【 ディーダラス号大海蛇遭遇事件 】
上のイラストは、大海蛇目撃史上、もっとも信頼のおける遭遇事件といえる「ディーダラス号事件」のものです。1848年10月4日プリマス軍港にデ号が帰港した直後から、奇妙な噂が流れました。航海中に怪物と遭遇したというのです。噂は新聞で大々的に書き立てられ、大英帝国海軍本部も事実関係をデ号艦長P・マックヒーに求めました。「怪物目撃を否定する報告か、さもなくば正確な目撃情報を報告せよ」との指令が出されたのです。海軍閣下連は、当然否定の報告が出されると思っていました。もし何かの見まちがいを報告しようものなら、帝国海軍上層部を偽瞞することになるからです。しかし、マックヒー艦長は右にあるような報告書を提出したのです…
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【ワンポイント講座】
大海蛇(シーサーペント)とは、海で目撃される怪物の総称です。その形状は千差万別であり、決して大ヘビのような形の生物とは限りません。
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帝国海軍提督W・H・ゲージ卿へ提出した報告書全文
本日閣下よりの書状を入手、「タイムズ」紙上に掲載の記事の真実性についてお答えいたします。小官の指揮下、東インド諸島より帰航中の帝国軍艦「ディーダラス」号により目撃された巨大なる海蛇に関して、海軍本部委員諸閣下の情報資料として、閣下あてに報告することを光栄とするものであります。去る8月6日午後5時、南緯24度44分、東経9度22分、曇天、北西の風強く、南西方からのうねり高し。少尉候補生サートリスは、艦の側面前方から早い速度で何か異常なものが接近して来るのを発見しました。このことは、ただちに当直士官エドガー・ドラモンド大尉に報告されました。小官はそのとき、ドラモンド大尉及び航海長ウィリアム・バーレット君と後甲板を歩行中でありました。乗員は食事中でありました。その目標物を注視すると、それは巨大な海蛇であることが判明いたしました。頭部と上背部は海面上1m20cmほどの高さを保ち続け、船に近い位置なので、水にうつっている大檣の中檣帆の帆桁と比較し、その長さを計ることができました。水面に見える部分だけでいかに少なく見積もろうと18mはあり、小官らの認め得た限りでは、その身体のいかなる部分をも、垂直波動もしくは水平波動によって水中を推進すべく用いている形跡はみられませんでした。それは後部船側下を早い速度で通過いたしましたが、その距離は、顔見知りの人間なら誰かを肉眼ではっきりと見分けられるほどの距離でありました。本艦に接近する間、さらに本艦の航跡を横切ったのちも、南西への進路を僅かでも変えようとはしませんでした。何やら一定の意図を持つもののごとく、推定時速19ないし24キロの速度を保ちながら泳ぎ去りました。海蛇の太さは、頭の背後でさしわたし38cmから46cmくらいで、頭部はまぎれもなくヘビの形をしておりました。望遠鏡で20分間にわたって観察できましたが、その間、一度も水面下に潜りませんでした。体色は暗褐色で、首のあたりは黄白色をしておりました。鰭らしきものはなく、ただ、馬のたてがみ、もしくはむしろ海草の房のごときものがその背になびいていました。これを目撃した者、小官及び前記の士官らに加え、操舵長、掌帆兵曹、操舵手らでありました。小官はこれを目撃後直ちにスケッチを取りましたが、これをもとに海蛇の絵を描き、明日の便にて海軍本部委員諸閣下あて送付いたしたいと考えております。取急ぎ御返事といたします。
ピーター・マックヒー艦長
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E・ドラモンド大尉が公表した手記
われわれは後部船側に近く異様な魚類を目撃した。それは南西方面に向かって船尾を横切って行った。はっきり見えたのは頭部と背鰭だけだったが、頭の形は長くとがっていて、その上部が平たくなっており、長さ3mばかり、上顎がかなり突出していた。鰭は頭の背後に6mほどもあったろうか、それが見え隠れしていた。艦長も確かに見たと言っていることだが、この鰭の後方に同じほどの距離をおいて尾鰭、あるいは第二の鰭が見えた。頭の上部及び上背部は暗褐色を呈し、下顎の下方は褐色がかった白色をしていた。それは常に一定の方向を保ち、頭を水面と平行にやや持ち上げた状態で、ときにほんのわずかの間、波間にかくれたりしながら進み続けたが、これは呼吸の為とは見えなかった。時速19キロから22キロくらいの速度で進み続け、最も近くまで来たときは距離90mくらいだったろうか。実際、それは大ヘビか大ウナギとしか思えなかった。
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【 デ号乗組員(匿名)からタイムズ紙に投稿された文 】
-海草等の見まちがいでは、という投書に対する反駁文-
その際、帝国軍艦上より目撃された目標物は、全く疑惑を差し挟む余地なく生きた動物であったことを、私はここに強く訴えたい。それは、逆波に向かって風力5の疾風の中を早い速度で進みつつあった。その速さは、その動物が進んで行く時、胸の下に白波が立っていたほどで、おそらく時速16キロ以下ではなかったであろう。マックヒー艦長は、咄嗟に風を間切って追跡しようかと思った。左舷間切りの風であったが、追跡したところで係船することもできなければ追いつくこともできないだろうと考え直した。従って、我々のできることといえば、それが後部船側下に接近し、風上方向へ過ぎ去る間、望遠鏡で出来るだけ正確に観察する以外にはなかった。もっとも接近したとき、目、口、鼻孔、体色、形状など、すべてよく見てとることができた。
我々は皆、非常に驚いた。乗組員の中には、海上生活30年、40年という船乗りたちもいて、知らない海はないほどに航海し、ずいぶん珍しいものも見てきたはずであるが、これにはびっくりした。艦長は、まずこう叫んだ。「これは、あの海蛇と呼ばれる動物にちがいないぞ」。我々一同も、結局、それにちがいないという結論を下した。私の印象では、その運動が、身をくねらせて進むというより、鰭を用いて進んでいるように一定不変なので、ヘビというよりはむしろトカゲのような感じがした。
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