論者(conscientious objectors:訳注3)となろうとしている。彼らは軍事法廷にかけられ,収監されるかもしれない。しかしメディアでは彼らのことは問題にされていない。ジョージ・ギャロウェイは,ブッシュに同じ質問をして槍玉に挙げられている。彼と英国下院のタム・ダリェル議長は,英国労働党院内幹事(Labour whip)の引退を迫られている。

下院議員歴41年になるダリェル議長は,首相はハーグ(のICC)に送られるべき戦争犯罪人であると述べている。これは不当な言い分ではない。明白な証拠によりブレアは戦争犯罪人であり,どのような形であれ彼を助けた者は,ICC(国際刑事裁判所)に報告されなければならない。今では真に受ける者も少なくなったさまざまな口実のでっち上げに協力しただけでなく,彼らはイラクにテロリズムと死をもたらしたのである。

この新しい裁判所(=ICC)には義務があるということには,世界中の多くの法律専門家が同意している。例えばブリストル大学のエリック・ハーリングは,「政権だけでなく,イラクの人権を大いに蹂躙した国連の爆撃も経済制裁も」調査する義務があると書いている。今おこなわれている一方的侵略戦争(それは将来的にアラブの民族主義とイスラムの武装とを結びつけるかもしれない)を加えよう。ブレアとブッシュによって巻き起こされた旋風は,始まりにすぎない。彼らの犯罪の規模とは,このくらいに大きなものなのである。

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訳注1:
『キャッチ22』はジョゼフ・ヘラーが書いた第2次大戦下の空軍兵士が主人公の小説だそうです(未読:映画化もされているそうです)。軍の規則で,精神障害があることを理由に除隊を申し出ると「自己判断能力あり」として除隊が認められないという条項が「キャッチ22」。ということで,catch-22は「にっちもさっちもいかない」という意味のスラングにもなっています。

訳注2:
アフガンで捕らえられたアルカイダ関係者と言われる人々(捕虜)の映像が米英のメディアで流された一方で,今回米英人捕虜の映像が流されたことには強い拒否反応が示されたことを言っているのだと思われます。

訳注3:
「良心的異論者(conscientious objectors)」→ バートランド・ラッセルでしょうか。バートランド・ラッセルの著作のリスト。

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■文中に出てくる固有名詞の英語表記■
ウェブで検索する際などにお役立てください。
『キャッチ22』: Catch-22
ジョゼフ・ヘラー: Joseph Heller
英オブザーヴァー紙: The Observer (The Guardianの日曜版の名称)
フラート: Furat
英ミラー紙: the Mirror
ナチス党指導者を裁いたニュルンベルク裁判: the Nuremberg trial of the Nazi leadership
デニス・ハリデイ: Denis Halliday
ハンス・フォン・スポネック: Hans von Sponeck
ジェレミ・パクスマン: Jeremy Paxman
『ニュースナイト』: Newsnight
BBCテレビ・ニュースのロジャー・モージー局長: Roger Mosey, the head of BBC Television News
「不死鳥作戦」: Operation Phoenix
ティム・ルウェリン: Tim Llewellyn, a former BBC Middle East correspondent
英ガーディアン紙: The Guardian
スカイ・ニュース: Sky News
ウム・クサル: Um Qasr
バース党員: the Ba'athists
ロバート・フィスク記者: Robert Fisk
アル・ジャジーラ: al-Jazeera
ジョージ・ギャロウェイ: George Galloway
英国下院のタム・ダリェル議長: Tam Dalyell, Father of the House of Commons
ハーグ: The Hague
ICC(国際刑事裁判所): the International Criminal Court
ブリストル大学のエリック・ハーリング: Eric Herring of Bristol University
 
■補足■
ジョン・ピルジャー:英国Daily Mirror(今回反戦を大々的に訴え署名まで呼びかけた,おそらく英国唯一のマスメディア),The Independentなどに寄稿しているジャーナリスト。爆撃が始まってからはイラクで取材を続けています。公式サイトはhttp://www.johnpilger.comです。ここに訳出したピルジャーの文章は,Zmagから取りました。12日午前2時(日本時間)の時点で,Daily MirrorおよびIndependentでは記事の所在が確認できませんでしたが,同じ記事が公式サイトでも読めます。
 
■関連情報&リンク■
Zmag, Znet: ピルジャーのほか,ノーム・チョムスキー,エドワード・サイード,ロバート・フィスクらが参加しています。
Znet 日本語版: 上記Zmag, Znetを日本語化しているサイトさん。全部の記事が日本語訳されているわけではありませんが,日本語で読めるのはありがたいという文章ばかりです。
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日本語訳&ページ制作:いけだよしこ@nofrills
翻訳日:2003年4月12日(日本時間)
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